2013年12月の記事 (1/1)
- 2013/12/31 : 2013年末のフユシャク [昆虫など]
- 2013/12/29 : 年賀状について [エッセイ・雑記]
- 2013/12/29 : 12月下旬のフユシャクなど [昆虫など]
- 2013/12/24 : どんより曇りはフユシャク日和 [昆虫など]
- 2013/12/19 : 絶滅危惧!?東京のウバタマムシ [昆虫など]
- 2013/12/04 : ニホントビナナフシ東京でも両性生殖 [昆虫など]
フユシャク(冬尺蛾)は30種類以上いるそうで、フユシャク亜科・ナミシャク亜科・エダシャク亜科にまたがっている。僕の虫見コースでは11月からエダシャク亜科のフユシャク(チャバネフユエダシャク・クロスジフユエダシャク)が見られ、12月に入ってナミシャク亜科(クロオビフユナミシャク・イチモジフユナミシャク)が見られるようになり、12月下旬にフユシャク亜科のフユシャクが見られるようになった。
12月30日/3亜科のフユシャクが見られた
この日は19匹のフユシャク♀を確認。苔むしたサクラの幹を中心に探していることもあって、イチモジフユナミシャクが多い。初めから7匹連続でイチモジフユナミシャクだった。





イチモジフユナミシャクは名前から判るようにナミシャク亜科のフユシャク。同じナミシャク亜科のクロオビフユナミシャク♀も見られた。


12月31日/今季初の産卵シーン
まだ今季はフユシャクの産卵シーンを撮っていないことに気がつき、きょうあたりフユシャク亜科の産卵が見られるかもしれないと思って出かけてみたところ……。

この種類のフユシャクは卵を毛でおおう。サクラの老木が近くにあるので(幼虫時代の)食草がサクラだとするとシロオビフユシャクかも知れない。卵塊の形状からするとクロバネフユシャクっぽい気がするが……シロオビフユシャクの卵塊も同じような形なのだろうか?
同じ種類と思われる産卵シーンを今年初めにも撮っている(フユシャクの交尾・産卵・卵)が、種類はハッキリしなかった。
(【追記】後日、同種と思われるフユシャクの産卵とその後をもう少し詳しく観察する事ができた)
フユシャク亜科の♀が卵を産みつけていたこの案内板は意外によく色々なフユシャク♀がみられ、この日もイチモジフユナミシャク♀が裏側にとまっていた。

