FC2ブログ

『いたずらカメムシはゆかいな友だち』感想


『いたずらカメムシはゆかいな友だち』(谷本雄治・文/つだ かつみ・絵/くもん出版/2006年)という本を図書館でみつけ、借りてきた↑。表紙画像の右の文章は、カバーそでのリード。
ちょうど疑問に思っていたことを確かめるためにヤニサシガメという捕食性カメムシの飼育を始めていたのだが、読んでいくと、そのヤニサシガメに関する話もでてきて、僕の疑問にも言及している。それで僕の疑問がスッキリ解決したわけではないのだが……その部分を含め、この本を読んでの感想を記しておくことにする。例によってあくまでも個人的な感想ということで。

僕も含めてカメムシ好き(?)には共感できる内容だろうと期待して読み始めたわけだが……全体を読み終えての印象を一言でいうなら──この本は「カメムシのことを好きでずっと観察・研究していた人が書いたもの」ではなく、「カメムシのことを書くという企画が先ずあって、にわか仕込みで集めた情報をもとに書かれたもの」……という感じがする。
実際に昆虫を観察していれば感じるだろう疑問や驚き・感心──現場感覚(?)みたいなものがあまり伝わってこない。正しい知識を紹介するはずの本なのに、明らかに間違っていると思われる箇所や怪しい記述などもあって、信頼性にも欠ける気がした。

気になった部分をいくつか引用しながら感じたことを記してみたい。まずは本文の冒頭部分──。


 カメムシはくさい──。
 そう思っている人が多いのではないでしょうか?
 ぼくが生まれてはじめてカメムシを見たのはいつ、どこだったかのか、思い出せません。でもたぶん、くさい虫だということはすぐにわかったと思います。
 たとえば庭の植物に、一ぴきのカメムシがついていたとします。
 見たところ、チョウとはちがいます。バッタでもトンボでもありません。
「なんか、ヘンな虫だなあ」
 せいぜいそう思うくらいで、子どものころのぼくはまよわず手をのばしたことでしょう。
 いけどりに成功し、にぎりこぶしを顔の前に持ってきて、指をそーっと開きます。すると、すきまから少しずつ虫のからだがみえてきて、
「く、くさい……」
 次のしゅんかん。ぼくはしかめっつらをしてその虫を手ばなし、それが「カメムシ」というものだということを二度とわすれません。カメムシの発するにおいは、それほど強烈でくさいものです。(P.6~P.8)


「初めてカメムシを見たときのことは思い出せない」と明言しているのに、記憶に無いことを想像で書いている──そして想像の中でカメムシの悪臭初体験について《それが「カメムシ」というものだということを二度とわすれません》と記している……。「《二度とわすれません》て……実際は覚えていなかったじゃん」とツッコミたくなるのは僕だけだろうか?
おかしな文章だが、著者の意図はわかる。カメムシのことを紹介する本なので、冒頭にはカメムシのよく知られた特徴──悪臭をアピールする内容をもってこようという「計算」があったのだろう。そのさい、《カメムシの発するにおいは、2度と忘れないほど強烈でくさいものです》と言いたかったに違いない。ところが、自分の記憶には残っていない。そこで、「きっとこうだったろう」と都合の良い想像で「頭の中で考えたシナリオ」をでっち上げてしまった……。

本来なら、体験や観察がまずあってそこから考察が生まれるわけだが、この著者は、頭の中で考えたシナリオを描くために体験(現実)を都合よくあわせようとしている……そんな冒頭部分からして、この著者は(いわゆる)「頭で書いている」感じを受けた。
自らの実体験に立脚した知見というより、「知識」として集めた情報を中心に頭の中で再整理してシナリオを組み立てている気がする。
この本の内容は、すべてとはいわないが……主要な部分は「(卓上の)知識」主導で書かれたものだという印象が強い。

