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珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳

2016年7月、雑木林のふちにある石垣で初めてハリサシガメをみつけ、こんな風変わりな昆虫がいるのかと驚いた。好奇心から調べてみると、局所的に生息するまれな種類らしく、その情報は少ない……。わからないなら自分で確かめてみようと、この場所でハリサシガメの活動を観察し続け、そのつど記事にしてきた。しかし、この場所では2019年に幼虫を2度(おそらく同じ個体)確認したのを最後に、2020年は1度も見ることができていない。そこで、とりあえずこれまでの観察をまとめて総集編を作成してしておくことにした(2016年と2017年にぷちまとめ記事を投稿しているが、今回は現時点での総まとめ)。

ハリサシガメの「ハ」──を背負った成虫

雑木林のふちにある石垣に現われた《「ハ」の字模様》の昆虫──珍虫ハリサシガメの成虫は、アリを狩って体液を吸う捕食性カメムシだった。

「ハリサシガメ」の「ハリ」は背中(小楯板)から突き出したトゲ状突起に由来してのものだろうか?

前胸の両側につきだした前胸背側角も勇ましい。

ハリサシガメは翅多型で、個体によって翅の長さに変異がある。


前胸背後葉の横に並ぶ紋模様にも個体差があって無紋のものもある。
成虫のオスとメスでは腹の形に違いが見られる。


成虫の体長は15mm前後。ハリサシガメ属は世界に100種以上いるらしいが、日本には1種のみが知られているとのこと(@『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』/全国農村教育協会)。


土粒をまといアリの死骸などで擬装する幼虫

土粒を全身にまとい、ガラクタで擬装するユニークなハリサシガメ幼虫(画面右を向いており、触角の付け根近くに眼がのぞいている)。初めてこの姿を見た時は、こんなことをするカメムシがいるのかと驚いた。手間をかけて擬装するのにはきっとそれなりの意味があるはずだ。ハリサシガメは成虫も幼虫もアリを狩る。多くの昆虫や小動物が避けたがるアリをあえてエサにしているという生態と無関係ではないだろう。詳しくは後述するが、ハリサシガメ幼虫の擬装は、(まともに闘うには)危険なアリに近づくためのものだと僕は考えている。
理由はともあれ、このユニークな習性のため、ハリサシガメ幼虫は個体ごとにデコレーション素材&レイアウトが異なり、それぞれのオリジナル・ファッション(?)が個性的に見える。








ハリサシガメ幼虫は自分が狩ったアリをデコレーションするが、それ以外の装飾コレクションは、アリの巣から廃棄されたものではないかと想像している。というのも、ハリサシガメ幼虫のデコ素材の中にはアリの繭(抜け殻)と思われる物がしばしば混じっているからだ。


ハリサシガメ幼虫の擬装の意味
僕の見たところ、ハリサシガメ幼虫の擬装は大きく2つに分けられる──《体全体を覆う(土粒の)コーティング》と《背中に盛りつける(異物の)デコレーション》である。デコレーションは更に《自力で狩ったアリの死骸》と《それ以外の拾い物》の2つに分けられる。それぞれの擬装の意味については次のように考えている。
①土粒による全身コーティング……ハリサシガメは幼虫時代からアリをエサにしているが、危険な昆虫であるアリに気づかれること無く近づくための擬装。ニオイで相手を認識するアリの触角タッチをブロックするための体表面隠し(対アリ用嗅覚的隠蔽工作)という意味合いである。また、アリ以外の捕食者にはボディラインの隠蔽擬装(視覚的隠蔽)の効果もありそうだ。
②自力で狩ったアリの死骸デコレーション……同巣のアリをニオイで確認するアリの警戒を解くためのアイテムとして利用。または偵察に来たアリの注意をハリサシガメ幼虫本体からデコったアリにそらす陽動効果もある(デコ素材に気をとられた偵察アリに不意打ちをかけてしとめる)。また、アリを背負っていることで捕食者から敬遠される効果もありそうだ。
③拾い物デコレーション……おそらくアリのゴミ捨場などで調達したもので、アリに「用済みのゴミ」と誤認させて警戒を解除させる擬装。
アリは生き物の死骸などを集める一方、食べ残しや仲間の死骸、ゴミ(繭殻など)を廃棄する。廃棄したガラクタを仲間がまた拾って来るようでは困るわけだから、不要になった廃棄物には何らかのスルー・サインが記されているのではないだろうか? であるなら、ハリサシガメ幼虫がこのスルー・サインのある廃棄物をデコっていれば、廃棄物とみなされスルーされる──そんな《隠れ蓑》的な効果があるように思われる。
ハリサシガメ幼虫のコーティング行動⬇。


