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フユシャクの卵塊

毛のコーティング:卵塊表面の変化

前回の記事(【フユシャクの産卵&コーティング】)で紹介したフユシャク亜科のフユシャク(シロオビフユシャクかクロバネフユシャクあたり?)の卵塊。完成直後はフェルトのようだった卵塊の表面は質感が変わっていく。


産卵しながら行われる1層目のコーティングでは、貼り付けられた毛の向きはバラバラ。この時点では、かなり毛羽立っている状態。産卵を終えた後も卵塊に「毛の上塗り」をくり返すので、完成時には表面はしまってフェルトのような仕上がりになる。


やがて表面の毛は1度溶けて固まったかのように質感が変化する。


前回の記事を投稿した後、mixiの方で知人の虫屋さんから、毛を貼りつけるさいに分泌物も出しているのではないかというコメントをいただいたが、そう考えると繊維状のコーティングが固まって質感が変化するのも納得しやすい。
別個体のフユシャク♀と完成まもないと思われる卵塊↓


完成直後は繊維感があった表面は、その後一体化して硬質の膜のように変化していく。


卵塊だけを見ると、この中に蛾の卵が隠されているとは想像がつかない。卵を覆うコーティングは強固に見え、卵から孵った非力な幼虫が、この膜を突破できるのだろうか?──と心配になってしまう。
そもそも毛の下に卵がどのような形でいくつくらい産みつけられているのかもわからない──産卵時から毛でおおわれているため卵の状態は確認できていなかったわけだが……そうした疑問のいくつかが明らかになった過去の観察例を──、




1月上旬に鉛直の壁面に産みつけられたフユシャクの卵塊↑。膜化した表面には4月下旬に孵化した幼虫が作ったと思われる孔があいていた↓。


産卵1年後にはコーティングされた部分がはげ落ち、壁面に貼り付いた卵の殻(抜け殻)があらわになっていた。やはり毛で固められた部分は膜となり卵をおおっていたということだろう。卵は整然とかためて産みつけられていたことも確認できた。

丁寧なコーティングをするフユシャク♀

このタイプの卵塊をつくるフユシャクは産卵後(1層目のコーティングの後)も毛の上塗りをくり返す。小さな虫ながら、その丁寧さ・勤勉さには感心するばかり。新たな卵塊を見ていると、産卵を始めた翌日には完成していることが多いように思われる。しかし、中には3日間もコーティング(上塗り)行動を続けていたメスがいた。


産卵開始時には、まだ(卵がつまった)腹も大きく、腹端の化粧筆(フェイスブラシ)のような毛束もたっぷり残っている。産み始めの位置を基点に、この画像↑のメスの頭のあたりまで卵塊は拡張されていく↓。








産卵翌日には上塗りする腹端の毛もつきている状態だったが、それでもコーティング行動を続けていたメス。卵塊はすでに完成しているように見えるが、本能の《終了》スイッチが壊れて入らなかったのか? けっきょく丸3日はコーティング行動を続けていたことになる。
こうした念入りにコーティングをするフユシャク♀とは対照的に、コーティングが雑なフユシャクもいる。

列状の卵塊では毛のコーティングが雑!?

フユシャク亜科のフユシャク(冬尺蛾)の中には、列状の卵塊を作るものもいる。やはり腹端の毛で卵をおおうが、前述の丁寧なコーティングをするフユシャクに比べるとかなりザツな感じがする。


擬木に産卵していたフユシャク亜科のフユシャク♀↑(クロテンフユシャクやウスバフユシャクあたり?)。
翌日の卵塊↓。撮影角度を変えて、画面左が産卵開始側⇔画面右が産卵終了側。






産卵を開始した側では毛のコーティングが不充分で卵がのぞいている部分がある。この種類は産卵後の「毛の上塗り」はしないようだ。
露出した卵にひかれてか……小さなハチ(寄生蜂?)が卵塊を物色していたことも……↓。


やはり擬木に産みつけられていた別の列状卵塊↓。




3月半ばに一部の卵が壊れていた↑。殻の損傷は大きめ──孵化した幼虫が食したのか、外部の天敵によるものか?
3月の終わりにはほとんどの卵がカラになっていた↓が、殻の損壊の程度の違いが気になる……。


大半の卵は孵化したようだが、ところどころに孵化していない(孔が開いていない)卵が残っている。中央列の右端から8つ目の卵も未孵化だが、この卵には6日前にダニがついていた。


ダニが寄生したことで孵化できなかったのだろうか?
卵に寄生する蜂やダニがいるとすれば、丁寧なコーティングで仕上げた卵塊は被害を受けにくそうな気がする。だとすれば、労力を要す丁寧な仕事にはそれなりの見返り(生存率を高める)効果があるということになる。
フユシャクが産みつけた卵をわざわざ毛で覆うのには、霜付防止(防寒対策)や乾燥防止対策の意味合いがあるのではないかと想像していたが、卵にまとわりつくハチやダニを見て、(強固なコーティングには)寄生対策の意味もあるのかもしれないと考えるようになった。先の虫屋さんからいただいたコメントには、「冬に樹幹や小枝から採餌する小鳥のガラ類から逃れる効果」の可能性も指摘されていたが、視覚的には卵を隠す隠蔽効果があるので、そうした天敵対策の意味もあるのかもしれない。

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コメント

No title
こんばんは・・・
毛の上塗りからの質感の変化後の硬質感を観て、空調機能が整ったカマキリの卵鞘を思い出しました。
しっかりと守られたカマキリの卵にでさえ、狙う寄生者がやってくる事実に、狙われたフユシャク蛾の卵塊の生き残りの(難)を感じます。
しかし、あの上塗りの下には、卵が整然と並んでいるのですね・・・
いつもながらの・・・
星谷さんの観察眼の素晴らしさに、感嘆のため息がもれました・・・☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

鳥につつかれたと思われるカマキリの卵鞘は見たことがあります。鳥は、あの中に虫の卵があるということをどうやって知るのだろうと思ってみたり。

フユシャクを初めて知った時は、天敵がいない冬に活動する生存戦略──と単純に考えていましたが、観察するうちに冬にも天敵はいるし、なかなか複雑な世界だなぁ……と認識をあらためました。

それにしても丁寧なコーティングをするフユシャクには感心してしまいます。
No title
いや^面白いですね、というより自然の不思議、それえも生き物の知恵でしょうか。興味深く読ませていただきました。ナイス!!
No title
> 四季の風さん

注意して見ないと気づかないような虫の世界ですが、よく見ると色々と興味深いです。自然の営みは不思議ですね。
No title
フユシャクの卵のコーティング面白いです。
卵に毛を張り付ける蛾は、ドクガくらいしかしらなかったのですが、フユシャクもするのですね。
それに、毛がとけて固まって卵をがっちりガードしていて、確かに寄生蜂から守る効果もありそうですね。
ナイス!です。
No title
> タイコウッチさん

フユシャクでもフユシャク亜科の腹端に毛束をもつものはコーティングをするようです。
固まった卵塊は、貼り付けられた古いガムのあと(にしては小さいですが)みたいな感じにも見えます。
たんねんに上塗りをくり返す母蛾に「そこまで念入りにする必要があるのだろうか?」などと思ったりもしましたが、寄生蜂などからガードする効果はありそうだと考え直しました。

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