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寓話的ヤスマツトビナナフシのオス

ヤスマツトビナナフシのメス



葉の上にトビナナフシがとまっていた。狭山丘陵で見かけるトビナナフシはニホントビナナフシのメスが多い。見慣れたニホントビナナフシ♀に比べ、なんだかちょっと間が抜けた感じ? そう思ってよく見ると……眼の後ろからのびるラインがない──ヤスマツトビナナフシ♀だった。ヤスマツトビナナフシは単為生殖をする昆虫で、オスはまだ見つかっていないらしい。「もしも、未知のオスと遭遇したら……誰も見たことがないヤスマツトビナナフシ♂だと同定できるのだろうか?」──そんなコトをぼんやり考えながら炎天下を歩いていると、例によって(◎)暑さで溶けだした脳味噌にヤスマツトビナナフシのオスをめぐって妄想的イメージが展開した……(後述)。
ちなみに、狭山丘陵でよく見られるニホントビナナフシ♀はこんな姿↓。


日本には3種類のトビナナフシ(ニホントビナナフシ・ヤスマツトビナナフシ・シラキトビナナフシ)がいるが、オスが見つかっているのはニホントビナナフシだけだという(トビナナフシ亜科ではなくヒゲナナフシ亜科にタイワントビナナフシというのがいるが、この種ではオスはごく稀)。
オスが見つかっているニホントビナナフシでは、オスはメスよりもぐっと小さく、翅や前脚が長い──まるで別種のように見える↓。


『ナナフシのすべて』(岡田正哉・著/トンボ出版/1999年)によると、ニホントビナナフシは屋久島以南では両性生殖・九州以北では主に単為生殖すると考えられているそうな。Wikipedia情報では《本州の個体は単為生殖を行う》とのこと。
だから、いないと思っていた東京で初めてニホントビナナフシのオスを見たときは驚いた。さらに12月の東京で交尾しているのを確認した時には仰天した↓。


温暖な地域ではオスが出現し両性生殖し、北上するとメスだけの単為生殖となる──とみられていたニホントビナナフシのが、どうして冬の東京でペアになっていたのか……。
ニホントビナナフシには驚かされることが多い。オスとメスのパーツが混在する雌雄モザイク個体を見つけた時もビックリした。


この個体↑は頭部だけ見るとメスだが、体はほぼ右半身がオスで左半身がメスの特徴を持っていた。オスはメスよりも小ぶりだが、前胸はオスである右で短くなるためか右側に湾曲している。翅や前脚はオスである右側の方が長かった。
翌年みつけた雌雄モザイク個体では、もう少し複雑にオスとメスのパーツが混在していた↓。


また、ニホントビナナフシ♀は緑色だとばかり思っていたが、黄色い個体もいくつか見たことがあり、「へぇ!?」と思ったことがある。


『ナナフシのすべて』(岡田正哉・著/トンボ出版/1999年)には《ヤスマツトビナナフシ、ニホントビナナフシ、シラキトビナナフシのメスはどれも緑色で、体の形もたがいによく似ています》と記されているが、遺伝的な欠陥など(?)で青の色素が作れないと黄色になるのだろうか? イエロー個体はずいぶん印象が変わって見える。
トビナナフシの仲間も、なんだか不思議な昆虫だ……ということで、(どうでもいい)ヤスマツトビナナフシ♂妄想!?

寓話風妄想:ヤスマツトビナナフシのオス

あるところにたいそう昆虫好きの王様がいました。昆虫を収集するのが王様にとっての最大の関心事。きれいな昆虫・珍しい昆虫はもちろんのこと、地味で小さな昆虫でも集めずにはいられません。お城には専用の標本展示室がありましたが、それも手狭になってきて拡張することに。それにともなって、国中に生息しているありとあらゆる種類の昆虫のオスとメスをコンプリートしようと王様は心に決めました。

