デオキノコムシの切れた?触角

この画像↑は4月上旬に撮った虫。とりあえずキレイだったので撮影してみたのだが、その時点で名前は判らなかった。帰宅後調べてみると、どうやら【ヤマトデオキノコムシ】っぽい。図鑑や検索した画像と見比べて「たぶんこれだろう」と思ったのだが……気になったのが触角──僕が撮影した虫の触角はきわめて短い。しかし、図鑑や検索画像で確認した【ヤマトデオキノコムシ】の触角は、もっと長い。虫見をしていると、触角の片方が短かったり欠けている昆虫を目にすることもしばしばある。だから「たまたま触角を損傷したヤマトデオキノコムシ個体」なのだろうと判断したのだが……触角が2本とも切れた個体というのが、何だか気にかかった。触角の片方が欠けた個体が珍しくないのだから、両方欠けた個体が存在するのは確率的な問題で不思議ではない。ただ、長くはないだろう昆虫の(甲虫類・成虫の)生涯において、触角を両方失う事態というのはどんなものだろう?……スッキリしないものが漠然と残っていた。
やはり前回見たのは「触角が両方とも切れた【ヤマトデオキノコムシ】」で良かったのだろう──そう納得する一方、「この虫は触角が切れやすいのだろうか?」とあらためて疑問に思った。
どうして触角がやすやすと切れるのだろう?
触角が欠損しても生活に困らないのだろうか?
ならば触角は何のためについているのか?
切れた触角に関する疑問が次々に浮かぶ。そして──、
《自然に偶発的な事故で「切れた」のではなく、積極的に「切られた」のではなかろうか?》──ふとそんな思いがふってわいた。「切られた」のだとすると、「切った」犯人は誰か?
昆虫を狙う天敵が本体を食わずに触角だけ食べるとは考えにくいから、同種間の争いが原因か?
♂同士の争いで欠損するようなことはあるかもしれない? あるいは……。
そこで脳裏に浮かんだのがマイミク・オコック氏が以前記していた日記──ヒラタシデムシは交尾のさいに《♂が♀の触角をくわえてコントロールする》という内容だった。彼はその日記で「時にはアンテナが欠損した♀も見る」とも記していた。
ヒラタシデムシの仲間は交尾で触角をくわえる
交尾の際に、抵抗する♀をコントロールするために触角を抑えてしまうというのはなるほど合理的だ──オコック氏の日記を読んだ時そう感じた。抗う♀を制御するのは大変そうだが、まずつかみやすい触角をくわえ♀との距離を固定してしまえば、そこからマウント体勢に移行するのはたやすくなるはずだ(「距離の固定」→「角度の固定」という手順)。オコック氏は本州に生息するオオヒラタシデムシでも同様の行動が普通に見られると記していた。検索してみると、なるほどオオヒラタシデムシやクロボシヒラタシデムシ、ヨツボシヒラタシデムシの《オスがメスの触角をくわえて交尾する》画像がヒットした。この行動はヒラタシデムシ亜科の多くでみられる行動だそうだ。
そういわれてみると、シデムシの仲間の触角は先端部分が太く「つかみやすい構造」になっている……ようにも見える。例えて言えば野球のバットのグリップエンド──スンイグした時に遠心力でバットが手からすり抜けてしまわないようにバットの根元は太くなっている──あの部分に似ている。シデムシの触角もバットのグリップエンドのような「すっぽぬけない構造」として(も)機能しているのではなかろうか?
昆虫の触角は「感覚器官」という認識でいたが、ある種の昆虫たちにとっては《♀の触角は交尾の成功率を高めるための補助器官》としての役割りも果たしている──ということなのだろう。
触角が交尾の道具であるなら…
オコック氏はその日記で触角を欠損した♀にも言及していたが、検索した記事にも触角が欠けたオオヒラタシデムシの画像があって、やはり「交尾の際に切れてしまったのではないか」と考えるブロガーさんがいることを知った。また、以前@niftyの昆虫フォーラムで交流があった忠武っ子氏のシデムシの世界に次のような記述があることを改めて知った。
6. ヒラタシデムシ類は交尾のとき、「ひげ噛み行動」を見せる。
ヒラタシデムシ類の多くの種は、交尾の際オスがメスの片方の触角を強く噛んで引っ張る行動をします。触角が噛み切られてしまうこともかなりの割合で起こります。このように一見交尾相手のメスに不利になるような行動が、なぜ進化し得たのか大きな謎です。
「触角をくわえて引っ張る」という交尾行動の結果、♀の触角が切れてしまうなんてことが起こるのか……オコック氏の日記を読んだ当時はそんなふうに解釈し納得していたのだが……触角が欠けたヤマトデオキノコムシを見て疑問に思ったことをきっかけに想像が展開した。
(ちなみに、両方とも触角が欠けていたヤマトデオキノコムシだが、和名に「キノコムシ」とついているが、キノコムシの仲間──オオキノコムシ科・ヒキノコムシ科・ツツキノコムシ科──よりもハネカクシやシデムシに近いらしい。デオキノコムシの触角も先端が太くなっている)
《♂は交尾後に♀の触角をそのまま噛みちぎってしまえば、次の♂の交尾を阻む事ができるのではないか》
つまり♀の触角の欠損は「交尾の際に強くひっぱられて【切れてしまった】」というより「交尾した♂に【切られてしまった】」のではないか──そんな見方もできるのではないかと考えたわけである。
《自分が交尾した♀をガードし続け、他♂が交尾をすることを阻む♂》の遺伝子が、そうでない♂の遺伝子より勝ち残りやすいことは想像できる。その結果、《他の♂との交尾を妨害する》傾向は進化の中で強化されがちだろう。
だとすれば、交尾後♀の触角を噛み切ってしまう事は、交尾後♀をガードし続けるのと同様の効果が期待できる有効な手段ではないだろうか。交尾後1匹の♀をずっとガードするよりも、触角を噛みちぎって(他の♂と交尾しにくいようにして)、次々と他の♀と交尾した方が効率的に自分の遺伝子を残せる──そんな利点も考えられる。
これはつまり、《触角を噛み切られた♀は交尾できなくなる》ということだろう。
こうした種にとって、《他♂との交尾を阻むために、交尾後♀の触角を噛み切る》ことは♂にとって有効な戦略と言えるのではないか?
ヨツボシヒラタシデムシの交尾
《♀の触角は交尾の成功率を高めるための補助器官》というイメージが当っているのかどうか、ヒラタシデムシ亜科の交尾を実際に確かめてみたくなった。そしてヨツボシヒラタシデムシでそのようすを観察することができたので前記事(*)に記した。