土粒コーティングの隠蔽効果。土の上では存在に気づきにくい⬇。

土の上では、まとった土粒が幼虫のボディーラインを隠してしまう⬆。背負っているデコレーションがゴミのかたまりにしか見えず、昆虫食のハンターに対しては視覚的隠蔽効果がありそうだ。しかし擬装の核心はアリに対する《隠れ蓑(かくれみの)効果》だろう。
アリの行列のすぐそばで狩りをするハリサシガメ幼虫にアリは全く気づかない!?





もしアリに気づかれ、集団で反撃されたらハリサシガメ幼虫に勝ち目は無いだろう。アリに気づかれること無く近づき、不意打ちでしとめる。それを悟られること無く実行するのに擬装は大きな役割りをはたしていると思われる。
スルーのケースばかりではなく、アリがデコったアリを調べにくることもあるが、ハリサシガメ幼虫の存在には気がつかない。偵察アリはデコられた仲間に気をとられているところを不意打ちでしとめられてしまった⬇。





ハリサシガメが観察できる石垣ではヒガシニホントカゲもたくさん見られ、このどん欲な昆虫ハンターとハリサシガメ幼虫が接近したり、ときに接触することもあったが、ヒガシニホントカゲはまったく無反応だった。


ヒガシニホントカゲにはハリサシガメ幼虫が「獲物(昆虫)と認識されない(気づかない)」のか「食えないものと認識されている」のか……?
あるいは「アリを<食えない>」と忌避する本能があって、そのアリをまとっていることで、食えないものとして認識され、獲物から除外されているのかもしれない。

ハリサシガメの狩りとレガース
幼虫の重要な擬装アイテム(デコ素材)にもなるアリをハリサシガメは、どのように狩って、幼虫はどうやって背中に盛りつけるのか──。
ハリサシガメはターゲットが間合いに入ると素早くアリに襲いかかり、前脚と中脚の4本の脚を使って押さえ込み、鋭い口吻を突き立てる。するとアリはすぐに動けなくなってしまう。アリを押さえ込むときに使われる前脚と中脚の脛節(けいせつ:ヒトでいえば膝から足首にかけての部分)の内側にはレガース(すね当て)のようなものがついているのに気がついた。これはアリを抑えるさいに接触面積を増やしてグリップ力を高める《獲物の保定器官》──滑り止めのような効果を持っているのではないかと僕は見ている。アリをしとめる口吻の一撃を、素早く適切な部位に打ち込むには、しっかり獲物をおさえておく必要があるはずだ。
ハリサシガメ幼虫のレガース⬇。

羽化殻(終齢幼虫の抜け殻)のレガース⬇。


ハリサシガメ成虫のレガース⬇。


中脚と後脚のクローズアップは別成虫♂の死骸を撮ったもの。
同様の器官はアカシマサシガメでも確認している。
レガース付きの前脚と中脚は、アリを襲撃するときと、口吻を刺し直すときにアリをコントローするのに使われている。
捕えた獲物を石垣の隙間に運んで体液を吸うハリサシガメ成虫⬇。










