FC2ブログ

リンガとガリン~春の擬態

ベニモンアオリンガとミズキの芽鱗




前の記事の最後でチラッと触れたベニモンアオリンガ。毎年春になると見かける、小ぶりながら美しい蛾だ。明るい黄色にピンク色の紋が鮮やかで、翅の縁にパープルをあしらっているところしゃれている。

この蛾を初めて見たとき、花びらか何かの植物片かと思った。その頃──やはり春先に似たような植物片があちこちに落ちいてたりひっかかっていたりしていたらだ。

ベニモンアオリンガに擬態した植物片!?──というのは、もちろんジョーク。不要になってなって脱落した植物片が蛾に擬態した所で何の意味も無い。擬態しているとすればあちこちに散乱した植物片に化けて昆虫食の天敵の眼を欺く(ことによって生存率を高める)蛾の方だろう。

この植物片と同じ時期に出現するベニモンアオリンガは、見た感じがよく似ている。僕もだまされかけたのだから擬態効果はありそうな気がする。
この植物片──ベニモンアオリンガもどきについては、これまで調べた事がなかったのだが、今季は思い立って探してみた。するとミズキの冬芽の外皮~若葉になる部分を被っていたカバー(?)らしいことが判った。これを【芽鱗(がりん)】と呼ぶらしい(植物の冬芽を包んでいる鱗片状の葉のこと)。


ミズキの芽鱗が脱落する時期(春先)に合わせるかのように出現するベニモンアオリンガだが、この蛾の幼虫時代の食草はミズキではなく、ツツジ類だという。じっさい、ベニモンアオリンガ(成虫)を見るのはツツジの植え込みの近くであることが多い。
「どうして関係ないミズキ(の芽鱗)なんかに似ちゃったのか……似るなら、食草(のツツジ類)に擬態すれば良さそうなものを……」などと思わないでもない。

しかし、想像してみると……(僕は進化についても詳しくは知らないが)。
【擬態】の変異は、全ての方向に等しい可能性で起こる(それが淘汰圧によって選択される)──というものではないのかもしれない。
もし、ベニモンアオリンガが、どの植物にも等しい可能性をもって変異できたのであれば、食草のツツジ類に擬態していてよさそうな気がする。しかし実際は、生活史に直接関係のないミズキの芽鱗にむしろ似ているのだから、変異の方向性はある意味ランダムで唐突に起こる──ということなのだろう。

生物の形態を決定するのは遺伝情報なのだろうが、遺伝子は、最終的に形成された複雑な「形」から逆算して組まれた設計図ではない。シンプルに圧縮された「形成(発生)手順(?)」情報にしたがって細胞分裂を繰り返した「結果」が形態なのだろう。
生物の形態は、細胞分裂の繰り返し・あるいは細胞死によって形成された結果で、発生のどのタイミングにどのパートでどれだけ細胞増殖(あるいは細胞死)が行われるか──によって決まる(と僕は理解している)。これらを制御する情報が遺伝子の中には組み込まれていて、これが何らかの理由で変化し、比喩的に言えば、《形成プロセスの「計数」に変化が生じる》と、結果として形成される形態に「変異」が現れる──平たく言えば、そういうことではないのか……僕はそんなイメージで解釈している。
昆虫がまったく違う植物に似てしまう現象は、アナログ的に考えると「奇跡の一致(神がかり的)」のような感じがしてしまいがちだが……昆虫であれ植物であれ「細胞分裂の繰り返し」という同一手法で形成されている以上、発生プロセスの「計数」のデジタル的な変化が「似たような形」を形成することは、意外に《起こり得る》ことなのかもしれない。

ベニモンアオリンガの場合は、たまたまミズキの芽鱗と似てしまったが、結果として、これはこれで天敵の眼をのがれる擬態効果があって生存率を高める効果を果たしてきたので(結果オーライ?)、この特徴が進化の中で採用されてきた……と解釈するのが自然な気がする。

あくまで個人的な解釈だが、ベニモンアオリンガとミズキの芽鱗を見て、そんな想像をめぐらせた。

ところで、ベニモンアオリンガという蛾を知った時からの疑問がある。「リンガ」という名の由来だ。漢字で書くと「実蛾」と表記されるというが、なぜこれを「リンガ」と読むのかも含めて、釈然としない。

今回、ベニモンアオリンガが擬態した(かのように見える)植物片が「芽鱗(がりん)」と呼ばれることを知って「リンガ(実蛾)とガリン(芽鱗)……ちょっと似てるな」と思った。
そこで「芽鱗(がりん)」について検索してみたところ、芽鱗で被われた冬芽を「鱗芽(りんが)」と呼ぶことも判った。
「実蛾(りんが)」と「鱗芽(りんが)」──読みが同じ……この符合は偶然なのだろうか?

