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珍事記事、ハリネズミではなくヤマアラシ

■落ちてきたのは「ハリネズミ」ではなく「ヤマアラシ」

地デジ化を機にテレビから離脱しているから、ニュースはもっぱらインターネットで読む。生き物に興味があるから、動物がらみの見出しには目がとまりがちだ。先日も「ハリネズミ」の見出しにひかれて、こんな記事を読んだ。

●女性の頭にハリネズミ落下、270本刺さる リオ市街地
http://www.asahi.com/articles/ASG1L25G8G1LUHBI005.html

概要はブラジルのリオデジャネイロで、歩いていた女性の頭にハリネズミが落下し、女性の頭には270本ものハリが刺さって病院で治療するはめになった──というもの。しかし、そんな目に合いながら被害女性は「お年寄りや子供の頭に落ちてきたら、こんなけがではすまなかったでしょう。でも、私の頭がクッションになってハリネズミの命を救えたならうれしい」と話したという内容だった。

この見出しを見たときにまず感じたのが、「ハリネズミが落ちてくるって……いったい、どういう状況?」という疑問だった。僕もハリネズミを飼っていた事があるが(*)、地上を徘徊するこの動物が木登りするとは思えない。
記事を開いてみて、「ブラジルで起きたこと」「女性の頭にたくさんのハリが残っていた(つまり、ハリは敵に刺さると抜ける構造だった)こと」などから、「ハリネズミ」と記されている動物はハリネズミではなく、「ヤマアラシ(アメリカヤマアラシの仲間)」に違いないと思った。

ハリネズミは「ネズミ」の名がついているが、ネズミの仲間(げっ歯目=ネズミ目)ではない。僕が飼っていた頃はモグラの仲間(食虫目=モグラ目)とされていたが、今はハリネズミ目として独立している(かつての食虫目=モグラ目は無くなり、モグラは現在ではトガリネズミ目のモグラ科という扱い)。
一方ヤマアラシは見た目はちょっと違和感があるかもしれないが、ネズミの仲間(げっ歯目=ネズミ目)。アメリカヤマアラシの仲間は木登りも得意だというから、ブラジルで(高い所から)落ちてきたという記事のようなことが起きても不思議ではない。落下してきた動物は「ヤマアラシ」だったのだけれど、「背中にハリをもつネズミ目の動物」ということで「ハリネズミ」と勘違いされて報じられることになったのだろうか?……などと誤報の経緯を想像したが……真偽のほどはわからない。

後に同じエピソードを伝えた英文記事があることを知り、自動翻訳してみたところ、問題の動物は(やっぱり)「PORCUPINE(ヤマアラシ)」であることが記されていた。


※同エピソードを伝えた英文記事
●Housewife left in agony after PORCUPINE falls onto her head while she was walking her dog
http://www.mirror.co.uk/news/weird-news/housewife-left-agony-after-porcupine-3032618#.Uts9EPaAbJx

僕が最初に読んだ日本語記事は現地テレビ局の報道を伝える形で記されていたが、オリジナルの現地(ブラジル)報道の時点で「ハリネズミ」と誤報されていてそのまま翻訳したのか、それとも翻訳の時点で「ヤマアラシ」を示す単語が「ハリネズミ」と誤訳されたのか……いずれにしても、日本語の記事にするさいに記者が内容を確かめていたなら「ハリネズミ」という誤報は防げたのではないか……という気がしないでもない。じっさい英文記事では、ちゃんと「ヤマアラシ(PORCUPINE)」と報じられている。

僕のように生き物への興味や動物についての情報が知りたくて記事を読む人は少なからずいるだろう。そんな読者にとっては「動物についての誤った情報が発信されている記事」は残念でならない。

一方、動物への興味でこの記事を読んだわけではない読者からすれば、「落ちてきたのがハリネズミだろうがヤマアラシだろうが、そんなことは記事の趣旨とは関係ない」のかもしれない。
この記事の趣旨は「動物が頭に落下し270本ものハリが刺さるという珍事」と「被害者女性の心温まるコメント」にあるのだということはわかる。
このエピソードを紹介した記者(朝日新聞記者?)は、その「趣旨」で記事を書いたのだろうし、読者の多くもその「趣旨」で記事を受け止めたことだろう。

しかし、報道記者が、自分が伝えたい「趣旨」を記事にするさいに「検証」をおざなりにして良いのか?──という気がしないでもない。
報道記者は、世の中で起こっている事柄を自分の「趣旨」に合わせた構図で切り取り、大衆に伝えようとする。それ自体は必ずしも悪い事とはいえないが、内容が本当に正しいのか・情報に間違いが無いかを確かめる「検証」のプロセスは必要なはずだ。

この記事では「ハリネズミ」という誤認が発信されたことで「検証」がちきんとなされていなかったことが露呈したかたちだが、こうなると、おそらく「趣旨」の1つであったと思われる「被害者女性の心温まるコメント」部分についても、本当に正しく伝えているのだろうか……という疑問が浮かばないでも無い。

記事の最後に、ひどい目にあった被害者のコメントが紹介されているが──、

>「お年寄りや子供の頭に落ちてきたら、こんなけがでは
>すまなかったでしょう。でも、私の頭がクッションになって
>ハリネズミの命を救えたならうれしい」と話しているという。

日本語記事では「と話しているという」という伝聞で記事がまとめられている。つまり、記者は被害者女性のコメントを直接確かめることなく記事を書いた──ということになる。
この記者は地元のテレビ報道を見ただけで、事実関係を確かめたり内容を検証する「取材活動」をする事無く記事にしたのだろうか。
報道記者が自分の「趣旨」を伝えるために「事実確認」を怠って記事を書いているとしたら──、また、他社(他者)の報道を拾って「取材無き記事」を書いているのだとすると、大いに疑問を感じる。

今回の記事では、単にと動物種の誤認に留まらず、記者の取材姿勢・記事の信憑性、さらに言えば読者のリテラシーのようなものについても、いろいろ考えさせられるものがあった。



*ミミナガハリネズミ(オオミミハリネズミ)
https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-147.html

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コメント

No title
こんにちわ(^^♪

記事にするならちゃんと確認してから記事にして欲しいですね

私なら270本の頭に刺さってそんな事が言えないかもです
頭にヤマアラシ落ちてきた方早く良くなるといいですね
No title
たしかに記事にしたくなるエピソードだと思いますが、報道記者が記事にする際には、やはり内容を確かめる程度の取材は最低限必要だと思います。

ちなみに、ハリネズミのハリは身を守る「バリヤー」のような感じで、触った時だけ痛いのですが、強く抑えたり叩いたりしない限り特に危険はありません。それに対しヤマアラシのハリは身を守る「武器」といった感じで、触れると簡単に抜けて相手に刺さったまま残るようになっているみたいです。それで被害女性は270本もハリが刺さったまま病院へ行くことになってしまったのですね。

多くの読者はこの記事を読んで心優しい女性コメントに好感を持ったことと思います。
一方この記事でハリネズミを《「武器」で人を病院送りにする危険な動物》と誤認した人がずいぶんいただろうと考えると、残念です。

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