捕えたアリの体液を吸うハリサシガメ幼虫⬇。




ハリサシガメの狩りとデコレーション
こうして狩ったアリの吸汁後の死骸をハリサシガメ幼虫は背中にデコレーションする。捕食には前脚と中脚(4本)が使われるが、背中に盛り着けるときに使われるのは(僕の観察では)決まって後脚である。
ちなみに昆虫学者で生態学の権威・岩田久二雄氏の著書『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)にはハリサシガメの記載がある(ハリサシガメに出会ったのは1度きりで、初めて見た幼虫に驚き、持ち帰って飼育観察したことが記されている)。これによると、「捕食のさいに使われるのは《二本の前肢》」で、「(死骸を)背中に押し上げるのに使われたのも《前肢》」という観察が記されているが、これは間違いだと思う。
ハリサシガメ幼虫が狩ったアリをデコレーションするようす⬇。




体液を吸い終えたアリは腹の下をくぐって後脚にわたされ、背中に盛りつけられる。背中にデコるときに後脚を使うようすを尻の側(右斜め後方)から撮った画像↓。





背中のデコレーションに新素材(アリの死骸)を押し込んだあとも、後脚を使って荷を整えるような動作を繰り返す。
別の個体の食事〜デコレーション行動⬇。

捕らえたアリの体液を吸い終えると、アリの死骸は股をくぐって後脚に渡され、両後脚で腹端側から背中に押し込まれる↓。

可動範囲が広い後脚(青矢印)でアリをぐいぐい押し込もうとする……。


脱皮でデコ素材だけを引き継ぎ(後述)、まだ土粒コーティングが不完全な状態でアリを捕食していた幼虫⬇。

石垣の上で食事中のハリサシガメ幼虫。前脚と中脚でアリをおさえ口吻を刺して体液を吸っている。おそらく脱皮してあまり経っていない個体なのだろう──まだ新たな土粒コーティングがほどこされていない。背中には脱皮のさいに引き継いだデコレーションを羽織っているものの、側面は隠れておらず、幼虫の腹部(若い幼虫では腹が白い)がむき出しになっている。

体液を吸い終えたアリの死骸は、移行素材と腹部背面の隙間に押し込まれた。

新たに加えられるデコ素材は、後脚を使って腹の背面と既存デコ素材の間に押し込まれる。このくり返しで、脚が届かない高さまでコレクションが積み上げられることになる。

デコ・コレクションは脱皮のさいどうするのか?
ここで、ハリサシガメ幼虫の擬装解除した姿を紹介しておこう。
脱皮前と思われる幼虫の死骸をみつけたので異物を取り除いてみたものが⬇。

岩田久二雄・著『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)には、《デコ素材の付着は「糊着」ではなく「ひっかかっているだけ」》という趣旨のことが記されているが、土粒を含め剥がした素材同士が「糊着」しており、「糊のようなもの(分泌物や排泄物?)で貼り付けられていた」ことがわかった。


腹部背面には極細の毛束が生えている。擬装素材を貼りつけるときに接着面積を広げて安定させるのに役立っているのかもしれない。
アリに対しての《隠れ蓑》ともいえる擬装を解除した素のハリサシガメ幼虫は、こんな姿をしているわけだが……この丸裸な状態でアリを狩るのは危険だろう。
ならば、脱皮をしたばかりの丸裸の幼虫は、狩りができないことになりはしないか?──そんな疑問が浮上した。
脱皮した新幼虫は狩りの前に新たな《隠れ蓑》を調達するのだろうか?
また、幼虫が脱皮や羽化(カメムシの仲間は不完全変態で、蛹を経ずに幼虫から成虫が羽化する)をするさいには、背中に貼り付けたデコ素材がジャマになりはしないだろうか?──という疑問もわいてくる……。
そのあたりの謎を説くカギの1つとなったのが、石垣の上に残されていたハリサシガメの脱皮殻だった。

なんと、背中に盛られていたはずのデコ素材が、ごっそり剥ぎ取られている。おそらく、脱皮した新幼虫が消えたデコ素材を引き継いでいったのだろう。この脱皮殻を見つけたときは、脱皮のさいにジャマになるデコ素材を外してから脱皮が行われ、脱皮を完了した後に新幼虫がこれを再利用するのではないかと考えた。
しかし、その後、脱皮のシーンを観察する機会があって、驚愕の〝技〟を目にすることとなる──。

