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ニホントビナナフシ東京でも両性生殖



『ナナフシのすべて』(岡田正哉・著/トンボ出版/1999年)に《九州以北ではおもに単為生殖、屋久島以南では両性生殖をすると思われます》と記されているニホントビナナフシ。Wikipedia【ナナフシ】にはニホントビナナフシは《本州の個体は単為生殖を行う》と記されている。


1年前にオスを見るまで、単為生殖エリアの東京にニホントビナナフシ♂がいるとは思っていなかった。今年は交尾が確認できたので記しておきたい。

晩秋に多くみられるニホントビナナフシ

このあたりでは晩秋にニホントビナナフシをみかける機会が増える。エサである葉が枯れ、落葉することで降りたり葉とともに落ちてきたものが擬木に這い上がってきて目立つようになるためだろう。コナラやクヌギの下の擬木手すりで密度が高い。このほとんどが成虫♀だが、たくさんの個体を見ていけば、発生率の低いオスにもいつかは出会えるのではないかと探していたのだが……今年もオスを見つけることができた。


ニホントビナナフシのオス&交尾を確認





オスを発見したとき、運良く交尾をしていたので、あわててカメラを向けるが……メスがオスを乗せたまま歩き出して、なかなかうまく撮れない……。
画像ではわかりにくいが、オスは腹端の一対の鉤のような器官(把握部)でメスの腹をつかんでいる。メスの下蓋板(かがいばん/生殖口を覆う部分)は開いており、オスから受け渡されたと思われる緑色の精包(せいほう/精子の入ったカプセル)らしきものが入っていた。






東京でもまれに(?)オスが出現し、両性生殖していることが確認できた──といって良いのではないかと思う。


※追記(2013.12.15)たざびーさんのブログ【ニホントビナナフシ♂再び】にニホントビナナフシ♂の腹端のアップが掲載され、これを見て僕が【把握部】だと思っていた器官は【尾毛】だったのかもしれない?──と怪しくなってきた。ナナフシ♂が持つ【把握部】はニホントビナナフシ♂にはないのか?──そのあたりは現時点で不明……。

擬木の上を歩き回るメスの撮影に苦労していると、擬木ぞいに落ち葉の清掃作業をしていた業者が近づいてきて、やむなくペアを手に乗せて移動。そのさい2匹が離れてしまったので、移動先でオスの撮影を続ける。

九州以北ではめずらしい?ニホントビナナフシのオス





初めてニホントビナナフシ♂を見たとき、全体的に枯れ枝を思わせる体色なのに中脚と後脚だけキレイな緑色な姿が印象的だった。前脚だけ赤茶色なのが、アンバランスな配色に感じたのだが……。






前脚を前方に伸ばした枯れ枝への擬態ポーズを見て中脚と後脚だけ緑色の理由がわかった。枯れ枝に擬態した体をささえる脚は背景の葉にとけこむ緑色であった方がバレにくい。




細い腹部の末端に膨らんだ部分──芽をつけた枝先に見えなくもない。

翅が不全の♂~雌雄の翅比較

じつは今年みつけたオスはこれが2匹目。11月下旬にも1匹みているのだが、後翅がよじれてうまく収納できない不全個体で、中脚も1本欠けていた。


不全オスで後翅の膜質部(ふだんは外側の革質部の下にたたまれているので見えない)が露出していたので、色が違うというメスの膜質部と比べてみた。


たまたま後翅がめくれて膜質部が露出していたメスがいたので撮ってみた。左側に開いてしまっているが、めくれているのは右後翅。膜質部がセンスのように折り畳まれているのがわかる。


卵を産み続けるニホントビナナフシ♀





ちなみに、フンが出てくるところと卵がでてくるところは別。


本州以北ではなぜ単為生殖がメインなのか

本州以北には(基本的には?)オスがいないと思い込んでいたので、東京で初めてニホントビナナフシのオスを見た時は驚いた。どうやら発生率は低いながら本州以北でも出現はしているらしい。
屋久島以南ではオスも普通にみられ、両性生殖をしているのだろうが……同じ種類でありながら、九州以北ではおもに単為生殖──というのはなぜなのだろう?
オスの個体だけ特に寒さに弱い──ということもないだろうに。

