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カマキリは大雪を知っていたのか!?

《カマキリが高いところに産卵すると大雪(カマキリは積雪値を予測し、雪に埋もれない高さに卵を産む)》──そんな雪国の言い伝えを科学的に証明したというのが2003年に出版された『カマキリは大雪を知っていた』(酒井與喜夫・著/農山漁村文化協会・刊)だった。
《カマキリの雪予想》は話題となり、科学的事実であるかのようにあちこちで報じられ、多くの人がこれを信じた。
僕は、この本を読む以前から《カマキリの雪予想》には懐疑的だったが、なぜそんな伝説が生まれたのか……個人的な推察を記したのが前の記事(*)になる。
その後、問題の『カマキリは大雪を知っていた』を読んで、これはガセネタだという思いは強まり、当時感想を覚え書きとして外部ブログに記した(3009.08.27)。以下はその要約版。

カマキリは大雪を知っていたのか!?『カマキリは大雪を知っていた』を読んで



この本の主題は一言で言うと──、
伝承から《カマキリは積雪値を予測し、雪に埋もれない高さに卵を産む》と考えた著者・酒井氏が、オオカマキリの卵のうの高さを計測することで実用気象予測に役立てようとする研究記である。ちなみに著者の酒井與喜夫氏はこの研究で工学博士号を取得している。
酒井氏の主張はこうだ。※青文字は本文より引用

【1】カマキリの卵嚢は雪に埋まると孵化が極めて困難になるため、カマキリは雪に埋まらない高さに産卵する。

雪国のカマキリにとって一番大事なのは、卵のうが雪に埋もれてしまわないことです。これが決定的に重要です。そして、その高さこそ、積雪深予測の指標となるものでした。(P.55)

一方、高い位置の卵嚢ほど鳥に見つかり食われる危険が高まるので、雪に埋まらない程度に低く産卵する必要がある。また──、

メスは産卵期が近づくとお腹がふくらんで飛行が困難になる。そのために、樹上で産卵する際も、雪の深さをクリアできる最低限の高さを選んでいる可能性がある。(P.21)

との記述もある。
ゆえに、カマキリの卵嚢の高さ=最深積雪となる。

【2】実際にデータをとって精査してみたところ、「カマキリの卵が高いところにあれば、大雪」が正しいことが確かめられた。

2つの方法(「補間法」「地理的特性を考慮した方法」)で検証することにより、カマキリの卵のうの高さに着目した積雪深の予想値の妥当性が確認でき、統計学的にも十分意味のある結果が導かれました。まさに、「カマキリが高いところに産卵すると大雪」ということが疑うべからざるものとなったのです(P.164)

ところが大前提となる【1】が間違いであることが、弘前大学名誉教授・安藤喜一氏(昆虫学)によって指摘された。観察と実験の結果、オオカマキリの卵嚢は雪に埋まることも多く、埋まっても孵化率は低下しないことが確かめられたのだ。
【生物】カマキリの積雪予知は「誤り」

卵嚢の耐雪性を確かめた反証本も後に出版されている。
『耐性の昆虫学』田中誠二・小滝豊美・田中一裕編著/東海大学出版会
(「目次を表示」→【オオカマキリの耐雪性】【オオカマキリの「雪予想」はまちがいである】)

酒井説の前提となる「カマキリの卵嚢は雪に埋まると孵化が極めて困難になるため、雪に埋まらない高さに産みつけられる」という「思い込み」は否定されたとみるべきだろう。

前提【1】が崩れたのだから、カマキリの卵嚢の高さから割り出した雪予想も当然、誤りだろうと思いきや、【2】は成立(的中)したというのだから、なんとも妙な話である。
「式が間違っているのに答は合っている」というこの状態は何なのだろう?

