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ハリサシガメのレガース

ハリサシガメのレガース(すねあて)は何のため?



ハリサシガメの前脚と中脚は脛節(けいせつ:ヒトでいえば膝から足首にかけての部分)の先端が太く、ちょっとパンタロン(裾広ズボン)を思わせる。そしてよく見るとその内側には「脛(すね)当て」のようなものがついていたりする。


ハリサシガメは成虫も幼虫もアリを捕食するが、狩りのさいには前脚と中脚を使って獲物をおさえこむ。「脛当て」はアリをおさえこむときの「滑り止め」として発達したものだろうと思っていた。
ところが撮影した画像を眺めていて、この器官が袖口のように前方に開口しているようにも見えることに気がついた。


まるで分泌腺の開口部のよう!?──これが幼虫なら、《ここから粘着物質を分泌してデコレーションの接着剤に利用するのではないか?》と想像したくなるところだが……これは成虫(背中に異物をデコレーションするのは幼虫だけで、成虫には無用)。それはないだろう。しかし、あたらためてこの「脛当て」の役割りについて考えてみたくなった。
分泌腺の開口部でないとすると、オスが交尾の際にメスを抱えるさいのグリップ力を高めるためのもの──という可能性はどうだろうか?


しかし、この「脛当て」は成虫のメスにもある↓。ということは、性差器官ではなさそうだ。


ペア・ショットでオスのかげからのぞくメスの前脚にも「脛当て」があるのがわかる↑。テーマから少しそれるが、このメスについては説明しておく必要がある。アングルを変えて同ペア↓。


一見、翅が消失しているように見えるこのメスは実は何日か前にも目撃していた。ハリサシガメは翅多型で、短翅型もよく目にしていたが、さらに翅が退化した無翅型か!?──と、その時は驚いた。しかし、よく見ると翅は根元に近い部分でちぎれ、腹のふちにも外傷があって、欠損は羽化後のものだとわかった。


初めてこのメスを目にした少し前、周辺には草刈りが入っていた。翅や腹の縁が欠けたのは草刈り機による被害ではないかと思っている。
話を「脛当て」に戻して……成虫メスにも「脛当て」はあるということ──この器官が性差ではないことが確認できた。また、幼虫にも同様の器官がある↓ことから、「脛当て」は繁殖活動のためのものでもないと思われる。


同個体を少し角度を変えて──、


成虫のオス・メス両方に、そして幼虫にもある(=共通している)ということは、「脛当て」はやはり捕食行動で使われる器官──獲物をしっかりと保持するための「滑り止め」ではないかという気がする。


食事中、小さめのアリ(この画像では脚のかげになって見えない)を前脚と中脚をつかっておさえるハリサシガメ成虫♀↑。
こちら↓は大きめのアリを捕食中のハリサシガメ成虫♂↓。




ハリサシガメの狩りは、すばやくアリに飛びついて前脚と中脚で押さえ込んで口吻を突き刺す──そんな形で行なわれる。カマキリは獲物を前脚で抱えて食事をするが、ハリサシガメは食事中、1度口吻を刺してしまえば、脚を放し、口吻だけで獲物を保持していることが多い。前脚と中脚を使って獲物をおさえるのは獲物を捕らえる時や口吻を刺しなおすとき(獲物の刺し位置を変える)、口吻を引き抜くときだ。
ハリサシガメのエサはもっぱらアリだが、アリの体は小さくて丸っこい。これを細い前脚と中脚でコントロールしようとすると──小豆を細い箸先でつまむようなもので、接面積の少なさから保持が不安定になりやすい。そこで「小さく丸っこい(滑りやすい)獲物との接面積を増やし、摩擦力を高めるため(グリップ力を増すため)」に「脛当て」は機能しているのではないかと推察するしだい。


ハリサシガメの「脛当て」は獲物のアリ保定のための「滑り止め」と考えると納得できそうな気がする。




もう少し「脛当て」の構造がわかるような画像を撮りたいところだが、僕の腕では難しい……。生体の足元を撮るのに四苦八苦している時にハリサシガメの死骸を発見した↓。


死骸は長翅型の成虫♂で、捕食の際に使われる前脚と中脚のうち、ふ節(ヒトでいえば足首から先の部分)が残っていたのは左中脚だけだった。そこでこの中脚の「脛当て」を角度を変えながら撮ってみた↓。


この死骸では、「脛当て」が少しへこんでいたが、柔らかいことが獲物との接面積を増やすこと(摩擦力を高めること)に役立っているとも考えられる。
例によって無知な素人の想像に過ぎないので、この解釈が当っているかどうかはサダカではないが……。
別個体(生体)で、恒例の1円玉比較↓。




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コメント

No title
こんばんは・・・
いつもながらの細やかなお写真に観察に、感嘆のため息がもれました・・・
私でしたら、脚についた器官の存在に気付けていないでしょうし、気付けないがゆえに、その機能を考えることもないでしょう・・・
いつものことながら、素晴らしい観察眼には驚かされます!
はてさて、気になるのは、まるでアイスホッケーのキーパーさんが付けるもの(名前不明すみません)を想わせるその機能ですが・・・
キーパーさんは、球をキャッチするために付けてらっしゃるのですから・・・
星谷さんが考察されたように、ハリサシガメも、或いは、アリをナイス・キャッチ!と・・・???☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

おつき合いいただき、ありがとうございます。
ハリサシガメを撮り続けているうちに、レガース(脛当て:アイスホッケーのキーパーや野球の捕手などが脛を守るために付けているのもの)のようなものには気づき、クローズアップで確認したいと思ったのですが……生体撮影ではなかなか希望通りに撮らせてもらえず、NGを量産しました。
この器官については正確なことはわからないのですが……とりあえず、今はこんな解釈の可能性について考えているということで記してみたしだいです。
No title
脛当てと言われると、もうそうとしか見えなくなります。。。
よくこのような細かい場所に気づきましたね!
筒状になっているのとか、不思議です。
脱皮したものが凹んでいるので、やはりクッションのような機能のための筒状なのかなという感じがしますね。
他のサシガメにも、あるのでしょうか… 脛当て…
No title
> noriさん

脛節内側のこの器官──なんと呼んだらいいのかわからず、イメージとしてわかりやすい「脛当て(レガース)」をあててみました。

中空で凹むことで、獲物の体にフィットする(接面積を増やす)構造のかなぁ……という気もしていて、「脛当て」の構造をもっとつぶさに(顕微鏡などで?)見てみたいところですが……手持ちのデジカメではこれ以上無理な感じです……。

他のサシガメを見ると、脛節の先端(踵にあたる部分?)が若干丸くなっているようにも見えるのですが、ハリサシガメのようにはっきりした脛当てはないような……。大きな虫やイモムシなどを狩るにはそれでもよいけど、アリのような小さくて丸い硬質の獲物をしっかり保持するには「脛当て」が必要なのかもしれない……というのが、今のところ納得できる解釈ではないかと考えています。

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