FC2ブログ

2017年02月の記事 (1/1)

ニジオビベニアツバ幼虫@東京

南方系の美麗蛾幼虫を狭山丘陵東京側で確認



先日、ちょっと変わった幼虫(イモムシ)を見つけた。擬木支柱の上面ヘリに静止しているその姿が目に入った時は胸脚が長いシャチホコガ幼虫の系統かなと思った。しかし、よくみると「シャチホコガ幼虫の長い胸脚」っぽく見えたのは先端がヘラ状に広がった「毛」だった。こんな形状の「毛」を持つイモムシを目にしたのは初めて。ふと、冬虫夏草のシャクトリムシハリセンボンが頭に浮かんだ。《先端が広がった毛》は子実体っぽく見えなくもない。これはもしかして、菌類に冒されて絶命したイモムシなのだろうか?──そう考えて触れてみたところ生きていた(動いた)。ということは、これは自前の毛なのだろう。帰宅後調べてみるとニジオビベニアツバという蛾の幼虫だと判った。
ちなみに、パッと見、イメージした虫はこんな感じ↓。


検索した画像を見ると、ニジオビベニアツバの成虫はキレイな蛾で、僕はまだ出会ったことがない。ネット情報によるとニジオビベニアツバの基産地(新種記載時のホロタイプが採集された場所)はインドだそうで、日本での分布は少し前までは「本土南西部」あるいは「本州南西部、四国、九州、対馬、沖縄島」とされていたらしい。それが近年、関東でも確認されるようになっているようだ。ナガサキアゲハやツマグロヒョウモン、ラミーカミキリキマダラカメムシなど、少し前には関東では見られなかった(あるいは珍しかった)のに近年普通種となった昆虫は少なくない。ニジオビベニアツバが狭山丘陵に現われたのも《南方系昆虫の分布域北上化》現象の1つなのかもしれない。とりあえず狭山丘陵東京側で確認したので記しておくしだい。






ところで、ニジオビベニアツバ幼虫の風変わりな「毛」だが、ネット情報では「刺毛の先端部がヘラ状でツムギアリの触角の擬態となっている為、アリの攻撃を受けない」という説を紹介しているところがあった。これにはビックリ!? ニジオビベニアツバ幼虫のヘラ状の毛とツムギアリの触角は(形が)似ているとは思えない……これで「擬態」の役目がはたせるものか疑問に感じた。幼虫がツムギアリに擬態しているという情報はいくつかあったが……アリに擬態しているとすれば、形(視覚的擬態)ではなくニオイ(化学擬態)なのではないだろうか? このヘラ状になった部分にアリを欺く(仲間だと思わせ攻撃を抑制する?)化学物質あるいは忌避物質でも配しているのだろうか? アリをニオイで欺く好蟻性昆虫はいるというし、トビモンオオエダシャクの幼虫は寄主植物に化学擬態してアリの攻撃を免れているという説もあるようなので、対アリ用に化学擬態を用いる昆虫がいること自体は不思議ではない気はするが。
ツムギアリに擬態しているというのが本当にこの種なのか、また、風変わりな形をした毛に何か役割り・意味があるのかどうか──気になるところ。
イモムシも色々と変わり種があって面白い。ということで──、
風変わりなイモムシ・ベスト3(あくまでも個人的なところで)

葉上のドラゴン:ウコンカギバ幼虫
シャチホコガ幼虫の威嚇ギミック!?
紫のピカチュウ!?ウラギンシジミ幼虫の線香花火

2月下旬に撮った昆虫から



擬木の上にいたシロフフユエダシャク♀↑。いま目にするフユシャクの大半はこの種。やはり擬木の上にいたシロフフユエダシャク♀別個体↓。


フユシャクではシロトゲエダシャクの♂をいくつか確認↓。


フユシャクを含め今冬は擬木の虫が少ない気がするが、このタイプの擬木には接続部に隙間があって、ここで越冬している虫や小動物もいる。日中、気温が上がると出てくるものも。




