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本とは違う!?ハリサシガメ

ハリサシガメについては興味を持って素人観察を続けている。成虫も魅力的だが、僕が関心を持ったのは幼虫が異物をまとって体の表面を覆い隠してしまうことだった。いったい何のため?(おそらくカムフラージュの意味があるのだろうが)・どのようにして盛りつけるのか?(中には脚が届かないほど高く素材を積み上げているものもいる)・脱皮のときはどうするのか?(そのたびに「丸裸」になってゼロから積み上げるのかetc.)──そうした疑問が次々にわいてきた。ところがユニークな虫であるにも関わらず、その割にこの昆虫についての情報は少ない……(僕の調べ方が悪いこともあるのだろうが)。
そんなハリサシガメについて記載された本がある──という情報をSNSで交流のある虫屋さんに教えていただいた。
『昆虫を見つめて五十年(II)』(岩田久二雄・著/朝日新聞社・刊/1978年)という本で、蔵書検索してみると近くの図書館にあることがわかった。さっそく借りてきて該当部分を読んでみたのだが……興味深い内容ながら、僕の認識とは違うところがある。ということで、本書の記載内容との僕の観察&解釈の相違点について記してみたい。

岩田久二雄氏の観察とは異なる!?ハリサシガメの生態

シリーズ第2巻にあたる本書の「吸血カメムシの生活」という章の中にハリサシガメは出てくる。著者の岩田久二雄氏は著名な昆虫学者だが、その「昆虫を見つめて五十年」の歴史の中でハリサシガメに出会ったのはただ1度だけだそうだ。初めて見た幼虫(若虫)に驚き、持ち帰って飼育観察したことが記されている。岩田氏は幼虫が擬装するという特徴もさることながら、「一瞬で獲物(アリ)をしとめた狩りの手腕」の方に関心を持ったらしい。ハリサシガメについての語り出しは次のようにものだった。

ハエトリグモが自分に匹敵するか、またはより強力な獲物を倒す時に、その急所すなわち頸部を攻撃し、ムシヒキアブが同様にそこに唾液を注入するように、吸血カメムシもそこを選ぶことがある。私がそれを如実に知ったのは、一九二九年の八月であった。(『昆虫を見つめて五十年(II)』P.94)

初めてハリサシガメ幼虫にであい、その狩りを目にしたときの驚きを岩田氏はこう記している↓。

その日私は裸の緩斜面の路上の、クロヤマアリの往来するところで、ふと小さいごみ屑の塊りが、異様にうごめくのに気がついた。しゃがんでみると、ごみの塊りの下に六本の細い肢が出ていた。とっさに私はそれが、何かの昆虫の擬装であると勘づいた。みるみるうちにそのごみ玉が一匹のクロヤマアリに、突如として襲いかかるにおよんで大いに驚いた。まさしくそれはアリの略奪者だったのだ。
 ハリサシガメの若虫は、二本の前肢で押さえこむとともに、口吻をヤマアリの細い頸部に背面から差しこんでいた。刺されたとたんにアリの行動は停止した。この寸劇に感動した私は、それ以上の観察をゆっくりと家で行うことにして、その小さな怪物を管瓶におさめて帰った。(同P.95~P.96)


岩田氏は飼育下で観察したアリが狩られる様子についても《すぐに押えこまれ、正確に頸筋に鋭い口吻を打ちこまれた(同P.96)》と記している。
僕もハリサシガメの狩りは何度も目にし、捕われたアリがすぐに動かなくなるのは知っていた。頸部を刺しているシーンも見たことがある……しかし、特に土粒まみれのハリサシガメ幼虫の場合、擬装で太くなった脚の陰になってどこを刺しているのか確認できないことも多い。いつもピンポイントで頸部を狙っているのか……そのあたりは僕にはわからなかった。
最初の一撃かどうかを別にすれば、ハリサシガメが口吻を刺すのは頸部に限ったことではない。体液を吸っている間に何度か口吻を刺しなおすが、そこが頸であるときもあれば、腹であることもある。


狩りについての記述──《ハリサシガメの若虫は、二本の前肢で押さえこむとともに、口吻をヤマアリの細い頸部に背面から差しこんでいた。》という部分で、「僕の観察とは違う……」と感じたのは《二本の前肢で押さえこむ》という箇所だ。僕の観察では、ハリサシガメは幼虫も成虫もアリを狩るさいには「2本の前肢(前脚)」ではなく「前脚と中脚の4本の脚」を駆使して獲物を押さえていた。ハリサシガメの前脚と中脚の内側には脛当て(レガース)のような器官があるのだが、これもアリを押さえるときの滑り止めのような役割りをはたしているのではないかと僕は考えている。アリを急襲するときはすばやく前脚と中脚の4本の脚で抱え込むようにして口吻を刺す──そのため獲物は足の陰にかくれてどの部分が刺されているのか確認できないことが多いわけだが……アリが動かなくなるとハリサシガメは押さえていた脚をはなし、口吻だけでアリぶらさげて移動することもある。食事中に口吻を抜き、獲物の向きを変えて刺しなおし食事を続行する姿もよく見られ、この際にも前脚と中脚が使われる。






