FC2ブログ

ハリサシガメ脱皮後の再装備は?

擬装する珍虫ハリサシガメ





雑木林ふちの石垣に、今年もこの昆虫が姿をみせるようになった。土粒をまといアリの死骸などを背負って擬装するユニークなハリサシガメの幼虫だ(成虫は擬装しない)。




ハリサシガメは幼虫も成虫もアリを狩る捕食性カメムシ。かなりおもしろい昆虫だと思うのだが……その割にこの虫に関する情報は少ない。
しかたないので、素人観察で謎解きに挑んでいるが……「なるほど、そうだったか」と驚いたり納得することがある一方、解明できずにいる疑問も少なくない。
そんなハリサシガメについて、今更ながら、こんなサイトを見つけた。


このサイトではハリサシガメの生態に関して興味深い情報が紹介されていた。ただ、使用されていた画像は外国産の種類ばかりだったので、僕が観察している(日本産の)ハリサシガメとは異なる部分もあるかもしれない。
そこで、このサイトのハリサシガメ情報を見て感じたことを、《僕の観察・考察と合致する点》《知りたかった点》《僕の観察とは異なる点》に分けて記してみることにする。

僕の観察・考察と合致する点:擬装の意味

ハリサシガメの特徴といえば、幼虫が土粒をまといアリなどの死骸を背負うことだ。そしてこのユニークな姿を見れば、まず思い浮かべるのは、「この擬装には、いったいどんな意味があるのか?」という疑問だろう。
前記サイトではこの擬装について、《自分のニオイをごまかす》意味もあるというような解説をしていた。この点は僕の観察&考察と合致する。

ハリサシガメが土粒をまといアリの死骸などをデコレーションするのは、一見、体を隠す視覚的カムフラージュのように見える。もちろん昆虫食の捕食者に対しては、そういった効果もありそうだが、アリの行列のすぐそばでハンティングするようすを観察していると、アリに対する擬装工作としての意味合いが強いのではないかと思えてくる。アリは一般的に視覚はあまり良くはないそうで、触角で触れてニオイで相手を識別しているらしい。そこでアリの触角タッチで正体がバレないよう、ハリサシガメは土粒で体の表面を覆っているのではないか──つまり、土粒コーティングには「自分のニオイを隠してアリをごまかす擬装工作」の意味があるのだろうと僕も推理していた。
あくまでも個人の素人想像だったのだが、《自分のニオイをごまかす》という見方があることを知って、僕の解釈もまんざらではなかったかと思った。

僕が知りたかった点:どうやってデコるのか?

「擬装の意味」については関心の1つだったが、それでは、ハリサシガメ幼虫は土粒やアリの死骸などの擬装素材を「どうやって体に貼り付けているのか?」という疑問も当初から知りたいことの1つだった。

僕はハリサシガメの羽化殻に残されていた擬装素材を剥がしてみたことがある。そのとき素材同士がくっついていたので、「何らかの粘着物質で接着するのだろう」と考えた。その接着剤にあたる物質を体から分泌するのか、口から吐き戻すのか、排泄するのか、あるいは臭腺開口部から分泌される液が接着剤の役割りを果たすのか……色々な可能性を思い描きながらハリサシガメ幼虫のデコレーション行動を観察してみたが、結局よくわからなかった。
これについては、昆虫学の大家・岩田久二雄氏が『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)という本の中に次のように記されている。

吸血をおわるとサシガメは不器用なかっこうをしながら、前肢でその吸殻を自分の背中に押しあげた。それはしっかりと糊着されるわけではなく、ただ乗せられるだけであるが、何分忙しげに走りまわれるたちの虫ではないので、それらの無様な積荷が崩れおちるおそれもない。後になっていよいよ最後の脱皮を終えて成虫になり、その吸殻の山をくっつけた抜け殻が、すっぽりぬぎすてられた時に、初めて明らかになったのだが、いちばん下層の吸殻はカメムシの背中の棘にひっかかっていて、上層のものは下層のものの付属肢と、もつれあって巧くとまっているのであった。(『昆虫を見つめて五十年(II)』P.96)

この部分は岩田久二雄氏の間違いだと僕は思っている。僕の観察では捕食後のアリの死骸(岩田氏のいうところの《吸殻》)は、《前肢》ではなく、決まって「後脚」で背中にデコられる。羽化殻の擬装素材を剥がしたとき、土粒同士もくっついていた。付属肢などない土粒同士が《もつれあって巧くとまっている》ことは考えられず、これは岩田氏が否定している《糊着》だろう。
これについては、「きっと多くの人はド素人の僕の観察より、岩田久二雄氏の著書の記述を信じるのだろうな……」と思っていた。
しかし、先のサイトでは、擬装行動について《ペースト状のフンを使って食べかすを貼り付けていると言われている》と解説されていた。
これは大いにありそうだと感じた。幼虫がアリを背中に貼りつけるさいには、後脚で尻の方から既に背負った素材と背中の間に押し込むような動作を見せる。このときペースト状のフンをぬりつけているとすれば、筋は通る。

僕の観察とは異なる点:脱皮後の再装備は?

