コノハムシ(タイ産)~卵から成虫まで~
コノハムシは打ち出すように卵を飛ばす。飛ぶことができない成虫♀が、少しでも生息域を拡げようとしてのことだろうか。卵はバラけて広い範囲に落ちた方が、リスクが分散できるという効果があるのかもしれない。卵は植物の種子のようにも見えるが、オーストラリアでは種子に擬態したコノハムシの卵をアリが種子と間違えて(?)巣に運び込み、コノハムシは捕食者から守られて孵化する(孵化した幼虫は木に登る)──という種類がいるらしい。

画像↑左2枚はプラケの底に落ちた卵。しめった砂の上に置くと水分を吸収して形が変化する。卵蓋(らんがい)と呼ばれるフタ部分の突起が目立つようになる。

卵には自切線(じせつせん)と呼ばれる切れ込みが入っていて、孵化の時にフタにあたる卵蓋(らんがい)がハッチのように外れる構造になっている。右が孵化後の卵(抜け殻)。

孵化したばかりのコノハムシは赤い。そして意外なほどよく歩く。腹を丸く反らせて歩く姿はまるでアリのようだ。
地面で孵化した幼虫は餌のある木の枝の先端まで移動しなければならない。その間は緑だとかえって目立つのかもしれない。赤いアリに擬態することで敵からの攻撃を回避する効果もありそうな気がする。

孵化したコノハムシは高いところを目指す。高いところを目指す事で、枝先の若葉(まだ柔らかい葉しか食べることができない)に到達できる──というシステムなのかもしれない。

孵化したばかりのコノハムシの餌(孵化した日は食べず翌日から食べ出す個体が多かった)として適したシラカシの若葉。新芽から展開した若葉は赤い。孵化したコノハムシが赤いことと関係があるのだろうか。
本種が現地でどんな木につくのかは良く判らないが、コノハムシの餌として知られているカカオ・マンゴー・グァバなどを調べてみると、やはり新芽は赤いらしい。
孵化したばかりのコノハムシがたどりついた枝先で目立たないように!?──赤い体色にはカムフラージュとしての効果があるのかもしれない。

葉の裏に移動した幼虫は数日で緑色に変わる(1齢のうちの変化)。しかし体の縁や脚などには赤茶色の部分が残る。
幼虫が食べる柔らかい若葉は齧った痕が茶色っぽく変色しやすい。
緑の体に赤茶のもよう──幼虫は食痕が変色した葉に似ている。

コノハムシは葉を食べる他はあまり動かず、葉の裏にじっと隠れて過ごす。
おおよそ1ヶ月前後で脱皮を繰り返しながら成長する。
成長の途中で脚を落とすことがあるが、失った脚は脱皮とともに再生する。

成長速度は個体によってバラツキがあり、同じ時期に同じ容器で飼育していたのに8齢で成虫になった個体と10齢で成虫になった個体がいた。
※脱皮の様子は→●コノハムシの脱皮
脱皮をくり返し成長するとともに、ますます木の葉に似てくるコノハムシ。ふだんは葉の裏にとまり、重なる葉のように腹面を日光に向けていることが多い。

体を草木に似せた昆虫は多いが、飛び出した触覚や脚をたよりに探すと隠れていても比較的見つけやすい。しかしコノハムシ(特にメス)は触覚が短い上に前脚がピッタリ頭の縁にそって輪郭を隠す事ができるので見つけだすのは困難である。
また、画像のように脚はぴったりと収納できるので「消えた」ように見える。
カムフラージュ(隠蔽擬態)の達人・森の忍者である。

体が葉のように薄くなれば当然内蔵も透けてバレやすくなるハズなのだが、それを隠す術も身につけいてるのがすごいところだ。
※写真で確認すれば一目瞭然→●コノハムシ:葉に化ける工夫



飼育していた個体の中にはこの紋がハッキリ出現したものと全く無いものがいた。一時期出現したのに成長とともに消えていった個体もいた。穴のあいた葉がたまにあるように、穴のような紋が出現する個体もたまにいる──ということなのだろうか。
コノハムシが葉を食べているところ(↓)。