きょうもイチモジフユナミシャク♀が一番多かった。

●年賀状について
12月上旬にWebニュースで【意外と知らない年賀状に書いてはいけないNGワード】という記事を目にした。年賀状を作る時期に合わせた話題ということなのだろう。他にも似たような記事があったようだ。
内容は年賀状のマナーに関することで、よくありがちな【NGワード】を紹介したもの。「なるほど」とか「参考になった」という意見もあったようだが、僕はいささか抵抗を感じた。
《目上の人に「賀正」「迎春」「賀春」「頌春」は失礼にあたる》だの《年賀状の文書では、句読点(「。」「、」)を使ってはいけない》だの《「去年」は使うべきではない》だの《意味の重複がダメ》だの……、年賀状における間違い・NGを「知っている者の優越感」をもって諭しているような印象がなくもない。
「はたして、これらをNGと決めつけることに妥当性はあるのだろうか?」と首を傾げたくもなる。
この記事で「NG」と指摘された年賀状を出したことがある人は少なくないだろう。該当する年賀状を受け取った人はかなり多いはず──というより受け取ったことが無い人は皆無に近いのではないか。しかし、その【NGワード】にいちいち腹を立て「失礼」だと感じる人はほとんどいないのではないかと思う。
「失礼」かどうかは、受け取った人が記された内容で個別に判断することであって、「意外と知らない」形式的な慣例等で判断すべきことではない。
差出人の「敬意」や「親しみ」などの意図が感じられるか否かが大事なのであって、古典的慣例等に準じているかどうかにこだわるのはおかしいと思う。
言葉や作法(マナー)というのは本来コミュニケーション・ツールのはずだ。自分の気持ちを伝えることが重要なのであって、「意味が伝われば用法の厳密さにはこだわらない」というのがあるべき姿だろう。
年賀状に関して言えば、そう厳格に扱うべき性格のものでもないと思う。
どういう言葉・文章を選ぶかはその人の美意識や言語に対する認識に由来するものであって、善意・好意で送られた年賀状に対し、他者が「間違っている」と決めつけたり、とがめだてするのは失敬という気がする。
たとえば賀詞は年賀状の図案を考える上での素材の1つ──僕はそう考える。新年を祝う意味が含まれているとわかれば良い記号であり、デザインとしてとしてまとまりが良いものを選ぶのが自然というものだ。《1文字・2文字の賀詞は目上の人には出してはいけない》というような古典的な慣例にとらわれる必要は無いと思う。図案的に1文字あるいは2文字の方がバランスが良いこともある。「賀正」と書かれた年賀状をもらって「失礼だ」と目くじらを立てる人がいたなら、そうしたタブーを作って「失礼だ」と判断する意識の方にこそ問題があるように思う。
【NGワード】を作るのは差出人ではなく、それをNGと見なす人たち──彼らの概念であるともいえる。
年賀状で大事なのは送り手の「気持ち」であって、送り手が自分の言葉(表現)で自由に記す──それで良いと思うし、それが理想だと思う。
古典的なマナーに配慮した無難な文面と、型にはとらわれず自由な発想で作られた賀状──どちらがもらって嬉しいかといえば、僕なら後者である。
古典的な慣例を踏襲していないことをもって失礼だと決めつけるのは適切な判断とはいえないと僕は思う。
ところで、僕はここしばらく年賀状を出していない。ブログなどで新年も早々にコミュニケーションできる昨今、年賀状の存在意義や必要性が薄れてきたという印象が強まり、経費・労力を負担して出し続ける価値がみいだせなくなってきた──という理由からだ。また、大義的にはCO2削減に貢献するため──という意味もある。
年賀状を廃止した代わりにブログなどに年賀状ならぬ年賀画像を載せて、新年の挨拶ということにしている。
今回、年賀状にまつわる【NGワード】の記事を読んだのは、2014年用の図案を考える以前のことだったが、この記事にいささか反発を感じたこともあって、あえて無難でない(?)方向で図案化を考えたりしてしまった……。
根がひねくれ者なので、厳格化を求められると、かえってフザケたものを追ってみたくなるのである。
もちろん他者に自分のやり方を推奨するつもりはさらさらないが、僕は自分なりのやり方で勝手にやっていくつもりである。
※追記:年賀ブログ
●2010年・とら→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-33.html
●2011年・うさぎ→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-123.html
●2012年・たつ→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-183.html
●2013年・へび→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-238.html
●2014年・うま→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-302.html
●2015年・ひつじ→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-399.html
●2016年・さる→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-504.html
●2017年・とり→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-617.html
●2018年・いぬ→https://hoshtani.blog.fc2.com/blog-entry-727.html
12月下旬のイチモジフユナミシャク♀




昼は他人のよそよそしさ?イチモジフユナミシャクの♂と♀
キレイな♀を見るとカメラを向けるが、淡いブルーの色合いがなかなかうまく記録できない。露出補正をしながら撮ってもイマイチなので、背景を変えるために移動を願ったり指にとまらせて撮影することもしばしば……。

ふと見ると、ちょうど近くの擬木にイチモジフユナミシャク♂がいたので、ツーショットを狙って、♀をそばに止まらせてみた。

♀を近づければ♂が反応するかと注目していたが……全く無反応。この距離で♂は♀を(交尾相手として)認識していない?
昼行性のクロスジフユエダシャクの♂が、落ち葉の下に隠れている♀を探し出して交尾するのに対し、こんな近くでも反応を示さないイチモジフユナミシャク♂……これは♀が性フェロモン(性誘因物質)を放出していないということなのだろう。
その種が昼行性か夜行性かは♀が性フェロモンを放出する時間帯によって決まるということなのかもしれない。
♀が性フェロモンを放出する時間帯に♂が活動する──イチモジフユナミシャクの♀が性フェロモンを放出するのは日中ではないということなのだろう。
♂の反応は見られなかったが、このツーショットは、同じ種類なのにオスとメスでは色も形もかなり違うことがよくわかって面白い。
その他のフユシャク♀
イチモジフユナミシャク♀を探して苔むしたサクラの木を見ていくと、チャバネフユエダシャクもよく見つかる。
サクラの木の近くの壁や柱についていることも多い。





