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意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク

《飛ぶための翅》《隠蔽ツールとしての翅》そして《嗅ぐための翅》

クロスジフユエダシャクはフユシャク(冬尺蛾)の中でも早い時期に出現する昼行性の蛾。狭山丘陵では11月の下旬頃から、落ち葉の積もった林床をオスたちが低く飛ぶ姿が見られるようになる。が、今シーズンは発生が遅れているようで、11月の終わりにオスの姿は確認できたものの、その数はまだ少なく飛んでいる時間(メス探しをしている時間)も短かった。12月2日、複数のオスが飛ぶ姿は確認できたが、その数はまだ少なかった。

クロスジフユエダシャクに限らずフユシャク(冬尺蛾)の仲間は、飛ぶことができるのはオスだけ。メスは翅が退化し飛ぶことができない。なぜ昆虫なのにわざわざ低温の冬に発生し繁殖活動をするのか、なぜメスは飛ぶことをやめたのかについては、これまで色々素人想像を記してきたので(*)今回は割愛。
今シーズンも、ようやくクロスジフユエダシャクが出始めてきたので、♂の♀探し──婚礼ダンス(はばたき歩行)でメスを探しあてる様子を観察するために雑木林をのぞいてみた。


クロスジフユエダシャク♀は飛ぶことができない──ということで、飛ぶことができる♂が♀を探して飛び回ることになる。羽ばたくことで飛翔するクロスジフユエダシャク♂の翅は「プロペラ」に例えることができるだろう。♀のいるところまで移動する《飛ぶための翅》だ。
林床の落ち葉の上を低く飛び続けているのは♂で、♀はたいてい落ち葉の下に隠れている。隠れた♀をどうやって探しあてるのかというと、♀が放つ性誘因物質(性フェロモン)というニオイ物質を手がかりに定位している。

林床を低く飛ぶ♂たちを観察していると、それぞれ別々行動しているようで、飛翔タイムと休憩タイムがあるていど揃っていたりする。おそらく♀の放つフェロモンが風に乗って(?)漂ってくると飛び立ち♀を探し続け、そのニオイが解消されるとやがて探すのをあきらめて降りて翅を休めるのだろう。


クロスジフユエダシャク♂が降りて静止すると、周囲の落ち葉に溶け込んでしまい、見つけ出すのは容易ではない。


《飛ぶための翅》が、この時は《隠蔽擬態(カムフラージュ)ツールとしての翅》となる。


クロスジフユエダシャク♂の翅には、もう1つ重要な役割りがある!? それを説明する前に、♂の触角に注目。


♀の触角は糸状だが、♂の触角はブラシのようになっている。触角の表面積を増やすことで、♀が放つニオイ物質(性フェロモン)を拾いやすくし検知感度を高めているのだろう。この検知感度を高める方法が、《空気に接する触角の表面積を増やす》こと以外にもう1つある。《触角に接する空気の量を増やす》ことだ。
空気の流れを作り、強制的に触角に送り込めば空気中のニオイ物質を拾いやすくなる。クロスジフユエダシャク♂は♀が近くにいると察すると、降りてせわしく羽ばたき続けながら向きを変え歩き回る。着地した状態で羽ばたき続けることで前方の空気を引き込み《触角に接する空気の量を増やす》──羽ばたく翅は空気を引き込む「プロペラ」=ファンの役割りをする。いってみれば《嗅ぐための翅》というわけだ。この《嗅ぐため》に翅を羽ばたかせて歩き回る行動が「婚礼ダンス(はばたき歩行)」ということになる。羽ばたきながら向きを変え、ニオイを強く感じる方向へ進むことで♀に到達するしくみだ。


※【フユシャクの婚礼ダンス】より再掲載↑
僕が【婚礼ダンス】という言葉を知ったのは、平凡社『アニマ』1980年12月号(【カイコガの婚礼ダンス なぜ踊るのか】文・小原嘉明/写真・松香宏隆)だった。家畜化されたカイコガは成虫になっても飛ぶことができない。なのに成虫♂は交尾する前には決まって羽ばたき【婚礼ダンス】をする──羽ばたくことをできなくした♂は♀を見つけることができなくなるという。
何年か前、路上で轢死したクロスジフユエダシャク♀の周辺で複数の♂が【カイコガの婚礼ダンス】と同じ行動をとっているのを目にし、クロスジフユエダシャク♂も【婚礼ダンス】によって♀の位置を定位しているのだろうと考えた。そして婚礼ダンス(はばたき歩行)をする♂に注目し、実際に♀をみつけだし交尾するようすが観察できるようになったしだい。
クロスジフユエダシャク♂の翅には《飛ぶための翅》・《隠蔽ツールとしての翅》そして《嗅ぐための翅》という重要な役割りがあると考えてよいだろう。

クロスジフユエダシャク♂の婚礼ダンス

ということで、今シーズンもクロスジフユエダシャク♂の《婚礼ダンス(はばたき歩行)による♀探し》を観察。
前述の通り、今シーズンはまだ飛翔しているクロスジフユエダシャク♂が少なく待ち時間も長めだったが……コナラの根元で♂2匹がせわしなく羽ばたきながら降りたり舞ったりをくり返し始めた。婚礼ダンスは突然始まる。


あらかじめ♀の居場所がわかっていれば撮るのに都合が良いのだが……♀の位置は♂が見つけてくれるまでわからない。せわしなく動き回る2匹のどちらが♀を見つけるかもこの時点ではわからず、ボケだ画像になってしまったが……。