石垣の隙間でみつけた脱皮直前の幼虫⬆。画像は90度回転させたもので、実際は鉛直面に頭を下にとまっている(画面左が下側)。これが、この後……⬇。

なんと、脱皮をしながら古い殻のデコ素材をひきつぐという信じられないような芸当を披露した。約30分後⬇。

脱皮する新しい体とデコ素材の間には古い殻があって隔てられていたはずなのに、デコ素材を引き継ばながら古い殻だけを脱いでいくというのは予想もできなかった。まるで、ズボンを脱ぐことなくズボン下だけを脱ぎ捨てるようなもの!?──これには大いに驚かされた。
この個体は無事に抜け殻を離脱したが、ときには引き継いだデコ素材にくっついて脱皮殻を背負ってしまうことも起きるようだ。

新幼虫が引き継いだデコ素材にくっついてきてしまった脱皮殻は、腹端側から巻き上げられるような形で逆立ち姿勢になりがち。
脱皮殻を嫌って分離した幼虫⬇。



脱皮殻を引き剥がすときにも(デコる時同様)後脚が使われる。


ハリサシガメ幼虫がアリとの接触で(ニオイで)バレないように体表面を土粒でおおい隠しているのだとすれば、自身の(ニオイのついた)抜け殻を擬装コレクションから外したがるのは理にかなった行動だといえる。

成虫は擬装しないので羽化殻にはデコ素材が残されている。石垣の上でみつけた羽化殻⬇。


頭部の土粒コーティングが浮き上がっているが《土粒同士がくっついたまま形をを保っている》のがわかる。擬装素材は岩田氏が記したように「ひっかかって、もつれあって巧くとまっている」のではなく、糊のようなもの(分泌物?)で糊着したものであることがわかる。
ところで……ハリサシガメは幼虫・成虫ともにアリをエサとしているわけだが、幼虫時代の秘技(擬装)を成虫になって棄てるのは、なぜだろう?
非力な幼虫時代にはアリのテリトリーで活動するには擬装は必要なアイテムだったのだろう。成虫になれば体格的にも機敏さもアリに対応できるようになること、そして何より成虫には繁殖活動という大きな役目が課せられている──すみやかに相手をみつけ交尾を成功させるための効率性などから擬装解除が成立しているのではないかと僕は想像している。

──というのが、これまでに僕が観察したハリサシガメについての総集編。いろいろ面白いこともわかったが、わからないこともまだまだ多い。
今回使用した画像は過去に投稿した記事に添付したものから抜粋した。少ない画像で的確に伝えたい部分を表現できれば良いのだが、被写体が動いたり隠れたりするので不明瞭な画像での冗漫な画像構成となってしまった感は否めない……。
最後に雑感も交えて総括するつもりでいたが、思いのほか長くなってしまったので割愛。とりあえず、今回はこんなところで──。


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カメムシの奇行!?抜け殻落としプチまとめ


羽化や脱皮をしたカメムシが自分の抜け殻を落とす──この行動を僕は《抜け殻落とし》(もしくは《羽化殻落とし》・《脱皮殻落とし》)と呼んでいる。冒頭の画像↑は2018年5月に撮影した羽化後のアカスジキンカメムシ。新成虫が《抜け殻(羽化殻)を落とし》をした瞬間──ではなく、落とした抜け殻がクモのしおり糸にひっかかって宙に浮いているシーン。カメムシの《抜け殻落とし》については、これまで幾度も記事にしてきたが、ここで少しまとめておくことにした。