カメムシの仲間は成虫で越冬するものが多いようだが、ムラサキナガカメムシの成虫も冬の間はギボッチ(擬木ウォッチ)でちょくちょく見かける。


やはり擬木の上にいたムラサキナガカメムシ別個体↓。




ついでに1月の終わりに撮って投稿しそこねていた画像も↓。


よく見かけるマツヘリカメムシ↓も数年前から目にするようになった昆虫のひとつ。これは北米西部原産の外来種。



スポンサーサイト



シモフリトゲエダシャク♀の毛皮感!?

3年ぶりのシモフリトゲエダシャク♀



ふと見上げると、苔むした桜の枝にフユシャク♀の姿が……。産卵後で腹がしなびているが……にもかかわらず大きい!? 「これは!」と思いよく見るとシモフリトゲエダシャクだった。標準和名に「フユ」は入っていないがフユシャク(冬尺蛾)のひとつ。


産卵前はパンパンだったはずの腹はすっかりしぼんで見すぼらしい感じになっていたが……シモフリトゲエダシャクはフユシャク♀としては国内最大級だそうで、以前そのボリューム感あふれる姿を目の当たりにして圧倒されたことがある。♀をみたのは3年ぶりだ。


僕はシモフリトゲエダシャク♀を見るとユキヒョウのイメージが浮かぶ。気品ただよう美しき獣。が、この個体はしなびた腹がペタンコになってしまい、まるで毛皮の敷物のよう……「トラのラグマット」ならぬ「ユキヒョウのラグマット」を思い浮かべてしまった。


シモフリトゲエダシャク♀の白地に黒のカラーリングがユキヒョウのイメージと重なるのだが、この時期よく見られるシロフフユエダシャク♀(色合いにはかなり個体差がある)の中にも似たような色合いのものがいる。同日撮影した2種♀を並べ見ると↓。


色合いは似ているのだが質感的にちょっと違う!? シロフフユエダシャク♀はシモフリトゲエダシャク♀よりだいぶ小ぶりだが、印象の違いは大きさの違いだけではない。シロフフユエダシャク♀では腹の表面を短冊状の鱗粉が瓦のように覆っている。


シロフフユエダシャク♀別個体↓。こちらは産卵前で(卵がつまった)腹がふくれている。




これはこれでキレイだが……シロフフユエダシャク♀の短冊状の鱗粉に対し、シモフリトゲエダシャク♀の腹を覆っているのは獣の被毛のような鱗毛。高級毛皮感(?)が漂っている気がしないでもない!?




毛皮チックな鱗毛は、やはりユキヒョウを思わせる。産卵後のプロポーションでは本来の魅力が伝わらないので、4年前の記事から画像を再掲載↓。


(※↑【雪豹フユシャクふたたび+産卵&卵】より)
「フユシャク(冬尺蛾)界の女王」と呼びたくなる立派な風貌だ。

鳥ではないミミズクと牛ではないカメムシ



雑木林沿いの欄干を歩いていたのはミミズクの幼虫。平たい体から、海底を泳ぐヒラメやエイを思い浮かべてしまった。


脚は体にぴったり隙間なく収納できるデザインになっている。ボディラインを隠す効果があるのだろう──静止して脚をたたむと葉や幹に密着できる。なんともユニークな昆虫なので、これまで何度もネタにしてきた(*)。
冬にも虫はそれなりに見られるもので、ウシカメムシもその1つ。


カッコ良くてユニークなフォルムが魅力。


この虫も色々ネタにしてきた(*)


小動物など~メニュー~

※【昆虫】や【フェレット】を除く小動物のタイトル(クリックで記事へ)をまとめてみた。
【小動物など】の書庫をクリックすれば一覧ページが表示されるが、リストは複数ページに分割されてしまう(該当タイトルは1ページにまとめた方が便利)。また他の書庫に収めた小動物関連記事(◎)も加えてまとめておきたいと思って作ってみたしだい。


