ノコメエダシャクの《対称性かく乱戦術》
遊歩道の擬木やフェンスに落ち葉が引っかかっているのが目につくようになる頃──そんな枯れ葉と間違えそうなノコメエダシャクという蛾が現れる。本州にはヒメノコメエダシャクとオオノコメエダシャクというのがいるらしいのだが、僕には正確に区別できないので、とりあえず「ノコメエダシャク」で話を進める。去年初めてこの蛾の存在を知った時は《対称性を壊して隠蔽擬態の精度を高めている》と感じ、《左右非対称に見せる》トリッキーな手法に驚いたものだった(*)。今年も10月下旬からノコメエダシャクの姿を見かけるようになり、《ノコメエダシャクはなぜ傾いでとまるのか》について改めて考えてみたことがあるので、簡単にまとめてみたい。
とりあえず「傾いで止まる」ノコメエダシャクの姿を。カメラを縦にして撮ったもの↓。


上2枚は同じ個体をカメラの高さを少し変えて撮影。次の画像も並べた2枚は同一個体。腹端が向いた方が下(地)になる。

昆虫は本来《左右対称》の形をしている。天敵は虫を見つけるさいに、この《対称性》を手掛かりの1つにしているにちがいない。この、天敵の《対称性サーチ》にひっかかりにくくするための工夫をすることでノコメエダシャクは生存率を高めてきたのではないか──というのが、僕の解釈。
去年ノコメエダシャクの存在を知ったとき、彼らの《対称性かく乱戦術》(?)について次のように考えてみた。
【1:腹を曲げてとまる】ノコメエダシャクは止まっているとき、たいてい腹を曲げている。この特徴は《対称性》を察知されにくくするための行動だと思う。鉛直面にとまっているときは、腹はだいたい下側に曲げられている。
【2:かしいでとまる】ノコメエダシャクは、たいてい傾いでとまっている。捕食者の両眼は水平についていることから、頭を真上あるいは真下にしてとまる虫より《対称性》が察知されにくい姿勢(《鉛直軸に対しての左右対称性》を崩す姿勢)なのかもしれない。
「傾いでとまる」と腹を曲げた方がバランスが良いため、その結果「腹を下側にむけて曲げる」ようになったのか、あるいは逆に「腹を曲げてとまる」ようになったことで、バランスがとりやすい「傾いでとまる」姿勢が生まれたのか……【1】と【2】には関係がありそうな気がする。
【3:左右対称であるはずの翅の先端が角度によって違った形に見える】真正面ならぬ真背面(?)から見ると左右の翅は《左右対称》であることが確認できるが、左右方向にちょっとずれた位置からながめると《左右非対称》に見える。これも補食者たちの《対称性サーチ》を逃れるための工夫だろう。
今年あらためてノコメエダシャクを目にするようになって、彼らが「傾いでとまる」ことには、【3】がらみの意味もあるのではないかと考えるようになった。
ノコメエダシャクはなぜ傾いでとまるのか?
もし、ノコメエダシャクが頭を上に向け(傾がずに)翅を左右同じ高さに広げて止まっていたとすると──、ノコメエダシャクに近づいた捕食者が、その真後ろ(真背面)を通過する時点では「左右に広げた翅は《対称》に見える」ことになり、(翅に関しては)《対称性かく乱戦術》が無効になる。
鉛直面に傾いでとまったノコメエダシャクが真背面からどう見えるかを示したのが次の図。

ノコメエダシャクが傾いで止まっていれば、すぐそばを通る捕食者からは(ちょっと眼の高さとのギャップがあるだけで)翅の形も《左右非対称》に見えることになり、天敵の《対称性サーチ》をまぬがれる可能性は増え、そのぶん生存率も高まるはずである。
上の図で、もしノコメエダシャクが傾いでいなければ、5つ全ての視点から左右の翅は《対称》に見える事になり、傾いでとまった場合より天敵に見つかりやすくなってしまう。
このことから、【ノコメエダシャクが傾いで止まるのは《対称性かく乱戦術》のため】ではないかと改めて考えるしだい。



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