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肩甲骨カミキリ~えぐれた複眼・触角が浸食!?

肩甲骨カミキリことハイイロヤハズカミキリ

先日、擬木のヘリにハイイロヤハズカミキリがとまっていた。僕は密かに(?)「肩甲骨(けんこうこつ)カミキリ」と呼んでいる。タケやササなどがホストだそうで、周囲を見ると、なるほど竹だか笹だかが生えていた。




背中(上翅上部)の特徴的な隆起が肩甲骨に見えてしかたがない。【ハイイロヤハズカミキリ】の標準和名は長いので、愛称で【肩甲骨カミキリ】。標準和名についている「ヤハズ」の由来は「矢筈(矢の末端の弓弦をうけるところ)」──上翅先端の「く」の字型の切れ込みが「矢筈」に似ていることからつけられたらしい。だが、個人的には「ヤハズ」より「肩甲骨」に目がいってしまう……。


こうしてアップで見ると特徴的な複眼にも目がいく──《眼の中から触角が生えている》ようにも見える奇妙な構造。ハイイロヤハズカミキリでは触角の根元で複眼が分断されているのがわかる。
前回ネタにしたキマダラカミキリ(キマダラミヤマカミキリ)でも、触角の根元で複眼が大きくえぐれていたが、キマダラカミキリは複眼が、かろうじてつながっていた。


奇妙なカミキリの複眼──ハイイロヤハズカミキリではギリギリで分断、キマダラカミキリではわずかにつながっていたが、ルリカミキリでは完全に分断していて、背面の複眼は《取り残された三日月湖(河跡湖)》のようだ。




カミキリの《複眼に触角の付け根が食い込むようなデザイン》は子どもの頃から、なんとなく知っていた。たぶん図鑑か何かに載っていたのだろう──シロスジカミキリの複眼(つながっているが、触角の根元付近でえぐれている)の写真を見て、「フシギな形の眼だな」と思った記憶がかすかにある。カミキリの複眼については、ずっと「そういうものだ」という認識でいた。


これ↑は今年1月に撮ったキボシカミキリ(活動期には黄色かったはずの斑紋がすっかり白くなっていた生き残り個体)。このカミキリも大きな複眼が触角の根元で大きくえぐれている。

えぐれた複眼と触角の関係!?

《眼の中から触角が生えている》ように見えるカミキリの《えぐれた複眼》&《複眼に埋もれた触角》──これまで「そういうものだ」と思ってきたが……あらためて考えてみると、どうしてこのような形になったのか、不思議な気がする。
「触角の周囲に複眼が回り込んだ」のか、それとも「複眼の中に触角が入り込んだ」のか──。
ハイイロヤハズカミキリやルリカミキリのような複眼が分離したケースがあることを考えると、「もともと複眼のあったエリアに触角が侵出した」とみるのが自然だろう。本来は一塊だった複眼が触角に浸食され、ついには分断に至った……ということなのだろう。

カミキリの触角はよく発達している。その触角を支えるためには──力学的には体幹軸の中心に近い部分に触角基部を置いた方が頑丈なつくりを実現できる。それで、顔の先端できなく中心に触角基部を置く(移動する?)ことになったのではないか? 太く長い触角を支えるためには頑丈な土台や関節が必要だろうし、大きな触角を動かすためにはそれなりの筋肉の拡充だって必要だったろう。顔の中心──つまり左右の複眼の間で「触角基部」が充実・発達してその容積を拡大させたことで、複眼が浸食され削られていったのではないか……と想像してみた。

また、複眼エリアの縁あるいは内側に触角が入り込めば、その直近の個眼(複眼を構成するひとつひとつの小さな眼)は触角の影になってしまうから、センサーとしての役割りを充分果たせなくなる。それで触角の根元にある個眼は消失し、その結果、複眼エリアの境界線が後退して「えぐれた」形になった──というようなこともあったのではないか。

理屈としては筋が通りそうな気もするが……しかし浸食され、えぐられた複眼だって、もともとは「必要があってその位置に発生・発達した器官」だったはずだ。その大事な器官を浸食させずに触角を発達させることはできなかったのだろうか?──と思わないでもない。

それでは「触角の立派な他の昆虫」ではどうなのだろうか?──と考え、思い浮かんだのが、シリジロヒゲナガゾウムシ。このオスはユニークにして立派な触角をもっている。


シリジロヒゲナガゾウムシ♂は大きな触角が目立つ昆虫だが、複眼も大きい。そしてその複眼は浸食されることなく、ちゃんとキープされている。発達した触角と大きな複眼は両立しうる──という例だろう。
触角の位置を口の方にずらせば、複眼を浸食することなく長い触角を獲得できる──少なくともそういう《処理》をして「両立」させている昆虫がいるということだ。
シリジロヒゲナガゾウムシ♂の立派な触角もカミキリに比べれば、まだ小ぶりだからこの《処理》が可能なのだろうか? しかしカミキリで触角が比較的短い種類でも、ちゃんと(?)複眼はえぐれていたりする。