『ナナフシのすべて』によると、発生時期については《本州~九州では春~晩秋。南西諸島ではほぼ通年と思われます》と記されている。
この「発生時期の違い」が、「両性生殖と単為生殖の違い」に関係しているのではないだろうか……ド素人ながら、九州以北で単為生殖がメインとなったことを説明できないか、あれこれ空想をめぐらせてみた。

・年1化(年に1サイクルで発生)だとすると、孵化するタイミングは概ね一律だろう(「通年」発生エリアでは孵化時期は随時)。
・同時期に孵化したオスとメスでは性成熟期間(成長速度)に差があるのではないか。
・また、メスは産卵が始まると生涯生み続ける/交尾しなければ単為生殖になる→ということは、メスが交尾可能な時期は羽化~産卵が始まる迄の一時期に限定されるのではないか。
・メスが長く産卵し続けるため羽化後長く生きるのに対し、オスは羽化後短命なのではないか→オスが交尾のできる期間も意外に短く限定的なのではないか。
・ゆえに同時期に孵化したオスとメスでは、限定的な交尾可能な性成熟期がズレて、両性生殖が成立しにくくなる。
 (通年エリアでは♂・♀それぞれ成長段階が同時期に存在するため♂・♀の性成熟期のズレは問題にならない)

・仮に、産卵が継続的なことから孵化も順次起こったとしても、若齢幼虫が食べることのできる柔らかい若葉が豊富な時期でなければ育つのは難しいだろう。
・【若齢期における食草の制限】で成長時期がそろえられることとになる。

・さらに、環境や個体差によって成長速度にバラツキが生じても、生体(幼虫・成虫)は冬には食草の枯竭や寒さ等によって死滅する。この【冬の断絶】によって成長のバラツキはリセットされ、翌春、越冬卵の孵化から発生サイクルがリスタートすることになる。
・【若齢期における食草の制限】や【冬の断絶】が成長のバラツキをリセットしてしまうため、発生時期が限定される九州以北では発生周期は一律化し、いつまで経っても♂と♀の性成熟期のズレは解消できない。
・その結果、【両性生殖】の機会は少なくなり、【単為生殖】が主流になったのではないか。


《同時期に孵化した♂と♀では性成熟期に差があるのではないか?》──というのはありそうな気がする。
《卵を多く長く産み続けられるように大きく育ってから成虫になるメス》に対して《小さく機動性が高いオス》は早めに成虫になってもおかしくないだろう。
同期の兄弟姉妹の中でオスが羽化したときに同時にメスも羽化すれば近親婚の危険は高まるが、オスが先に羽化すれば(そのとき近くに交尾可能なメスがいなければ)、オスは交尾相手を探して拡散し、近親婚の危険は低くなる。
ニホントビナナフシのオスはメスに比べて小さく、そのわりに翅は長い。メスに飛翔能力があるのか疑問だが、オスには飛翔能力があるというから同期に孵化したメスよりオスの方が早く羽化するということは理にかなっている。
『ナナフシのすべて』には「コブナナフシの成長過程の1例(沖縄本島産)」が記されているが、これによると──、

オス……1980.05.10 孵化→11.06 羽化(6齢虫)
メス……1980.04.18 孵化→12.05 羽化(7齢虫)

オスはメスより3週間おくれて孵化したのに、羽化は1カ月程早い。
ナナフシの仲間は元々南方系の昆虫だという。だから本来の「通年」発生している環境(発生時期もバラバラの各成長段階の個体が混在する)においては《オスとメスの成長速度の差/同期♂♀の羽化時期・婚姻可能時期のピークのズレ》があっても問題はない。むしろ《ピークのズレ》は同期の個体との交尾が回避されることで、兄弟姉妹との近親婚を防ぐという利点になるはずだ。

