先日読んだ『不思議だらけ カブトムシ図鑑』(小島渉・著/彩図社)には《カブトムシほどオスとメスの区別が容易な昆虫は他にいないだろう(P.74)》という一節がある。しかし「オスとメスの違いっぷり(性的二型)」ということでいえば、フユシャク(冬尺蛾)は、カブトムシの上をいっている。カブトムシはオスの特徴であるツノをのぞけば、オスとメスは体つきも色合いも似ていて「同じ種類」もしくは「同じ仲間」っぽさを感じさせる。ところがフユシャクでは、オスは何の変哲もない普通のガなのだが……メスが変わっていて同じ種類どころかガにさえ見えないものも多い。カブトムシはオスのツノが発達しているが、フユシャクではメスの翅が退化している。そのため容姿がオスとメスでは、かけ離れたものになっているのだ。体色や模様がオスとメスで違う種類もいる。
今年もそろそろフユシャク(の成虫)が現れる時期。これまで狭山丘陵周辺で撮ったフユシャク画像から、オスとメスの「違いっぷり」をまとめてみた。













フユシャク(冬尺蛾)というのは、年に1度、冬に成虫が出現し、メスの翅が退化した特徴を持つシャクガ科の蛾の総称。フユシャク亜科・エダシャク亜科・ナミシャク亜科にまたがっている。オスかメスかは一見して容易に判断できるのに種類は識別するのが難しいものも少なからず──種の違いよりも雌雄の違いの方が、はるかにかけ離れているのがおもしろい。カブトムシは「ツノが進化した(特徴を持った)オス」に関心が向きがちだが、フユシャクでは「翅が退化した(特徴を持った)メス」の方にに関心が向いてしまう……。
オスとメスの違いっぷり(メスの容姿のユニークさ)もさることながら、僕が初めてこの虫を知ったときに驚いたのは、《昆虫なのに(わざわざ)冬に活動(繁殖)する》という生態や《ガなのにメスは(翅が退化しているため)飛ぶことができない》という意外性だった。
フユシャクの風変わりな生態
オスとのかけ離れた容姿を生み出している《メスは翅が退化して飛ぶことができない》ことと、《昆虫なのに冬に繁殖活動する》という二大ユニークな生態は、きっと無関係ではないだろう。昆虫は外温性(変温)動物なのだから、本来なら気温の低い冬は活動に向かないはずだ。実際、多くの昆虫は活動を休止した状態で冬越しをしている。それなのにどうしてわざわざそんな時期に活動するのだろう? おそらく、捕食者である他の外温性(変温)動物(昆虫・爬虫類・両生類)が活動していない「天敵不在の時期」だからだろう──当初はそんな生存戦略なのだろうという解釈で納得していた。そう考えると、天敵がいなければ「飛んで逃げる」必要も無い。メスは翅や飛ぶための筋肉にあてていた資源を卵の生産に回すことができる。繁殖のためにオスとメスの出会いは必要だが、オスに飛翔能力を残しておけばメス探しはできるから何とかなる。寒い冬に卵を抱えた身重のメスが飛ぶより、身軽なオスが飛ぶ方が容易いだろうから、繁殖相手をさがす役割り(飛翔担当)はオス──というのは納得できる。メスは飛翔能力を放棄し卵の生産性を上げることに専念し、繁殖相手を探して飛ぶのはオスにまかせるという役割り分担をしてことで、オスとメスの違いっぷり(性的二型)が顕著化したのだろう……フユシャクを知った当初は、そんなふうに想像していた。
冬でも存在する天敵
しかし、フユシャクを見ているうちに《天敵がいない冬に活動する》という解釈に疑問がわいてきた。フユシャクの多くは夜行性だが、もし天敵がいないのであれば、気温が高い日中に活動する種類がもっと多くても良さそうなものだ。また、オスとメスで翅の有無による体型の違いがあるのはわかるが……体色や模様に違いがあるのことの意味は何だろう?