前脚と中脚を使って獲物を押さえるのは成虫も同じ。


エサとなるアリについては──岩田氏は持ち帰ったハリサシガメ幼虫のに色々な昆虫を与えてみたという。

アブラムシ、テントウムシの幼虫、ショウジョウバエから、小さいクモの若虫など、すべて拒否された。それがあまり近くまでくると身をひいた。またアリのうちでも体の大きいクロオオアリや、体は小さいが硬く鎧われたトビイロシワアリや、岩乗な鎧に棘まで用意したトゲアリなどは、同じように嗜好の選択からもれた。
 結局ハリサシガメの若虫が素直に餌としてうけつけたのは、足の速いクロヤマアリとトビイロケアリの二種であって、これらは体の大きさはちがっているが、外皮がかなり軟らかい点で共通していた。(同P.96)


岩田氏の観察では《嗜好の選択からもれた》とされるクロオオアリだが、僕はハリサシガメの幼虫・成虫、両方でクロオオアリを捕食したケースを確認している。




僕にはアリの種類がよくわからないが、少なくとも4~5種類のアリは捕食対象になっているようだ。一方、アリ以外のものを捕食しているのは僕も見たことがない。

ハリサシガメ幼虫の特徴であるデコレーション行動については、岩田氏はこう記している↓。

吸血をおわるとサシガメは不器用なかっこうをしながら、前肢でその吸殻を自分の背中に押しあげた。それはしっかりと糊着されるわけではなく、ただ乗せられるだけであるが、何分忙しげに走りまわれるたちの虫ではないので、それらの無様な積荷が崩れおちるおそれもない。(同P.96)

ここでも「僕の観察と違う」と感じた。まず、捕食後のアリ(吸殻)を背中に盛りつけるさいに使われるのは「前肢(前脚)」ではなくきまって「後脚」だ──というのが僕のこれまでの観察。食事が終わると、前脚と中脚で抱えられたアリの死骸は股の間をくぐって後脚に渡され、両後脚によって腹端側から背中にデコられる。すでに盛られた素材と腹の背面の間に押し込まれるようだ。






また、デコレーションについて《しっかりと糊着されるわけではなく、ただ乗せられるだけ》というのも腑に落ちない。ただ乗せただけなら鉛直面を上り下りすれば落ちてしまうだろう。どうして簡単に落ちないのかについて、岩田氏は次のように記している。

後になっていよいよ最後の脱皮を終えて成虫になり、その吸殻の山をくっつけた抜け殻が、すっぽりぬぎすてられた時に、初めて明らかになったのだが、いちばん下層の吸殻はカメムシの背中の棘にひっかかっていて、上層のものは下層のものの付属肢と、もつれあって巧くとまっているのであった。(同P.96)

デコ素材の付着は「糊着」ではなく「ひっかかっているだけ」という解釈だ……。
僕も羽化後残された抜け殻とデコ素材を調べてみたことがある。抜け殻の背中に貼りついた素材をピンセットとブラシを使って剥がしてみた。


岩田氏はくっついていたアリの部分だけを見て付属肢が《もつれあって》いたと判断したのかもしれないが、ハリサシガメの抜け殻に貼り付いているのはアリだけではない。もつれるような部分の無い土粒やゴミ(おそらくアリの巣から廃棄されたと思われる虫の残骸など)もくっつきあっていた。これらは抜け殻の背から剥がされたあとも素材同士がくっついたまま塊になっていた。ということは単に「ひっかかっていた」のではなく、「糊のようなもので貼り付けられていた」と考えるのが自然な気がする。
抜け殻の背中に貼り付いたゴミや土粒を落とすのは意外に大変で、ピンセットとブラシではこれが限界だった↓。