わかりづらいが青円内の♂↑が先に♀に到達。羽ばたきが止むと交尾の体勢に入っていた。


交尾が成立すると♀のフェロモン放出はシャットダウンしてしまうらしい。婚礼ダンスをしていたもう1匹の♂は近くを横切ってもスルーして飛び去ってしまった。こうした光景は以前も見ている。


フユシャクの特徴として♀は翅が退化して♂とはかけ離れた容姿をしてている。
クロスジフユエダシャク♀はたいてい落ち葉の下に隠れていて、♂は死角にいる♀をきっちり探し当てる。ペアがとまった葉を裏返して撮影↓。




今回まだ♂の密度が低い中で、2匹の♂が同じ♀に反応して婚礼ダンスを始めた。昨シーズンの観察では3匹の♂が同時に反応していた(*)。♀のフェロモン放出のタイミングで近くにいた♂が強く反応するのかもしれない。
別の場所での婚礼ダンス↓。1匹しか写っていないが、この時も2匹の♂が反応していた。


激しく羽ばたきながら落ち葉の下に潜り込んだ♂。まわりこんでのぞき込んでみると……。


すでにペアが成立していた。


カールした落ち葉の下に落ち葉があり、その陰に♀はとまっていた。このままでは見えにくいので、カールした葉と手前の葉をどけて……。


さらに♀がとまっていた葉を裏返すと♂も同じ葉に移動した↓。


やがて♂は翅を伏せて、通常の姿勢をとった↓。


同じ種類なのに、♂と♀の容姿の違いが興味深い。♂は翅が大きいので(天敵の鳥などに)見つかりにくいように枯葉に溶け込む色合いをしており、♀は目立たぬように葉かげに隠れているのかもしれない。


フユシャク種類によっては♀の翅がほとんど消失したものもいるが、クロスジフユエダシャクの♀には小さな翅があって「退化した」感が伝わってくる。見た目的には地味な普通の蛾っぽい♂より、ついユニークな姿の♀にカメラを向けてしまいがちになってしまう……。




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コメント

No title
いやー、ビックリしました。もちろん。このフユシャクもそうですが、そこからメスを見つける能力はすごい!感心しているのは星谷さんのことです。
勉強になりました。今度挑戦してみます。はばたきにこんな秘密があるとは、自然界と言うのは驚異です。ナイス!!!
No title
> 四季の風さん

普通、翅と言ったら飛ぶためのもの──というイメージがありますよね。だから僕もカイコガの婚礼ダンスの記事を読んだ時は「へえ!」と驚いて印象に残っていました。それでクロスジフユエダシャク♀の礫死体の周りで複数の♂がはばたき歩行をしているのを見て、クロスジフユエダシャクも同様なのではないかと思い当たりました。
クロスジフユエダシャク♂の婚礼ダンスを見つければ高い確率で♀を見つけることができるのですが、ただ、この方法だと待たされることもありますね。
No title
こんばんは・・・
クロスジフユエダシャク♂の3つの役割を持つ翅について・・・
非常に面白く拝見させて頂きました!
私は、擬態に興味がありますので、いつもでしたら(隠蔽ツールとしての翅)に魅力を感じるところですが・・・
今回は、(ファン)の役割を担う(嗅ぐための翅)の興味津々、ググッと見入ってしまいました・・・
そうか~~~そう言う事だったのですね!
そう言いますと、人も何かの香りを嗅ぐ際、手でバタバタとその香りを手繰り寄せますものね!「面白い行動ですね!!!☆」

フユシャクガが出る時期!今回の記事を拝読し、ますます山散策に出掛けたくなりました~!
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

蛾が「嗅ぐ」ために翅を使うというのは、意表を突く裏技(?)ですね。でも、ちゃんと合理性はある──こうした意外性と必然性をかねそなえた仕組みに自然のたくみさを感じます。
我々は「嗅ぐ」とき、息を吸うことによって鼻腔にニオイ物質を吸引しますが、カイコガやクロスジフユエダシャクの♂はそれ(吸引)を翅で行なっているわけですね。
これまで何度かクロスジフユエダシャク♂の婚礼ダンスを観察していますが、この時期にしか見られないと思うと、やっぱり「見ておかなきゃ」と出かけてしまいます(笑)。
No title
クロスジ、今シーズンはまだ見てません(^^;)
来週に時間を作って行く予定です。

実はまだダンスを見たことがないんですよね…、今年こそは。

先日、今期初のフユシャク探しをしてきましたが、見事な触角のクシヒゲシャチホコがかなり飛んでました。
ウスズミカレハの動きのメリハリも楽しめました。
No title
> ともっくさん

クロスジフユエダシャク、昨シーズンは11月の終わりにはけっこう飛んでいましたが、先日(11/2)はまだ出始めの感じでした。
婚礼ダンスは、ちょうどいいタイミングで始まってくれると、あっけなく見られますが、待たされる時は待たされますね……。以前は、たまたま擬木など目立つところにいる♀やペアしか見た事がありませんでしたが、婚礼ダンスに注目するようになってからは、落ち葉の下のペアを見つけられるようになりました。
No title
触覚は、かざすだけでにおいがわかると思い込んでました。
カイコの例から、冬尺を考えるというのは、すごいですね。
翅を使ってにおいをかぐなんて言うのは、確かに意表を突きますよね。
No title
> タイコウッチさん

♂の発達した(表面積を広くとった)触角がニオイ物質をキャッチしやすい構造なのだろうというのは想像がつきますが、翅を使ってさらに効率的に嗅ぐというのは「!」ですね。でも、考えてれば「なるほど」と納得できる……自然の巧みさに僕も感心しました。

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