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美しき奇蜂キスジセアカカギバラバチ

美しくして奇抜な蜂:キスジセアカカギバラバチ



雑木林ぞいの小道で、低く飛ぶ1cmほどのキレイなハチにであった。葉から葉へと移動し、葉上に降りるとふちでくるりと尻を葉の外側に向けて腹端で葉の裏にタッチするようなしぐさ──産卵行動をくり返していた。【キスジセアカカギバラバチ(黄筋背赤鍵腹蜂)】──黒い腹に名前の通り「黄色い筋」と「背中の赤」が目を引くハチ。「カギバラ」はメスの腹端が鉤のように曲がっていることに由来するそうな。その形が葉裏にくり返し産卵する作業には適しているのだろう。
赤・黄・黒の彩りも美しが、この昆虫は生活史がユニークなことでも、しばしば話題になる。

カギバラバチの仲間は葉に卵を産みつけるが、これが食草というわけではない。その葉を食いにきたチョウや蛾の幼虫に(葉といっしょに)呑みこまれ、その体内でその幼虫に寄生する別の寄生蜂や寄生蠅に二次寄生することで初めて成長できるという。キスジセアカカギバラバチについてはアサギマダラに寄生したマダラヤドリバエという寄生蠅の蛹からも出ることが確認されているらしい。

産みつけられた卵のうち「運良くたまたま」チョウや蛾の幼虫に(無事に?)喰われることができ、さらに「運良くたまたま」その幼虫に別の寄生蜂や寄生蠅がいた場合に限って成虫になりうる──「運良くたまたま」が重なることが必要なために「めったに成虫になれない」→「めったに見られない珍しいハチ」と思い込んでいる人もいるようだ。しかし、キスジセアカカギバラバチはさほど珍しい昆虫ではない気がする。1つの卵から成虫になれる確率は他のハチより低めかもしれないが、そのかわり小さな卵をたくさん産む。確率の低さを分母の大きさでカバーしているのだろう。じっさい、キスジセアカカギバラバチはブログでもしばしば登場しているし、検索すれば多くの記事や画像がヒットする。
僕も去年、(今回と)同じ時期・同じ場所でキスジセアカカギバラバチを撮っている。そのときは名前も生活史もと知らずにキレイな蜂ということでカメラを向けたのだが……木陰ゾーンだったため(暗くて)ブレたりボケたりで撮影した画像は全て削除。今回が1年ぶりのリベンジ撮影となった。
撮影状況が前回と同じだったので、やはりブレがちだが……とりあえず、キスジセアカカギバラバチの産卵行動のようすを──。

キスジセアカカギバラバチの産卵行動





去年も1匹のキスジセアカカギバラバチが複数の植物の葉で産卵するのを確認していたが、今回はドクダミの群生する場所で、ドクダミの葉での産卵行動が多く見られた。今回撮影したのも全て同一個体。






一度の産卵行動は短い。腹端もあまり深く葉の裏に差し入れているようすはなく、産卵にしてはあっさりした印象。葉のふちから浅いところに産みつけるのは、「手早く作業できる」という産卵効率の利点と、(イモムシ・毛虫は、よく葉のふちから食べ始めるので)「イモムシ・毛虫に取り込まれやすい位置に産める」という利点もあるのだろう。










あまり植物の種類にこだわりはなく産み続けているようにも見えた。植物によってそれを食草とする幼虫の種類も変わってくるはずだが、その幼虫に直接寄生するわけではないし、広い種類に対応できるよう「間口を広げている」のかもしれない。

キスジセアカカギバラバチの超極小卵

キスジセアカカギバラバチに再会するチャンスが来たら、今度こそちゃんと撮りたいと思っていたが、本体のみならず、葉の裏に産みつけられた超極小卵(0.12mmだそうだが)についても確認しておきたかった。
実は去年、産卵行動を撮った後、問題の葉を裏返して卵を探してみたのだが見つけることができなかった。その時は、それほど小さな卵(0.12mm)だとは知らなかったので見落としていたのだろう。
たとえばナミアゲハの卵は直径1.2mmほどだが──仮に同じ形であったとして1.2mmの卵に対して0.12mmの卵では、大きさ(体積)が1000分の1となる。


