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ヤニと謎に包まれたヤニサシガメ!?

一見地味だが…謎めいたヤニサシガメ



最近、にわかに注目しているヤニサシガメ。その名のとおり、ヤニのような粘着物質におおわれている捕食性カメムシ。いるのはこんなところ↓。


以前は擬木の上にいるのを目にするくらいでスルーしがちな昆虫だったが、ちょっとした疑問からプチ飼育をし(*)、今は自然の活動が見たくてホスト(?)の松で観察中。ホスト(?)といっても捕食性カメムシなので餌は昆虫など。ヤニサシガメは松や杉の樹皮の隙間に潜り込んで幼虫で冬を越すという。松で生活しているのはそのためだろうと思っていたが、松ヤニに依存しているというような研究もあるらしい。詳しいことは僕にはわからないが、何かヒントになるような行動が見られないか松をチェックしているというしだい。
これまで積極的に松を見ることは無かったのだが……探してみるとヤニサシガメはけっこう見つかる。






触角は途中から2つに折り曲げることができる。樹皮下にもぐりこんで集団で越冬するさいに折りたためるのは便利そうだ。途中で折れ曲がった触角は角度によって初代ウルトラマンを倒したゼットンを思い起こさせる(……と思うのは僕だけ?)






松の枝先を見ていると、幼虫が脱皮した抜け殻もみつかる。




松葉をかかえるようにぶらさがるのがヤニサシガメの通常の脱皮スタイルのようだ。中には、かかえていた松葉からすり抜け、抜け殻表面に残されている粘着物質で貼り付いているものも見受けられる。


後頭部~背中が割れここから幼虫が出たのがわかる(白っぽい半透明の部分が眼)。脚は松葉をかかえた形を残しているが、その中に松葉はなく、別の松葉に貼り付いた形で残っていた(尻と後脚の一部で松葉にくっついている)。松葉の先端を抱えて脱皮した後に、風にあおられるなどして隣接する松葉に貼り付いて抱えていた松葉から抜けてしまったか、抜け落ちる途中で別の松葉に貼り付いてしまったのだろう。
この抜け殻に残された粘着物質──ヤニサシガメの全身を覆うベタベタについては【分泌物】とする説と【松ヤニ】とする説があって、どちらが本当なのか確かめたくてプチ飼育したのは以前記した通り──(松ヤニが供給されない)飼育下で脱皮した幼虫は9日経っても粘着性分泌物に覆われることはなかった(*)。【分泌物】を否定する結果だったが、だからといって【松ヤニ】そのものだと考えるにはまだ疑問があって素直に受け入れられずにいることも記した通り(*)。


そのヤニサシガメ記事を投稿したとき、今日も、こっそり自然観察!さんに教えていただいた『カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方』(野澤雅美・著/農山漁村文化協会・刊/2016年)という本をを読む機会を得た。
「ヤニサシガメが自ら松ヤニの分泌部へ移動し脚を使って体にぬりつける行動」を含め、色々と興味深いことが記されていた。

僕はヤニサシガメがベタベタしているのは(粘着物質に覆われているのは)幼虫だけだと思っていたが、この本には《ヤニサシガメは、その名のとおり、幼虫、成虫ともに体の表面にヤニ状の粘着物質で覆われているのが大きな特徴である(『カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方』P.70)》と記されていた。僕が「成虫はベタベタしていない」と思い込んでいたのは、成虫が幼虫のようにベタベタしていたのでは翅の開閉もままならず飛翔能力に支障をきたすだろうと考えたからだ。ヤニサシガメを含め、カメムシの仲間では翅がたたまれたとき重なっている部分があり、どちらが上になるかは決まっていない。ベタベタした翅の上にもう一方の翅を重ねれば貼り付いてしまうだろう──だから当然、成虫はベタベタしていないものと思っていたのだ。


(※↑【ヤニサシガメのベタベタは分泌物なのか松ヤニなのか?】より再掲載)
しかしヤニサシガメ成虫はちゃんと《飛ぶことはできる(同P.70)》そうだ。
問題のヤニサシガメと松ヤニの関係については──、

