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昆虫の発生ムラ


昆虫は収束してムラ作りに励む!?

フユシャク(冬尺蛾)のひとつ、イチモジフユナミシャク♀は12月下旬頃から1月上旬にかけて桜の古木を探すと見つけやすい──というのは、あくまでも僕のフィールドにおける個人的な経験則。この頃になると、サクラッチ(桜ウォッチ)をして歩くのだが、年が明けると産卵後の個体が増え、新鮮で美しい個体の割合が少なくなっていくので、旬の時期は意外に短い感じがしている。
サクラッチをしていて思うことだが……「いい感じの古木」なのに──環境的にはいてもおかしくない(気がする)ポイントなのに見つからないことも多い。いい感じの桜がたくさんある場所でも、発生密度にはムラがあるように感じられる。イチモジフユナミシャク♀は飛ぶことができないので、基本的には生まれ育った木で世代交代しているだろう。発生密度の差は引き継がれている感じがしないでもない。

虫見を始めた頃は、普通種ならばその生息域で発生条件に合う場所へ行けば見つかるものだと思っていた。植物食の昆虫なら食植物があるところには「いるもの」だというイメージ。しかし、実際には予想よりも「いない」ことの方が多い。発生ポイントをみつけて「こういう環境にいるのか」と、その時は発生条件が把握できたような気になったりするが、同じような環境を探しても、予想に反して見つからなかったりすることも少なくない。

昆虫の発生には密度の高い所と低い所──ムラがあるというのは、しばしば実感することだ。当初は何らかの環境条件の微妙な違いがこうしたムラを作るのだろうと思っていた。しかし虫見をしていると、どうもそれだけではなさそうな……。環境条件にはもちろん大きな影響要素だろうが、それとは別に、昆虫は積極的に(?)発生ムラをつくる傾向があるのではないか──そのポイントに「いる・いない」は「たまたま」「偶然」によるところも少なからずあるのではないかと考えるようになった。

仮に、その昆虫にとって育成条件が全く均一なフィールドがあったとする──これは現実的ではないが、あくまでも仮想シミュレーション。自然科学というより数学的な考え方として。育成条件が全く均一なフィールドに、例えばフユシャクの♀がほぼ均一に分散していたとする。そこに♂を均一に放した場合──育成条件均一ならば、均一な密度で発生し続けるかと言えば、きっとそうはならないだろう。
条件が均一であっても、たまたま偶然、わずかに♀の密度が多いエリアができたり、わずかに♂が多く集まるエリアができることはあるだろう。6個のサイコロをふれば、いつも6つの目がそれぞれ均等に出る──というわけではない。その時々によって出る「目」に偏りがあるように、均等な条件でも確率のゆらぎで密度に偏り──ムラが発生するのは不自然なことではない。

フユシャクなどの蛾では、♀が放つ性誘引フェロモンをたよりに♂は♀を見つけて交尾に至るわけだが、♀の密度が高まったエリアはフェロモンの密度(濃度)も高まるはずだから、♂も集まりがちになるだろう。カップルは成立しやすくなって、そのぶん繁殖率も高まることになるはずだ。
クロスジフユエダシャク♂の♀探しを観察していると実感できるが(*)、♂は少しでも性誘引フェロモン濃度の高い方向を選んで進むことで♀に到達する。

他店よりわずかに安い商品を求めて買い物客が殺到するように──という例えは適切ではないかもしれないが……昆虫がフェロモン濃度のより高いところを目指すのであれば、ゆらぎによって発生したわずかに密度の高まりをきっかけに、そこへ集中することはあるだろう。集中することでさらに密度が高まり、吸引力もより強まる──こうした循環が生まれてムラが拡大することで(密の部分を作ることで)繁殖効率が高められるといったことはあるのではないかと想像する。