トラフカミキリはスズメバチやアシナガバチに擬態していると思われるカミキリ。ハチに擬態してのことなのか、触角は(カミキリにしては)短い。だが、やっぱり触角付近で複眼は、しっかりえぐれている。
さて、ここで興味深いのは、このトラフカミキリが擬態したモデルのスズメバチやアシナガバチも《触角付近でえぐれた複眼》を持っているということだ。
カミキリとハチ──まったく別のグループなのに、この奇妙な特徴が共通しているということは、それぞれの生態の共通する部分に《謎解きの鍵》が隠されているのかも知れない。






一方、ハチの仲間であっても複眼がえぐれていない種類もいたりする。






セイボウの仲間では触角の基部が口に近いところにあり、複眼は干渉を受けずに基本的な形(?)をキープしているようだ。触角基部を複眼の間ではなく、口に近い所に置いているというのはシリジロヒゲナガゾウムシの《処理》と似ている。
同じハチの仲間にして複眼がえぐれたスズメバチ・アシナガバチと、複眼がえぐられていないセイボウの違いは何なのだろう?
スズメバチやアシナガバチは木をかじって巣の素材に使う。カミキリも木を齧って産卵したり、幼虫は木を内部から食ったりする。アゴが発達しているという点で似ている。
セイボウの仲間はそれにくらべてアゴは小さい。
大きなアゴをもつカミキリやスズメバチ・アシナガバチではアゴ付近に収納される筋肉の量もそれなりに大きいに違いない。そのため口の近くに触角基部を収納するスペースがとれず、やむなく(?)触角基部は複眼の間へと追いやられた……ということではないだろうか?
「硬い木を齧る→アゴの筋肉が発達→口の近くで触角基部セット収納スペースがない→複眼の間に移行→複眼が浸食」
──という構図を思い描いてみた。
しかし木を齧るということでは、複眼が浸食していないシリジロヒゲナガゾウムシも、複眼がえぐれているカミキリと同じだ。《発達した大きなアゴ&複眼の間へ追いやられた(?)触角》を持つに至った理由は、単に「木などの硬いものをかじる」ためだけではなさそうだ。

カミキリのオス同士を同じ容器に入れておくと触角を切り合ったりするという。
オオスズメバチは、他のハチの巣を襲ったりするが、そのさい大アゴは戦闘用の武器として使われる。他のスズメバチやアシナガバチも襲撃されれば大アゴを使った防衛戦を余儀なくされる。
こうした戦闘のさいに──カミキリやスズメバチ・アシナガバチが戦闘で大アゴをつき合わせて闘うシーンでは、口の近くに触角があったのでは、相手に噛み切られてしまうおそれがある。その危険を回避するために相手の大アゴと交錯する口元から離れたところに触角を後退させたのではないか……そんな可能性に思い至ったりもした。

もちろん、これは単なる素人の脳内シミュレーション。僕はカミキリのこともハチのこともよく知っているわけではないから、ごく限られた知識に中で《えぐれた複眼》の意味・誕生した理由についての《解釈》を探してみたにすぎない。この《解釈》で、疑問のすべてが説明できるとは思っていないし、これが《真相》だと考えているわけでもないが……身近な昆虫に想像力(妄想力?)を刺激されることがある──ということで、思いめぐらせたコトを記してみたしだい。

4月中旬のカミキリ

ハイイロヤハズカミキリの他に、4月中旬になってアトモンサビカミキリ・ゴマフカミキリ・トゲヒゲトラカミキリ・ヒナルリハナカミキリなども確認。カミキリの顔ぶれも増えてきた感じだが、今もっとも多く目にしているのがヨツボシチビヒラタカミキリ。
ということで、ついでに4月中旬のヨツボシチビヒラタカミキリ。ちなみに、ヨツボシチビヒラタカミキリも複眼はえぐれている。












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コメント

No title
12日 久しぶりにフィールドに出たら短い時間でしたが初っ端から星谷さんに遭遇…アララ~…。
あの後も目ぼしいものはありませんでしたが ナカジロサビに会いました。
こちらも肩甲骨と肋骨といったところでしょうか?。w
No title
どれも見たことのない昆虫ばかりです。虹色のセイボウを見てみたい、東京にもいるのですね。探してみます。
No title
> 辺蟲憐さん

