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アメンボを嗅いでみた:飴の匂いは本当なのか?

アメンボの語源は《雨ん坊》ではなく《飴棒》!?
前回の【アメンボの語源・由来に疑問】では、アメンボの語源を《飴》由来だとする説への疑問を記した。僕は子どもの頃からアメンボは《雨ん坊》からきた名前だとばかり思い込んでいたのだが、意外なことに語源は《雨》ではなく《飴》由来だとされている。ネット上には「アメンボ(が放つ臭腺分泌物)のニオイが飴に似ていることでこの名がついた」という内容の記事があふれており、書籍にもそうした指摘があることを確認できる。
01アメンボ起源本
しかし僕にはどうも《飴》由来説が納得できずにいる……その理由を【アメンボの語源・由来に疑問】で記したわけだが、その時点で僕はまだ問題のアメンボのニオイを嗅いだことが無かった。「《飴のようなニオイ》などしようがしまいが、それが語源だとは考えにくい」と判断したからだ。その考えに変わりはないが、いちおう多くの人が《飴》由来説の根拠(?)にあげている「飴のようなニオイ」とされるものが、いかなるものか──実際にアメンボを嗅いで確かめてみることにした。今回は、その報告を兼ねた続編記事ということになる。

まず、世間にあふれている、アメンボの「アメ」は「飴」のことだという語源・由来説について、あらためてどんなものか……目についた情報をいくつか挙げてみると──、


【アメンボの語源・由来】アメンボの「アメ」は「雨」ではなく「飴」の意味で、「ボ」は「坊」の意味、「ん」は助詞の「の」が転じたもので、「飴の坊(飴ん坊)」が語源となる。アメンボは、体の中央にある臭腺から飴のような甘い臭気を発するため、この名がつけられた。漢字でも「水黽」「水馬」のほか、「飴坊」と書かれることもある。「雨ん坊」や「雨坊」を語源とする説は、雨が降った水溜りでよく見かけるためと考えられるが、この説は民間語源である。江戸時代の江戸では「跳馬(チョウマ)」と呼び、畿内では「水澄(ミズスマシ)」と呼んでいた。(語源由来辞典)

僕が思い込んでいた《雨ん坊》由来だとする解釈は民間語源──科学的根拠のない、誤った語源解釈ということになっている。

「アメンボ」の名称は、体が飴(あめ)のような臭(にお)いがすることに由来する。(日本大百科全書<ニッポニカ>)

水あめのようなにおいがあるのでこの名がある。(百科事典マイペディア)


ヤマケイポケットガイド⑱水辺の昆虫(今森光彦/山と溪谷社/2000年)の【アメンボ】の項目には──、

アメンボの出すにおいは飴のように甘く、体つきは棒のようということから、飴棒(あめんぼ)とよばれる。(『水辺の昆虫』P.168)

──と記されている。2004年に出版された子ども向けの絵本ならぬ写真本『ドキドキいっぱい!虫のくらし写真館⑭アメンボ』(監修:高家博成<東京都多摩動物公園昆虫園>/写真:海野和男/文:大木邦彦/ポプラ社)は上の画像で紹介した通り──ヤマケイの『水辺の昆虫』を踏襲したのか、次のようなコラムがある。

アメンボは、ぼうのようなからだつきで、あめのようなにおいがするために、「あめんぼ」(あめのぼうといういみ)とよばれるのだといわれています。このにおいは、後ろあしのつけねのすこし上にあるあなからだされます。においはアメンボのしゅるいごとにちがっていて、てきからみをまもるためや、なかまをあつめるためにつかわれると、いわれています。(P.13)

アメンボを「飴(の)棒」とする文章の終わりは「──とよばれるのだといわれています」と、真偽の断定をさけた表現になっている。このコラムには《アメンボはあめのにおいがする?》と疑問符つきのリードがつけられていた。著者は名前の由来となった「飴のようなにおい」を実際に確かめることができなかったために、こんな回りくどい書き方になったのではないだろうか?

