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キリギリス幻想


【キリギリス幻想】
 土手のあちこちでキリギリスが鳴いている。
 昔は「チョン・ギース」とハッキリ聞こえたのに、最近は「ギース」ばかりが聞こえてくる。「あれ? キリギリスではないのか?」と耳を澄ますと、かすかに「チョン」と鳴いている。やはりキリギリスのようだ。
 しばし鑑賞。近くで鳴いているキリギリスは「チョン・ギース」だが、少し離れた所で鳴く音は「……ギース」の部分しか聞こえない。だから草原全体から聞こえてくるのは「ギース」が圧倒的で「チョン」はわずか……たよりない。
 昔はもっと「チョン」も力強く聞こえていたような気がする……近年、歳をとって高周波音が聞こえにくくなってきているのだろうか。
 若者にしか聞こえない不快な高周波音──いわゆるモスキート音を流す事で深夜に公園やコンビニ前でたむろする若者たちを退散させるという取り組みがあるらしい。一方、若者の側は大人に聞き取れない高周波音の着信音を使って授業中にメールのやり取りなどをしているという。
 キリギリスの「チョン」も、もしかするとモスキート音のように歳をとるにつれて聞きとりにくくなっていくのかもしれない。
(年寄りになって、キリギリスの「チョン」が聞こえなくなっていって……ついに最後の「チョン」が聞こえなくなってしまったら……そのとき、あの世へ行くのかなぁ)──などとオー・ヘンリーの『最後の一葉』のようなことを想像してしまった。

 キリギリスというのはちょっと不思議な虫だ。
 これだけたくさん鳴いているのに、探してもなかなかその姿を確認できない。
 やっと見つけて、捕まえようとしても、ぽろっと落ちて姿をくらます。
 落ちたあたりを懸命に探してもみてもなぜか見つからない……。
 そんなときは「ちっ、ワープしたか」とあきらめるしか無い。
 そこにいるのに見つけられないのはシャクだからワープして「いなくなった」ことにしてあきらめる。
 キリギリスは別世界への抜け道を知っているのかもしれない。

 キリギリスという名前も変わっている。由来は「キリキリ」と鳴く虫(最後の「ス」は鳴く虫や鳥を意味する接尾語だとか)だという。
 キリギリスなら「キリキリ」できなく「チョン・ギース」だろうに──という気がするが、昔は(キリキリと鳴く)コオロギをキリギリスと呼んでいたそうだ。
「キリキリ」と鳴く虫(「キリキリ」+「ス」)がコオロギならば判らないではないが、それが現在のキリギリスに適用されるようになった……というのは、どうも釈然としない。

 キリギリスがキリギリスと呼ばれるようになったのには何か別の意味(語源)があってしかるべきではないのか……そう思わずにいられない。
 いったいどんな意味があったのだろう……と漠然と思いながら、キリギリスの輪唱を聴いていると、また『最後の一葉』が頭に浮かぶ。
 加齢とともに「チョン・ギース」の「チョン」が聞きづらくなり、やがて完全に「チョン」が聞こえなくなると、その人の寿命もつきる……そんなコトを考えた人が昔もいたかもしれない。
 そう思って聴いていると、その鳴き声もそれらしく感じられないでもない。
「チョン・ギース」の「チョン」には、「たやすく物を切るさま(ちょんぎる)」とか「(拍子木の音。また、芝居の幕切れに拍子木を打つ事から)物事の終了」の意味がある。「ギース」は「休す」すなわち「終わってしまう(万事休す)」と聞こえなくもない。
 つまり「人生を断ち切り終わらせる」という意味を持った鳴き方ともとれる。

 とすれば「キリギリス」の「キリキリ」は鳴き声ではなく「切り」「限」を意味しているのではないだろうか。「キリ」には「切ること」「限度(きりがない)」「終わり。おしまい。最後」の意味がある。
 死期が近づいた事を知らせるキリギリスは、人生を断ち切り生命の限度が着た事・寿命の終わりがきたことを知らせる虫──「切り限ス」が本当の(?)語源ではないのか?
 ……そんな解釈がとりとめもなく浮かぶ。

 くさむらから聞こえる鳴き声をたよりにキリギリスの姿を探してみたが、たくさん鳴いているわりになかなか見つからない。
 やはりキリギリスは別世界への抜け道を知っていてそこに隠れて鳴いているのかもしれない。別世界は「チョン」が聞こえなくなった者が行く世界に通じているのだろう。


──と、今回は掌篇風にまとめてみたしだい。

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コメント

No title
あれれ、イラストが無いぉ~
No title
今回は、読んだ方の想像力に期待して……。
それぞれのイメージで思い描いていただければ良いかと。
No title
イナゴは大群で取れるから佃煮にできる。
キリギリスは大量に取れないけれど佃煮にしたら、実は凄く美味しいのかも!
・・・と想像してみる(笑)
#↑想像違い、もはや妄想。
No title
イナゴの佃煮は有名ですが、キリギリスってのはどうなのだろう?……そう思って検索してみたら、タイでイナゴの他にキリギリスらしきものが食材として売られているというブログがありました。
キリギリスの唐揚げは塩コショウしてあって意外に美味かったとか。
日本のキリギリスも実は美味かったりして!?
イナゴのようにたくさん採れないから、コスト的には高級食材なのかも?
No title
キリギリスの名前の語源や、さまざまな解釈を・・・
ウンウンと解らないまでも、いつも自分なりに解釈しては、色んな昆虫たちの解説してくれる星谷さんの記事は興味深く、面白いですね^^

何も解らない私にとっては、大切な昆虫博士みたいな存在ですよ^^

これからも、宜しくおねがいしま~す\(^o^)/
イイね☆
No title
今回のキリギリスの語源の想像部分はフィクション的な面白さを模索してみたもので、お遊びの掌篇小説のようなつもりで読んでいただけたらと思います。

ちなみに、コオロギのことを昔はキリギリスと呼んでいたのは本当のようで、唱歌『虫のこえ』では、2番の出だしがオリジナルでは「きりきりきりきり きりぎりす」だったのが、後に「きりぎりす」→「こほろぎや」に改められたそうです。
「きりぎりす」がコオロギをさす古語で、「きりきりきりきり」(コオロギの鳴き声)と合わないというのが理由だとか。

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