 ヤニサシガメのからだのヤニはどこからくるのだろうか。ヤニサシガメの行動を観察すると、マツヤニの分泌部分に口吻を差し込んで、吸収することも確認されている。ということは、ヤニサシガメの各脚の節状の膨らみから分泌しているという説もあることから、吸収されたヤニが体内で消化吸収されたものが、あるいは老廃物として分泌していると言うことも考えられる。
 ところが、幼虫の行動から、体内からヤニを分泌するということとは全く違う行動をすることも分かってきたのである。何と、ヤニサシガメ自身が、ヤニの分泌されている場所に行き、体にこのマツヤニを塗りつけるのである。この行動を見た時は、にわかに信じがたい光景であったが、飼育実験でも、マツの枝の切り口から分泌されるヤニに近づきこすり取る姿は何度も確認できたのである。ヤニサシガメのヤニを体に塗りつける付着行動はヤニサシガメ特有の行動と考えられる。(『カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方』P.70)


と記され、こすりとった松ヤニを体に塗りつける行動が次のように紹介されている。

 ヤニ分泌部への移動→前脚の先端部(跗節)によるヤニのこすりとり
 →前脚の先端部(跗節)による中脚の大腿部(腿節)へのこすりつけ→中脚の大腿部(腿節)による後脚の大腿部(腿節)とすね(脛節)へのこすりつけ→中脚の大腿部(腿節)による前脚の大腿部(腿節)とすね(脛節)へのこすりつけ→後脚のすね(脛節)による腹部側面と背面へのこすりつけ(同P.70)


飼育実験では1時間ほどかけて念入りに付着行動がなされるのが確認されているという。
この付着行動で思い浮かんだのはグルーミング。前後となり合った脚をからめるようにこすりあわせたり後脚で腹部背面をさするような動作はカメムシに限らず昆虫ではよくみられる行動だ。僕のプチ飼育でも、松ヤニを与えていないヤニサシガメが脱皮後(粘着物質がない状態で)グルーミングを行なっていた。


前脚と中脚をからめるようにこすすりあわせるヤニサシガメ幼虫↑。
後脚で背中をなでつける羽化後のエサキモンキツノカメムシ↓。


『カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方』の著者・野澤雅美氏は50年以上もカメムシの研究をされている専門家だそうで、こうしたベテランが、グルーミングと松ヤニの付着行動を見誤ることなどないとは思うが……この行動の前後で実際にベタベタ感に変化があったのか──つまり、ベタベタしていなかった個体がこの行動によってベタベタを得たこと(この行動によって粘着物質のコーティングが行なわれたこと)が確認されていているのかが気になる。

一応ことわっておくが、僕の疑問は実際に行なわれてきた松ヤニ説の研究・観察に対して向けられたものではない。どういう研究や観察がなされたのか、その詳細について僕は知らないし、だから評価もできない。疑問は「僕が知り得た情報」に対して「僕が納得できるかどうか」という次元の問題である。

さて、もしヤニサシガメの粘着コーティングが松ヤニで、それを脚で体全体に塗り付けているのだとしたら──次のような疑問が残る。
①体の表面に極薄に引き延ばされた松ヤニがなぜ固化せずに長い間、粘着性を保っていられるのだろうか?……僕のプチ飼育個体は飼育を始めて10日目に脱皮したが(10日松ヤニの供給が無かったのに)、脱皮後の抜け殻はベタベタしていた。松の枝先でみつかる松ヤニは大半が固くなっている。ヤニサシガメのコーティングが松ヤニそのものであれば揮発成分が飛んですぐに固化してしまう(ベタベタしなくなる)のではないか?
②脚が届かない背中にヤニを塗り付けられるのだろうか?……僕のプチ飼育個体では、餌として与えた虫がヤニサシガメ幼虫の背中に貼りついてしまうというアクシデントが発生したが、ヤニサシガメはそれを取り除こうとして脚が届かなかった。つまり脚が届かない部分にも粘着コーティングはほどこされていたことになる。脚の届かぬ場所にどうやって塗り付けたのだろうか?
こうした疑問を考えると、単純に「松ヤニの塗り付け」では片付けられない気もする。①と②は、分泌物であれば説明できそうだが、脱皮後の個体には粘着コーティングがなされなかったことから、単純に「分泌物」とも考えられない。

