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マエムキダマシ!?クロスジホソサジヨコバイは誰を騙すのか?



久しぶりにクロスジホソサジヨコバイを撮りにいってみた。
まずは、葉の裏にとまっていたこの姿↓をご覧あれ──、


パッと見、太く短い触角に黒い眼をした黒い脚の虫が左向きに止まっているように見える──これは葉の裏側にとまった昆虫を葉の裏側から撮影したもの。葉の透過光で逆光ぎみになると、黒い模様がクッキリ浮き上がって目立つ。
この虫がとまった葉を裏返し順光で撮ったものが↓。


【クロスジホソサジヨコバイ】という長い名前の昆虫。「(背中に)黒い筋がある細い匙のような頭をしたヨコバイ(横這い)の仲間(ホソサジヨコバイ亜科)」ということだろう。特徴を現しているという意味ではわかりやすいが……名前としては長くて覚えにくい。そこで(?)【マエムキダマシ】と呼ばれていたりもするらしい。ニックネームの由来は「前(頭)の向きを騙す虫」だろう。トリッキーな模様を持つ虫にふさわしい。
クロスジホソサジヨコバイはふつう葉の裏にとまっているので、通常目にするときは逆光となる。すると明るい色の(本当の)脚は葉にとけこんで目立たなくなり、逆に黒い模様が鮮明となる。その結果、本当の頭とは反対側に頭(眼や脚・触角)があるかのように見えるわけだ。




背中を走る黒い帯があたかも左右の上翅の会合部のように見える。この黒い帯をほどこすことで、この帯が途切れた(実際の)翅端に前胸・頭部があるように錯覚させる。本当の頭部には実際の翅の会合線から黒い帯が続いてきているので、こちらが翅端に見えるしかけだ。この頭部の黒い帯の中央にはわずかに隙間もようがほどこされていて、あたかも左右に開きそうな上翅先端を思わせる凝ったデザインになっている。


同じ個体がとまった葉を裏返して順光で撮ったもの↓。


この個体は背中の黒筋両脇に赤い模様が入っている。クロスジホソサジヨコバイには黒い筋の両脇の赤い模様が顕著なものとそうでないものがあって、このカラータイプの違いを僕は♂♀の違いだと思っていた(ネット上にはそうした情報もある)のだが……今回調べ直して見たら、そうではないらしい。ネット上には同タイプのペア・ショットがアップされていた。
この赤みがもっとハッキリ出ている個体がいないか探していると──近くのアラカシの葉の裏に更に小さな白っぽいヨコバイを発見。初めて見る種類だったが、マエムキダマシ的なデザインだったので驚いた。

シロヒメヨコバイのフェイク









もう少しキレイに撮りたかったのだが、小さくて難儀。すぐに飛び去ってしまったので少ししか撮れなかった。帰宅後しらべてみたところ【シロヒメヨコバイ】らしい。別の種類なのにクロスジホソサジヨコバイと似たフェイク模様を持っているのが興味深い。

フェイク模様の意味

クロスジホソサジヨコバイ(ホソサジヨコバイ亜科)にしろシロヒメヨコバイ(ヒメヨコバイ亜科)にしろ、よくできたフェイク模様に見える。亜科をまたがって同じような模様が実現しているということは、この模様には擬態としての機能がある──《生存率を高める効果》があって採用されてきたのだろうと考えたくなる。
《捕食者の注意をニセの頭側にそらす陽動効果》で逃げ延びるチャンスを増やしているという解釈だ。
全く離れたグループのチョウなどでも頭とは反対側に逆向きの目玉模様や触角もどきのデザインを施したものがある。


(※↑は【眼状紋と眼隠蔽模様】より)
では、頭とは反対側に逆向きのダミー頭があると、どういう利点があるのか?
昆虫の天敵である鳥は、昆虫が持つ大きな目玉模様を恐れ、小さな目玉模様を攻撃するという(ミールワームにペンキで目玉模様を記して鳥の反応を調べた人がいたとか)。
《大事な頭を守るために翅端のフェイク頭に天敵の攻撃をそらす》という意味もあるだろう。「背に腹はかえられない」的な? 実際、ウラナミアカシジミやアカシジミなどでは翅端の紋や尾状突起部分が欠けた個体をしばしば見かける。敵の攻撃を受けながら逃げ延びた個体なのだろう。