昆虫に詳しい学者・採集屋を城に集め、王様は命令しました。
「新たな標本展示室ができるまでに、国内に生存する全ての昆虫のオスとメスを採集するように! 目的を果たすことができれば皆に褒美をやろう。珍しい虫・綺麗な虫・おもしろい虫を見つけてきた者にはさらにボーナスを弾む。しかし、もし1種類でもオス・メスが揃わなかったら、ムチ打ちの刑に処す」
というわけで、分類学者によって昆虫リストが作成され、採集屋にノルマが振り分けられました。
虫屋のAも招集をかけられた1人。当初、「好きな昆虫採集をしてお金がもらえるなんてラッキー」と喜んでいましたが、ノルマのリストを受け取って青ざめました。ヤスマツトビナナフシが入っていたからです。この昆虫は単為生殖をする種類で、これまでオスは1匹も見つかっていません。「オスを見つけるなんて、無理に決まっている!」
しかし新たな標本展示室ができるまでに見つけなければムチ打ちが待っています。Aは途方に暮れました。じっさいにノルマ・リストが次々にクリアされていく中で、ヤスマツトビナナフシのオスだけは見つからず……不安なまま、期限は近づいてくるのでした。
そして迎えた期限の日──。
王様の前に立ったAは布にくるんだ標本箱を抱えていました。
「王様、とても珍しい昆虫を採集することができました。これまで1匹も見つかっていなかったヤスマツトビナナフシのオス──珍品です」
「ほう!」王様は目を輝かせました。
「希少というだけではありません。じつに変わった特徴を持っており、使いようによっては役に立つ昆虫かと」
「ほほう!? かわった特徴とな?」王様は身を乗り出しました。「どんな特徴じゃ?」
「メスは普通に誰にも見えるのですが……オスは《愚か者には見えない》という、とてもユニークな特徴を持っているのです。これまでオスが見つからなかったのも、これに関係しているのかもしれません」
「《愚か者には見えない》とな?」
「はい。物事の本質、真の姿は賢い者には見えるのに、愚か者には見えない──そんなことは多々あります。ヤスマツトビナナフシ♂は、そんな賢い者の目にのみ見えるつりくのようです」
「ううむ、それは変わっておるな。で、役に立つというのは?」
「《愚か者には見えない》ヤスマツトビナナフシ♂は、いってみれば、賢さをはかる物差し。標本展示室において家来の反応をうかがうのです。『見えない』という愚か者をクビにしていけば、賢い者ばかりが残り、家来の質を高められるでしょう」
「なるほど! 名案だな。今まで、虫を何かの役に立てることなど考えもしなかった」王様の声も期待にはずみます。「その虫をここへ」
Aは抱えてきた標本箱の覆いをとって王様の前へ進み出ました。
さしだされた標本箱をのぞき込んで王様は息をのみました。王様には標本箱がカラに──《愚か者には見えない》という世にも不思議なヤスマツトビナナフシ♂の姿が見えなかったのです。
「いかがです。すばらしいでしょう?」王様の絶句を感激と誤解したのかAは満足そうに笑みをうかべています。なんと応えたものか戸惑った王様は、わきから真剣な顔で標本箱をのぞき込んでいる大臣に気がつきました。
「どうだね、大臣?」王様は所感を大臣にふりました。大臣にも、実は何も見えていなかったのですが……しかし、「見えません」などと応えてしまったら……愚か者の烙印を押されてクビにされてしまいます──それを恐れた大臣は「た、たしかに見事ですなぁ」とごまかして王様の顔色をうかがいました。大臣が「見えた」のに、王様が「見えない」と言ってしまったら、「王様は大臣よりも愚か者だ」ということになってしまいます。家来の間にそんな噂が広まってしまうことを王様は恐れました。「うむ。すばらしい。これほどの昆虫は、そうはいまい」王様はカラの標本箱を受け取り、大げさに喜ぶふりを続け、大臣や家来もそれに合わせて「見える」ふりをしました。こうしてAはムチ打ちをまぬがれ、褒美を得て帰ることができましたとさ。

     *     *     *     *     *

『裸の王様』の《バカには見えない服》──からの連想。ありもしない(存在しない)服が見えているフリをしてしまう王様や大臣なら、そこにいない(存在しない)虫が見えるとノッてしまうのではないかという発想。そのために起こるエピソードも思い浮かんだりしたのだが……長くなるので割愛。おもしろいオチでキメられればよかったのだが……今回それはなし。暑さで溶けかけた脳味噌にわいたイメージということで。



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コメント

No title
こんばんは・・・
ナナフシ、ナナフシモドキ・・・は、好みの虫であるにも関わらず出会いが少なく、且つ詳しい仲間でもなかったので、大変興味深く拝見いたしました。ベルクカッチェを連想させるニホントビナナフシの登場など・・・目を見張るものばかりです!

・・・妄想物語・・・
面白かったです~!こういったタイプのお話は大好きです!
(裸の王様風)でも、(星谷さん風)滑らかに流れるストーリーに、グッと惹き込まれてしまいました。
・・・リストにヤスマツトビナナフシを入れた分類学者は、ちょっと曲者ですね!(或いは切れ者?)
私でしたら、この分類学者をカシンに置きたい・・・(笑)
もちろん、お話の中に登場するA氏も是非我藩に!・・・(笑)

とてもとても楽しゅうございました・・・☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

ニホントビナナフシには馴染みがあって何度か記事にしていますが、ヤスマツトビナナフシは(僕としては)珍しかったので、取り上げてみました。まだオスが見つかっていないということから、ミステリアスなオスが見つかるとすると、どんな状況だろうか……と妄想が展開しました(笑)。おつきあいいだだき恐縮です。
トビナナフシを含むナナフシの仲間はユニークで色々と興味深いですね。

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