どんより曇りはフユシャク日和
昨日は、どんより曇って空が暗めだったので、フユシャクを見るにはいい天気だと思い、ちょろっと発生ポイントへ出かけてみた。ちなみに、フユシャク(冬尺蛾)は冬に成虫が出現し繁殖する蛾で、メスは翅が退化してオスとはまったく異なるユニークな姿をしている。
フユシャクの中でも昼行性のクロスジフユエダシャクなどは、日中ペアを目にすることも少なくないが、フユシャクの多くは夜行性で、ふつう(日中には)なかなかペアを見ることはできない。
だが、空が暗く曇った日には日中でも夜行性のフユシャクが交尾していることがある(これまでしばしばあった)。
イチモジフユナミシャク♀は桜の名所のようなサクラの密度が高い場所で苔むしたサクラの幹を見て行くと日陰側で見つかることが多いのだが、晴れた日に桜の幹の日陰側を眺めて行くと、冬の低い太陽が目に入って逆光がうっとうしいことこの上ない。
イチモジフユナミシャク♀が日陰側に多いのは湿度の関係で、乾燥をきらってのことかと想像しているが、あるいは「逆光」側にいる方が天敵の鳥等に見つかりにくいため生存率が高かった──というような事情も関係しているのかもしれない。
とりあえずイチモジフユナミシャク♀を探してサクラの幹をチェックしていくと……はたして──期待したとおり、フユシャクのペアを見つけることができた。
チャバネフユエダシャクのペア




クロテンフユシャクやウスバフユシャクの交尾は見たことがあったが、チャバネフユエダシャクの交尾を見たのは初めてだった。
そしてさらに、擬木の手すりでも……。



♂と♀──別々に見ると同じ種類の昆虫とはとても思えないが、こうしてペアショットをみると同じ種類ということが納得できる。
ちなみに今季初めてチャバネフユエダシャク♀を見たのは11月11日だった。

これで蛾の成虫だというのだから変わっている。通称(?)ホルスタイン冬尺。模様はダルメシアンに似てるという人もいたりする。
この日のイチモジフユナミシャク♀
で、イチモジフユナミシャク♀はというと……いくつか見つかったのだが、サクラにとまっていたのは、どれもちょっと撮りにくい場所だったのでスルー。
サクラではなかったが、そのそばの木(種類は不明)にとまっていたイチモジフユナミシャク♀がいたので、撮ってみた。また、サクラの老木近くの案内板でも♀が見られた。



この日確認したイチモジフユナミシャク♀は8~9匹だったが、そのうちの4匹がこの案内板にとまっていた。後ろに写っているのがサクラの老木。
今季のイチモジフユナミシャク
ちなみに今季初めて【イチモジフユナミシャク】を確認したのは12月21日。そろそろ出現し始める頃かと思いサクラの名所に出かけてみると♂も♀も確認できた。
この日はあまりキレイな♀個体が撮れなかったので、後日撮った画像↓。

今季のクロスジフユエダシャク
【クロスジフユエダシャク】を見たのはイチモジフユナミシャクより早く、今季初は♂が11月23日、♀(というより初ペア)が11月24日だった。その後はペアも含め何度も見ている。画像はカエデの幹に止まっていたクロスジフユエダシャクのペア。

今季のクロオビフユナミシャク
今季初めての【クロオビフユナミシャク】は♂・♀ともに12月9日。ツツジの植込み近くの壁や手すりでよく目につく。


クロオビフユナミシャクはサクラやコナラの近くの手すりや壁でも見かけている。
*フユシャク:翅が退化した♀/翅でニオイを嗅ぐ♂
*なんちゃってフユシャク?※メスコバネマルハキバガ
*空目フユシャク※シロトゲエダシャク
*ゼフィルス的フユシャク!?※フチグロトゲエダシャク
*ヒメシロモンドクガ:翅が退化したメス
*フユシャクの婚礼ダンス※クロスジフユエダシャク♀の見つけ方
*フユシャク探し
*フユシャクの口
*ユキヒョウ的フユシャク※シモフリトゲエダシャク
*フユシャク♀34匹/日
*フユシャクの交尾・産卵・卵
*雪豹フユシャクふたたび※シモフリトゲエダシャク♀
*シロトゲエダシャク
*トギレフユエダシャク&なんちゃってフユシャク:メスコバネマルハキバガ
*意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク
晩秋のウバタマムシ

