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トラフカミキリの印象擬態

スズメバチそっくりのトラフカミキリ



「夏の昆虫」の印象があるトラフカミキリだが、今年は6月下旬から現れていた。パッと見た印象が「ハチにそっくり!?」──危険な昆虫として恐れられているスズメバチやアシナガバチを思わせる。カミキリなのに動きがまたハチっぽい。鳥など昆虫食の天敵に「危険なハチ」だと誤認させることで身を守っているのだろう。


スズメバチを思わせる精悍で美しいいでたち↑。ちなみに本家のスズメバチ↓。




スズメバチとカミキリはまったく別のグループ。なのに、よくここまで「印象」を似せたものだと感心する。




ホストのクワの幹にとまっていたトラフカミキリ↑。本来の(?)カミキリらしい姿との比較ということで、同じ日に見たヤハズカミキリ↓。


トラフカミキリの擬態マジック!?



姿形や色、あるいニオイなどを別のものに似せて敵や獲物をあざむく《擬態》──昆虫ではしばしば見られる興味深い現象だ。《擬態》がうまい昆虫には感心させられるが、その中でもこのトラフカミキリの擬態には面白味を感じる。細部をよく見ると、実はさほどハチに似ているというわけでもない……なのに全体の印象は「スズメバチにそっくり」。このちょっとした《擬態マジック》を僕は(勝手に)《印象擬態》と呼んでいる。

通常、視覚的な《擬態》では、形や色をどれだけ精巧に似せるかがその完成度にかかわってくる。完成度の高い例をあげればホソヘリカメムシ幼虫もそのひとつだろう。この虫のアリへの擬態は素晴らしい。




カメムシでありながら全く違うグループのアリにみごとに姿形を似せている。
「形が似ている」→「(擬態の)完成度の高さ」の良い例だろう。
これに比べるとトラフカミキリの擬態は少し違った印象を受ける。
触角の長さなど、うまく似せている部分もあるものの、基本的な体型はトラフカミキリとスズメバチではずいぶん違う。ハチの特徴ともいえる腰のくびれがトラフカミキリにはないし、翅の形だって全く違う。「黄色に黒のとりあわせ」は《警告色》としては似ているが、黒帯模様はスズメバチが単純な横縞なのに対しトラフカミキリでは「く」の字に曲がっている。個別のパーツを比較するとずいぶん違うのに、全体として見れば、なぜか印象はよく似ている──ここに《擬態の妙》の面白味を感じる。
仮にこのカミキリにスズメバチそっくりの模様をほどこしたとしたら……スズメバチとの体型差が浮き彫りとなり、かえって違和感を生むことになるだろう。黒帯模様だってスズメバチにはない「く」の字型であることによって実際にはない「腰のくびれ」があるかのように錯覚させる効果があるのではないか……あるいは実際にはない「ハチの翅」が「ハ」の字に開いているような錯覚を誘導する効果もあるのかもしれない。パーツの模様を微妙に変えることによって、むしろ体型の違いを目立たなくし、全体の印象を似せているようにも感じられるのだ。


トラフカミキリの《印象擬態》は、個別のパーツの類似性にはこだわらず、全体としての印象を誤認させるように計算された(?)デザインになっている──物理的な形状(ハード)を似せるのではなく、見るものの《認知》にかかわるところ(ソフト)で《擬態》を成立させている(と思われる)ところが面白い。
ホソヘリカメムシ幼虫の擬態を正確なデッサンによる写実的な肖像画に例えるなら、トラフカミキリの印象擬態はデフォルメで似せた似顔絵──ともいうことができるかもしれない。

擬態する者の個々のパーツ(ハード)がそっくりであれば、天敵や獲物を欺くきやすく(誤認させやすく)なる──というのは当然だ。
だが、それを判断する天敵や獲物たちは、擬態者を細部にわたって確認した上で認識しているわけではないはずだ。視野に広がる景色の中から獲物や敵をいち早く探知するためには、確認の手順をなるたけ簡略化する必要がある。検知の処理速度を上げるために、簡略化したイメージ・パターン=印象で判断しているのだと思う。
つまり細部がさほど似ていなくても、この認知基準(印象)をクリアすれば《擬態》は成立する。

擬態というと、(擬態者の)「形の類似性」(ハード)に目を向けがちだが、(擬態者を狙う敵・狙われる獲物の側にとっての)「それがどう見えるのか」という「認知」(ソフト)の問題も重要なはずだ。見る側の認知システムの精度→誤認の発生余地が擬態を進化させてきたのだろうという気がする。そんなことを感じさせてくれるのがトラフカミキリの印象擬態だったりする。






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コメント

No title
トラフカミキリを見たらスズメバチと思ってしまいますが比べて見たら確かに違いますね。
印象擬態はピッタリの表現と思います。
ホソヘリカメムシ幼虫の擬態も出会う度に感心します。ナイス
No title
> 市川さん

トラフカミキリは出会うたびに「スズメバチにそっくりだなぁ!」と感心してしまいます。というより、最近ではトラフカミキリを探すときは「クワにとまったスズメバチ」のイメージを描いていたりします。
画像で見比べてみると違いは明らかなのに、現場で見たときの「そっくり感」がなんとも完成度が高いので「印象擬態」と命名(?)してみました。

ホソヘリカメムシ幼虫やアリグモ(特に♀)も良くアリに似せていると感心します。
擬態を含め「多様性」を感じさせる昆虫は面白いですね。
No title
おはようございます。
トラフカミキリを見つけると、やはり一瞬ビビりますね(^_^;)
No title
> キヨカズさん

