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クロスジフユエダシャク:冬尺蛾の不思議

クロスジフユエダシャク:フユシャク(冬尺蛾)の不思議

【フユシャク(冬尺蛾)】と呼ばれる冬にだけ出現し繁殖活動する蛾がいる。昆虫でありながら、外温性(変温)動物が活動するには不向きな冬をわざわざ選んで羽化し繁殖活動するというのだから、初めて知った時は驚いた。また、フユシャクのメスは蛾でありながら翅が退化していて飛ぶことができない。この点にも意外性を感じ、「どうしてそういうことになるのだろう?」と興味を覚えた。フユシャクは国内に35種類ほどいるらしいが、クロスジフユエダシャクもその1つ。フユシャクの中では早い時期(狭山丘陵では11月後半頃から)に出現する種類で、多くのフユシャクが夜行性であるのに対し、クロスジフユエダシャクは昼行性。日中、林床の落ち葉の上を、メスを求めて低く飛ぶオスの姿を見ることができる。
フユシャクが冬に活動する謎については当初、捕食性昆虫やクモ、ヤモリやトカゲなどの天敵が少ない時期に活動するという生存戦略なのだろうと想像して納得していた。メスが飛ぶことをやめたことに関しては、低温の中で卵を抱えた身重なメスが飛ぶのは大変だろうから、出会いのための飛翔は身軽なオスにまかせ、メスは産卵に専念するようになったのではないかと考えた。天敵がいなければ飛んで逃げる必要も無かろうから、飛翔能力がなくても必要な生存率は保てたのだろう……そんなふうに解釈していた。

しかし、クロスジフユエダシャクを観察しているうちに、当初の解釈に疑問がわいてきた。
クロスジフユエダシャクのオスはよく目につくが、その割にメスが少ない……。擬木など、たまたま目立つところにとまっているメスは目にすることがあるが、オスに対する割合は著しく低い。後述の方法でオスを追ってメスを探し当てられるようになると、クロスジフユエダシャク♀は落ち葉の下や物陰に隠れていることが多いことがわかった。飛翔するオスに対して物陰に隠れているメスが目につきにくいのは当然だ。オスが林床に積もった落ち葉の上を低く飛ぶのも、落ち葉の下に隠れているメス(の放つフェロモン)を探してのことだろう。

しかし考えてみると、メスは落ち葉の上に出ていた方がオスに見つけてもらいやすいはずだ──その方がペア成立のチャンスは増え、生存率を高められそうな気がする……にもかかわらず、実際はメスは隠れていることが多い。これはどういうことなのだろう?
オスとの出会いのハードルを上げてまでメスが身をひそめているのは、冬にも活動する天敵──鳥などがいるためではないか? 日中活動する鳥たちによる捕食圧が働くことで、クロスジフユエダシャク♀は隠れて交尾する習性を獲得したのではなかろうかと考えるようになった。
フユシャクの多くが夜行性だということも、昼間活動する鳥を避けるためだと考えれば合点がいく。もし本当に「天敵がいない季節」なのであれば、寒さが緩む日中を選んで活動する種類がもっといてもよさそうな気がする。

クロスジフユエダシャクの《婚礼ダンス(はばたき歩行)》

ということで、クロスジフユエダシャク♀は落ち葉などの陰にひそんでいることが多い。オスは隠れたメスを探し出さなくてはならないわけだが……その手がかりとなるのがメスが放つニオイ物質・フェロモンだ。落ち葉の上を低く飛びながら徘徊しているオスはメスの放つフェロモンをキャッチしようとしているのだろう。
フェロモンをキャッチしたオスはニオイの発生源を求めて飛翔範囲をしぼっていく。そして、このあたりと目星をつけると着地して激しく小刻みに羽ばたきながら歩き回る──これが(カイコガでいう)《婚礼ダンス(はばたき歩行)》だ。フェロモンを感知するのは触角だが、オスははばたくことで前方の空気をセンサーである触角に引き込み、ニオイ物質を嗅ぐ──ヒトがにおいを嗅ぐとき息を吸って鼻腔に空気を引き込むのと同じ。オスは羽ばたきながら向きを変え、ニオイがより強く感じられる方向へ進むことでメスを見つけ出すことができるというわけだ。ちなみにカイゴガではオスの翅を固定したり切除すると(はばたけなくすると)メスを見つけることができなくなるという(※平凡社『アニマ』1980年12月号【カイコガの婚礼ダンス なぜ踊るのか】文・小原嘉明/写真・松香宏隆)。