キスジセアカカギバラバチが産卵したとおぼしきこの葉↑。
その裏側の産卵ポイントを拡大して超極小卵を探してみた↓。








肉眼ではとうてい確認できず、スーパーマクロモードで撮影した拡大画像をみて、ようやくキスジセアカカギバラバチの卵とおぼしきものを確認することができた。鮮明な画像とは言いがたいが……とりあえず、とても小さいことはわかる。キスジセアカカギバラバチは、こんな小さな卵を数千個も産みまわるらしい。




『昆虫はすごい』の【カギバラバチ】について

以前、読んだ『昆虫はすごい』という本にもカギバラバチについて紹介した部分があった。この本ではカギバラバチを《宝くじ的な確率に運命を委ねている》と記しているのだが、その部分に違和感を覚えた。
後戻りできない進化の袋小路に入り込んで、複雑な生活史に追いやられた生物が存在することはあり得るだろう。しかし、後戻りできない進化のそれぞれの分岐点では、その時点で生存率が高まる選択肢が選ばれてきたはずだ。わざわざ生存率を下げるような道が選ばれるはずがない──そう考えるのが自然だろう。堅実な選択の積み重ねの結果であるはずの生態に対し、めったに当らない「宝くじ」の例えはふさわしくないように僕には感じられた。
ド素人の無知な感想だが、この本に対して思うところを記したことがある(*)。そのさいの『昆虫はすごい』からの引用部分(枠内)と僕の感想部分を最後に再掲載しておく↓。

*『昆虫はすごい』(丸山宗利・著/光文社・刊)より*
 寄生性の昆虫には、ほかにも遠まわしな寄生方法をとるものがいる。
 カギバラバチ科のなかまにはスズメバチに寄生するものがいるのだが、その方法はツヤセイボウよりさらに遠まわしで、まるで宝くじのようである。
 まず、カギバラバチは植物の上に非常に多数の微細な卵を産みつける。次に、その葉を食べるイモムシが、葉と一緒に卵を食べる。イモムシに傷つけられた卵は、イモムシの体内で孵化する。そして、スズメバチがそのイモムシを捕まえて、肉団子にして、巣に持ちかえり、幼虫に与える。
 運良くスズメバチの幼虫の体内に入ったカギバラバチの幼虫は、スズメバチの体内を食べ、そしてそれを食い破り、さらに外から食べ尽す。
 カギバラバチの卵の圧倒的多数は、植物の上に産みつけられたままで、さらにイモムシに食われても、そのイモムシがスズメバチに狩られる可能性はかなり低いだろう。このような宝くじ的な確率に運命を委ねているせいか、カギバラバチには個体数の少ない珍種が多い。(P.94~P.95)


これは、「スズメバチからカギバラバチが羽化した」ということなのだろう。その事実をうけて寄生ルートを調べてみると、カギバラバチの卵が産みつけられた葉を食べたイモムシ経由であることが判った──そういうことではないのか?
本文の説明(引用部分)では、「カギバラバチのターゲット(宿主)はスズメバチで、わざわざ手間のかかる非効率的な方法を選んで寄生している」というニュアンスを感じるが……ちょっと納得でない。「では、いったいどうしてそんな面倒ことをすることになったのか?」──誰だって疑問に思うはずだし、この解説だけでは合理性に欠け説得力がないように思われた。

正解はもちろん僕にも判らないが……僕なりの解釈で整理してみた。まず事実関係として確かめられているのは、きっと──、

(1)カギバラバチは葉に卵を産みつける。
(2)スズメバチからカギバラバチが羽化した。
(3)その寄生ルートは、カギバラバチの卵が産みつけられた葉を食べたイモムシ経由。