結論から言えば……【2】については、正確には「カマキリの卵嚢の高さ=最深積雪」を示すものではなかった。オリジナル・データを見る限り、卵嚢の高さは(やはり)まちまちで積雪深との相関関係は確かめられなかったのだ。
酒井氏はデータ収集のさいに最初から高すぎる位置の卵嚢は除外したり、集めたデータに独自の加工をほどこし補正することによって、卵嚢の高さと積雪深に相関関係があるかのような数値をむりやり(?)導き出していたにすぎない。「カマキリの卵嚢の高さと最深積雪」の相関関係(らしきもの)は、酒井氏の加工(数値操作)を加える事で初めて導き出されているわけで……これでは「雪予想をしているのはカマキリではなく酒井氏だ」との指摘があるのも、もっともである。

酒井氏自身も本書の中で、

わたしははじめ、カマキリの卵のうの高さを測れば最深積雪も予測できると、単純に思っていました。しかしそれだと現実にはかなりバラツキがあらわれます。(P.88)

と、カマキリの卵嚢の高さがまちまちなことを認めている。それでも《カマキリの雪予想》が正しいという前提に執着し、バラツキのつじつまを合わせるために次のようなことを主張している。

カマキリの卵のうの高さは、だれでも測れますがそれだけでは予想になりません。カマキリがなぜその場所を選び、その高さに産卵したのかなど、データが採れた条件を精査する必要も出てきます。(P.24)

採れたデータも生のままではなく、そうした地形や林相の条件に応じて個々に補正する必要もあるでしょう。(P.24)


例えば、産卵時の卵嚢の高さと、雪をかぶって枝先が下がった時の高さでは誤差が生じるし、地形等の影響を受けてポイントごとに雪の深さは変わる──卵嚢の高さにバラツキがあるのはそのせいで、こうした誤差を補正する作業(数値の加工)が必要だというのである。

 そもそも卵のうの高さを測るのは、市街地、すなわち平坦地での最深積雪を数値で予測するためです。スギ林の地形や林相による影響に左右されるデータを、そのまま平坦値の予測値とするわけにはいきません。
 このような高さに産みつけられた卵のうの高さは、その影響を取り除く補正をして、平坦地と仮定した卵のうの高さに置き換える必要がありました。(P.76)


カマキリが最深積雪を予想して卵嚢の高さを決めている──というのであれば、その真偽の解明がこの研究の大前提であり、まずそれを確かめることが科学としての手順のはずだ。ところが酒井氏は「計測した卵が実際に雪に埋もれていなかったのか否か」を確かめるのではなく、「収集したデータの補正をすることで平坦値の予測値を導きだす」ことに心を奪われている。

さらに、カマキリの卵嚢の調査の仕方について酒井氏は──、

周囲と比べて異常に高い場合は、データから除外します。(P.61)

どれも周囲のものと比較して2.2~4.3倍の高さでした。この異常な高さを積雪深予想に使ったらとんだ誤報になると思って、これらのデータは除外しました。(P.150)


とあっさり書いている。異常に高い所にあるのは何か特別な理由があるからだ──というのが除外の理由だが、これは最初から積雪量の予想範囲に当てはまらないサンプルを排除しようとするデータ操作ではないのか?

酒井氏はデータ補正に4つの要素をあげている。
【補正1】吹き溜まり・吹きさらしによる補正(吹き溜まりでは積雪は深く・吹きさらしでは浅くなるので、適当な係数をかけてデータ数値を補正)
【補正2】樹高による補正(枝に積もった雪が落ちて木の周囲では雪が深く、枝の下では浅くなるので、適当な係数をかけてデータ数値を補正)
【補正3】斜面の方位による補正(陽当たりにより積雪の溶解速度に差があるため、適当な係数をかけてデータ数値を補正)
【補正4】傾斜角度による補正(斜面の積雪を平坦値に修正するため、適当な係数をかけてデータ数値を補正)

最初から「異常に高い卵嚢は除外」しておき、最深積雪予想範囲の高さの卵嚢のデータを集めて、補正係数を操作して自分の求める(都合の良い)数値に近づける事はいくらでも可能だろう。
データ処理で納得できる数値が得られれば「やっぱり」と思い、気に入らない数値が出たら補正要素を再検討し係数を変えて計算し直せば、結果は思いのままになるのではないか。
「補正」なのか「改ざん」なのか、大いに疑問が残るところである。

「卵嚢(らんのう)は本当に雪に埋まらない高さに産みつけられていたのか」という大前提の「事実確認」をおこたり、人為的な加工を施した数値操作で最大積雪量との一致化(つじつま合わせ)を図ろうとする方針は根本的に間違っているように思う。