それから……疑問と言えるほど明確な根拠があるわけではないが、漠然と思い浮かんだことを、覚え書きとして記しておくことにする。

『カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方』では飼育実験におけるヤニサシガメの付着行動について、《ヤニ分泌部(マツの枝の切り口)への移動》をし、《(塗りつけ)動作を開始してからその場を去るまでに、およそ1時間を費やしたのである》と記されている。
飼育実験では必要に応じて松ヤニを供給できるだろうが、自然の中でヤニ源は豊富にあるのだろうか?……と思った。松の枝先でみつかるヤニはすでに固まっているものが多く、適度な粘度をもったヤニ源は思っていたより少ない気がする。
ヤニサシガメに興味を持った当初、擬木上にいた10匹程に触れてみが、その全てが粘着物質に覆われており指に貼り付いてきた。ベタベタしているのがヤニサシガメ幼虫の通常の状態であるとすれば、ほぼ全てのヤニサシガメ幼虫の需要を満たすに足るヤニ源がなくてはならないことになる。はたして自然の中でそれだけ豊富に供給ポイントがあるものだろうか?

ヤニサシガメが松ヤニの分泌部に移動するということからは「樹液に集まる昆虫」を思い浮かべた。カブトムシやクワガタ・カナブンその他チョウやハチなどが樹液に集まるお馴染みのシーン──しかし、彼らはには飛翔能力がある。樹液の分泌されている場所まで飛んで移動することができるから集まって来ることもできるわけだが、ヤニサシガメ幼虫にはそれができない。
また、カブトムシらが利用している昆虫酒場(樹液の分泌部)は夏の間ずっと営業状態だが、松ヤニの場合は揮発成分が飛んでしまえば固まってしまうから、すぐに閉店状態となってしまう。歩行で移動するしかないヤニサシガメ幼虫が利用できるできる新鮮なヤニ源はそう多くはないのではなかろうか。
松ヤニの新鮮な分泌部が開店すれば、その松に暮らすヤニサシガメ幼虫たちが集まって来るだろう……1匹のヤニサシガメが付着行動に1時間を要すとすれば、集まってきた全ての個体が装備を完了するにはそれなりの時間が必要なはずだ。新鮮な分泌部には順番待ちの集団ができてもよさそうな気がするが……僕はまだそんなシーンには出会えずにいる。

飼育実験では、松ヤニを分泌した枝をいくらでも用意できるだろうが、自然の中では各個体(歩行しか移動方法をもたない幼虫)がヤニ源を補給し続けるのは簡単ではなさそうな気もするのだが……。

 ヤニサシガメの幼虫や成虫を見ると、野外の個体の方が光沢も強く、粘着性もある。この光沢は、ヤニの光沢によるものであり、松の枝葉が古くなったり、枝葉からヤニが出なくなったりすると容器内の飼育個体の光沢は失われ、次第に動きが弱まり餌もとらなくなりやがて死んでしまうのである。このことから、明らかにヤニサシガメにとっては、マツのヤニは、欠くことのできないものであるに違いないことが分かる。ヤニサシガメの体の光沢は、いわばヤニサシガメの健康のバロメーターとも言える。(同P.71)

「松ヤニを充分供給できる飼育個体」より、「ヤニ源確保が難しそうな野外個体」の方が《光沢も強く、粘着性もある》のはなぜだろう?──上記部分を読んでそう思った。

ひょっとすると、ヤニサシガメの体を覆っている粘着物質は【松ヤニ(松の樹液)を原料とする分泌物】で、飼育環境では充分な生成ができなかったのではないか?
たとえば紫外線を浴びることがビタミンD3の生成に必要なように……分泌物質の生成には何らかの条件が必要で、飼育下ではそれ充分満たされず、そのため分泌物の生成が不充分となり、《野外の個体の方が光沢も強く、粘着性もある》ということになるのではないか?──そんな解釈が思い浮かぶ。
【松ヤニ(松の樹液)を原料とする分泌物】と考えると、プチ飼育で脱皮後の個体に粘着コーティングがなかったのも、薄いコーティングなのに粘着性が持続すること等も説明がつきそうな気がするが(「脚で塗りつける」にはヤニ源が必要だが枝からの吸汁でまかなえればヤニ源がなくても樹液は調達できる)……ホントのところはわからない。
(ちなみに僕がプチ飼育した個体は脱皮して9日後、松に戻すまで、粘着性は全く無かったものの、黒い部分には光沢があり、捕食も続け元気だった)