小動物など(昆虫・フェレットを除く)メニュー

カメレオン~捕食・体色変化&観察動画~
カメのヘソ!?
疑問:ヤマカガシが《相手の目を狙って毒液を飛ばす》説
ミミナガハリネズミ(オオミミハリネズミ)
ミミナガハリネズミ驚異の反射神経
ヒバカリ(ヘビ)の飼育プチ記録
幼蛇と成体・模様が異なる理由:アオダイショウ
Myカメレオン映像TVに…ならず
【ヒバカリ】名前の由来考
うちゅうのモグラ捕獲!?!
親とは似てないシマヘビ幼蛇
ニホンヤモリの瞳孔
ヒバカリ幼蛇の捕食
サファイア・ブルーなヒガシニホントカゲ幼体
なんちゃってフタオトカゲ!?
トカゲの尾は何度も切れる!?
ヘビの抜け殻&アオダイショウ幼蛇
ヒガシニホントカゲの捕食
穴を掘るヒガシニホントカゲ
ヒガシニホントカゲ~《分類》雑感
猫目のアオダイショウ!?
日光浴するニホンヤモリと卵
珍事記事、ハリネズミではなくヤマアラシ
日本テレビ『ZIP!』でハリネズミ
外来種を悪とみなす見方についての違和感
逃亡ヘビ事件

トップーページにも各ジャンルの主なタイトル(記事にリンク)をまとめてある。

曇天のヒロバフユエダシャク♀

ヒロバフユエダシャク♀は曇りがちな日に

ヒロバフユエダシャクのメスは晴れた日にはあまり見つからず、曇りがちな日に発見率が高まる──日中の虫見に限ってのことだが、個人的にはそんな印象を持っている。晴天続きには連日出会いが無かったのに、どんよりと曇った日には複数匹目にしたりする。同じフユシャク(冬尺蛾)のメスでもシロフフユエダシャクなど、晴れた日に陽の当たる場所でもよく見かける種類もいるのだが……。
(昼間に)ヒロバフユエダシャク♀を探すなら曇天の日が狙い目──ということで、昨日曇ったのでサクラッチ(桜ウォッチ)にでかけてみた。サクラはヒロバフユエダシャクの幼虫時代の食樹のひとつ。狭山丘陵では桜の古木が多く、サクラでの発見率が高い。


予想通り、サクラの幹にヒロバフユエダシャク♀の姿を見つけることができた。4枚の小さな翅(退化して飛ぶことはできない)を展翅したかのようにビシッと広げてとまる姿が凛々しい。


この時期によく見られるシロフフユエダシャク♀やフユシャク亜科のフユシャク♀よりも大きめ。


そしてほどなく、この日2匹目のヒロバフユエダシャク♀↓を発見。


やはりサクラの幹にとまっていた。遠目には極太文字の【卒】っぽく見えなくもない。


このヒロバフユエダシャク♀↑がとまっていた木の根元付近にはヒロバフユエダシャク♂がとまっていた↓。


飛翔能力のあるオスはルックス的には普通の蛾。晴れた日にも見かける↓。


今よく見かけるフユシャク・シロフフユエダシャクなど



擬木支柱の上面ふちにとまっていたシロフフユエダシャク♀↑。ヒロバフユエダシャク♀に比べると翅は小さい。シロフフユエダシャク♀は晴天の日も普通に見られる。


陽当たりの良い木製の手すりの上に出ていたシロフフユエダシャク♀↑。同じ手すりのわずかな凹み(木ネジ部分)に入り込んでいた♀↓。


同個体を別角度から↓。


翅や腹の模様・色合いには個体差があり、また産卵前後でプロポーションも変わるので、個体によってけっこう印象に違いがある。
擬木にとまっていたシロフフユエダシャク♀↓。


