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民話風フユシャクなぜ話


フユシャク(冬尺蛾)という冬に出現する蛾がいる。昆虫なのに(虫が活動するには不向きだと思える)寒い時期をわざわざ選んで活動するなんて変わっている。またメスの翅は退化していて蛾なのに飛ぶことができない──その姿はオスとはかけ離れておりいささか衝撃的(?)でもある。
こんな風変わりな昆虫がいることを知った時には驚いた。気がついてみれば、けっこう身近にいたりするのだが……これだけユニークであるにもかかわらず、フユシャクの認知度は意外に低い気がする。

ところで、民話では生きものの特性を説いた由来話(なぜ話)が存在する。サル(あるいはクマ・ウサギ)の尾がなぜ短いのかとか、クラゲにはなぜ骨がないのかとか、カメの甲羅はなぜヒビ割れているのか……etc. 動物のユニークな特徴は由来話(なぜ話)のネタになりやすいのだろう。
で、あるなら……風変わりなフユシャクの由来話(なぜ話)があってもいいのではないか。民話になっていたなら知名度でだって、もっと高かっただろうに……なんて思わないでもない。と、いうことで、創作民話風のフユシャクのナゼ話(パロディ?)が思い浮かんできた……。



創作民話風「フユシャク♀にはどうして翅がない?」

冬に活動するクロテンフユシャク(蛾)のメスには翅がありません。蛾なのに翅をもたず、昆虫なのに冬に活動する……どうして、そんなことになったのでしょう。
実は昔、クロテンフユシャクは他の多くの蛾と同じように暖かい時期に活動しており、メスもちゃんと翅を持っていました。それも、とびきり美しい翅です。高級毛皮のクロテンのような立派な翅を着物の衿のように左右重ねてとまる姿は蛾仲間たちの羨望の的で、彼女自身もそれをとても誇らしく思っていました。
ある夏の夕刻──その日は盆入りで、盆提灯のまわりには蛾たちが集まっていました。蛾は明かりに集まりますが、盆踊りに集まる人のようでもありました。その中にはクロテンフユシャクのメスの姿もありました。彼女の翅は盆提灯に映え、いっそう美しく見えました。集まっていたオスの蛾たちは見とれるばかり。取り巻きの中にはクロテンフユシャクのオスもいました。彼はプロポーズのチャンスをうかがっていましたが彼女の美しさに気後れしてなかなか言い出すことができません。そんなとき、見知らぬオスの蛾が現われ、クロテンフユシャクのメスに近づくと感嘆の声をあけました。
「これはまた、なんと美しい翅だろう! 私は旅をして回っているが、こんな美しい翅は見たことがありません」
自慢の翅を賞賛されて悪い気がするはずがありません。クロテンフユシャクのメスはたちまち口説かれてしまいます。旅人ならぬ旅蛾(?)のオスはこう言いました。
「私は3日後に故郷に帰らなくてはなりません。ぜひ、あなたと一緒に帰還したい」
クロテンフユシャク♀はOKし、3日後に旅蛾が迎えに来ることになりました。
その成り行きを見ていたクロテンフユシャク♂は面白くありません。突然現われた見知らぬ蛾に胡散臭い気配を感じて、お寺に住み着いている住職の蛾に相談します。一部始終を聞いた住職の蛾は、むずかしい顔になって言いました。
「おそらくその旅の者は亡霊だろう──この世のものではない。メスを連れて行こうとしている《故郷》とは、《あの世(死後の世界)》にちがいない」。お寺に住み着いているだけあって、そういうことには詳しいのでした。「3日後というのは、お盆でやってきた霊が《あの世》に帰る送り日(盆明け)だ。約束したからには必ず迎えに来るだろう。一緒に行かせてしまえばメスの命は無い」。クロテンフユシャク♂は驚き、何とか助けて欲しいと懇願。住職の蛾は「耳なし芳一」の話を思い出します。亡霊に取り憑かれながら体中にお経を書いたことで亡霊から逃れることができた琵琶法師の話です。
お経を書いた体は亡霊からは見えなくなる──そのことを知っていた住職の蛾はクロテンフユシャク♀を呼んで、亡霊から逃れるにはそれしかないと、その体にお経を書き始めました。頭・胸・腹・脚と書き終え、最後に翅に筆を入れようとしたときです。クロテンフユシャク♀が「自慢の美しい翅に墨を入れるなんてゼッタイにイヤ!」と言い出しました。住職の蛾もクロテンフユシャク♂も、なんとかメスをなだめ、説得しようとしましたが彼女は受け入れません。やむなく芳一作戦は中断。約束の送り日(盆明け)が過ぎ、亡霊があの世に帰るまで身を隠してやりすごとになりました。
そして問題の送り日(盆明け)──クロテンフユシャク♀は息を殺して隠れていたのですが、その居場所をつきとめ、亡霊の旅蛾が現われます。しかし、お経を書いた体は彼には見えません。書かれていない翅だけが見えていました。「これはどうしたことか? 美しい翅だけ残して彼女はどこへ行ったのだろう!?」亡霊の旅蛾もとまどっています。しばらくクロテンフユシャク♀の翅を見つめて考えていましたが「大事な翅を持ち帰れば、きっと彼女も追ってくるだろう」──そうつぶやいてクロテンフユシャク♀の翅を持ち去ってしまいます。お経を書いたメスの体はこの世にとどまることができましたが、こうしてクロテンフユシャクのメスは美しい翅を失ってしまいました。
自慢の翅を失ったクロテンフユシャク♀は、そのみじめな姿を仲間の蛾たちにさらすのが辛くて、仲間たちがいない冬に活動をするようになり、ふびんに思ったクロテンフユシャク♂も活動時期を冬に移したのでした……。