僕が目にしたアメンボの語源・由来に関する記事はどれも似たようなもので、「アメンボは飴のようなニオイがする」「そういわれている」というだけで、どうしてそれが「アメンボ」の語源・由来になるのか、納得できる説明・根拠をまだ見つけられずにいる。
アメンボが飴のようなニオイを発するとしても、また体が棒状であるからといって、それをもって《飴棒》が語源だと断定することはできない。雨上がりの水たまりにこの虫を見たことがある人や、僕のように水面に広がる波紋から雨とアメンボを関連づけて認識している人は多いはずで、そこから《雨ん坊》と呼ばれるようになった可能性は高い。一方、アメンボのニオイを嗅いだことがある人などごくわずかだろう。「ニオイが飴に似ている」という特徴から名付けられたというのはかなり無理を感じる。特徴から名前をつけるのであれば、水面という特殊な環境に暮らしているという誰もが知っているユニークな生態が優先されるのが当然で、これをさしおいてマイナーなニオイが命名に採用されたとは考えにくい。
やはりアメンボは「雨との関連」から《雨ん坊》と呼ばれるようになり、それが転じて《アメンボ》になったと考えるのが自然な解釈だろう。臭腺のニオイを飴に例えて《飴棒》とするのは、「アメンボ」の名にかけて後から考えた辻褄合わせ・語呂合わせ的な解釈だとみるのが妥当な気がする。

それとも、僕が知らない《飴》由来の確かな証拠がどこかにあるのだろうか? もし納得しうる根拠があるのであれば、《飴》由来説が拡散するときに(信頼性を担保するために)示されていてもよさそうなものだが……。
ネット上には「《飴》由来説記事」が氾濫しているが、読んでみると根拠が不明確で、「──といわれている」というような伝聞次元の説明に終始しているものが多い。《飴》由来説の核心となるアメンボのニオイを実際に確かめたことがない人がこうした情報を拡散している印象が強い。


アメンボを嗅いでみた:《飴のニオイ》は本当なのか?
──ということで、先日アメンボを捕まえて実際にニオイを嗅いでみた報告である。僕はこれまで、キバラヘリカメムシの青リンゴ臭オオトビサシガメのバナナ臭は確認したことがあるが、はたしてアメンボのニオイやいかに!?

川縁の流れがゆるやかな水面にアメンボの集団をみつけ、捕虫網で捕獲した5匹のニオイを確認してみた。
1匹目を嗅いだときは「よくわからないな……」といった印象。ニオイが全くしないわけではなく、あるといえばあるのだが……これが川のニオイなのか虫のニオイなのか判別しかねる程度のものだった。捕えたアメンボはビニール袋に入れて洗濯バサミで入口を塞いだ(密閉状態にしておいて、あとで嗅ぐため)。そして、2匹目め3匹目めと捕えてニオイを嗅いでいるうちに「臭腺のニオイというのはこれかな」と感じるものがわかってきた。確認した追加個体は同じビニール袋に入れて密閉状態にする。
網で捕獲したアメンボは、そのつど素手でつまんてニオイを嗅いだ。ネット上にはアメンボを素手で扱うと刺すことがあるという情報もあったが、今回刺されることは無かった。5匹を捕獲しそのつどニオイを確認してビニール袋に入れた後、つまんだ指先を嗅いでみると、「臭腺のニオイというのはこれかな」と感じたニオイが残っている。これを「飴のニオイ」と言うには、かなり無理があると言うのが率直な感想だ。といっても、アメンボがそう呼ばれるようになった頃の飴のニオイがどんなものかわからないので、正確には比較のしようがない。
このニオイが何に似ているかと言えば……最初に頭に浮かんだのがペットショップだった。エキゾチックアニマルを扱うペットショップに漂っていた匂いに似ている。具体的な物でいうと、(かつて飼っていたグリーイグアナに与えていた)「九官鳥用の固形飼料をお湯でふやかしたもの」に似たニオイだと感じた。もちろん、いずれも「飴」を連想させるものではない。
アメンボをつまんだ指に残されたニオイを嗅いだ後、5匹のアメンボを入れて密閉状態にしていたビニール袋の口をあけて中のニオイを嗅いでみた。やはり「九官鳥用の固形飼料をお湯でふやかしたもの」に似たニオイをわずかに感じたが、これまで嗅いだ、カメムシやオサムシ・ゴミムシのニオイに比べれば弱くてたよりない……この虫(アメンボ)の特徴として命名化するようなものとは思えなかった。「飴のようなニオイがするらしい」というハナシは何だったのか?……と首を傾げながら実験に協力した(させた)5匹のアメンボを川にかえした。