擬木にとまっていたシロフフユエダシャク♂↓。やっぱりオスは普通の蛾に見える。


シロフフユエダシャク♂とヒロバフユエダシャク♂は(翅の)模様が似ているので、はじめは違いがよくわからなかった。検索した画像で模様の入り方を見比べているうちは判断がつかなかったが、実際に見比べてみると印象には思った以上に違いがある(*)。
冬に出現する蛾はフユシャクだけではない。このところよく見かけるハイイロフユハマキ(旧名フユシャクモドキ)もフユシャクではないが、ちゃんと繁殖活動をしている↓。



ヒロバフユエダシャクとシロフフユエダシャク 模様が似ている両♂の比較・違い

ヒロバフユエダシャクなど

ヒロバフユエダシャクも出てきた



そろそろ現れる頃だろうとサクラッチ(桜ウォッチ)していたところ……桜のわきのサザンカの幹に、今シーズン初のヒロバフユエダシャク♀の姿が。




ヒロバフユエダシャクもフユシャクなので♀の翅は退化して飛ぶことはできない。この小さな翅を前翅・後翅ともにちゃんと見えるように──まるで展翅された標本のようにビシッと広げてとまる《姿勢の良さ》がお気に入り。
桜の幹でも見つけたヒロバフユエダシャク♀↓。


ヒロバフユエダシャク♀は前翅よりも後翅の方が大きい。


ユニークな♀に対し……飛翔能力がある♂は普通の蛾↓。


雨に濡れたサクラの幹にとまっていたヒロバフユエダシャク♂↓。


とりあえず、今シーズンもヒロバフユエダシャクが出てきたということで。

※昨シーズンのヒロバフユエダシャク
ヒロバフユエダシャクとシロフフユエダシャク 模様が似ている両♂の比較・違い
振袖チックなヒロバフユエダシャク♀他
振袖フユシャク【卒】を探せ~トギレフユエダシャク♀
腹黒いヒロバフユエダシャク

産卵中のフユシャク♀



フユシャク亜科のフユシャク♀が擬木支柱の上面で産卵していた。


翅は消失していて一見、成虫には見えないが……産卵シーンを見ると、こんな姿でもちゃんと成虫であり♀であることが理解できる。


冬の陽射しでコントラストがキツいので陰にして撮ってみたもの↓。


このタイプのフユシャク♀は腹端の化粧筆のような毛束を使って産みつけた卵塊を覆う。霜や乾燥を防いだり、卵に寄生する蜂などから守る役割りがあるのではないかと想像しているのだが。
※後日撮影した同卵塊を追記↓



※以前観察したフユシャク亜科のフユシャクの産卵(今回のものとは別種)→【フユシャクの産卵とその後

蛹の時は大きい!?フユシャク♀の翅

退化した小さな翅を持つシロフフユエダシャク♀



2月に入ってから出会う頻度が増えてきたシロフフユエダシャク。フユシャク(冬尺蛾)なので♀は翅が退化して飛ぶことができない。退化の度合いはフユシャクの種類によって異なるが、シロフフユエダシャク♀には小さいながら翅が残されており《退化した翅》感をかもしだしている。


擬木支柱の上部フチにとまっていたシロフフユエダシャク♀↑。
こちら↓は、木製の手すりの上部フチにとまった♀。




同じ木製の手すりの上面(水平面)フチの継ぎ目の凹み部分にいたシロフフユエダシャク♀↓。フチ(角)や段差・凹み部分にいることとも多い。


擬木支柱の上面(水平面)フチにとまっていたシロフフユエダシャク♀↓。


ということで、ユシャクはメスの《翅が退化したユニークな姿》が特徴的なので、ついついメスばかりに注目してしまいがちだが……比較してオスはこんな感じ↓。


オスには飛翔能力があって、見た目も普通の蛾。メスだけが翅を退化させたユニークな姿になってしまったわけだが……このメスの翅は形成が途中で阻害されて短くなったものではないらしい。なんと蛹の段階では1度長翅が形成され、その後わざわざ(?)アポトーシスで(オタマジャクシの尾が消失していくように?)萎縮するのだとか。
《退化した翅》は見た目もフシギだが、形成過程もなんだか謎めいている。
♀の小ささな翅は1度形成された翅が(細胞死で)萎縮したもの──というのは興味深いことだが……これまでどうも、あまり実感がわかなかった。が……それを思わぬ形で実感することに……。

蛹の抜け殻では♀翅も大きかった!?