オスは翅が落葉にとけこむ「隠蔽擬態」仕様に見える種類も多い。翅が退化したメスにはボディラインをかく乱するような模様(オスにはない)があったり、とまっている幹や樹皮上の地位類に溶け込むような色(オスとは違う)のものもいる……これは天敵の目をあざむくための進化なのではないか──つまり冬にも天敵が存在することをあらわしているのではないかと思うようになった。
実際、フユシャクの成虫がアリに襲撃されたりクモに食われたりしているのを見たこともある。冬とはいえ、捕食者が全くいなくなるわけではなく、天敵は存在しているようだ。


フユシャクの卵塊を物色する寄生蜂らしき虫を見たこともある。フユシャクの中には産卵した卵塊に腹端の毛を塗りつけてコーティングする種類もいるが、これは防霜(?)効果や物理的な保護などのほかに寄生蜂対策や(鳥などに対する)隠蔽効果としての役割りもはたしているのではないかと思えてくる。
また、フユシャクの中では小数派の昼行性であるクロスジフユエダシャクは、メスが落葉の下などに隠れていてオスをフェロモンで呼び込む。天敵がいなければ目立つところに出ていた方がオスに見つけてもらいやすそうなものたが(その方が繁殖に有利)……わざわざ隠れているのは、天敵がいるからではないか? 鳥類は冬場でも活動しているが、彼らにとってみればフユシャクはこの時期の数少ない食料源のひとつなのかもしれない。鳥による捕食圧があるために昼行性のクロスジフユエダシャクはメスが葉の下に隠れ、フユシャクも昼行性の種類が少ないのではないか……と考えるようになった。
昼行性のクロスジフユエダシャクはメスが落葉の下などに隠れているのに対し、オスはメスを探して落葉が積もった雑木林の林床を舞い飛ぶ。そのためオスばかりが目立つが、オスは落葉の上に降りると周囲に溶け込んで隠蔽能力が高い。これも鳥に狙われる機会が多いことで隠蔽擬態の精度を高めてきたのではなかろうか。とはいっても日中舞い飛ぶオスの方が被捕食リスクは高そうだ。しかし、それも理にかなった役割り分担なのだろう。種の存続にはメスの産む卵の数が多い方が良いわけだろうが、メスが捕食されれば、そのぶん卵の数は減ってしまう。オスならば少々食われても、他のオスがカバーすれば卵の生産量を確保できる。
クロスジフユエダシャクの繁殖行動(オスの婚礼ダンスによるメスの確保)を観察していると、落ち葉の下隠れたメスが発したフェロモンに反応し、あっという間にオスたちが集まってくる。この様子を見ているとオスが多少、捕食間引きされても繁殖にはさして影響がなさそうな気もする。


メスでは種の存続のためにも自分の遺伝子を残すためにも卵を無事に産むことが最優先されるはずだ。オスが自分の遺伝子を多く残すためには多くのメスと交尾をする必要があるので、リスクをおってでもメス探しの役割りを担うというのは理にかなっているように思われる。
フユシャクをみていると、いろいろなことを想像する。
フユシャク(冬尺蛾)記事一覧
冬の間(晩秋〜初春)にかけて(成虫が)見られるフユシャクだが、種類によって発生時期にはズレがあって、それぞれの旬の時期は短かったりする。見られるうちに見ておかねばとそのつど記事にしてきたが、記事の数が増えて、何をどこに書いたか自分でもよくわからなくなってきている。
ということで、とりあえずフユシャク関連記事のタイトル一覧を作ってみることにした。
●フユシャク:翅が退化した♀/翅でニオイを嗅ぐ♂
●空目フユシャク
●なんちゃってフユシャク?
●ゼフィルス的フユシャク!?
●ヒメシロモンドクガの冬尺化!?
●フユシャクの婚礼ダンス
●フユシャク探し
●フユシャクの口
●ユキヒョウ的フユシャク
●フユシャク♀34匹/日
●フユシャクの交尾・産卵・卵
●雪豹フユシャクふたたび+産卵&卵
●シロトゲエダシャク
●トギレフユエダシャク&なんちゃってフユシャク:メスコバネマルハキバガ
●この冬みられた冬尺蛾
●どんより曇りはフユシャク日和
●12月下旬のフユシャクなど
●2013年末のフユシャク
●フユシャクの産卵とその後
●フユシャクの産卵 before & after
●フユシャクの卵塊:1年経ってとけた謎
●フユシャクの産卵:列状卵塊ほか
●フユシャクの天敵!?
●冬尺蛾とオオムラサキ若齢幼虫!?
●クロスジフユエダシャクはなぜ隠れて交尾するのか
●フユシャクも出てきた11月下旬
●婚礼ダンスでフユシャク・ペア探し
●ウバタマムシとフユシャク♀2種
●12月前半までの昆虫
●冬の蛾と冬のカミキリ
●スクラッチならぬサクラッチでフユシャク♀を当てよう!?
●フユシャクとマエムキダマシ
●水色のフユシャク・イチモジフユナミシャク♀
●桜ッチは不作〜謎のフユシャク!?
●謎のフユシャク♀?Part2
●セーブル冬尺!?