また、《攻撃そのものを外す効果》も期待できるだろう。
天敵が虫の頭部(眼)を狙って攻撃をしかけたとする。虫はその攻撃が届く前に飛び去ることができれば生き延びられる。
頭は体の先端にあり、通常昆虫は頭の方へ逃げようとする。頭があった位置を胸・腹と通過するまでにいくらかは時間がかかり、その間に天敵の攻撃が届けばアウト。しかし翅端にある逆向きのフェイク頭めがけて天敵が攻撃を仕掛けてくれば、頭や胸など体の主要な部分は既にターゲットの外にあるので翅端分だけのわずかな移動で攻撃をかわすことができる。
昆虫は前方方向に逃げることを見越した「頭より前方」をカバーするような捕獲術を天敵が獲得していたとしたら、想定外の「逆向きに逃げる」ことは効果的な対策に違いない。
そうしたことを考えると、昆虫が《翅端に逆向きのダミー頭(フェイク模様)を持つ意味》は納得できる。

マエムキダマシは誰を騙すのか



ただ……チョウのウラナミアカシジミが眼状紋を狙う鳥用対策にフェイク頭を持つのは、なんとなく想像でき納得もできるのだが……クロスジホソサジヨコバイやシロヒメヨコバイの場合は「どうなんだろう……」と思わないでもない。鳥が狙うには小さすぎる気がするのだ。
葉の裏に隠れている、こんな小さな虫の極小フェイク模様が鳥たちには、ちゃんと見えているのだろうか?


クロスジホソサジヨコバイやシロヒメヨコバイの想定天敵は鳥ではないのか?
だとすると、彼らのフェイクは誰を騙すためのものなのだろう?
ヤモリやカナヘビ・トカゲのたぐいが対象なのだろうか? これらの幼体ならサイズ的にエサになりそうだ。
それとも、捕食性の昆虫やクモが天敵なのだろうか?──サイズ的にみれば、鳥や爬虫類より、昆虫やクモがクロスジホソサジヨコバイやシロヒメヨコバイの天敵であると考える方がイメージしやすい。
で、あるとするなら──捕食性の昆虫やクモは、《狙った獲物の頭部をきちんと確認して攻撃している》ということになりはしないか。なぜなら、クロスジホソサジヨコバイやシロヒメヨコバイの天敵に《頭部を狙う》習性が無ければフェイク模様は必要ない──存在する意味が無いからだ。

これまで僕は、捕食性の昆虫やクモが獲物を捕らえるのは、動くもの・あるいはエサと認識したものに対する反応──くらいにしか思ってこなかった。しかし《頭部を認識して攻撃する》あるいは《獲物が頭部方向へ逃げることを折り込んだ攻撃をする》などといった想像以上に細かい判断をしているのかも知れない?

それとも──フェイク模様は偶然の産物にすぎず、たまたま《そうみえるだけ》なのだろうか?
しかし、偶然に現れた模様であるにしては、ちょっとできすぎている気がするし、偶然の産物なら、フェイクになりそこなった模様がもっとたくさんあってもよさそうな気もする。
あるいは、昆虫の模様には形成上(?)出現しやすいパターンがあって、異種間でも似た模様が出現する──その1つにすぎないということなのだろうか?

クロスジホソサジヨコバイやシロヒメヨコバイのフェイク模様を見て、いろいろ想像が展開した……。

ギボッチャーから、にわか葉メクリスト

クロスジホソサジヨコバイは2007年3月に偶然みつけて撮っていたが、それ以来ずっと見ていなかった。僕は擬木ウォッチングはするが、葉をめくって虫探しをすることはほとんどないので、目につく機会がなかったためだろう。しかし、葉メクリスト(葉の裏につく虫を撮っている人)のブログなどにしばしば登場しするので、「しばらく見ていない」という感覚は無かった。
クロスジホソサジヨコバイは見た目もキレイだし、晩秋から冬には常緑樹の葉の裏を探すと見つけやすいらしい。カメラを換えてからまだ撮っていないし、Yahoo!ブログではまだちゃんと取り上げていなかった昆虫でもあるので、撮りに行ってみよう──そう思い立ったのが、つい先日。
「擬木ウォッチャー」略して「ギボッチャー」(「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーみたいな響きだが…)から、にわか「葉メリクスト」へ──変身!?