もしかすると「鱗芽(りんが)」との関係から、「蛾」を絡めて「りん蛾」と呼ぶようになったのではないか……という想像は強引だろうか。
漢字表記については──「芽鱗」で被われた「鱗芽(りんが)」であるところの「冬芽」を「実」と捉えて(?)、本来なら「りん」とは読まない「実」の漢字を当てて「実(鱗芽)蛾」と記し、「りんが」と読んだのではないか?

──こじつけ感は否めないが……そんなことまで考えてしまった。もちろん、この解釈が当っているとは思わない。あくまでも、《頭の体操》。
それにしても、「実蛾」と書いて「りんが」と読むのはなぜなのだろう?
ちなみに「リンガ」の名のつく蛾は他にも色々存在する。

アカスジアオリンガ春型は若葉に似せて

さて、これも「リンガ」のつく蛾。先日雑木林沿いの柵でチョウのように翅を閉じてとまる蛾をみつけた。翅の表面の模様は確認できなかったが、毎年春にみかけるアカスジアオリンガっぽい。羽化してさほど時間が経っておらず、翅を伸ばし固まるのを待っている状態のようにも見えた。そこで40分後、同じ場所に戻ってみると、通常の止まり方になっていた。


アカスジアオリンガは♂・♀とも春型は赤みを帯びている(♂は赤い部分が多い)。春型が出現する頃──新芽から展開中の若葉には赤みがあり、それと符合しているようにも見える(夏型は赤みが目立たない)。夏型より春型の方が白と緑のラインの密度が高いが、これも展開中の若葉の葉脈密度が高いのに似ている。
↓アカスジアオリンガが発生する雑木林のコナラの若葉と春型♀

美しいが目立たぬ蛾より再掲載
ちなみに春型の♂はこんな感じ↓

展開中の若葉にまぎれていれば目立たないが、単体で見ると美しい。

アカボシゴマダラ幼虫の変身

展開中の若葉に擬態していると思われるものをもうひとつ。何年か前に初めて見てから一気に普通種になったカンのあるアカボシゴマダラの幼虫。越冬幼虫は地味な色で葉を落としたエノキの枝や幹にとけこんで見えるが、食草であるエノキの若葉が展開するのにあわせるように赤みを帯びた緑色の姿に変身する。


春の訪れとともに活動しだした昆虫にも《春の擬態》を感じるしだい。
スポンサーサイト



コメント

No title
こうして見比べるとおもしろいですね。
植物の芽と同じタイミングで出てくるところもよく出来ていると思います。
似せて進化したのか、似てるのがたまたま残っているのか進化とは不思議ですね。
でもここまで完成度が高いと、たまたまにしては。。と思う時もあります。
No title
本当に、似ているのだけでも驚きなのに、植物と昆虫が同じタイミングで出現するのがまた不思議ですね。
こういうのを見ると自然のスゴさというか奥深さというか……をかいま見た感じがします。
No title
ベニモンアオリンガもどきの植物の端片を見て私は「ミョウガ」の葉一枚一枚を剥がした時の様子を連想してしまいました^^
似ていませんか!?
それにリンガを「鱗芽」と読み、書くのも勿論ですが^^ミョウガ
の名前の由来は分かりませんが、発音はミョウガですので^^(苦笑)こじつけてみました~アハッ(大笑)ですね

それにしても、其々よくもこれだけ昆虫と植物が似ているのも凄いですね^^擬態シリーズや人面昆虫は楽しいです。

これからも楽しい記事をお待ちしています

ナイス☆
No title
食に疎いので「ミョウガ」がどんな形だったか、にわかに思い出せず……検索してみました。
食用となる花穂部分の画像を見て納得。
ほかの植物でも、ベニモンアオリンガに似た感じのパーツはけっこうあるのかもしれませんね。

これからも「おもしろい」と感じたものはアップして行きたいと思っています。
No title
時々、様子を見て頂いているようですね。
有り難うございます。
オキナワシリアゲコバチの産卵シーンを紹介して行こうと思いますので、お暇な時にまたご訪問下さい。
No title
昆虫関連の記事はよく検索で閲覧しています。
自分が目にする昆虫は限られていますから、他の人が取り上げている昆虫や小動物の記事を拝見するのも楽しみです。

セイボウの仲間はキレイなので好きな虫ですが……寄生蜂の生活史についてはほとんど知りません。見えない宿主をどうやって見つけ卵を産みつけるのか──とか、多重寄生をする種類など、何%が宿主にたどりつけるものなのか……謎めいたグループというイメージを持っています。
なので、上から目線さんの記事は楽しみにしています。
No title
必死で隠れている昆虫を見つけ出した時は、やった!!ざまあみろ!って嬉しいです。はれたらカメラを持って出かけましょ!!
参考になりました。
No title
たしかに隠れている虫を見つけるのは、宝探しをしているようで楽しいですね。
とくに「よくまぁ、これだけ擬態したな」という昆虫を見つけた時にはテンションが上がりますね(笑)。

管理者のみに表示

トラックバック