また、《オスは羽化後短命なのではないか》と想像したのは、オスは役目である交尾を済ませた後すみやかに死を迎える方が、卵を産み続けるメスのエサ兼身を隠す葉を温存できる(消費せずに済む)から理にかなっていると考えたからだ。

若齢期における【食草の制限】や【冬の断絶】によって発生周期が毎年リセットされ、そろえられてしまう──というのもあるように思う。
春~夏にかけて見られるニホントビナナフシは若齢幼虫ばかりで、大きな幼虫や成虫は見たことがない。逆に晩秋にみかけるのは、ほとんどが成虫ばかりだ。成長サイクルが同期している印象は強い。
ただ、稀に晩秋でも若齢幼虫や終齢幼虫をみかけることはある。サイクルがおおむね同期した環境でも、何らかの理由で早く孵化したり、羽化が遅れるといったことは起こりうる──ということだろう。成長速度にバラツキがあるのは「通年」発生エリアでは繁殖リスクを分散するという意味で種の生存率を高めるのに役立っているのかもしれない。
しかし、【冬の断絶】のある九州以北では、晩秋に現れた「季節外れ」の若齢幼虫や終齢幼虫は成長しきることなく死んでしまうことになるのだろう。




こうした理由で《九州以北では単為生殖がメイン》になったのではないか──と僕は考えてみた。
すると、疑問が浮かんでくる。《オスの成長速度がメスより早いことで婚姻ピークがズレる》のだとすると、《晩秋、卵を産み続けたメスが生涯の最後を迎えようという時期に、どうしてオスが出現したのか?》──という疑問である。
晩秋にもごくわずかながら若齢幼虫や終齢幼虫がみられることから、《発達の遅れたオスが遅れに遅れて羽化した》という可能性はあるだろう。
しかし、発現率の低いオスの《遅れに遅れた》個体がまれに見つかるのであれば、発現率の高いメスの《いくらか遅れた》個体(幼虫)が同時期にもっと見つかってよいのではないか……という疑問もある。

あれこれ思う事はあるが……僕が考えた事はド素人の憶測にすぎたない。「説」というより「つじつま合わせのシナリオ」──「頭の体操」といったところ。
昆虫を見ていると、いろんなことを考えてしまう……ということで、真偽のほどとは別に、「頭の体操」を記してみたしだい。

卓上の妄想的「頭の体操」はさておき、屋久島から遠く離れた東京で、しかもフユシャクが活動している12月にニホントビナナフシの両性生殖を確認できたというのは、驚きであり、収穫であった。


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コメント

No title
中身が濃いですねー。いつも感心してます。
No title
おつきあい、ありがとうございます。
とりあえず思いつく事を書いていたら、なんだか長くなってしまいました……。
No title
オスを見つけただけでなく、交尾とは。すごいですね。
糞と卵を同時に、も貴重な写真なのではないでしょうか。
オスは両性生殖によってしか生まれないと思いますが
両性生殖でメスも生まれることもあるのかな、とか気になってしまいます…。
No title
うやくオスを見つけた!──と思ったら交尾していたので、かなりアセってデジカメを向けました。
日陰ぎみのところで光量が少なく、ブレるかボケるかしがちな状況……内蔵フラッシュが壊れたカメラを使い続けているので自然光で撮るしかないのですが、いちいちいちいち画像をチェックしていたら、その間に交尾が解除したら元も子もない……しかもメスは動き回るし……とりあえず撮りまくり。
「このアングルで撮りたい」と思っても背景が明るくで逆光になってしまい……ならばシルエットにしてしまえと開き直って撮ったのが1枚目の画像だったりします。
逆光にならない背景を選びつつ、粘って撮ろう……と思っていると落ち葉掃除隊が近づいてくるし……なんだかバタバタしてしまいました。
No title
ナナフシの仲間では、両性生殖では♂♀両方出ると思いますが、単為生殖で♂が出ないかどうかはわかりません。
『ナナフシのすべて』(1999年)によると、タイワントビナナフシは「単為生殖をする」と記されていますが、日本では飼育下でオスが1例出ているそうな。トゲナナフシも同じで、オスは飼育下の1例のみと記されています(トゲナナフシの方は2009年に野外で初のオスが見つかっているそうです)。
ハチやアリでは未受精卵から♂が生まれるというし、アブラムシやミジンコみたいな♂♀どちらも出てくる両性単為生殖なんてのもあるし……このあたりのメカニズムは(僕には)把握できていません……。

