
『ねこにかかったでんわ』星谷 仁:作&絵/岩崎書店 1985年
電話機が据置ダイヤル式だった頃の創作童話
小学2年生のけんたが誤ってダイヤルした電話に出たのは、なんとネコだった!?──という日常を舞台とするファンタジー。この電話ネコ、おばあちゃんの家に出没するやっかい野良だったのだが、けんたが偶然みつけた〝不思議な電話〟を通してのみ人間と会話ができる──という設定。けんたはネコからえた情報をもとにおばあちゃんに関わる問題を解決しようとネコと交渉したり、逆にネコから相談を持ちかけられたりする。しかし〝不思議な電話〟はいつもノラネコにつながるわけではない。ノラネコが受けた電話機はどこにあるのか? だれも知らない不思議な電話の秘密とは……という話。

まだダイヤル式の据え置き型黒電話が使われていた時代の作品。この頃は電話をかけるたびに、そのつど相手の電話番号をダイヤル(手動入力)しなければならなかった。ゆえにかけ間違いもしばしば起こる。また、携帯電話と違って据置電話は、相手が不在の時にはなかなかつかまらない……便利なようで今から考えれば不便なところが残る道具だった。そんな時代に書いた作品で400字詰原稿用紙で40枚ほどの創作童話。
執筆当時は〝おもしろい物語〟を模索していたが、この作品ではどんなところをアピールしたかったのかは〝あとがき〟⬇️を読み返すとわかる。


身近なところに思いもしなかった《ふしぎ》を発見する──そんな面白さを描きたかったのだろう。
ネコとの会話──現実には起こり得ない話なのだからジャンルとしてはファンタジーなのだが、おとぎばなしのような絵空事ではなく、読者のすぐ身近で起こりそうな〝実在感のあるファンタジー〟として描きたかった。日常と幻想が違和感なく溶け合ったファンタジーは僕の好むところで《フュージョン(Fusion:融合)》などと勝手に呼んでいた(これが《チャンネルF》の《F》の由来の一つ)。〝日常のすぐ隣にある《ふしぎ》の発見〟──というトキメキは、虫見に通じるものがある。ふだん気にもとめないようなところに思いもかけなかった世界を発見するのはおもしろい。
『ねこにかかったでんわ』は単行本化を念頭に置きつつ、同人誌《MON48》の創刊号用に書き下ろした作品でもあった。《MON48》は1984年7月に開講した光瀬龍先生の《大衆文芸の書き方》という講座(朝日カルチャーセンター)を受講したメンバーによって創刊された同人誌である。ここでは商業出版あるいは商業誌掲載を想定した作品づくりが推奨されていた。『ねこにかかったでんわ』を(400字詰原稿用紙)40枚程度(正確には清書した時点で41枚)で執筆したのも児童書では単行本になりうる分量──想定していた岩崎書店の《あたらしい創作童話》のシリーズが40枚前後だったからだ。
光瀬教室(大衆文芸の書き方)で同人誌を作ることになったとき、創刊号に何を書くか……作品がなかなか決まらなかった。あれこれ考え「これで行こう」と書き始めるも途中で別構想に目移りして乗り換えるということの繰り返し。ああでもないこうでもないと考えているうちに締め切りが迫り、いよいよ切羽詰まった頃にふっと浮かんだのが『ねこにかかったでんわ』だった。何を書くか迷っていた時期が長かった割に、着想を得てからストーリーができあがるまでは早かった。『ねこにかかったでんわ』は無事に《MON48》創刊号(1985年3月)に掲載することができた。自分としては満足のいく作品に仕上がったという自負はあったものの、これが(商業出版で)通用しなければ絶望的だな……という不安もあった。しかし同年10月、岩崎書店からの出版がかない、ようやく手放しで喜ぶことができたのを覚えている。
余談だが……《MON48》という同人誌名は光瀬教室(大衆文芸の書き方)が月曜日(MON)に新宿住友ビル48階の教室で行われていたことに由来する。表紙の図案も〝翼をひろげたペンが光瀬教室(新宿住友ビル)から羽ばたいていく〟というデザインで僕が描いたものだった。この表紙は筒井康隆・原作の同人誌活動を舞台とする映画『文学賞殺人事件 大いなる助走』(1989年)のエンドロール画面にもチラッと登場している。知らずに視聴していて見覚えのある表紙がいきなり映し出されたので驚いたなんてこともあった。

ずいぶん昔の作品だが久しぶりに読み返してみると、古い感じ(懐かしい時代感?)はあるものの、おもしろさは色あせてない気がして少しホッとした。ということで、当時のことを思い出しながら創作周辺の覚書ということで記しておくことにした。
※ネコ関連の記事
♧愛しいまぼろし(読み切り短篇小説)
♧猫婆ちゃんのアルバイト(ショートショート)
♧禍まねく招き猫!?(ショートショート)
♤イタチmeets猫(実写4コマ&猫はなぜとぼけるのか?)
♣名作童話『びりっかすの子ねこ』感想
☆猫に小銭(猫にコイン)
●久しぶりの『文学賞殺人事件 大いなる助走』
●同人誌回顧録
◎創作の周辺メニュー
◎チャンネルF+〜抜粋メニュー〜➡トップページ
きっと通話相手を待たせる時に置くオルゴール式のスタンドとかも知らないだろうし、相手の家族(親)が出た時の行儀良いセリフとかも知らんのでしょうね。うわーなつい!笑
ちなみに小学生の時は友達と電話してる時に混線かなんかで、他人の声がかぶったりすることがありました。今考えたらちょっとオカルト笑
自分のデザインがいきなり目の前に出てきたら、なんか照れくさいような、成長した子供が表舞台に出てるのを見るような、そんな感情になるんでしょうか^^
ついこないだのような気もしますが……昔のことを振り返ると、なんだか浦島太郎になったような気がすることがあります(笑)。
見覚えのある表紙がテレビ画面(件の映画をテレビで視聴していました)にいきなり映った時は、「えっ!? なんでお前がそんなところに!?」的にたまげました。
『ねこにかかったでんわ』は古い本なので開架には置かれていないと思いますが、図書館の蔵書検索をすれば置いてあるところがあるかもしれません。もし機会があれば開いてみてください。
大人でも最後まで、どうなるんだろう?と楽しく読ませていただきました。
最後もすごくいい終わり方だな~と心が温かくなりました。
絵本の中で、室内の様子の絵が出てくるところがありますよね。
昭和のなつかしグッズがあちこちにあって、こういうのあったなー!と
なつかしみながら絵を隅々まで見て楽しみました。
着想から仕上がるまではスムーズに書けたので、ストーリーも〝いい感じ〟に構成できたのでしょう(無理があるとスムーズに書けない)。意外性を持たせたハッピーエンドは、自分でも気に入っています。
同様に共感いただけたようで嬉しかったです。
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