岩田氏が記した「下層の吸殻がひっかかっていた背中の棘」についてはよくわからない。腹の背面には節ごとに1対の模様が並んでいて、この縁から毛の束のようなものが生えていた。これがデコ素材とからみ粘着力を高めるようなことはあるのかもしれない? 毛の生えた部位は、普通の(?)カメムシ幼虫でいえば、臭腺開口部(開孔部)がある部分──ハリサシガメ幼虫の場合はデコ素材で覆われているので、いわゆるカメムシ臭(悪臭)を放って忌避効果を期待することはできないだろう。あるいはハリサシガメの場合はここから分泌される臭腺液にあたるものが粘着性を持っていて、これによって土粒やデコ素材が貼り付いているのではないか?──乾くと粘性をもつ浸透力の高い分泌液が体全体に広がるようなことがあれば、体全体に土粒が付着しうる……体中がベタベタしていたのでは都合が悪いので、土粒を貼り付けてベタベタを封印するようになり、その延長でデコレーションをするようになった……という筋書きも思い浮かんだりしたが、この想像はいささか飛躍が過ぎるかもしれない。
しかし、土粒やデコ素材はなんらかの方法で貼り付いているのではないかと(現時点では)僕は思っている。
その後、濡らした筆を使って再び土粒を取り除こうとしたが、完全に落とすことはできなかった↓。


昨年見つけたハリサシガメの羽化後の抜け殻はこの↑他にもう1つある。それはそのまま保管(放置)していたのだが、その「もう1つの抜け殻」を石垣の上でみつけたときの画像↓。


土粒やデコ素材がひっかかったりもつれあったりして塊になっているようには見えない。思い立って13ヶ月以上ぶりにとりだしてみると、ほぼ同じ形をとどめていた↓。


触角は折れてしまっているが、これは回収時に折れてしまったもの。昨年、回収したときに撮影した画像↓。


この時すでに触角は折れている。よく見ると、頭部の土粒コーティングが浮き上がっている。羽化後も崩れることなく形をとどめているのは糊のようなもので固められているからではないかという気がする。
もっとも僕も「糊着」説に確信を持っているわけではない。糊にあたる粘着物質がどこから分泌されるのか、どのタイミングでどのようにデコ素材に塗布されるのか(されないのか)はよくわからない。他にも判らないことは色々あってハリサシガメは(も)僕にとって謎の昆虫だ。

ところで岩田氏が観察したカメムシは、故江崎梯三教授によってハリサシガメ(アカンタスピス・キンクティクルス)と同定され、標本は抜け殻とともに九州大学で保存されているとか(1978年発行の本書によれば)。
ハリサシガメについての記述の最後の部分は、こうまとめられている↓。

この虫の習性の特色は、その若虫の示す擬装行動にもあるだろうが、私にはやはりその偏食性と攻撃法がいっそう興味がある。(同P.96~P.97)

岩田久二雄氏の本でハリサシガメを知った人は少なくないはず。読者の頭の中ではこの幼虫が狩りの際に2本の前脚で獲物を押さえこむ姿がイメージされているだろう。その狩りの対象となるのはアリの中でも限られる……しかし、岩田氏が餌の対象外と判断したクロオオアリも、僕が見たところ捕食しているし、岩田氏が考えるほどの《偏食性》ではないのかもしれない。
幼虫の擬装行動については、前脚を使ってアリの死骸をデコレーションし、それは糊着ではなくからみついているだけ──という理解で岩田ファンはこの昆虫を認識しているに違いない。
専門家の名著の記載内容と素人のブログ記事では、その信頼性には雲泥の差があるのはわかっているが、こんな素人観察&素人解釈もあるということで、僕が感じた相違点を記してみたしだい。


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コメント

No title
こんばんは・・・
これまで熱心に観察されてきた内容に、(偶々)とか(特異なパターン)は感じられませんでした(星谷さんの観察の内容は真実なのでは!)

ファーブル昆虫記の内容が、後に誤りであったり、誤認であったり・・・と同じように、上出の本にも(書き落とし・・・など)があったのかもしれませんね!?
(*:或いは、改訂版が出るやもしれませんね!?)

今回の記事で、ブログの助力、大きな力を感じました!
素人でも、発見できる(ところ)があるのでは?と想いました・・・☆
No title
すごい観察と写真です。ハリサシガメはめったに見ないので、ましてやゴミをまとったものは未見なのでわかりません。
よく出会うクサカゲロウのゴミをつけた姿です。あれもどうやってつけるのか不思議でなりません。昆虫は脱皮するので脱ぐのは簡単なのでしょうね。ナイス!
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

専門家が立派な本に書いている内容とは異なる部分があったので戸惑いはありましたが、いちおう、こんな観察例もあるということで投稿しておくことにしました。
1978年に発行された本なので、その後、専門家の間では情報は更新されているのかもしれませんね。

ブログは色々な人が自由にそれぞれの観察例をネット上に公開できるので、観察事例を充実させるという意味でも大きな意義があるように思います。
No title
> 四季の風さん

専門家の既存情報(書籍の情報)とは違う内容だったので、僕の観察を裏付ける画像も添付してみました。

クサカゲロウの幼虫は鉤状の毛にゴミを引っ掛けているそうですが、脱皮したあとは0からゴミを付けなおすんですかね? よく見かける虫でも考えてみると判らないことが多いですね。

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