──ということだろう。
合理的な解釈をしようとすれば、次のようなシナリオが考えられるのではないか。
まず、寄生蜂の《カギバラバチが葉に卵を産みつける》というのは、そういうプログラム(本能)で繁殖してきた(それで必要な生存率は保ててきた)ということだろう。カギバラバチを「寄生者A」とし、そのプログラムが成立し得たのはなぜかを考えると、近くに「カギバラバチの宿主(寄主)B」がいたからだと考えるのが自然だ。カギバラバチと同じように葉に卵を産みつける寄生蜂もしくは寄生蠅などを「B」としよう。「A」と「B」が同じようなプログラムを持っていれば、同じような植物の同じような場所に産卵する事はあり得るだろう。もっと積極的に「A(カギバラバチ)」が「B」の産卵の痕跡を探して産卵している可能性もあるかもしれない。同じ環境下で「A」が「B」の卵の近くに産卵することは「宝くじ」に当るほど難しい事ではないはずた。「A」も「B」も「卵がどうなるかを考えて」そこに産んでいるわけではない。ただ同じようなプログラム(本能)に従って産卵しているだけ。それがどうやって寄生が成立するかというと、卵が産みつけられた葉を(これを食草とする)イモムシが食べ、「A」と「B」両者の卵がイモムシの体に入る。イモムシの体内でまず「B」が孵化しイモムシを体内から食いはじめる。そのさい、「A(カギバラバチ)」の卵も一緒に食べ、「B」の体内に「A(カギバラバチ)」が取り込まれることで二重寄生が成立する。A(カギバラバチ)は「宿主(寄主)B」の体内で孵化し、Bを食って成長する──というシナリオだ。
これならば、「A(カギバラバチ)」の「B」への寄生は「宝くじ」に当るような特別なことではないだろう。
これが基本的な寄生シナリオだったのではないか。それならば「あり得そうだ」と思える程度に自然で納得できる。

ではなぜ「A」は最初に卵を食べたイモムシへの単純寄生ではなく「B」への二重寄生という、より複雑な方法をとるようになったのか? そのプレシナリオも想像してみる──。
「A」は元々イモムシへの単純寄生をしていたのかもしれない。ところが同じようにイモムシに寄生する「B」という競争相手が現れ、同じイモムシの体内で「A」と「B」がかち合うことが頻発するようになったのではないか。イモムシの体内で孵化した「B」幼虫は強く、「A」の卵や幼虫を食い殺して、この競争を制していたとする。劣勢に立たされた「A」だが、「B」に食われた卵の中から「B」の幼虫体内で孵化し、二重寄生に成功するものが出てきたとすれば──「A」は寄生対象を「イモムシ」から「B」にシフトすることで巻き返しを図ったという可能性も考えられなくもない。
これはあくまでも想像で、実際の進化の過程はわからないが……「A」は《最初に食われた時には孵化せず2度目に食われるのを待って孵化し寄生する》という新たな戦略に活路を見いだしたのではないか……。

さて、イモムシに食われ、その体内で2度目に食われるのを待つ「A(カギバラバチ)」の卵──この《「A」の卵を体内に取り込んだイモムシ》をスズメバチが狩り、幼虫のエサにすることもあるだろう。そのさい、「A(カギバラバチ)」が孵化するのは「B」の体内ではなく「スズメバチの幼虫」の体内ということが起こる。そうして「A(カギバラバチ)」はそのまま「スズメバチの幼虫」に寄生するというシナリオが派生する。
「A(カギバラバチ)」が「B」に寄生する基本シナリオよりも「スズメバチの幼虫」に寄生する派生シナリオの方が確率的には低いだろう。しかし食料資源としては「B」より大きな「スズメバチの幼虫」の方が利用価値が高く、「A(カギバラバチ)」幼虫も大きく育ち、より多くの卵を産める成虫になるという利点がありそうな気はする。スズメバチに寄生できる確率は低いが、それがかなえば繁殖能力は高まる──この寄生確率と繁殖率のかねあいで、スズメバチに依存した方が有利であった場合には、「スズメバチがメイン・ターゲット」という選択肢が生まれるのかもしれない。しかし、そうでないとすれば、《「A(カギバラバチ)」のターゲットは「B」が基本》で《「スズメバチへの寄生」はしばしば起こるアクシデント》程度のものではないか……という気もする。
いずれにしても、《スズメバチからカギバラバチが羽化した》という事実だけから、《「宝くじ」的な寄生方法をとる蜂がいる》──というニュアンスのプレゼン(解説)に直結したのだとすると、ちょっと違和感があり、僕にはすんなり納得できなかった。