大前提であったはずの《カマキリの雪予想》については、先に記した通り、安藤喜一氏らによって否定されている。カマキリの卵嚢が産みつけられた高さはまちまちで大半が雪に埋もれて越冬する事、また雪に約4ヶ月埋もれた卵嚢からも97.9%が孵化し、卵嚢の耐雪性が確かめられているという。

『カマキリは大雪を知っていた』では著者の思い込みが科学センスを凌駕しているとあきれる箇所が随所にでてくる。主題からはちょっと離れるが、それを端的にあらわすエピソードの一端を。

自然の中に身を置くと、草も木も昆虫も動物も、みんなわたしに声をかけてくれているような気になることがあります。(P.64)

わたしは、虫や動物を見ると声をかけたくなる癖があります。(P.66)


そして酒井氏は調査中に出会ったスズメバチに話しかける。

「ところでハチさんはどこから来たの?」
 するとハチはパッと飛び上がって、地上50センチほどの低空を5メートルばかり行ってはUターン、戻ってきてボードに止まる。こんな行動を3回くりかえしました。ハチは飛び方で巣のある方角や距離、高さを示すといわれています。このハチもわたしの問いに答えて、巣のある場所を教えてくれたのかもしれません。
 この日は時間に余裕もなかったので、確かめることはしませんでしたが、これまでの経験では、もし巣がもっと近ければ、ハチは左回りで旋回しながら方角を示し、水平旋回か傾斜旋回かで目の位置より高いか低いかを教えてくれたはずです。(P.67)


ハチが飛び方で巣を教えてくれるなどという話があるのだろうか?
餌場から帰ったミツバチが巣箱の中で「ミツバチのダンス」をして仲間に餌場の方角や距離を伝えることは知られているが、スズメバチがわざわざヒトに巣のありかを教える必要がどこにあるのだろう?
こうなると「飛躍」というより「錯誤」に基づく「思い込み」は「妄想」に近い。
こうした首を傾げたくなる飛躍が本文の中には少なからずでてくるのである。

『カマキリは大雪を知っていた』を読んで強く感じたのは、酒井氏の研究は激しい思い込みの上に展開されていて、大いに疑問がある──ということである。


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カマキリ卵の大雪予言説はなぜ生まれたか?

※外部ブログにアップした過去の記事(2008.12.03)の再録(若干補筆)。『カマキリは大雪を知っていた』(酒井與喜夫・著/農山漁村文化協会・刊)を読む以前に記していたもの。

カマキリの卵嚢(らんのう)が高い所にあれば大雪!?

木の枝が葉を落とす頃になって目につくようになるものがある。
ウスタビガ(蛾)の繭やカマキリの卵のう(卵を収めたもの/卵鞘<らんしょう>)などだ。
それまで葉に隠れていたものが、枝が裸になることで、あらわになる。



ウスタビガの緑色の繭が作られるのは夏の終わり。周囲には緑の葉がしげっているので、この時期に繭を見つけるのは難しい。繭の中で蛹になったウスタビガは秋には羽化してしまうので、この繭が目立つ冬にはもう役割を終えているわけだ(その頃になれば抜け殻の繭が見つかっても問題無い)。

オオカマキリの卵のうの方はウスタビガの繭に比べれば、色彩的には目立たないが、やはり枝が裸になった冬に気づくことが多い。200~300個ほどの卵を収めた塊=卵のうは泡を固めたような断熱構造になっており、冬を越し、翌年の4月下旬~5月頃に孵化する。

2~3年前の冬、ウスタビガの繭がどのくらい見つかるものか、多摩湖・狭山湖周辺を探しながら歩いてみたことがあった。
それまでは気づかなかったが、注意して探してみるとあちこちに見つかる。
そのウスタビガ繭探しで気がついた事がもう一つあった。カマキリの卵のうが予想外に高い所──木の梢付近にも見つかるのだ。