先日はどうも。あの日、辺蟲憐さんと分かれた後にヨツボシチビヒラタカミキリ2匹とコミミズク成虫を何匹か見ました。ヨツボシチビヒラタカミキリはあの辺りでは、けっこう広い範囲のあちこちで見つかる感じです。
ナカジロサビカミキリもプチ肩甲骨、ありますね。
No title
> nika4さん

僕も他の方のブログでは遭遇したことがない虫をずいぶん見せていただいています。地元の虫見コースをあまり出ないので、僕が見る昆虫は限られているかも。
セイボウは東京でも時々目にします。まだ時期にはちょっと早い気がしますが……小さいながらキレイな昆虫ですね。
No title
こんばんは。
・・・触角の根元で複眼が分断されてるハイイロヤハズカミキリの顔面に驚かされました!
(ここまで、じっくりカミキリやスズメバチ、アシナガバチの顔面を観察したことがありません・・・)
図鑑では、何度か目にした事がありますのに!

それを疑問点にし、様々な面(力学面等)から考察されてて、流石だな~と言う想いで、拝読させて頂きました!!!☆・・・

昔のアニメでは、カミキリやスズメバチ、アシナガバチは、同じ悪役グループ(笑)・・・
複眼と触角の位置関係も似てる(笑)
ですが、ハイイロヤハズカミキリは、少々度が過ぎてる様な!?
(何故?不思議で仕方ありませんね!)
・・・位置関係の考察・・・
様々なケースを考えながら、顔面を見詰めるのも興味深い事である!と教えて頂けました・・・
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

身近な虫を見て「どうしてなんだろう?」と思うことはよくあります。
今回も勝手な想像が脳内展開したので記してみました。

僕の場合、昆虫を見る楽しみは、身近なところにミステリーを発見したり、虫を見て「感じたり考えたりする」ことにあったりします。
はたしてこの解釈が当っているのかどうかは判りませんが……とりあえず、例によって、「昆虫に刺激された想像力」の記録ということで。
No title
わ~~ビックリ!
複眼と触角の関わりを見たこともなかった私が恥ずかしい!
触角で複眼がまん丸じゃなくなってる!
分断されてる!
そこまでくっきりと写せないかもしれないけど
気をつけて見てみようと思いました
いつも
勉強させてもらってます!!
No title
> ピンちゃんのママさん

カミキリは長い触角が特徴ですが、その触角の付け根を見ると……「眼から生えてる!?」感があって、なんともフシギです。
種類によって、複眼のえぐれ具合・分断具合は違うようですが……カミキリをみかけたらチェックしてみるとおもしろいかも。
ルリカミキリは小さめですが、複眼と頭の色が違うので四つ目に分断した複眼が判りやすいと思います。5月頃、カナメモチの生け垣などで葉脈についた食痕を目安に探すと見つけやすいかもしれません。
No title
目がえぐれた物は目つきが鋭いですね。
ルリカミキリの目が二つに分かれているのは知りませんでした。
虫の目は色々あって楽しいですね。
No title
肩甲骨カミキリ、うらやましいです~。
そのうち見られるかなあ。

カミキリの複眼のえぐれっぷりはいいですね。
スズメバチでもえぐれているのがいるとは気づきませんでした。
顎の強さとの関係はありそうですね!
ハナカミキリとかはえぐれていないのが多いですが、顎のあたりも作りが少し違うような気がします。
No title
> タイコウッチさん

複眼がえぐれていると、鋭い目つきに見えますね。
ルリカミキリは「ヨツメカミキリ」といってもいいのではないかと思うくらいハッキリ分かれてしまっていたので、初めて見た時はフシギな感じがしました。

これとはまた違いますが、カマキリなどの偽瞳孔(ぎどうこう)も「いつも、こっちを見ている」ように見えて面白いですね。
昆虫の眼もなかなか興味深いです。
No title
> noriさん

あのあたりは、フェンス内に竹or笹が生えているところがあって、そこで発生していたのでしょうね。
擬木ではヘリに、ワイヤーフェンスにしがみついているのを時々見ます。

ハナカミキリの複眼はちゃんと見たことがなかったのですが、改めて見るとえぐれていないものがいるようですね。
以前から、ハムシやジョウカイボンと間違えがちなハナカミキリの仲間は「あまりカミキリっぽくないなぁ」と感じていたのですが、その理由の1つがこのあたりにあったのかも?
頭部のつくりが、ちょっと他のグループのカミキリとは違う感じもしますね。何が複眼のえぐれを作るのか……なんとも不思議です。

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