自宅のアサガオについたマルカメムシ集団のエピソード(P.24~P.32)など「実体験」を綴った部分もあるが、「それでは、なぜ群れるのか、なぜ悪臭を発するのか?」という「虫に興味がある人なら当然考えるはずの核心的疑問」には触れられないまま展開していく。著者がマルカメムシに翻弄されたという話をおもしろおかしく(?)記しているが、語るべきところは著者の奮闘ではなく、虫の生態だろう。生き物を描く本としては興味の焦点がズレている感じがして、これが僕には違和感として感じられた。
本の終わり近くになって、ようやく(?)《カメムシのにおいは敵を攻撃するだけでなく仲間をよんだり、危険をしらせる道具としても使われていることがわかっています。(P.109)》とあっさり記しているが、これは二次情報(他者情報)的結論であって、カメムシを見ずにカメムシ情報を見て書いている感が否めない。

カメムシの悪臭を紹介したあとには、カメムシ以外のクサい虫のウンチクも展開している。


 もっと強烈で、くさいだけではすまない虫もいます。田畑で見かけるゴミムシの一種、ミイデラゴミムシです。この虫は、百度にもなる高温の毒液をジェット噴射して、敵に立ちむかいます。
 プシューッと吹きつけられたら、野生の生きものはもちろん、人間だってひとたまりもありません。一度ついたにおいはなかなか消えず、いやな気分をしばらく味わうことになります。
『鉄腕アトム』などの作品で有名なマンガ家、手塚治虫さんの名前は、オサムシという昆虫にちなんだものだそうです。オサムシはカブトムシやクワガタムシと同じ甲虫で、「生きた宝石」の名前の通り美しくかがやき、昆虫ファンのあいだではちょっとした人気者です。せなかの下にかくれた後ろばねが退化しているため、空を飛ぶことはできません。
 宝石にたとえられるほどのオサムシですが、ひとつだけ残念なのがくさいことです。地面を歩いてほかの虫やミミズなどをえさにしているせいか、いやなにおいがします。
 オサムシによく似たマイマイカブリも、空を飛ぶことができないくさい虫です。地上をせかせかと歩いてカタツムリをさがし、おそいかかって、えさにします。
 マイマイカブリはカタツムリの殻の中に頭をつっこみ、くちから出す消化液で肉をとかして食べていきます。そのせいでくさくなるようです。「マイマイカブリのにおいは、果肉のついたギンナンそっくりだ」といった人もいます。(P.16~P.17)


ミイデラゴミムシが放つ分泌液を、ここでは《毒液》と称している。僕も実際に浴びたことはないが、これは100℃にもなる爆発的な化学反応なのだから《プシューッ》というスプレーのような表現は適切なのだろうか?──と、ひっかかった。もしかすると、こうした部分も実体験の無いまま「頭で書いている」のではないか……。
ミイデラゴミムシでは噴射される分泌液をとりあげていながら、オサムシやマイマイカブリの悪臭については、食物由来の臭さだとし、防衛用に放たれる酸の分泌液に言及していないのは不十分な気がした。個人的にはオサムシやゴミムシが放つ酸はカメムシにおとらずクサいと思う。
また、この文章では「オサムシは飛べない虫」という認識を読者に与えることになりそうだが、オサムシの仲間にも飛べるものがいるという説明を入れた方が適切ではないかと思った。

カメムシとはどんな昆虫かを紹介する中で、「毒をもつカメムシはいるのか」──という話題では、


 ほんとうはどうでしょう。毒のあるカメムシはいるのでしょうか。
 カメムシ研究をしている人たちに聞くと、くちのするどい肉食のカメムシでは、うっかりすると手を刺されることがあるそうです。運が悪いと、手がはれます。でも、それはきわめて例外的なことで、カメムシのほうからわざわざ、人間をおそうことはありません。
 毒を持ったカメムシもいるのは事実です。熱帯地方には人間も刺してからだの中に病原菌を送りこみ、眠り病の一種である「シャガス病」を引き起こすカメムシがいます。生物の進化を研究した博物学者のチャールズ・ダーウィンも南米でそうしたサシガメに刺されシャガス病にかかったとされていう説があります。
 でも、安心してください。日本にはそうした毒のあるカメムシはいません。(P.22)