ところで、以前のヤニサシガメ記事(*)を投稿したさい、Ohrwurmさんより日本応用動物昆虫学会大会でヤニサシガメと松脂に関する興味深い講演があったことを教えていただいた。ヤニサシガメの孵化には松脂が必要で、メスには松脂を溜め込む器官があって腹部末端から松脂を吸い込むという驚くべき内容だったそうだ↓。


詳しいことはわからないが、ヤニサシガメと松ヤニには意外に深い関係があるらしい!?
その真相についても興味があるが、それが本当だったとして「どうして、そういうコトになったのか?」という進化のプロセスも気になるところ。
少し前までは、珍しくもない地味~な虫として、あまり気にとめることもなかったヤニサシガメだが、実は謎に満ちた存在だった。そんなわけで、何か謎解きシミュレーションのヒントでもみつからないかと思って松の木をのぞいているのであった……。

ヤニサシガメを探していて「!」と思うウバタマムシ









ということで、松でヤニサシガメ幼虫を探しているときに目に入ると、やけにでかく感じるウバタマムシ。



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コメント

No title
おはようございま~す!

観た記憶は?有りませんが?気になりますネッ!
機会があれば、探してみます!
No title
こんにちは・・・
私が上記の本を読んだきっかけは、「虫に興味を持たれてる(女性)の方がお書きになった本である!」ことや「カメムシについて興味があった。」ことにあります。
・・・その場でパラパラっとめくり深く考えもせず購入したのはいいのですが・・・
正直(あまり深くはないかな?:すみません、大変失礼な事を書いてしまいました。)とも感じました。
・・・そんな本を紹介してしまった事を申し訳なく感じてます。

私も、星谷さんが疑問に持たれてる内容は解決されてないものだとは思いますし、実際、私も、その様な疑問を抱きました。

前回、お読みに成ったカメムシの本よりは、ヤニサシガメについては詳しく記されてるのでは?と想いました。(それでも、その時当然疑問に想うであろう(?)点については、解決されてない事には、確かに物足りなさを感じます。

私は、心の中で(虫好きの女性)に関心を抱いたところもあります。
虫の上っ面だけではなく、生態の奥を探ろうとされてる(気持ち)を感じたので、著者の・・・その点に興味を抱きました。
(応援の意味を込めて・・・)☆
No title
> 森のゴンズイさん

見た目は地味なんですが……ヤニがらみの生態が謎めいていて気になっています。
カメムシも色んなのがいて、バリエーションが豊富ですね。
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

この本を教えていただいて、とても感謝しています。
『いたずらカメムシはゆかいな友だち』と違って、しっかりとした観察経験と知識を基盤に書かれた内容だと感じました。
一般の人の関心の次元ではなく、虫屋さん目線で書かれたという印象はありましたが。

昆虫は種類が多いので、知りたい虫についてピンポイントで情報を探そうと思ってもなかなか得にくかったりしますが……この本のヤニサシガメ情報は(解けない疑問もありますが、情報が少ない中にあって)充実していたように思います。
No title
ヤニを食べないと生きていけない意味が難しいですね。
成虫もてかてかでポマードを付けた紳士って感じで面白いです。
ウバタマムシ綺麗ですね。
自分も見つけてみたいです。
No title
> タイコウッチさん

どうして松ヤニに依存するようになったのか……不思議でなりませんね。
これまで地味だと思ってスルーしがちな虫でしたが……気になってしかたありません。
ウバタマムシは派手なオマトタマムシとはまた違った魅力・存在感がありますね。特に虫が少ない時期に出会うとラッキー感があります。

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