●シロフフユエダシャクとクロテンフユシャク
●雪と冬尺蛾/シロフフユエダシャク♀理想の翅型!?
●2月のカミキリ〜ヒロバフユエダシャク♀
●フユシャクと冬のハンター
●ヒロバフユエダシャク・シロトゲエダシャク他
●振袖フユシャク?〜可変翼蛾
●晩冬の冬尺蛾トギレフユエダシャク
●冬尺蛾シロトゲエダシャク〜非冬尺オカモトトゲエダシャク&偽冬尺?
●初フユシャク2015他
●フユシャク婚礼ダンスで♀探し
●クロスジフユエダシャクの♂♀比
●フユシャク3種:退化した翅
●あわいブルーの冬尺蛾
●2015年末のフユシャク
●元日の昆虫2016
●一部黒化?イチモジフユナミシャク♀他
●フユシャクのペア他
●雪と冬尺蛾
●クロテンフユシャクのペア他
●シロフフユエダシャク・ペア他
●2月のウバタマムシ&冬尺蛾
●ヒロバフユエダシャクとシロフフユエダシャク
●振袖チックなヒロバフユエダシャク♀他
●振袖フユシャク【卒】を探せ〜トギレフユエダシャク♀
●腹黒いヒロバフユエダシャク
●プレフユシャク〜初フユシャク
●意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク
●冬尺蛾と極小カミキリ他
●婚礼ダンスでペア成立
●フユシャク3種〜12月中旬の昆虫
●チャバネフユエダシャクのペア
●空色の羽の妖精!?
●桜でイチモジフユナミシャク
●年末のフユシャク♀@桜
●正月のフユシャク2017
●昆虫の発生ムラ
●クロオビフユナミシャク♀@桜ほか
●シロフフユエダシャクも出てきた
●フユシャクがとまりがちな所
●民話風フユシャクなぜ話
●蛹の時は大きい!?フユシャク♀の翅
●ヒロバフユエダシャクなど
●曇天のヒロバフユエダシャク♀
●シモフリトゲエダシャク♀の毛皮感!?
●シロトゲエダシャクなど
●《卒》的ヒロバフユエダシャク♀
●ヒロバフユエダシャクのペア/♀の前翅はどっち?
●ヒロバフユエダシャク♀の前翅・後翅を確認
●3月中旬のフユシャク&トカゲ
●なんちゃって冬尺蛾メスコバネマルハキバガ
●クロスジフユエダシャク:冬尺蛾の不思議
●婚礼ダンスでペア成立:クロスジフユエダシャク
●クロオビフユナミシャク♂♀卵他
●ホルスタインちっくなチャバネフユエダシャク♀
●クロオビフユナミシャクとチャバネフユエダシャク
●フユシャク色々
●イチモジフユナミシャク♀は地衣類擬態!?
●年末のフユシャク♀2017
●フユシャクの産卵&コーティング
●フユシャクの卵塊
●シモフリトゲエダシャク・シロフフユエダシャク
●シモフリトゲエダシャクのペア他
●ヒロバフユエダシャクのツーショット
●産卵後のシモフリトゲエダシャクと産卵中のシロフフユエダシャク
●シロフフユエダシャクのペア〜産卵前後
●シモフリトゲエダシャク♀@桜
●フユがつかない冬尺蛾
●シモフリトゲエダシャクペア&ヒロバフユエダシャク
●てんしのヒロバ他
●片牙ゾウムシ&シロトゲエダシャク
●フチグロトゲエダシャクの産卵他
●冬の蝶!?クロスジフユエダシャク
●クロスジフユエダシャクのペア集
●クロスジフユエダシャク:婚礼ダンスに異変!?
●翅の大きさが違う冬尺蛾3種
●クロオビフユナミシャク♀色々
●フユシャク♀5種
●クロオビフユナミシャク♀きらめく鱗粉
●クロバネフユシャクのペア他
●ギボッチ&桜っちで冬尺蛾
●イチモジフユナミシャク♀色々
●サザナミフユナミシャクの愛称!?他
●イチモジフユナミシャク美麗♀
●水色の翅の天使!?イチモジフユナミシャク♀
●イチモジフユナミシャク・ペア〜特大♀
●昼間のオスは?イチモジフユナミシャク
●イチモジフユナミシャクのキューティクル
●冬尺蛾の他人の関係
●フチグロトゲエダシャクを見た…
●今季初フユシャク確認 ※2019NOV
◎昆虫など〜メニュー〜
◎チャンネルF+〜抜粋メニュー〜
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