カメムシの《抜け殻落とし》とその意味

自分の抜け殻を攻撃して落とす──初めて目にした時は奇異に感じて、この行動にはどんな意味があるのだろうとあれこれ想像をめぐらせた。
抜け殻には、その虫が存在することを示す痕跡(例えば──羽化や脱皮のさいに分泌される離型剤のようなもの?)が残っていて、そのニオイが寄生蜂や寄生蠅、アリなどを呼び寄せてしまうことがあるのではないか? だとすれば抜け殻がカメムシの近くにあると、自分や仲間が天敵に見つかる危険が高まる……そこで、これを回避すべく生活圏の外に(災いの元となる)抜け殻を落とすのではないだろうか──今は、そのように考えている。
イモムシなどでは孵化後に卵殻を食べたり、脱皮後に脱皮殻を食べるものがいるが、これも1つには「天敵の指標となる抜け殻を隠滅する」という意味があるのではないかと思う。カメムシは口の構造上、抜け殻を食べて隠滅することができないので、生活圏の外に落とすことで処理しているのではないだろうか。
セミやチョウ・蛾などは羽化殻を残すが、羽化後その場から離れてしまうので抜け殻を残しておいても問題がないのだろう。セミは羽化する時に地中から出てきて木に登るし、チョウ・蛾は蛹になる前に食草を離れて移動するものがいる──こうした行動で「天敵の指標となる抜け殻を仲間から遠ざける」ことをしていると考えることもできそうな気がする(あるいは、ハチやハエに寄生されていた場合にも仲間から離れたところで蛹になることで、羽化した寄生蜂や寄生蠅を仲間から遠ざける効果があるのかもしれない)。
素人の考えたことで、この解釈が当っているのかどうかはわからない。しかし、カメムシが《抜け殻落とし》をするシーンは何度も目撃している。

エサキモンキツノカメムシの羽化殻落とし


成虫は背中のハート・マークが目をひくエサキモンキツノカメムシ。僕が初めて《抜け殻落とし》を目にしたのは、2012年10月──擬木で羽化する、このエサキモンキツノカメムシ↓を観察している時だった。

①擬木支柱で羽化するエサキモンキツノカメムシ。②羽化殻から離脱すると頭を上にし羽化殻と向き合う。③頭突きをするように羽化殻を攻撃し始め、ついに落としてしまった。羽化殻への攻撃が始まったのは新成虫が羽化殻から離脱して9分後のことだった。このときのことを記した記事→【ハート亀虫羽化 見守るキリスト!?】)。
2015年11月に、やはり擬木で羽化していたエサキモンキツノカメムシの羽化殻落とし↓。

①擬木支柱にとまった羽化後の新成虫と羽化殻。②羽化殻に頭からぶつかっていく新成虫。③羽化殻を落とす。このときは離脱後20分余り経ってからの羽化殻落としだった(※詳細記事→【エサキモンキツノカメムシの抜け殻落とし他】)。

アカスジキンカメムシの羽化殻落とし&脱皮殻落とし


《抜け殻落とし》はアカスジキンカメムシで観察することが多かった。といっても必ず行うわけではなく、葉の裏に抜け殻だけが残されていることもある(地面に落とされている抜け殻の方が多い)。また羽化中や羽化直後の新成虫を見つけて羽化殻シーンを撮影しようと近づくと、(警戒して)固まったままなかなか始まらなかったり、アクシデントで他の昆虫と接触して羽化殻を残して逃去る新成虫もいた。近くで待機していると《抜け殻落とし》が始まらないし、離れていると《抜け殻落とし》が始まっときに接写が間にあわず、画像での記録は失敗が多かったが……とりあえず記録ということで……。

2018年5月に撮影したもの↑。ムクゲのやや高い位置にとまっていたのできれいに撮れなかったが……①葉の裏で羽化中のアカスジキンカメムシ。②離脱した新成虫が向きを変える。③羽化殻と頭をつき合わせるような形。この時点で羽化殻の脚は葉から外れかけていた。④しばらくじっとしていた新成虫が動き出す。⑤頭で羽化殻を押しながら前進。⑥前進して寄り切るように羽化殻を落とす(この直後に羽化殻は落下)。⑦羽化殻落としを終えたアカスジキンカメムシ新成虫。※【羽化殻落とし@アカスジキンカメムシ】より↑。
《羽化殻落とし》を目の前で確認しながら、肝心のシーンが激しくピンポケになってしまった例……↓。