画像は、ちょっと前に撮った晩秋のウバタマムシ。ヤマトタマムシのようなボリウム感のある体格で、隆起のある翅鞘の模様は、木材の木目を活かした焼杉・浮造り(うづくり)の伝統工芸品を思わせるシブイ味わいがある。
ただ、よく似た体格のヤマトタマムシの派手な美しさに比べると、ちょっと見劣りする感は否めない。地味なウバタマムシを派手なヤマトタマムシのメスだと思い込む人もいがちなようだ。
ところが、日本のレッドデータ検索システムというので見ると、ウバタマムシは東京都では絶滅危惧種・埼玉県では準絶滅危惧種という扱いになっている。
しかし少なくとも僕がよく歩く狭山丘陵の東京都と埼玉県の境界付近ではごく普通に見られる昆虫だ。きっと調査した地域ポイントによって偏りがあるためだろう。
東京都や埼玉県の中でも発生地域は局所的なのかもしれない。いるところには普通種程度の密度で存在するが、いない所には全く・あるいはほとんどいない──ということなのだろうか。
ウバタマムシは普通、幼虫で越冬するそうだが、成虫で越冬することもあるというから、狭山丘陵は成虫越冬エリアなのかもしれない。

寒くなってくると擬木の接続部のすきま(黒矢印)に入って越冬しているようで、冬でも陽当たりの良いところに出てきていることがある。
冬のウバタマムシ

ということで、これ↑は去年(2012年)の12月25日に擬木で日光浴をしていたウバタマムシ。ヤマトタマムシをこの時期に見たことはないがウバタマムシは珍しくない。
そして今年(2013年)元旦──1月1日にサクラの幹にいたウバタマムシ↓。

春のウバタマムシ

3月のウバタマムシ↑と5月にみつけたウバタタマムシ↓。

5月頃にはアオマダラタマムシも見かけるようになる。ウバタマムシより小さめだが、ヤマトタマムシの光沢とウバタタマムシの隆起模様を兼ね備えたような特徴をもった昆虫↓。

「発生時期」のウバタマムシ
そして、昆虫図鑑に記された「発生時期」の6月~8月にみられたウバタマムシ。

夏にはヤマトタマムシ↓もよく見られる。


ウバタマムシの成虫は松の葉を食べ、幼虫は弱った(枯れた)松の材を食べるらしく、そういえばウバタマムシを見かけるのは、ハルゼミが鳴く松林の近く・松の害虫である外来昆虫マツヘリカメムシをよく見かけるエリアと重なっているような気もする。

追記:2013年12月のウバタマムシ
今月(2013年12月)撮った最新のウバタマムシ↓。
冬のウバタマムシは、イチモジフユナミシャク♀を探しているとき(フユシャク探し)に時々見かける。
追記:残雪とウバタマムシ(2014年2月)
雪が残る中、気温が上がったためか擬木上にでてきたウバタマムシ。

残雪背景の2月のウバタマムシ──ということで画像を追加。

『ナナフシのすべて』(岡田正哉・著/トンボ出版/1999年)に《九州以北ではおもに単為生殖、屋久島以南では両性生殖をすると思われます》と記されているニホントビナナフシ。Wikipedia【ナナフシ】にはニホントビナナフシは《本州の個体は単為生殖を行う》と記されている。

1年前にオスを見るまで、単為生殖エリアの東京にニホントビナナフシ♂がいるとは思っていなかった。今年は交尾が確認できたので記しておきたい。
晩秋に多くみられるニホントビナナフシ
このあたりでは晩秋にニホントビナナフシをみかける機会が増える。エサである葉が枯れ、落葉することで降りたり葉とともに落ちてきたものが擬木に這い上がってきて目立つようになるためだろう。コナラやクヌギの下の擬木手すりで密度が高い。このほとんどが成虫♀だが、たくさんの個体を見ていけば、発生率の低いオスにもいつかは出会えるのではないかと探していたのだが……今年もオスを見つけることができた。
ニホントビナナフシのオス&交尾を確認