上記のシナリオはあくまでも想像ではあるが、「A(カギバラバチ)」と「B(Aの寄主でありイモムシの寄生者)」そして「イモムシ」──このような3者の関係は実際に存在するらしい。
飼育環境下で卵から育てたアサギマダラ(蝶)からマダラヤドリバエという寄生蠅が羽化することがあるという。アサギマダラ幼虫にエサとして与えた葉にマダラヤドリバエの卵がついていて、これを食べたアサギマダラ幼虫体内でマダラヤドリバエが孵化し寄生が成立するらしい。そしてアサギマダラ幼虫に寄生したマダラヤドリバエの蛹から、さらにキスジセアカカギバラバチという寄生蜂が羽化することもあるというのだ。キスジセアカカギバラバチもイモムシが食う葉に卵を産みつける。つまり、前述の「A(カギバラバチ)」:「B」:「イモムシ」の関係と「キスジセアカカギバラバチ」:「マダラヤドリバエ」:「アサギマダラ幼虫」の関係は構図としては同じといえる。
アサギマダラのエサとして与えた同じ葉にマダラヤドリバエとキスジセアカカギバラバチの両者の卵があることは、さほど不思議な事ではないだろう。
そうした寄生を受けたイモムシを、たまたまスズメバチが狩ることで《スズメバチからカギバラバチが羽化した》という状況が生まれる──そういうことではないのだろうか?
余談だが、キスジセアカカギバラバチと思われる蜂は狭山丘陵でも見たことがある。ここでもアサギマダラの姿はたまに見かけるが、狭山丘陵でのキスジセアカカギバラバチの寄生ターゲットはアサギマダラではないだろう。おそらく多くの(?)種にフレキシブルに対応(寄生)しうる種類なのだろう。それが、たまたまスズメバチのような狩り蜂に寄生するケースもある──というだけで、寄生蜂が「宝くじ」のような冒険をおかしているわけでは決してないだろうと思う。
仮にスズメバチをメイン・ターゲットとするカギバラバチがいたとしても、そこへ到達するまでには、合理的に説明できるルーツ(シナリオ)が必ずあるはずだ。


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コメント

No title
カキバラバチ、ツチハンミョウなど変な生態を持つ仲間はそそられますね(^^)
そんな低確率と思われる生活環でよく続くもんだ、といつも思います。
No title
> ともっくさん

カギバラバチの生態は「どうしてまた、そんな……」と興味を思い切りひかれますね。1の卵から成虫になれる確率が低いぶん、大量の卵を生んで分母をふやすことで採算をとっているのでしょうが……今回キスジセアカカギバラバチの超極小卵を確認して、また色々と思うところがあったので、そのうち記してみたいと考えています。
No title
おはようございます・・・
「寄生蜂や寄生バエが、虫の数のバランスを行う大きな役目を担ってる」と耳にしたことがあり、スズメバチに寄生する種もあることを知り・・・単純に、(数のバランス、調整良かった~~)程度にしか捉えてなかった私ですから、上記の考察を読み・・・
朝から、またまたため息です・・・
深い読みに、感嘆のため息!(へ~~~・・・凄い!)
「二重寄生」のことも耳にしますが、私は深くは考えた事がありませんでしたので、(この読みの深さは何だろう?)と、サスペンス物の小説を読むがごとく読みふけってしまいました。

「昆虫は凄い」は、(へ~昆虫って、こういう面もあるんだ~!こういった凄いところもあるんだ~!)と、先ずは、虫に興味を抱かせるためのたたき台的役割をも兼ね備えてるのかな?と思いました。

・・・お陰で、こうした目から鱗の素晴らしい考察を楽しませて頂くことが出来ました・・・☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

昆虫のおもしろさの1つが「多様性」にあると思いますが、昆虫をみていると、「どうして?」と思うことがよくあります。
疑問を放っておくと、宿題を抱えているようで気持ちが悪いので……あれこれ考えて自分なりに説明できる「解釈」をさがしてしまいます。
その解釈が当っているかどうかはまた別のハナシになってしまいますが……とりあえず、「実際にどうかとは別に、つじつつまがあった説明」を模索せずにはいられない……ということで(笑)。

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