「あんな高い所で産卵するなんて珍しいな」──などと最初は意外な気がしたのだが……考えてみたら、高い位置の卵のうなんて、注意していなければ目に入らない(ウスタビガの繭も意識的に探してみるまでは気づかなかった)。
カマキリの卵のうは、以前から高いところに(も)あったのだろう。ただ、僕の方が気づかなかっただけなのだと考え直した。
これまで、視界に入る目につきやすい高さの──低い位置の卵のうしか認識していなかったので、なんとなく「カマキリの卵のうは低い所にあるもの」と思い込んでいたわけである。

ところで、カマキリの卵のうといえば、少し前に面白い俗説(?)が流行った(?)。
カマキリの卵のうの位置から、その冬の積雪量が占える──というものだ。

カマキリが高いところに産卵すると大雪

──そんな言い伝えが雪国にはあるというのだ。

カマキリは積雪値を予測し、雪に埋もれない高さに卵を産む

──という理屈らしい。

オオカマキリの卵のうの高さから積雪量を予想する研究をし、《カマキリの雪予想》が正しかったことを科学的に証明した(という)本(*)が出版されたり、それがテレビで紹介されたりしたため、この俗説は一気に広まった感がある。
(※その解明本に対しては懐疑的な意見も多く、後に反証本も出たらしい)

カマキリの大雪予言がもし本当なら──たしかに面白い。
だが僕は(も)この俗説はガセだろうと思った。
ウスタビガの繭探しで、カマキリの卵は低いところにも意外に高い所にもあるものだ──という事実を知ったからだ。もちろんその冬、東京・埼玉周辺で木の梢に届くような積雪などなかった。

昆虫はスゴイ能力を備えていて、よく感心させられるが……予知能力があるとはにわかに信じられない。

それに、そもそもカマキリはなぜ積もる雪を避けて高い場所に卵のうを避難(?)させなければならないのか?
卵のうが冬の間、雪に埋まったとしても……卵が孵る時期には雪は溶けているはずだから孵化に直接影響はなさそうな気もする。
後に知った事だが……実際に雪に埋もれた卵のうからもちゃんとオオカマキリは誕生するそうである。

《カマキリがその冬の積雪予想をして卵を産む高さを決めている》という俗説は間違い──どうやらそれが本当らしい。

ところで、この俗説を知ったとき、その真偽とは別に、この「言い伝え」がどうして誕生したのかという点に僕は興味を感じた。

俗説は誤りだったとして……それではナゼありもしない誤認が生まれ、人はなぜそれを信じて(納得して)しまったのか?

僕が「カマキリの卵のうは低い所にあるもの」と思い込んでいた事と関係がありそうな気がする。

カマキリの卵のうは(おそらく)高い所にも低い所にも産みつけられるが、それが目につくようになるのは枝の葉が落ちた冬である。
その冬──雪が降る地方では、低い卵のうは雪で隠され、雪上につきでた枝に産みつけられた卵嚢のみが見つかりやすくなる。
積雪面よりずっと高いところに産みつけられた卵のうには普通気がつかない。

積雪量が少なければ、低い雪面から露出した卵嚢が目につきやすくなり、大雪の年には深く積もった雪の上に突き出た枝の卵嚢が目につくきやすくなる。
年によって積雪量が違うのに、そのつど雪面から露出したところにカマキリの卵のうがあるのに気づいた人が、
「カマキリはまるで、積雪量を予想して雪に埋もれない高さに産卵しているかのようだ」
──そう錯覚してしまったのではあるまいか?

いわば、自然のトリック(?)に人間が勝手にひっかかってしまった結果、生まれてきた俗説なのではないか……と僕には思えるのだ。

また、カマキリはその前脚を持ち上げた姿から「拝み虫(おがみむし)」とも呼ばれるらしい。ギリシャ語名には「予言者」の意味があるそうだ(おそらく「拝み虫」と同じように祈る姿勢に見える事からの命名ではないかという気がするが?)。
もしかしたらこうした俗称などもカマキリの予言能力という神秘的なイメージの誘導にかかわっているのかもしれない。


あるいは瞳のように見えるカマキリの擬瞳孔(偽瞳孔)──どの角度から見ても「こっちを見ている」ようにうつる──これもミステリアスな印象を人に与えているのかもしれない。ちなみに暗い所では複眼全体が黒くなる。

※外部ブログ・freemlのブログにアップしていたものだが、スパムTBが増えたため、Yahoo!ブログに移動した記事。