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ハリサシガメ観察雑感

幼虫が奇妙な擬装をするユニークな捕食性カメムシ・ハリサシガメ。生息場所での観察をまとめたものが先日投稿した【珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳】だった。❲総集編❳が思いのほか長くなってしまったためにカットした観察後記的な雑感をいちおうここで記しておくことにする。

この風変わりな昆虫は好奇心を刺激する。見ているうちにあれこれと疑問がわいてくる。擬装の意味はもとより、アリをどのように狩るのか/捕食後のアリをどのように背中に盛りつけるのか/脚が届かない高さまで異物を盛りつけた個体もいるが、どうやってデコレーションしたのか/脱皮や羽化はどのように行われるのか/そのさいデコレーション素材はどうするのか/卵はどんな形状をしているのか/いつ、どんな場所にいくつくらい産みつけるものなのか? etc.
確かめて記録しておきたいことは色々あったが、相手は生きた昆虫だ……近づくと逃げたり石垣の隙間に隠れてしまったりして、つぶさに観察・撮影することができないことも多かった。

そこで確認しやすい飼育下において観察することを検討したこともあったのだが……これは思い止まった。
飼育観察を躊躇したのは、無事に育てられるか自信が無かったからだ。僕は昆虫の飼育経験に乏しい。ハリサシガメについての飼育ノウハウは皆無である。希少な虫をいたずらに死なせてしまうリスクを恐れた。
また、飼育がうまくいったならうまくいったで、野外での観察時間が削られることになるだろうことも懸念した。

これは僕の個人的な感覚なのだが……観察のために飼育を始めたのであれば《観察する責任(義務)が生じる》という思いがある(観察対称を私有化し独占するのだから)。野外観察は任意だが、自分の意志で始めた飼育観察には義務が生じる──だから、後者(義務)が優先されねばならない──ひとたび対象を飼育下に置いたなら、その観察に時間を取られることになるだろう。特に脱皮の兆候などが現われたら、決定的瞬間を見逃さないように可能な限り見張り続けなくてはならない。かつてコノハムシを飼育していた時は、その兆候を察すると部屋の何カ所かに鏡を置いて、どこにいても、ふり向くことなく目を動かすだけで飼育容器が見えるようにして監視を続けていた。わざわざ飼育しているのに脱皮を見逃すというのは《失態》であり《義務違反》でもあるという強迫観念めいたプレッシャーもあって、睡眠時間も極力減らしていた。

気をもむことにはなるが、飼育観察で得られる情報は貴重だ。一方、気軽な(?)フィールド観察だからこそ気づくことができたという発見も決して少なくはない。飼育観察に手を出すことで、フィールド観察の時間が減るのはデメリットが大きい……そんな迷いもあった。

フィールドでハリサシガメを観察していると〝常連〟と思われる個体に出くわすことが少なくない。今後も観察できるかもしれない1匹を持ち帰れば、屋外で観察できる個体が1匹減る──フィールドにおける観察チャンスが減ることになるのではないかという不安もあった。
本来であれば生息場所で繁殖に参加できたかもしれない希少昆虫を、飼育ノウハウが無いのに持ち帰って、成果が得られぬまま〝失敗〟してしまうことになったら……と考えると、つい尻込みしてしまう……。

飼育観察には《わからないからこそ調べる価値がある》という意義もあるわけで、そこには《成功の保証》などない。試行錯誤を経て《わかってくる》こともあるわけだから、失敗のリスクを恐れて始める前からチャレンジを放棄するのも進歩が無い──そんな思いもあって、あれこれ悩んだ。

以前、手探りでヤニサシガメの幼虫を短期飼育したことがあったが(*)、これは普通種であり、1匹もち帰ったところで、問題があるとも思えない。何より脱皮後の《断マツヤニ》状況を確認したかったので飼育下に置く必要があった──そのために飼育に踏み切ったわけが……ハリサシガメの場合は生息環境での観察により大きな意味を感じていたこともあって、けっきょく飼育観察は見送ることにしたのだった。

そんなわけで、(死骸や脱皮殻・羽化殻などを持ち帰って調べることはあったが)生体の観察は全て生息現場で行ったのが【珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳】だった。これは、虫屋ではない僕の個人的な好奇心が動機の素人観察&考察(妄想?)で、学術的なフォーマットではない。

もし僕が虫屋だったら…
ハリサシガメの観察ポイントへ向かう途中、あるいは帰りに、ふと「もし、僕が虫屋だったら、どうするだろう?」などと漠然と考えたこともあった。

僕は虫屋ではないので、基本的には採集も飼育もせず、標本作りなどもしないで済ませてきたが……虫屋としてキチンと学術的意味のある観察記録を残すのであれば、当然標本作成はすることになるのだろう。希少な種類だからといって、オス・メス1匹ずつの採集で済むものでもないだろう。ハリサシガメは翅多型なので、色々な翅型があることを標本でも残す必要がありそうだ。翅の長さの発現比率や、オスとメスでの比較などを調べるためにはある程度の個体数を採集しなくてはならなくなるだろう。ハリサシガメの採集は(発生場所さえわかれば)難しくはないはずだ。比較的狭い範囲に集中しているので見つけやすい。だが、見つけやすいだけに、目につく個体を片っ端から採集していけば、そのポイントでの個体数が減り、個体群を存続するのに必要な数を割り込んでしまうことになりはしないか……ちょっと心配である。

僕はハリサシガメについて《飛ぶことができず、新天地への進出力(?)が弱いことが、生息ポイントの局所化につながっている。飛翔能力がないので狭い範囲にかたまっていることで繁殖の機会を確保している。成虫になれる個体は少なく、そのぶん(?)多くの卵を産むことで、個体群の生存率をキープしている》というようなイメージを描いている(素人予想)。
もしこれが当っているなら、多産によって個体群維持に必要な生存率を保っている1匹の親虫の担う役割りは大きい。繁殖のため密になって見つけやすい親虫を一網打尽に採集していけば、1人の採集者がそのポイントでの絶滅を招きうるのではないか……そんな可能性も考えてしまう。
ハリサシガメについての生態情報が少ないのは、虫屋が見つけても採集することでポイント絶滅が起こり、その場所での継続的な観察ができなくなってしまうからではないか……などという根拠のない想像も頭をよぎったりする。

ただ、ハリサシガメがこの先も生き続けられるかどうかについては、採集による影響よりも、環境が保全されるかどうかといった要素の方が大きく関わっているのかもしれない。
僕が見つけた雑木林のふちの石垣は古く、長年の風雨やアリの巣などによって積まれた石の間の土が大分流失して隙間だらけになっている。その環境がハリサシガメにとっては棲むのによい条件となっているのだろうが、この石垣がいつ補修されないとも限らない。あるいは雑木林ごと無くなることだって考えられないではない。希少な存在なら、生息が確認できるうちにその学術的証拠を残すべきだ……という考え方もあるだろう。一方、個体群絶滅に拍車をかける人為的行為はつつしむべきだという見方があってもおかしくない。
僕は虫屋ではなく個人の興味から観察しているだけだから採集して飼育したり標本にすることとなく、生息現場での観察にとどまっているが、虫屋だったら、どう判断するだろう……などと漠然と思ったりもしたものである。

とりあえず虫屋でない僕は学術的なデータを残さない代わりに(?)、つたない素人観察ではあるけれど、現場で知り得たハリサシガメ情報を公開しておくことにした。興味のある人の目にとまり、なにがしかの参考になることがあれば素人観察にも意味があるのではないか思っている。



珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳
コノハムシ〜卵から成虫まで〜脱皮羽化
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