今回、5匹のアメンボでニオイをチェックしてみたが、いずれも「飴のようなニオイ」は感じられなかった。あるいはこれは時期的なものや個体のコンディションなどが関係してのことなのだろうか? 状況によっては「飴のようなニオイ」と感じることもあるのだろうか? いずれにしても「飴に似たニオイはいつでも確かめられるものではない」ということはわかった。そんな頼りない特徴が名前になったりするものだろうか?
アメンボの《飴》由来説に対する懐疑的な心証は深まった。


アメンボ《飴棒》語源説に関する2つの疑問
今回僕は【アメンボの語源・由来】に関して2つの疑問を感じている。1つは「《飴》由来説というのは本当なのだろうか?」という疑問であり、これまで述べた通りだ。2つめは「根拠が不明の《飴》由来説に対して、どうして皆は疑問を抱かないのだろう?」ということだ。検索すると《飴》由来説を踏襲した記事はわんさかヒットするのに、疑問を呈する記事や《雨》由来説はなかなか見つからない……。

しかし、よく考えてみると……僕が違和感を覚えた「アメンボの《アメ》は《雨》ではなく《飴》起源」という情報──これには、実はやはり多くの人が「え!?」と、にわかに納得できないものを感じていたのではなかろうか? ただ、その「意外性」ゆえにネタ(記事)にされ発信(投稿)されやすかった……。
つまり、「アメンボの語源が《雨ん坊》である」という記事を投稿したところで、「ふ〜ん、そうだろうね」「そうだと思った」という薄いリアクションしか期待できないが……「アメンボの語源は《雨》ではなく《飴》だった」と発信すれば、注目が集まりやすい。違和感≒意外性があったからこそ、(真偽はさておいて?)注目されやすいという判断で、《飴》由来説が投稿・拡散されやすかったのかもしれない。

ネット上の《飴》由来説を眺めると、「飴のニオイ」を実際に確かめた人は少なく、大半が孫引き情報ではないかという印象を受ける。実際にニオイを嗅いだ人は「ちょっと違うんじゃないか……」と疑問に感じ、《飴》由来説の拡散に参加しなかったのかもしれない。そうしたこともあって、問題のニオイを確かめようとしなかった人の孫引き情報の割合ばかりが増えていったのではないか?……そんな気もしないではない。

ネット上でひろった情報の信憑性を確かめるために、他にも同様の記事があるか検索することはよくある。多くの人が同じようなことを言っていれば、その意見の信頼性は高いと判断できる……そう思いがちだが、「え〜!?」と驚くような胡散臭い情報ほど(内容の真偽を置き去りにして?)その意外性から拡散しやすいという現象もありがちなのかもしれない……。食いつきの良い情報は真偽をおきざりにして拡散していく──そういった可能性もふまえて情報を評価しなければいけないとあらためて感じる。

アメンボの由来は《雨ん坊》が起源と考えるのが自然で、《飴棒》説は臭腺の知識を持つ人がアメンボの「アメ」にかけて「飴のようなニオイ」に例えることで符合させた語呂合わせの「なんちゃってウンチク話」なのではないか……今のところ僕は、そんなふうに想像している。


アメンボの語源・由来に疑問


真・青リンゴの香り/キバラヘリカメムシ
オオトビサシガメのバナナ臭
キマダラカメムシの臭腺開口部 ※悪臭を放つカメムシの1つ
メダカチビカワゴミムシの最後っ屁ほか
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