とりあえず、冬場の定番(?)ヤツデをめくって歩くが、スカ(ハズレ)が多い……。たまにチャタテムシかキジラミのようなハズレ感のある虫がいたりするが、目的のクロスジホソサジヨコバイがヒットするイメージが湧かない……。
少し前にキウイヒメヨコバイを見つけた時は、ビギナーズラックで最初にめくった葉の裏に、いきなりたくさん目的のヨコバイがヒットして驚いたが……一生懸命葉をめくってもスカが続くと空しい気分になってくる……。
《「自販機の下にはよくお金が落ちいてる」と聞いて自販機の下を一生懸命のぞいてみたけど、けっきょく何も見つからなかった……》みたいなわびしい気持ちになるのはナゼ?
これまで葉めくりをしてこなかったので、どんなところに虫が集まるのか、さっぱりイメージがつかめない。
カメラを向ける気になった虫と言えば、《金のX》がトレードマークのセモンジンガサハムシくらい。




この虫はサクラの葉の裏でよく見つかるが(葉をめくらずとも、下からのぞけばわかる)、今はサクラの葉はすっかり落ちて、アラカシの葉のうらに張りついていた。

闇雲に探しても手応えが得られないので、以前クロスジホソサジヨコバイを見つけた場所に行ってみることにした。そしてようやく目的の虫を見つけることができたのであった。


2007年に偶然見つけた時は陽当たりの良いアラカシ(たぶん?)の生け垣の葉の裏にいたのだが、今回はじめて見つけたのは、この生け垣の中にある落葉樹っぽい植物の葉だった。落葉が進むまでは吸汁しやすい(?)落葉植物に(も)ついているのかもしれない。後にこの木のまわりのアラカシ(?)の葉の裏でも次々に見つかる。




上の個体がついた葉をゆっくりめくって順光で撮った画像↓



なんとか目的のクロスジホソサジヨコバイ&オマケのシロヒメヨコバイを撮ることができて、ちょっと安堵。
しかし「葉メクリスト」としてのセンスの無さや経験値の低さを思い知ったのであった……。


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コメント

No title
こんばんは^^

いつもながらの素晴らしい昆虫の観察力と撮影、解説には頭が下がりますm(__)m

楽しく、そして興味深く拝見させていただきました^^

昆虫って^^本当に面白いですね

ナイス
No title
> みえちゃん♪さん

Yahoo!ブログではまだちゃんと取り上げていなかった虫だったので、あらためて色々考えたことを含めて、まとめてみました
No title
葉メクリスト、そしてギボッチャーと、命名大王と呼びたくなりますね。
うーん、センスが違うんだなあと変なところに感心してしまいました。
研究者になって新種の昆虫に名前を付ける人になってほしいです。

たしかに黒い点のもようが眼のように見えますよね。
というかヒゲが二本ずつ生えてる猫、みたいに見えてきました。。。
たしかに、誰に向けての「マエムキダマシ」なのでしょうね。
鳥がヨコバイ食べてるの、見たことない気がしてきました。
今度気を付けて見てみようと思います!

裏から陽が当たると、ヨコバイの翅って透けて見えなくなるんですね。
よくいる緑とか黄色一色のヨコバイは、もう全然見えなくなるのでしょうね。
No title
> noriさん

アブドーラ・ザ・ギボッチャーと呼んでください(笑)。にわか葉メクリストになって、葉めくりの大変さがわかりました。
おもしろい虫に出会えればテンションがあがりそうですが、スカ続きだと心が萎えてきますね。

そういえば、noriさんが撮っていたシロズヒメヨコバイも、側面からみれば、翅端が逆を向いた虫の脚っぽく見えそうな。
探せばまだ、なんちゃってマエムキダマシがいるのかも?
(ヒメヨコバイはもう少し大きければ撮りやすいのに……)

虫を見ていると脳みそが刺激されます……。
No title
凄い!
まんまと騙されてしまいました。
クロスジホソサジヨコバイに出会ったことがなく、
画像ではなんの疑いもなく間違ってました。
凄いです!