これは擬木支柱の上面ふちにいたシロフフユエダシャク♀。羽化のさいにきれいに抜けきることができず、蛹(抜け殻)の一部をつけている。以前も右中脚が抜けきれずに蛹(抜け殻)の一部をつけていた♀を見たことがあったが、この♀は左触角がひっかかっているようだ。
別アングルから見ると、抜け殻は蛹の上半身・腹面だとわかった。


抜け殻は蛹の腹をのぞいた部分──そのように見えるが、よく見ると普通の蛾の蛹のように「翅」の部分がある。この蛹の「翅」が羽化後の成虫♀に比べると明らかに大きいことに驚きを覚えた。




これは、蛹の時期に1度長翅が形成されたことを物語っている──そう考えていいのではなかろうか。
フユシャクは土中で蛹になるらしいが、僕はまだ見たことがない。蛹の外見から♀でも(1度は形成される)長翅が確認できるとは知らず、これを見て「へえ!」と感心した。
フユシャクの中には成虫♀の翅が消失したものもいるが、やはり蛹自体にはちゃんとした(?)翅があるのだろうか……今まであまり関心が無かった蛹にも、にわかに興味がわいてきた。

翅が消失したフユシャク亜科のフユシャク♀↓


木製の手すりにとまっていた↑と同じ個体↓。



民話風フユシャクなぜ話


フユシャク(冬尺蛾)という冬に出現する蛾がいる。昆虫なのに(虫が活動するには不向きだと思える)寒い時期をわざわざ選んで活動するなんて変わっている。またメスの翅は退化していて蛾なのに飛ぶことができない──その姿はオスとはかけ離れておりいささか衝撃的(?)でもある。
こんな風変わりな昆虫がいることを知った時には驚いた。気がついてみれば、けっこう身近にいたりするのだが……これだけユニークであるにもかかわらず、フユシャクの認知度は意外に低い気がする。

ところで、民話では生きものの特性を説いた由来話(なぜ話)が存在する。サル(あるいはクマ・ウサギ)の尾がなぜ短いのかとか、クラゲにはなぜ骨がないのかとか、カメの甲羅はなぜヒビ割れているのか……etc. 動物のユニークな特徴は由来話(なぜ話)のネタになりやすいのだろう。
で、あるなら……風変わりなフユシャクの由来話(なぜ話)があってもいいのではないか。民話になっていたなら知名度でだって、もっと高かっただろうに……なんて思わないでもない。と、いうことで、創作民話風のフユシャクのナゼ話(パロディ?)が思い浮かんできた……。