先のサイト情報には納得できる部分も多かったが、疑問に感じる点もいくつかあった。明確に「僕の観察とは違う」と感じたのが、ハリサシガメ幼虫は脱皮後、いつ・どのようにデコレーションの再装備をするかという点についての説明だった。先のサイトでは《脱皮のとき、そばに残骸を置いておいて、終わったらちゃんと背負いなおす》という解説がされていた。

脱皮後の擬装素材の装備は、いつ・どのように行われるのか──という疑問は僕も当初から抱いていた。擬装がアリ狩りに必要な(身を守る)アイテムであったとするなら、脱皮後丸裸で狩りに行くのは危険だ。おそらく狩りの前に土粒コーティングをするなり、アリのゴミ捨場で死骸を調達してデコるのだろうと当初は想像していた。
ところが、ハリサシガメの脱皮殻をみつけ、背中から擬装素材が剥ぎ取られていることに気がついた。脱皮の前に貯えてきた擬装素材は脱皮後、引き継がれ再利用されるのだと考えを改めた。
先サイトの解説にあった《脱皮のとき、そばに残骸を置いておいて、終わったらちゃんと背負いなおす》という説(?)も「脱皮後の幼虫が、脱皮前に背負っていた素材を背負っている/脱皮殻からは擬装素材がなくなっている」という状況を見て(実際の脱皮のシーンは確認せずに)、そう判断したのではないか……という気がしないでもない。

しかし、実際に脱皮を観察する機会があって──大いに驚いた。ハリサシガメ幼虫は「脱皮しながら擬装素材(残骸)を引き継いでいた」のだ。




(※【ハリサシガメぷちまとめ2】より再掲載↑。実際は鉛直面に頭を下にして脱皮している)
擬装素材は脱皮殻に付着している。新幼虫が擬装素材を背負おうとすれば脱皮殻もくっついてきてしまう。背負った擬装素材にくっついてくる脱皮殻を後脚を使って引き剥がす──という形で脱皮&擬装素材引き継ぎが行われていたのだ。
つまり──、

①脱皮前に擬装素材(残骸)を外し、そばに置いておいて
②脱皮を行う
③脱皮後、擬装素材(残骸)を背負いなおす

のではなく──、

①擬装素材(残骸)をつけたまま脱皮を開始
②脱皮しながら新幼虫が擬装素材(残骸)を背負う
③擬装素材(残骸)から脱皮殻を引き剥がす

という手順で行われていたのだ。
ときに③にてこずることがあるのだろう、脱皮殻を背負った幼虫や、背負った擬装素材(残骸)から脱皮殻を剥ぎ取ろうとする幼虫を目にすることが何度かあった。




このシーン↑も【ハリサシガメぷちまとめ2】からの再掲載↑。
今シーズンも、抜け殻を背負っていた幼虫が、抜け殻を剥がしたと思われるケースを2例見ている(剥がすシーンは見ていない)。
直近の例↓。


何日か前、脱皮殻を背負っていた幼虫がその後見た時には剥がしていたということがあったので、このときも剥がすのではないかと思って30分後に見に行くと──、




やはり脱皮殻を剥がしていた。アリの死骸やアリが廃棄したような虫の残骸などは積極的にデコるのに、自分の抜け殻はデコレーションから排除しようとするのが興味深いところ。擬装がアリの嗅覚を欺くためのものだとしたら、自分の(ニオイがついた)脱皮殻を排除するのは理にかなっている。そんなふうに僕は解釈している。
ハリサシガメについては色々と思うところが多い……。