それたちを見つける星谷さんはもっと凄いと思いました。

私は葉めくりに対する根性がたりませんでした。
頑張ってみます!
No title
面白いですね🎵
見事に私が騙されました(笑)
No title
> ピンちゃんのママさん

小さな虫なんですが、アップにするとなかなか凝ったトリックアートになっていて感心しました。
クロスジホソサジヨコバイは色彩的にキレイだし、冬には見つけやすくなるらしいので、出会えるチャンスも大きいのではないかと思います。

きっと、いる場所(環境)がわかれば見つけるのはそう難しくないのだろうと思いますが、どんなところにいるのか……葉メクリストの経験値が無いのでよく判りませんでした。
僕が見つけたのは陽当たりの良い場所でした。見つけられるといいですね。
No title
> すぬーぴーさん

クロスジホソサジヨコバイのトリックアート、面白いでしょう。
こんな虫をみつけるとテンションが上がります(笑)。
No title
面白いです。
良く観察されていますね。
クロスジホソサジヨコバイこんな小さな虫は誰を騙すのか気に成ります。
ナイス
No title
> 市川さん

よくできたトリックアートなだけに、フェイクの頭は誰を騙すためのものなのか……不思議ですよね。
昆虫やクモなどが対象だったとしたら──昆虫やクモが獲物の頭部をちゃんと確認して攻撃していることになるわけですから、これもビックリな話だと思いました。
No title
今の時期は虫が少ないので、昆虫好きにはツマラナイ我慢の時ですよね。
おのずと狙いの昆虫は限られてくるので、探す場所が絞りやすそうな気もしますが…
ここ暫く探索結果ハズレ(スカ)ばかりなので......
No title
> カメレオンーアームスさん

寒くなってくると、活動している虫の種類は少なくなってきますね。昔は冬には虫はいないものだと思っていましたが、虫見をするようになって意外にそれなりに(?)いることが判ると、冬も注意して見るようになりました。
フユシャクが出てくるようになると、またちょこっとにぎやか(?)になるような。
今年はいまのしところ確認したフユシャクは3種類ですが、そろそろ他の種類も見られるだろうと楽しみにしています。
No title
こんばんは。
・・・今回の考察も!とても愉しく拝読させて頂きました!!!☆

特に小さな虫に惹かれる様に成ってからと言うもの・・・
この「クロスジホソサジヨコバイは憧れの虫の一種に成りました」が・・・まだ見つけれずにいます(泣)
ヤツデの葉を視れば、必ず葉の裏チェックをしてみますが!残念なことに出会えないんですよ~・・・
・・・確かに、鳥の攻撃から逃げるため!とは考え辛いですよね!・・・
その事から考えられた考察が!「流石!素晴らしいですね~!」
面白いです・・・クモ・・・どうなんだろ!(クモファンの私としては、「クモ頑張れ!」と訳の分からないところに反応してしまって・・・)
No title
> 今日も、こっそり自然観察!さん

葉メクリストの方のブログではしばしば見かけるクロスジホソサジヨコバイ──比較的容易に見つけられるようなニュアンスを感じていたのですが、「葉めくり」に馴れていない僕には探すのが難しかったです。
けっきょく、以前偶然みつけた場所へ行って撮ることができたのですが、「葉めくり」で探していたら見つけられたかどうか……。

「ヤツデが定番」と思っていたのですが、僕が撮ったクロスジホソサジヨコバイがいたのはアラカシの生け垣にいました。アラカシやシラカシなどにも集まりがちなのかも?

「マエムキダマシ」なデザインは面白くて想像力を刺激してくれました。本当の所はどうなのか……真実はわからないにしても、自然物を見て感じたり考えたりするのは虫見のおもしろさ・醍醐味だと感じています。
今回はクロスジホソサジヨコバイの騙し絵的デザインに感心しつつ、これがクモや捕食性昆虫向けだったとしたら……クモや捕食性昆虫ってスゴイなぁ!──などと想像して間接的に(?)感心してしまいました。

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