著者はシャーガス病の病原体を媒介するサシガメを(媒介者だから)《毒のあるカメムシ》だと認識しているように読めるが、「病原体」と「毒」は違うだろう。著者の理屈でいえば、病原体を媒介する蚊も《毒をもっている》ことになる。致死的な感染症のキャリアは《毒のあるヒト》ということになるのだろうか?
また著者はシャーガス病の病原体を「病原菌」と記しているが、これは細菌ではなく「原虫(寄生虫)」だ。
そして《刺してからだの中に病原菌を送りこみ》と記しているが、媒介サシガメが刺しただけではシャーガス病の感染は起こらない。サシガメが吸血前後にした糞尿から原虫が体内に侵入して感染が起こるとされる(サシガメに血を吸われた人が刺し傷近くの糞尿に触れ、その手で刺し傷や目・口・傷口などをささわることで原虫が体内に入る)。
「サシガメが媒介する病気がある」という知識だけで詳しくは知らぬまま「頭で書いてしまった」ことによる間違いではないかという気がする。

この項目で著者は日本には《毒のあるカメムシはいません》と言い切っているが、やはりカメムシをあつかった『カメムシ観察事典(自然の観察事典25)』(構成:小田英智/文&写真:新開 孝/偕成社/2002年)という本には《サシガメの口吻からだされる唾液には、強力な毒があり、獲物はすぐに体が動かなくなってしまうからです》という文章がある。サシガメに刺されるとかなり痛いらしいが、これは毒があるから(その影響)とみるのが自然な気がする。
「毒」の定義にもよるのかもしれないが……ミイデラゴミムシが放つ分泌液を《毒液》と称しているのに、(日本の)サシガメには毒がないと明言しているのは、ちょっと納得し難い気がする。

カメムシはそのニオイをどこから放つのかという話題では──、


カメムシはあしのつけ根にあるあなから、くさいにおいの元となる液体を出しています。出てくるのはアルデヒドの一種です。
 おどろくことに、あしのつけ根から液体を出すのは成虫だけで、カメムシの幼虫はせなかにあるあなから出すそうです。(P.42)


《カメムシの幼虫はせなかにあるあなから出すそうです》というのは、まだ自分で確かめたことがないということだろう。著者は「プチ生物研究家」を名乗っているようだが、カメムシ幼虫の臭腺開口部を確認したことすらなく、カメムシの本を書いているのか!?──と驚いた。
本書で紹介されている興味深い昆虫うんちくの多くは、こうした伝聞情報で、著者はじっさいに観察したことが無い(よく知らない)まま書いているので「こなれていない」──いささか、底の浅いものになってしまった感じがする。


 松の木で見つかるヤニサシガメは、ヨコヅナサシガメを黒くしたようなカメムシです。その名前の通り、べたべたした松やにをからだにつける習性があります。
 松やにを見つけると前あしでやにをとり、あしを器用にあやつって、あし全体やおなか、せなかとこすりつけます。人間でいえば、コールタールをべたべたとぬりつけるようなおかしな行動です。
 どうしてそんなことをするのかというと、集団で冬越しをするときに体温の低下をふせぐためだとか、乾燥をふせぐため、べたべたしたからだにすることで、うっかりくっついた虫をえさにするため──だとかいわれています。
 ほんとうのところはヤニサシガメにしかわかりませんが、観察の結果を見ると、どれもが正解のように思えます。泥や木の葉、アリの死がいなどをからだにつけて歩くヤニサシガメもいるので、敵から身をかくしたり、すてきなファッションのつもりでいたりするのかもしれません。(P.92~P.93)


この本を読んだとき、ちょうどヤニサシガメの飼育を始めていたのだが、その動機は「ヤニサシガメの体をおおっている粘着物質は【松ヤニ】なのか【分泌物】なのか」が知りたかったからだ。それは別の記事(*)にまとめるつもりでいるのでここではさておき──。
著者はヤニサシガメが松ヤニを体に塗りつける様子を観察したかのように記しているが……「本当なのだろうか?」というのが読んだ時の率直な感想だった。先に記した通り、本書の内容には首を傾げたくなる箇所がいくつかあって、いささか信頼性に欠く印象が否めなかったからだ。