糞と卵の画像は──総排出腔が一緒のニワトリの卵から回虫が出てきた話を思い出して下さい(笑)。
No title
これは素晴らしい観察記録だと思います。
報文にして発表しなければ、ブログの記事だけでは、もったいないような気がするのですが・・・。
ナイスです。
No title
ありがとうございます。
ニホントビナナフシの東京での交尾確認は貴重なことかもしれないと考え、こうしてブログにアップしてみたのですが、紙媒体への報文発表などはしていません。どんな媒体があるのかもよく判らないですし……とりあえずブログにアップしておけば興味のある人の目にはとまるのではないか……と思っていたりします。
No title
命が尽きるまで産み続けるですか・・・
ナナフシの仲間の交尾の姿もまだ見た事がありません!!
No title
ナナフシの仲間は毎日何個かちびちび生み続けるみたいですね。コノハムシもそうでした。

本州で見られるナナフシの仲間では両性生殖が基本というのはエダナナフシだけみたいす。『ナナフシのすべて』(岡田正哉・著/トンボ出版/1999年)によると、本州でも見られるナナフシの仲間については──、

ナナフシモドキ…………単為生殖(オスはこれまでに4例のみ)
エダナナフシ……………両性生殖が基本。ただし山地や寒地でオスが見られない
産地では単為生殖をすると思われます。
ヤスマツトビナナフシ…単為生殖(オスは未知)
ニホントビナナフシ……九州以北ではおもに単為生殖、
屋久島以南では両性生殖をすると思われます。
シラキトビナナフシ……単為生殖(オスは未知)
タイワントビナナフシ…単為生殖(日本ではオスは飼育下での1例のみ)
トゲナナフシ……………単為生殖(オスは飼育下での1例のみ)

※ただし、その後、ナナフシモドキは2012年に国内で7例目、8例目のオスが報告されており、トゲナナフシは2009年に野外で初のオスが見つかっているそう
No title
小生は鞘翅目が専門で直翅類のことは詳しくないですが、日本直翅類学会というのがありますし、もう少し一般的なところだと「月刊むし」という雑誌がありますよ。
No title
ありがとうございます。僕もその後あれこれ検索して「日本直翅類学会」というのがあるということを知りました。
「月刊むし」はセイボウの特集があるというのを知って1冊だけ買った事があります。
どうしたものか、ちょっと考えているところです……。
No title
僕が「把握部」だと思っていた部分は「尾毛」だったかもしれない──ということに気づき「追記」を加筆しました。
No title
こんにちは! 先日はクロスジフユエダシャクを教えて頂きました。
こちらのブログは観察力が凄いですね。イラストとか動画も!!
主役兼監督兼脇役もなさるんですか???
たまにお邪魔します。
No title
こちらではクロスジフユエダシャクはピークを過ぎて、このところクロオビフユナミシャクをよく見かけています(ツツジの植込み近くで多い)。

このブログは、どんな使い方ができるか──あれこれ試しているうちに、なんだか統一感の無い内容になってしまいました。

アップするときは、できるだけ「まとめて」記しておきたいという気持ちがあるので、更新頻度はかなり少なめだったりします。

インディーズヒーローの動画は昔イタズラで作ってみたもので(今は映像は撮っていません)、これも「まとめ」感覚で記事にしてみたものです。

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