ヨツボシヒラタシデムシの♂が♀の触角を噛むのは交尾のプロセスの一環であろうことは実感できた。この行動によって♀の触角が切れてしまう事も充分あり得そうだ。そして触角が切れた♀では《交尾のプロセス》が成立し得なくなる、あるいは《交尾》が成立し難くなるということも起こりうるだろうと改めて感じることができた。
あくまでも思考シミュレーション【オスによる触角切り(予想)】
実際にヤマトデオキノコムシが交尾の際に触角を利用するのかはわからない(検索した画像では交尾中触角はくわえられていなかった)。なので、ヤマトデオキノコムシが「♀の触角を【切る】」習性を持っているのかどうかもわからない(というより怪しい)。ヒラタシデムシの仲間が交尾の際に♀の触角を物理的に利用している(らしい)ことはわかったが、他の♂との交尾をさせないために【切る】という行動を積極的に行なっているのかどうかについては定かではない。
《こうした行動をとる昆虫がいてもおかしくはないだろう》《そんな昆虫が世界のどこかにいるのではないか》と想像してみたしだい。
この【予想】に該当する例が、はたして存在するのか否か……僕は(まだ)知らない。
・・・前記事から時間を空けて、こちらの記事もじっくり興味深く拝見させて頂きながら・・・(耳が真っ赤に成程、気恥ずかしく成り!取り敢えず、前記事に書いたコメントのセリフの妄想だけでも星谷さんの目にふれないうちに消さなければ!と思いましたが・・・時既に遅く・・・泣)
・・・あの小さな生物(虫)の触角一つとっても、これだけの不思議・機能・科学的根拠があるなんて・・・驚きです・・・。
・・・単純に、触角は感覚等の器官とか機能ぐらいにしか想っておりませんでした・・・
「物理的な利用!?・・・又は、ヒラタシデムシの♀の触角は交尾の成功率を高めるための補助器官・・・!?」 奥深いですね~・・
遺伝子を残すための必死の攻防!種の保存のための必死の策!・・・
虫達はそれぞれ、この地球の環境に自分達の身をまかせながら生き残りに懸命ですね!・・・
人も、自分達に環境をあわすことばかりを考えるのではなく、共存の道をさぐるべきでは?(あら?記事から相当ずれてしまいました)
・・・様々な事を考えながら、楽し拝見させて頂きました!!!☆
それで、こっそりさんとはまた違った意味で妄想が展開していったしだいです。
虫たちは想像力刺激剤ですね。


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