(※この話↑は創作です)


フユシャクの《意外性》

昆虫なのに冬に活動し、蛾なのにメスには翅がない──この意外にしてユニークな特徴を民話(なぜ話)風に説くとすれば、どんなストーリーになるだろう? ふとそんな思いから脳味噌の中に展開した「耳なし芳一」ならぬ「翅なし冬尺」のイメージ。この時期のブログは、フユシャク・ネタが重複しがちなので、ちょっと目先を変えて、こんな創作民話風に仕立ててみたしだい。

フユシャク(冬尺蛾)について補足しておくと、年1回、冬に(成虫が)発生するシャクガ科の蛾で、メスは翅が退化して飛ぶことができないという特徴をもつグループの総称。エダシャク亜科・ナミシャク亜科・フユシャク亜科の3つの亜科にまたがり国内に30種類以上いるらしい。メスの翅の退化の度合いは種類によって色々だがフユシャク亜科ではきれいに消失している。今回ネタにしたクロテンフユシャクもフユシャク亜科のフユシャク。メスに翅は無いが、オスの翅には黒い点があるので「黒点フユシャク」なのだろう。これを「黒貂(くろてん)」にかけてセーブル(黒貂)と僕は密かに呼んでいたりする……(個人的愛称)。

今回の創作民話的解釈はジョークのようなものだが、「昆虫なのに冬に活動し、蛾なのにメスには翅がない」──こんな虫がいると知った時には《意外性》に驚いた。「なぜ?」「どうして?」と思わずにはいられない。

「外温性(変温動物)の昆虫が活動するには不向きな冬に出現し繁殖活動をする」という《意外性》に関しては、当初「天敵が少ない時期に活動することで生存率を高める戦略」なのだろうと解釈していた。
「蛾なのにメスだけ翅が退化している(飛ぶことができない)」という《意外性》に関しては、次のように考えた。外温性(変温動物)の昆虫は低温では活動が鈍りがちになるはずで、冬に飛翔するのはコスト高(?)になるだろう──かといって、オス・メスともに飛べなくなれば両者が出会う婚姻チャンスが確保できない。それで身軽なオスが飛翔を担うようになったのではないか。とりあえずオスに飛翔能力を残しておけば婚姻チャンスは作ることはできる。冬に卵を抱えた身重(?)のメスが低温環境で飛ぶのは大儀だろう。生存率を高めるにはたくさん卵を産む方が有利だが、卵量を増やすことは体重を増やすことにもなり、体重が増えれば飛翔への負担が大きくなる──卵量を増やすことと飛翔能力とは相反する関係にあって、フユシャク♀は飛翔能力を捨てて卵量を確保することに専念したのではないか。天敵がいない冬なら飛んで逃げる必要も無い──メスに翅が無くてもなんとか生き延びることができたのだろう。そんなふうに解釈した。

当初は「天敵がいない(少ない)時期に活動することで生存率を高める戦略」を《意外性》と《合理性》を兼ね備えたアッパレな生存戦略だと感心していたが、フユシャクを観察しているうちに、冬の活動も安泰というわけでもないようだ……ということが判ってきた。カマキリやトカゲ、カエルなどの天敵は活動していないが、クモに捕食されているフユシャクや、フユシャクの卵塊を物色する寄生蜂らしきものを確認──天敵が全くいないわけではないようだ。
フユシャクの多くが夜行性だというが、もし冬に天敵がいないのであれば、活動温度が確保しやすい日中に活動する種類がもっといて良いのではないか……そんな疑問も浮かんできた。
昼行性のクロスジフユエダシャクのペアリングを観察してみると、♀は落ち葉や樹皮の陰に隠れていることが多い。天敵がいなければもっと目立つ所に出てきた方がオスも見つけやすく繁殖率は高まるはずだが、にもかかわらず隠れて交尾をする──これは鳥などの天敵がそれなりにいるからだろうと考えるようになった。
クロスジフユエダシャク♂が、落ち葉などの陰に隠れている♀を、それではどうやって見つけるかというと……翅が思わぬ重要な役目を果たしていることが観察でき(*)、これにも《意外性》と《必然性》が秘められていて大いに感心した。
フユシャクは一見地味だが、《意外性》に満ちた昆虫だと思う。


*意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク

https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-609.html


●昆虫など~メニュー〜
https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-902.html

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コメント

No title
( ゜▽゜)/コンバンハ

思わず読みふけってしまいましたヨ!
素晴らしい童話作家になれますネッ!(笑)
No title
> 森のゴンズイさん

おつき合いいただき、ありがとうございます。
フユシャク・ネタの由来話を思いついたので、創作民話風に記してみました。
No title
良いですね。絵本にしても良いじゃないですか。すごい創作力です。なにか教訓も感じましたよ。それにしても自然の営みの不思議さは驚愕です。以前の星谷さんの記事を拝見してフユシャクの飛んでいるのを見て追いかけますが、見失います。これではメスどころではないです。ベリーナイス!
No title
> 四季の風さん

民話では生きものの特徴の由来を説いた「なぜ話」がありますが、フユシャクも「なぜ話」になるには充分な素質(?)があるように思い、お遊びでフユシャクの「なぜ話」を考えてみました。
昆虫を見ていると色々と脳味噌が活性化するようです(笑)。

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