ハリサシガメぷちまとめ
ハリサシガメぷちまとめ2
珍虫ハリサシガメ
ハーリーをさがせ!ハリサシガメ幼
ハリサシガメの抜け殻
ハリサシガメ幼虫の粘着性物質は水溶性!?
ハリサシガメ:幼虫・抜け殻・成虫
ハリサシガメの捕食
ハリサシガメは翅多型/腹の大きなメス
アリをデコったハリサシガメ幼虫
ハリサシガメ幼虫のデココレ素材
ハリサシガメ幼虫の装飾行動 ※ハリサシガメ幼虫はどうしてデコるのか?
ハリサシガメ幼虫の狩り
ハリサシガメの脱皮殻
ハリサシガメ:脱皮後の《荷移し行動》
ハリサシガメ幼虫のデコレーション&コーティング
捕食したアリをデコるハリサシガメ幼虫
ベールを脱いだハリサシガメ
「ハ」は「ハリサシガメ」のハ
ハリサシガメのペア
謎めいたハリサシガメの脱皮
翅多型のハリサシガメ
ハリサシガメのレガース
ハリサシガメの腹
本とは違う!?ハリサシガメ
レガースで獲物を保定するハリサシガメ
ハリサシガメの単眼&脛節など
ハリサシガメ幼虫と脱皮殻
ハリサシガメ幼虫のスッピン
ハリサシガメの捕食~擬装行動
白腹のハリサシガメ幼虫
クロオオアリを狩ったハリサシガメ幼虫
ハリサシガメの羽化殻&脱皮殻
ハリサシガメ:初成虫&若齢幼虫
ハリサシガメとファーブル昆虫記
ハリサシガメ羽化殻のレガース
パリコレならぬハリコレ~ハリサシガメ幼虫:擬装の意味
★ハリサシガメ記事一覧">★ハリサシガメ記事一覧
スポンサーサイト



コメント

No title
こんばんは・・・
星谷さんの今回の記事においても、私は多くのことを学ばせて頂きました。
先ず、多様な観察事例をお持ちであることに驚かされます!
そのための努力を想いますと、私は、頭が下がる想いが致します。
相手は、「さあ、カメラで撮影して頂戴!」と構えポーズし待ってくれてるわけの無い虫であること・・・それを想えば(凄い!)と、ため息の漏れる思いが致します。

過去の文献が全て正しいわけではない!(らしいですね!)
だからこそ、日々の観察が余計でも重要になってくる・・・
写真・観察から考察し証明し又考察し・・・新しい発見がある。
実に素晴らしい観察資料だと・・・私は想いまいた!☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

一昨年の夏、この奇妙な虫にであってから、いろいろな知りたいことが出てきて……しかし、ハリサシガメの情報が意外に少ないので、自力解決できるところはしてみようと観察を続けています。
虫相手なのでなかなか希望通りいかないことも多いですが、見続けていると色々考えるヒントが見つかることがあるので、あれこれ脳内シミュレーションしています。

昆虫に関して調べる時にネット情報は重宝しますが、一方的に利用するだけでなく、僕の観察情報も上げて、微力ながら還元できれば……と思っていたりもします。
No title
ひえ~、今回も興味深い記事ですね!
大変おもしろく拝読いたしました。
星谷さんのように粘り強く虫を観察できる人が世の中にいてよかった!と
そして星谷さんの近所にハリサシガメがいてよかった!と思いました…。
学者の方たちもきっと十分に観察してらっしゃると思いますし
安易に記述するつもりもないと思うのですが
見たタイミングやその場数?によって誤解も生じることもあるのしょうね…。

アカスジキンカメムシにしてもこのハリサシガメにしても
脱皮殻を付けておくことを本当に嫌うように見えますね。

抜け殻からデコ素材を引き継いだ写真で、私の好きな極小ゾウムシらしきものの死骸が背負われているのが、個人的にとっても気になりました…(^ ^;
No title
> のりさん

『昆虫を見つめて五十年(II)』でハリサシガメについて記している昆虫学の大家・岩田久二雄氏は、この虫を1匹しか見たことがないそうで、その1匹を持ち帰って飼育観察したことが記されています。勘違いと思われる記述がいくつかありましたが、おそらく充分な観察数が得られず(小さな虫の行動を1度見ただけで正確に記録するのは難しい)誤解に気づく機会がなかったのではないかと想像しています。
ハリサシガメは観察素材としてはとても面白い虫なので、おそらくカメムシ屋さんたちの中では詳しく調べられていて、学会などで報告もされているのではないかと思うのですが……一般のレベルではあまり情報は出回っていないようで……。

幼虫のデコレーション素材は季節の中で色々変化するので面白いです(おそらくアリのゴミ捨場から拾ってきた残骸なのでしょうけど)。意外にキレイなパーツが混じっていたりして、これは何の残骸なのだろうと気になることもありますね。

管理者のみに表示

トラックバック