オスを発見したとき、運良く交尾をしていたので、あわててカメラを向けるが……メスがオスを乗せたまま歩き出して、なかなかうまく撮れない……。
画像ではわかりにくいが、オスは腹端の一対の鉤のような器官(把握部)でメスの腹をつかんでいる。メスの下蓋板(かがいばん/生殖口を覆う部分)は開いており、オスから受け渡されたと思われる緑色の精包(せいほう/精子の入ったカプセル)らしきものが入っていた。



東京でもまれに(?)オスが出現し、両性生殖していることが確認できた──といって良いのではないかと思う。

※追記(2013.12.15)たざびーさんのブログ【ニホントビナナフシ♂再び】にニホントビナナフシ♂の腹端のアップが掲載され、これを見て僕が【把握部】だと思っていた器官は【尾毛】だったのかもしれない?──と怪しくなってきた。ナナフシ♂が持つ【把握部】はニホントビナナフシ♂にはないのか?──そのあたりは現時点で不明……。
九州以北ではめずらしい?ニホントビナナフシのオス


初めてニホントビナナフシ♂を見たとき、全体的に枯れ枝を思わせる体色なのに中脚と後脚だけキレイな緑色な姿が印象的だった。前脚だけ赤茶色なのが、アンバランスな配色に感じたのだが……。



前脚を前方に伸ばした枯れ枝への擬態ポーズを見て中脚と後脚だけ緑色の理由がわかった。枯れ枝に擬態した体をささえる脚は背景の葉にとけこむ緑色であった方がバレにくい。


細い腹部の末端に膨らんだ部分──芽をつけた枝先に見えなくもない。
翅が不全の♂~雌雄の翅比較
じつは今年みつけたオスはこれが2匹目。11月下旬にも1匹みているのだが、後翅がよじれてうまく収納できない不全個体で、中脚も1本欠けていた。
不全オスで後翅の膜質部(ふだんは外側の革質部の下にたたまれているので見えない)が露出していたので、色が違うというメスの膜質部と比べてみた。

たまたま後翅がめくれて膜質部が露出していたメスがいたので撮ってみた。左側に開いてしまっているが、めくれているのは右後翅。膜質部がセンスのように折り畳まれているのがわかる。