そしていよいよ羽化。成虫♀は葉脈もようの翅をまとい、さらに葉とそっくりになる。

●コノハムシの羽化
みごとに葉に化けた翅だが、コノハムシ成虫♀は飛ぶことができない。
(♂はもっとほっそりしており葉にはさほど似ていないが、飛ぶ事ができる)
完璧なカムフラージュ(隠蔽擬態)を極めたためにか(?)、こんな事故が起こることも……。

餌(葉)と間違えられてのことなのか、縄張り争いのようなケンカが原因なのか、齧られた理由はわからないが……。【追記:葉と間違えられてかじられるようだ→コノハムシの誤食>葉と間違われて齧られるコノハムシ】
木の葉のようなコノハムシ成虫♀は、羽化から1ヶ月ほどで木の種のような卵を産み始める。コノハムシは♂がいなくても単為生殖で殖えることができる。
●コノハムシ:卵と幼虫・大きさ比較
●コノハムシ:卵と1齢幼虫
●コノハムシ:1齢幼虫の体色の変化
●コノハムシ:1齢~3齢
●コノハムシの飼育容器
●コノハムシ:葉に化ける工夫
●コノハムシ:逆光でも内蔵の影が透けないしくみ
●コノハムシの偽瞳孔
●コノハムシ:脚の再生
●コノハムシの脱皮
●コノハムシの羽化
●コノハムシの成虫比較(8齢と10齢)
●コノハムシ:成虫&終齢幼虫
●コノハムシの歌~考察
●コノハムシの体色変化
●コノハムシの誤食
●擬態の達人コノハムシ~TV番組
コノハムシはおもしろいですね。
飼育していると驚いたり感心する事が多いです。
年末なので(?)ちょっと「まとめ」をしてみました。
もうまもなく年が明けますが、2010年も宜しくお願い致します。
いやあ聞きしに勝る素晴らしい観察と、写真と、見事な画ですね。これは埋もれさせておくのはもったいないですよ。月むあたりにカラーで載せてほしいくらいです。
ハードな虫屋さんにそう言っててただけるとは光栄の限りです。
素人なりに「へえ!?」とか「こりゃスゴイ!」なんて感じることが多い、フシギな昆虫ですね、コノハムシは。
至らない点は多々あるのでしょうが……昆虫を見ながらあれこれ想像するのは楽しいです。
コノハムシ…名前は初耳でしたが
虫はテレビで見たことがあります!!
自分が食べた葉っぱを自分に似せるところが
なんとも賢いというかしたたかと言うか
なんだか人間がやりそうなことをこんな小さな虫もするなんて…
虫って面白いですねぇ~♪
コノハムシは葉に擬態した昆虫──ということは知っていたのですが、食べ残した葉の痕があるとカムフラージュがさらに完璧になるのを見て感心しました。
実際にプラケの中のいるはずのコノハムシが葉にとけこんでなかなか見つけられない事もしょっちゅうです。
人間よりはるかに進化の進んだ昆虫は、なかなかあなどれません(笑)。
コノハムシは飼育下の個体しか見た事が無かったので、興味深かったです。
現地のフィールドで虫たちに出会うと、新鮮な驚きや感慨があるのでしょうね。
僕のブログを紹介していただき、ありがとうございました。
僕の飼育経験が何らかの参考になればうれしいです。
ネット上に公開している記事は誰でも閲覧できることを前提に作成しているので、お断りをいただかなくても紹介していただくことに問題はないと考えています。
公開になったら拝見させていただきたいと思います。
ここで紹介したコノハムシはタイ産で、残念中ながら日本には生息していません。
日本にいる虫ではナナフシの仲間がちょっと似ていますね。葉に擬態しているか枝に擬態しているかという違いはありますが、単為生殖したり再生したり……共通するところもあって、ナナフシの仲間もおもしろいです。


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