トラフカミキリにであうと、まずスズメバチに見えてしまいますね。
子どもの頃、カブトムシやクワガタを撮りに行って、樹液ポイントをのぞいたらスズメバチがいた──みたいな。そんな記憶が一瞬よみがえります。
No title
おはようございます。
スズメバチだと思いました!トラフカミキリですか!
両方を比べてみると分かりますが、留まっているトラフカミキリに
出会ったらスズメバチだと思ってしまうでしょうね。

('∇^d) ナイス☆!!
No title
> kaneo93さん

実際は、動きもハチっぽいので、静止画で見るよりもスズメバチっぽく見えます。
クワの幹にとまっているスズメバチをみかけたら、実はトラフカミキリということが多いかもしれません。
No title
目の前にいたら迷わずハチだと思ってしまいそうです。
ハチに刺されて花屋さんの店頭で数年前に泣きました。^^;
植木鉢を持ってみていたらハチの一刺し(´;ω;`)
近づきたくないかも知れません。
でも撮ってもみたい。(^O^)
No title
> まあささん

ハチの警告サインは強烈ですね。そのおかげでトラフカミキリの擬態が成立するのでしょうが。
僕も虫見をはじめた頃、図鑑でトラフカミキリを知るまで、こんなカミキリがいるとは知りませんでした。もし見かけていてもスズメバチと認識していたろうと思います。
図鑑で知った後に初めてトラフカミキリを見た時も、スズメバチっぽいので何度も確認してしまいました。
No title
スズメバチだと私も思いましたよ。第一印象で勝負するのでしょうね。
ホソヘリカメムシに至ってはもうアリにしか見えません。
すごいことですね。
ナイス!
No title
> 笑みさん

本当に「第一印象」でスズメバチに見えてしまいますね。
ハチやアリに擬態している虫は少なからずいるみたいです。
「擬態」というと熱帯の昆虫を思い浮かべてしまいがちですが、身近な所にもアッパレな虫はいるものですね。
No title
擬態する昆虫は結構いるものですね、しかしどおやって進化して似てくるのか、不思議です。昆虫も考えると、徐々にその形になっていくのでしょうか?? それともたまたま突然変異で似た個体が生き残っていく?? 不思議な世界です。
No title
> nika4さん

「擬態」はフシギですね。何かに似たものが現れ、そのことによって生存率が高まるような効果があった場合に、それらの「有利な特徴」を持ったものがより多く生き残って、生存に有利な特徴を引き継ぎ洗練させて行くのだろう……と僕は解釈しています。
No title
トラフカミキリは一度だけ出会った子とがあります。
飛び方も違うし、蜂でないことも分かってるのにドキッとしました!

ホソヘリカメムシはちょっと大きくなるとアリから離れてきますよね!
最近これだけアリに似たホソヘリカメムシに出会いません!
No title
> ピンちゃんのママさん

トラフカミキリはカミキリだとわかっていても、「危険なハチ」オーラを放っている感じがしますね。

ホソヘリカメムシは、僕もこのくらいの成長時期が一番アリに似ている気がします。幼虫でも大きくなると(アリには無い)模様も出てきますし……この成長した幼虫の腹背面の模様を見ると、ナゼかナショナルキッド(古~っ)の顔を連想してしまいます(笑)。
No title
似てる角度からの撮影にも感心しきりです。本当にそっくり!
No title
> ムッシニョールさん

静止画にすると動いているときほど似て見えなかったりするのですが……それでも「スズメバチ・オーラ」は感じますね。
オオスズメバチの比較画像は過去に撮ったものの中から、わかりやすいアングルのものを選んでみました。
No title
こんばんは。
・・・昆虫の擬態が、私を虫好きにしました!・・・
ですから、擬態してると想われる虫には、非常に興味ありますし!萌えます!・・・

今回紹介されたトラフカミキリの(印象擬態)のデザインの効果!について・・・
成る程、驚き!納得!・・・です・・・
着眼点の鋭さに今回も目からウロコです!

・・・カミキリにしては、触角が短い!(よりスズメバチに近い)事にも驚かされましたが・・・
何より、デザインの効果に目を向けられたところに・・・
面白みを感じました!

・・・コメントでも述べられてます様に!
(擬態とは)・・・あるものに似せようとして進化してるのではなく・・・
強いとされる虫に偶々似てるものが生き残り交配するがために、より強い虫に似せた様に進化してる・・・と捉えた方が自然な考え方なのかな?と想う本日此の頃です・・・☆
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

本当に、昆虫の擬態には魅かれるものがありますね。驚きがあり不思議があり……意外性と必然性の詰まった《自然の真理の結晶》といった感じすら覚えます。
そうした自然の不思議や奥深さを感じさせてくれる昆虫──といえば……少し前にジャポニカ学習帳の表紙から昆虫が消えたことを憂いた記事(【エッセイ・雑記】書庫)を書きましたが、その後、根強い昆虫支持層が「復活」を実現したという報道を知り、きのう追記しておきました。

自然に対するセンスオブワンダーを刺激する昆虫に多くの子ども達も親しめる機会が増えるといいですね。
No title
探し回っていて、先日初めてトラフカミキリに遭遇して感激しました~。
No title
> カメレオンアームスさん

トラフカミキリは生でみると存在感をより感じますね。スズメバチ・オーラというか──カミキリなのに、よくここまで似せたものだと見るたびに感心します。

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