卵を産み続けるニホントビナナフシ♀


ちなみに、フンが出てくるところと卵がでてくるところは別。

本州以北ではなぜ単為生殖がメインなのか
本州以北には(基本的には?)オスがいないと思い込んでいたので、東京で初めてニホントビナナフシのオスを見た時は驚いた。どうやら発生率は低いながら本州以北でも出現はしているらしい。屋久島以南ではオスも普通にみられ、両性生殖をしているのだろうが……同じ種類でありながら、九州以北ではおもに単為生殖──というのはなぜなのだろう?
オスの個体だけ特に寒さに弱い──ということもないだろうに。
この「発生時期の違い」が、「両性生殖と単為生殖の違い」に関係しているのではないだろうか……ド素人ながら、九州以北で単為生殖がメインとなったことを説明できないか、あれこれ空想をめぐらせてみた。
・年1化(年に1サイクルで発生)だとすると、孵化するタイミングは概ね一律だろう(「通年」発生エリアでは孵化時期は随時)。
・同時期に孵化したオスとメスでは性成熟期間(成長速度)に差があるのではないか。
・また、メスは産卵が始まると生涯生み続ける/交尾しなければ単為生殖になる→ということは、メスが交尾可能な時期は羽化~産卵が始まる迄の一時期に限定されるのではないか。
・メスが長く産卵し続けるため羽化後長く生きるのに対し、オスは羽化後短命なのではないか→オスが交尾のできる期間も意外に短く限定的なのではないか。
・ゆえに同時期に孵化したオスとメスでは、限定的な交尾可能な性成熟期がズレて、両性生殖が成立しにくくなる。
(通年エリアでは♂・♀それぞれ成長段階が同時期に存在するため♂・♀の性成熟期のズレは問題にならない)
・仮に、産卵が継続的なことから孵化も順次起こったとしても、若齢幼虫が食べることのできる柔らかい若葉が豊富な時期でなければ育つのは難しいだろう。
・【若齢期における食草の制限】で成長時期がそろえられることとになる。
・さらに、環境や個体差によって成長速度にバラツキが生じても、生体(幼虫・成虫)は冬には食草の枯竭や寒さ等によって死滅する。この【冬の断絶】によって成長のバラツキはリセットされ、翌春、越冬卵の孵化から発生サイクルがリスタートすることになる。
・【若齢期における食草の制限】や【冬の断絶】が成長のバラツキをリセットしてしまうため、発生時期が限定される九州以北では発生周期は一律化し、いつまで経っても♂と♀の性成熟期のズレは解消できない。
・その結果、【両性生殖】の機会は少なくなり、【単為生殖】が主流になったのではないか。
《同時期に孵化した♂と♀では性成熟期に差があるのではないか?》──というのはありそうな気がする。
《卵を多く長く産み続けられるように大きく育ってから成虫になるメス》に対して《小さく機動性が高いオス》は早めに成虫になってもおかしくないだろう。
同期の兄弟姉妹の中でオスが羽化したときに同時にメスも羽化すれば近親婚の危険は高まるが、オスが先に羽化すれば(そのとき近くに交尾可能なメスがいなければ)、オスは交尾相手を探して拡散し、近親婚の危険は低くなる。
ニホントビナナフシのオスはメスに比べて小さく、そのわりに翅は長い。メスに飛翔能力があるのか疑問だが、オスには飛翔能力があるというから同期に孵化したメスよりオスの方が早く羽化するということは理にかなっている。
『ナナフシのすべて』には「コブナナフシの成長過程の1例(沖縄本島産)」が記されているが、これによると──、
メス……1980.04.18 孵化→12.05 羽化(7齢虫)
ナナフシの仲間は元々南方系の昆虫だという。だから本来の「通年」発生している環境(発生時期もバラバラの各成長段階の個体が混在する)においては《オスとメスの成長速度の差/同期♂♀の羽化時期・婚姻可能時期のピークのズレ》があっても問題はない。むしろ《ピークのズレ》は同期の個体との交尾が回避されることで、兄弟姉妹との近親婚を防ぐという利点になるはずだ。
春~夏にかけて見られるニホントビナナフシは若齢幼虫ばかりで、大きな幼虫や成虫は見たことがない。逆に晩秋にみかけるのは、ほとんどが成虫ばかりだ。成長サイクルが同期している印象は強い。
ただ、稀に晩秋でも若齢幼虫や終齢幼虫をみかけることはある。サイクルがおおむね同期した環境でも、何らかの理由で早く孵化したり、羽化が遅れるといったことは起こりうる──ということだろう。成長速度にバラツキがあるのは「通年」発生エリアでは繁殖リスクを分散するという意味で種の生存率を高めるのに役立っているのかもしれない。
しかし、【冬の断絶】のある九州以北では、晩秋に現れた「季節外れ」の若齢幼虫や終齢幼虫は成長しきることなく死んでしまうことになるのだろう。


こうした理由で《九州以北では単為生殖がメイン》になったのではないか──と僕は考えてみた。
すると、疑問が浮かんでくる。《オスの成長速度がメスより早いことで婚姻ピークがズレる》のだとすると、《晩秋、卵を産み続けたメスが生涯の最後を迎えようという時期に、どうしてオスが出現したのか?》──という疑問である。
晩秋にもごくわずかながら若齢幼虫や終齢幼虫がみられることから、《発達の遅れたオスが遅れに遅れて羽化した》という可能性はあるだろう。
しかし、発現率の低いオスの《遅れに遅れた》個体がまれに見つかるのであれば、発現率の高いメスの《いくらか遅れた》個体(幼虫)が同時期にもっと見つかってよいのではないか……という疑問もある。
昆虫を見ていると、いろんなことを考えてしまう……ということで、真偽のほどとは別に、「頭の体操」を記してみたしだい。