創作民話風「フユシャク♀にはどうして翅がない?」

冬に活動するクロテンフユシャク(蛾)のメスには翅がありません。蛾なのに翅をもたず、昆虫なのに冬に活動する……どうして、そんなことになったのでしょう。
実は昔、クロテンフユシャクは他の多くの蛾と同じように暖かい時期に活動しており、メスもちゃんと翅を持っていました。それも、とびきり美しい翅です。高級毛皮のクロテンのような立派な翅を着物の衿のように左右重ねてとまる姿は蛾仲間たちの羨望の的で、彼女自身もそれをとても誇らしく思っていました。
ある夏の夕刻──その日は盆入りで、盆提灯のまわりには蛾たちが集まっていました。蛾は明かりに集まりますが、盆踊りに集まる人のようでもありました。その中にはクロテンフユシャクのメスの姿もありました。彼女の翅は盆提灯に映え、いっそう美しく見えました。集まっていたオスの蛾たちは見とれるばかり。取り巻きの中にはクロテンフユシャクのオスもいました。彼はプロポーズのチャンスをうかがっていましたが彼女の美しさに気後れしてなかなか言い出すことができません。そんなとき、見知らぬオスの蛾が現われ、クロテンフユシャクのメスに近づくと感嘆の声をあけました。
「これはまた、なんと美しい翅だろう! 私は旅をして回っているが、こんな美しい翅は見たことがありません」
自慢の翅を賞賛されて悪い気がするはずがありません。クロテンフユシャクのメスはたちまち口説かれてしまいます。旅人ならぬ旅蛾(?)のオスはこう言いました。
「私は3日後に故郷に帰らなくてはなりません。ぜひ、あなたと一緒に帰還したい」
クロテンフユシャク♀はOKし、3日後に旅蛾が迎えに来ることになりました。
その成り行きを見ていたクロテンフユシャク♂は面白くありません。突然現われた見知らぬ蛾に胡散臭い気配を感じて、お寺に住み着いている住職の蛾に相談します。一部始終を聞いた住職の蛾は、むずかしい顔になって言いました。
「おそらくその旅の者は亡霊だろう──この世のものではない。メスを連れて行こうとしている《故郷》とは、《あの世(死後の世界)》にちがいない」。お寺に住み着いているだけあって、そういうことには詳しいのでした。「3日後というのは、お盆でやってきた霊が《あの世》に帰る送り日(盆明け)だ。約束したからには必ず迎えに来るだろう。一緒に行かせてしまえばメスの命は無い」。クロテンフユシャク♂は驚き、何とか助けて欲しいと懇願。住職の蛾は「耳なし芳一」の話を思い出します。亡霊に取り憑かれながら体中にお経を書いたことで亡霊から逃れることができた琵琶法師の話です。
お経を書いた体は亡霊からは見えなくなる──そのことを知っていた住職の蛾はクロテンフユシャク♀を呼んで、亡霊から逃れるにはそれしかないと、その体にお経を書き始めました。頭・胸・腹・脚と書き終え、最後に翅に筆を入れようとしたときです。クロテンフユシャク♀が「自慢の美しい翅に墨を入れるなんてゼッタイにイヤ!」と言い出しました。住職の蛾もクロテンフユシャク♂も、なんとかメスをなだめ、説得しようとしましたが彼女は受け入れません。やむなく芳一作戦は中断。約束の送り日(盆明け)が過ぎ、亡霊があの世に帰るまで身を隠してやりすごとになりました。
そして問題の送り日(盆明け)──クロテンフユシャク♀は息を殺して隠れていたのですが、その居場所をつきとめ、亡霊の旅蛾が現われます。しかし、お経を書いた体は彼には見えません。書かれていない翅だけが見えていました。「これはどうしたことか? 美しい翅だけ残して彼女はどこへ行ったのだろう!?」亡霊の旅蛾もとまどっています。しばらくクロテンフユシャク♀の翅を見つめて考えていましたが「大事な翅を持ち帰れば、きっと彼女も追ってくるだろう」──そうつぶやいてクロテンフユシャク♀の翅を持ち去ってしまいます。お経を書いたメスの体はこの世にとどまることができましたが、こうしてクロテンフユシャクのメスは美しい翅を失ってしまいました。
自慢の翅を失ったクロテンフユシャク♀は、そのみじめな姿を仲間の蛾たちにさらすのが辛くて、仲間たちがいない冬に活動をするようになり、ふびんに思ったクロテンフユシャク♂も活動時期を冬に移したのでした……。


(※この話↑は創作です)


フユシャクの《意外性》

昆虫なのに冬に活動し、蛾なのにメスには翅がない──この意外にしてユニークな特徴を民話(なぜ話)風に説くとすれば、どんなストーリーになるだろう? ふとそんな思いから脳味噌の中に展開した「耳なし芳一」ならぬ「翅なし冬尺」のイメージ。この時期のブログは、フユシャク・ネタが重複しがちなので、ちょっと目先を変えて、こんな創作民話風に仕立ててみたしだい。