この本ではヤニサシガメが体に松ヤニを塗るのは《集団で冬越しをするときに体温の低下をふせぐためだとか、乾燥をふせぐため》と説明しているが、僕がヤニサシガメ幼虫に触れてみたところ、冬までにまだ脱皮すると思われる小さな個体も、しっかりベタベタしていた。「越冬時の防寒&防乾燥用」ならば、冬が来る前に脱皮で脱ぎ捨ててしまう体表面にわざわざ手間をかけて塗りつける意味がない──脱皮前の「塗りつけ」は全くの無駄ということになってしまう。
《べたべたしたからだにすることで、うっかりくっついた虫をえさにするため》という説も疑問があるが……それは後の記事で記すことにして……。
また、引用した後半の《泥や木の葉、アリの死がいなどをからだにつけて歩くヤニサシガメもいるので》という部分は、おそらくヤニサシガメではなくハリサシガメ(別種)のことではないかと思う。

本書で紹介されていたカメムシうんちくには面白い情報もふくまれているのだが……残念ながら、科学マインド的な深みが感じられない。実体験に根ざした知見ではなく、「知識」として集めた情報を「頭で書いている」感がしてならない。もう少し昆虫に造詣のある人が執筆していれば「こなれた」面白い本になったのではないか……という気がしないでもない。


*ヤニサシガメのベタベタは分泌物なのか松ヤニなのか?

https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-599.html

●昆虫など~メニュー〜
https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-902.html

スポンサーサイト



コメント

No title
しっかり読ませていただきました。星谷さんに是非監修をしてほしいですね。子供向きの本ですから一度頭にはいっていまうとなかなかその知識を払拭できなくなります。
都心に住んでいるとカメムシの種類は少なく、かななかカメムシの会えないですが、私はカメムシがクサイと言う経験をしていません。本当に臭いのかわからないです。
自分の撮った写真や動画もユーチューブには載せていますが、虫嫌いなファンが多いのでなかなかブログに載せらせませんが、載せたときには是非いろいろ教えてください。
臭く感じないのは自分の鼻が悪いのでしょうか。カメムシ大好きです。
No title
> 四季の風さん

僕は素人で監修などとてもできませんが、子どもが読む本ですから、正確を期してほしいですね。
カメムシも種類や状況によって、いつでも臭っているわけではないので、野外で遭遇した時はニオイを感じないことも多いですね。撮るために捕まえたりするとニオイを発することがあります。
No title
有難うございます。つかまえてにおいをかいだりもしたんですが。秋口になってカメムシが団体さんで固まっていることがありますね。
No title
> 四季の風さん

同じ種類でも個体によって(そのときのコンディションによって?)、ニオイを発しないこともありますね。僕の経験では、マキダラカメムシやクサギカメムシ・オオクモヘリカメムシは悪臭が強めでした。
ただオオクモヘリカメムシは青リンゴのニオイがするという人もいるようです。
僕が嗅いだ中ではキバラヘリカメムシが青リンゴの香り、オオトビサシガメが(個体によっては)バナナっぽい香りでした。
No title
「先ずは、臭い!と敬遠されがちな虫にも興味を持ってみましょうよ!」という・・・
とっかかりを促す(本)なのでしょうかね(!?)

ヤニサシガメが、何故ベトベトしてるのか?について・・・
に興味を抱いた私です。
その真実が知りたい!
・・・そう想いつつ、読み進めました!!!☆・・・
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

カメムシを「ゆかいな友だち」というのだから、カメムシ好きな人が書いた本なのだろうと思って読み始めたのですが……どうも二次情報で得た「知識」優先で、一生懸命ウンチク盛りをしているわりに、あまり知らないで書いているのではないか……と思われる部分が垣間見えて……。

ヤニサシガメがまとっている粘着物質は何なのか……やっぱり気になりますよね。

管理者のみに表示

トラックバック