数年前、路上で轢死したクロスジフユエダシャク♀のまわりにはばたき歩行をするクロスジフユエダシャク♂が集まっているのを見て、クロスジフユエダシャクもカイコガ同様に《婚礼ダンス(はばたき歩行)》によって♀を探し当てているに違いないと思った。
そしてクロスジフユエダシャク♂の《婚礼ダンス(はばたき歩行)》に注目し、それを追うことで、クロスジフユエダシャク♀を見つけることができるのではないかと考えた。
実際に試してみたところ……《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を始めた♂は落ち葉などの物陰に潜り込み、そこで♀と交尾する姿を確認することができた。

恒例の!?《婚礼ダンス》で♀探し

ということで、クロスジフユエダシャクが発生する頃になると、《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を追ってペアを確認してみたくなる。今シーズンは11月中頃に初めて飛翔する♂の姿を目にしている。まだ個体数は少なめだが、《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を観察しに雑木林に出かけてみた。


飛んでいるクロスジフユエダシャク♂がまだ少ない。発生初期で成虫の数自体が少ないこともあるのだろうが、(まだ)メスが少ないことで飛んでいるオスも少ないのだろう。閑散とした林床に、たまにオスが単独~3匹程度あてもなくさまよい飛ぶていど。これまでの観察では、メスにフェロモンを放つ時間帯やタイミングがあるのか──オスがたくさん飛んでいても《婚礼ダンス》が始まらないときは何も起こらない。《婚礼ダンス》は突然始まり、同時に複数のオスが反応することもある。ペアが成立するとフェロモンはシャットダウンするのか、周囲のあぶれたオスは何事もなかったかのように飛び去って行く。
この日はオスがあまり飛ばず、葉の上で翅を休めている時間が多かった。




と、1匹の♂が落ち葉の上を飛んできた。目で追っていると、そのオスはコナラの幹の近くで落ち葉を離れ高度を上げ始めた。探査飛行を打ち切ったのかとあきらめたかけたが、コナラの幹にまとわるような飛び方をし、幹にとまると《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を始めた。


《婚礼ダンス(はばたき歩行)》は何度も見ているので、すぐにそれとわかる。♀の存在を確信し、はばたき歩行で幹の裏側に回り込むオスを追って行くと──果たして今シーズン発のクロスジフユエダシャク♀の姿があった。


《婚礼ダンス(はばたき歩行)》はいつも突然始まり交尾に至るまでが早いので、その様子を撮ろうとしてもブレたりボケたりしがちで……今回もヒドイ画像だが……とりあえず状況の記録ということで。オスは難なくメスをみつけそのまま交尾に至った。


オスは普通の蛾にみえるが、翅が退化したメスはまるで違った印象──とても同じ種類には見えない。オスはこのあと少し位置を変える。
今回、メスは落ち葉の下ではなく比較的目立つ幹上にとまっていた。しかし、低空を飛びながら、幹の裏側にとまっていたメスのフェロモンを察知したオスはアッパレ。どんなところにいたかというと──、


冬の風物詩フユシャクと夏の風物詩セミ──ニイニイゼミの抜け殻とのコラボ・ショットということで。




とりあえず、今季も《婚礼ダンス》を見ることができた。

フユシャク以外の虫



ワイヤーフェンスにとまっていたフトハサミツノカメムシ♂↑は、枯葉のようないろになっていた。ちなみに9月に撮った個体はきれいな緑色↓。


(※↑【フトハサミツノカメムシの歯状突起&臭腺開口部】より)
ガードパイプにとまっていたウシカメムシの幼虫↓。


擬木にとまっていたビジョオニグモ↓。人面模様の虫は、つい撮ってしまう。


フユシャクの季節が始まったが……まだ活動している捕食性昆虫もいないではない。サクラの枝で食事中のヨコヅナサシガメ幼虫↓。




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コメント

No title
今年も、フユシャクガの頃がやってきましたね・・・
昨年は、一度もフユシャクガ探し散策が出来ずじまいで残念な想いもしました。が・・・
今回の記事を読み、「何とか今年こそは、婚礼ダンスに!加えて交尾シーン!を目にしてみたい・・・」と、そんな想いが強くなりました。
「先ずは目にしなければ・・・」
冬の虫探しにも胸が昂りますね!☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

フユシャクの時期になると、やはり気になってしまいます。
クロスジフユエダシャクは昼行性なので、活動しているシーンが観察しやすいという意味でも、この時期には見ておかねば……という思いが。
《婚礼ダンス》は待たされることも少なくありませんが、何度見ても感心してしまいます。

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