フユシャク(冬尺蛾)について補足しておくと、年1回、冬に(成虫が)発生するシャクガ科の蛾で、メスは翅が退化して飛ぶことができないという特徴をもつグループの総称。エダシャク亜科・ナミシャク亜科・フユシャク亜科の3つの亜科にまたがり国内に30種類以上いるらしい。メスの翅の退化の度合いは種類によって色々だがフユシャク亜科ではきれいに消失している。今回ネタにしたクロテンフユシャクもフユシャク亜科のフユシャク。メスに翅は無いが、オスの翅には黒い点があるので「黒点フユシャク」なのだろう。これを「黒貂(くろてん)」にかけてセーブル(黒貂)と僕は密かに呼んでいたりする……(個人的愛称)。

今回の創作民話的解釈はジョークのようなものだが、「昆虫なのに冬に活動し、蛾なのにメスには翅がない」──こんな虫がいると知った時には《意外性》に驚いた。「なぜ?」「どうして?」と思わずにはいられない。

「外温性(変温動物)の昆虫が活動するには不向きな冬に出現し繁殖活動をする」という《意外性》に関しては、当初「天敵が少ない時期に活動することで生存率を高める戦略」なのだろうと解釈していた。
「蛾なのにメスだけ翅が退化している(飛ぶことができない)」という《意外性》に関しては、次のように考えた。外温性(変温動物)の昆虫は低温では活動が鈍りがちになるはずで、冬に飛翔するのはコスト高(?)になるだろう──かといって、オス・メスともに飛べなくなれば両者が出会う婚姻チャンスが確保できない。それで身軽なオスが飛翔を担うようになったのではないか。とりあえずオスに飛翔能力を残しておけば婚姻チャンスは作ることはできる。冬に卵を抱えた身重(?)のメスが低温環境で飛ぶのは大儀だろう。生存率を高めるにはたくさん卵を産む方が有利だが、卵量を増やすことは体重を増やすことにもなり、体重が増えれば飛翔への負担が大きくなる──卵量を増やすことと飛翔能力とは相反する関係にあって、フユシャク♀は飛翔能力を捨てて卵量を確保することに専念したのではないか。天敵がいない冬なら飛んで逃げる必要も無い──メスに翅が無くてもなんとか生き延びることができたのだろう。そんなふうに解釈した。

当初は「天敵がいない(少ない)時期に活動することで生存率を高める戦略」を《意外性》と《合理性》を兼ね備えたアッパレな生存戦略だと感心していたが、フユシャクを観察しているうちに、冬の活動も安泰というわけでもないようだ……ということが判ってきた。カマキリやトカゲ、カエルなどの天敵は活動していないが、クモに捕食されているフユシャクや、フユシャクの卵塊を物色する寄生蜂らしきものを確認──天敵が全くいないわけではないようだ。
フユシャクの多くが夜行性だというが、もし冬に天敵がいないのであれば、活動温度が確保しやすい日中に活動する種類がもっといて良いのではないか……そんな疑問も浮かんできた。
昼行性のクロスジフユエダシャクのペアリングを観察してみると、♀は落ち葉や樹皮の陰に隠れていることが多い。天敵がいなければもっと目立つ所に出てきた方がオスも見つけやすく繁殖率は高まるはずだが、にもかかわらず隠れて交尾をする──これは鳥などの天敵がそれなりにいるからだろうと考えるようになった。
クロスジフユエダシャク♂が、落ち葉などの陰に隠れている♀を、それではどうやって見つけるかというと……翅が思わぬ重要な役目を果たしていることが観察でき(*)、これにも《意外性》と《必然性》が秘められていて大いに感心した。
フユシャクは一見地味だが、《意外性》に満ちた昆虫だと思う。


*意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク

https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-609.html


●昆虫など~メニュー〜
https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-902.html