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記憶層と忘却の浸食

記憶の地層を忘却が浸食する…
記憶力の劣化を実感することの多い昨今……。つい今しがたのことが思い出せなかったりするのに、その一方、ずっと忘れていた子供の頃の記憶が、ふと鮮明によみがえってきたりすることもある。最近のことはすぐ忘れるのに、遠い子供の頃の記憶が、かえって鮮明化してきたような……記憶の不思議を感じている。

最近あった出来事の記憶は、川面に落ちた木の葉のように時の流れとともに、どんどん流れ去って行く。昔はもっと堆積していたはずなのに……。
時の流れは、これまで堆積した記憶の層をも削っていき、「忘却」という浸食によって、古い地層(記憶層)に埋まっていた記憶が意識の表面に顔をのぞかせるようになった──といった感じが、しないでもない。

歳をとるごとに時の経過を早く感じる《時間の加速感》については、過去に何度か記事にしているが(*)、【長生きほど人生は短い!?時間の逆転現象】でも記したように、記憶力の低下にともう《忘却力》の浸食で、「時間経過」を実感する物差しであるところの「記憶層の厚み」はどんどん減ってきており、遠い子供時代の記憶がむしろアクセスしやすい浅いところに浮上してきた感じを受ける。

たとえば「50歳のときの10歳」より「60歳になってからの10歳」は物理的(時間的)には遠くなっているのに、主観的には「近く」感じられるようになってきた。これを《記憶の地層》に例え、《回想深度》という言葉で示すと、こんなぐあい⬇になる。
01記憶層図解
「50歳」と「10歳」の記憶の間にはその間に体験した記憶層が広がっていて、この厚みが時間的距離感を作っている。記憶力がしっかりしているうちは、この記憶層は年々増えて厚くなっていくわけだが……歳をとってくると新たに形成される記憶層は少なくなり、それとは逆に、忘却による浸食で消失する部分の方が増えてくる。
図に示したのは、記憶層の増減が逆転したケース。「50歳」から「60歳」になるまでの間にも新しい記憶の層は形成されるが(黄色い矢印=新記憶)、この間に忘却によって記憶層全体が目減りしてしまっているので(青い矢印=忘却)、全体としては「10歳」の記憶はむしろ「60歳」になってからの方が近くなっている──つまり「回想深度」が「50歳」のときより「60歳」になってからの方が浅くなった分、子供時代の記憶にアクセスしやすくなった……そんな解釈もできるのではあるまいか。

「同じ場所」が記憶の中では「違う場所」に保管!?
疲れているとき・ぼうっとしているときなど、意識力が低下している時に、ふと子供時代にみた風景──町並みが鮮明に脳裏を満たすことがある。
僕は子供の頃と同じ町に住んでいるが、当然のことながら町並みはずいぶん変化した。平屋の住宅が区画整理されて団地に変わったり、畑や雑木林が姿を消して「同じ場所」でありながら、見た目はかなりの変貌をとげている。

現在の町並みに記憶はすっかり更新済みで、ふだんは「その場所」が昔どんなだったか、にわかには思い出せない状態にあるのだが……子供時代に見た景色が脳裏に広がったときには、主観はその景色の中にあって、逆に毎日目にしている現在の「その場所」のようすが思い浮かばなかったりする。

脳裏の広がった過去の景色は地続きで、「主観」は何処へでも行ける。学校や友だちの家の庭、よく遊んだ路地裏、登下校で通った道──鮮明に目に浮かぶのだが、これが「現在のもの」とスケール感が違っている。道幅はずっと広いし、奥行きも広がっていて道の先が遠くなっている。垣根も高い。止まっている自動車のルーフも高い。大人になってからはずっと見下ろしていた風景が、記憶の中では見上げる景色に変わっている。子供の低い目線から見た光景として脳内再生されるのだ。
大人になってから子供の頃に過ごした場所に行ってみるとなんだか狭くなったように感じるのと逆の現象である。スケール感の変化をともなう町並みのリアルな記憶は妙に新鮮だったりする。

現在の町並みを認識しているときは昔の町並みが思い出せず、昔の町並みが脳裏に広がっている時は、現在の町並みが思い浮かばない……同じ場所でありながら、脳の中では(記憶は)別の領域に保存されているのだろうか?
あるいは、現在と過去とで同じ場所の記憶がゴッチャになっては都合が悪いので、現在と過去を混線させないように分離する処理機構が働いているのかもしれない。

記憶というのは不思議だと感じることがしばしばあるが……記憶は完全に主観的なものなので、「現象」を説明することはできても、その実感をほかの人に伝えるのは難しい。
長生きほど人生は短い!?時間の逆転現象】でも記したが……歳をとるほど「振り返ってみれば人生は短い」感が増すのではないかという見方は当っているように思えくるのだが、他の人もそう感じるものなのだろうか。
人生の主観時間の長さの実感は、単に「それまでの人生時間:残りの人生時間」の比率の問題だけではなく、「記憶層の厚み」の問題が、からんでいるように感じる昨今である。



時間の加速感
時はどんどん加速する
長生きほど人生は短い!?時間の逆転現象
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