フユシャクの場合、♀の密度が高まったところに♂が集まるということも考えられるが、逆に♂密度が高いところに「たまたま」いた♀が繁殖機会を得るのに有利だったことから、こうしたところで発生率が高まることもあるだろう。フユシャク♀は飛ぶことができないが、♂には飛翔能力があって、他の昆虫と同じように街灯などの光に集まってきたりする。そうしてできた♂が集まりやすいポイントで発生率が高まるといったこともあるのではないか──そう考えてみると、該当するポイントがいくつか思い当たったりする。

こうして「より密度の高いところに集まること」──すなわち「発生ムラを作る」ことが種としての繁殖率を高めることにもなるので、環境条件は同じに見えるのに「いる・いない」という密度の差が生まれがちなのではないか。仮に「育成条件が全く均一」であったとしても、発生密度のムラはできるのではないかと考えるようになった。

ただ、「繁殖率」に関しては「密度が高いほど(♂と♀が出会う機会が増えるので繁殖に)有利」というメリットがあっても、過密になれば、餌資源をめぐる同種間の競合が生まれたり、天敵や病原体にとっても絶好のポイントとなって被捕食率・被寄生率・感染率を高めるなどのリスクも拡大するというデメリットも出てくるだろう。
「疎」の部分では「繁殖率」のデメリットはあるが、「密」部分のデメリットを低く抑えられるという点ではメリットがあると考えられる。
こうしたメリットやデメリットの兼ね合いで、発生ムラの加減はそのフィールドに最適なバランスで安定しているのではないだろうか。

話は少し変わるが……植物食の昆虫では、食植物を限定する種類も多い。「栄養的には他の植物でも問題ないのでは? 多食性の方が生存の可能性が広がるだろうに……」などと思ったりしたこともあったが、食植物を限定することは収束条件を作ることで、発生密度を高める(すなわち繁殖効率を高める)──といったメリットもあるのではないかと考えるようになった。昆虫の中には多食性のものもいるし、かなり限定食の種類もいる。それぞれにメリット・デメリットがあって、その昆虫にふさわしい戦略が選択されてきたのだろう。

冒頭のイチモジフユナミシャクの(成虫)発生期間が短いのも、時間軸上の密度の高い部分を作るという意味があるのかもしれない。同じ数の成虫が発生するのであれば、タイミングを合わせて一時期に集中した方が婚姻相手を見つけやすいはずだ。
「もう少し長いあいだ見ることができればいいのに……」と毎冬思うのだが、昆虫には、それなりの事情があるのだろう。
虫見をしていると、そんなコトを漠然と考えたりするのであった……。


*意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク

https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-609.html

●昆虫など~メニュー~
https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-902.html

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コメント

No title
こんばんは・・・
本当に、いつも学ばせて頂いてるな~~~と、ため息が出ます!
ユニークと想いきや、実にしっかりとした発想(考察)には、頷き勉強させられる事ばかりです!
日頃、観察してても気付かない(気付けない)考えてもみなかったことに・・・目を向けさせて頂いて、頭の中に一本シワが寄る様な・・・?そんな気さえ致します。

発生のムラ・・・「確かに!」と想えて来ました!
限定された食草についても、発想が面白いですね!

長い歴史の中で、如何に生き残り子孫を繁栄させるか!・・・
それが例え、生物の本能なり、遺伝子の成せる仕組みだとしても・・・虫の生態は不思議に満ちてる事を改めて教えて頂きました!
又、それに気付ける観察、考察の素晴らしさを堪能させて頂きました・・・☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

昆虫は色々おもしろいので探してみたりするのですが、期待に反して見つからないことも少なくありませんね。「いても良さそうなのに、どうしていないかなぁ……」という不満(?)というか疑問がきっかけで、こんなことを考えてみたしだいです。
例によって素人の想像に過ぎませんが……見つかれば見つかったで、見つからなければ見つからないで、あれこれ脳味噌を刺激してくれるのが昆虫ですね(笑)。

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