2017年5月に撮影↑。羽化中のアカスジキンカメムシが古い殻から離脱して2時間ほど経ってからの《羽化殻落とし》だった(※詳細→【アカスジキンカメムシ:羽化~抜け殻落とし】)。《羽化殻落とし》を接写しようと近くで待機していると、警戒して(だろう)なかなか始めてくれない。待たされることが多かった。

2017年5月に撮影↑。①を撮影した後、少し離れたところから監視を続けて《羽化殻落とし》を待っていた。②《羽化殻落とし》の瞬間──フレーミングもピントも間に合わず、角度も悪くてこんな画像しか撮れなかった(①から50分が経過していた)。③羽化殻を落とした後の新成虫(※詳細→【アカスジキンカメムシ羽化後《抜け殻落とし》確認】)。


2018年5月に撮影↑。①新成虫は孵化殻から少し離れたところに移動していて体色もだいぶ濃くなってきている(時間も経過している)。もう《羽化殻落とし》はしないのだろうか……とあきらめかけていると、した──が、その瞬間は撮り逃し、その直後の画像が→②羽化殻落とし直後の画像(1秒前にはフレーム内に羽化殻があった)。目の前で《羽化殻落とし》を確認していながら、またしてもその瞬間は撮り逃してしまった(※詳細→【羽化殻落とし@アカスジキンカメムシ】)。


2018年5月に撮影↑。これは《羽化殻落とし》のシーンを確認していない。葉の裏で羽化殻と対峙している羽化直後の新成虫(左画像)。2時間40分後に見に行くと、新成虫はすでに葉の表に移動しており、葉の裏の羽化殻はなくなっていた(右画像)。新成虫は、おそらく《羽化殻落とし》をしたあとに葉の表に移動したのだろう(※詳細→【アカスジキンカメムシの羽化他】)。
アカスジキンカメムシの《抜け殻落とし》は幼虫の脱皮でも確認している(《脱皮殻落とし》)。

2015年9月に撮影↑。①コブシの葉で脱皮中のアカスジキンカメムシ幼虫。②触角や脚が抜けていく。③最後に腹端が抜けて新幼虫が抜け殻から離脱。よくこのサイズの体が小さな抜け殻に収まっていたものだといつも感心する。④向きを変えて抜け殻と対峙。⑤抜け殻に頭突き攻撃。⑥抜け殻の下にもぐることで抜け殻の前脚を葉から引き剥がす。カメラを近づけたためこの姿勢で触角を倒し、静止してしまった。この2分20秒後の画像が→⑦接写するカメラを離していたわずかのスキに脱皮殻は落とされてしまった(※詳細→【アカスジキンカメムシの抜け殻おとし】)。
こちら↓は2015年10月に撮影した《脱皮殻落とし》。

①擬木の支柱で脱皮殻落としを開始したアカスジキンカメムシ幼虫。葉の裏ではすんなり落ちる抜け殻が、擬木では徘徊する蛾の幼虫やクモが残した糸がひっかかってなかなか落ちない。②頭突きをし抜け殻を押し上げる新幼虫。③なかなか落ちない脱皮殻を持ち上げ、このあとようやく落としたのだが……。④擬木に残されていたしおり糸(?)にひっかかった脱皮殻は宙吊りになっていた。⑤脱皮殻がまだあることに気がついた新幼虫は……⑥わざわざ支柱をおりていき脱皮殻を落とそうと頭突きをする。⑦脱皮殻は再び落ちかけて途中で宙吊りに──この後、風にあおられて、ようやく落下した(※詳細→【カメムシの抜け殻落とし行動】)。
宙吊りになった脱皮殻に追い打ちをかけにいく行動に《抜け殻落とし》に対する執着のようなものを感じた。
《抜け殻落とし》への執着は羽化でも感じるケースがあった。

2017年5月に撮影↑。ふつう羽化後の新成虫は羽化殻と同じ葉にいるものだが、上下の葉に分かれてしまった羽化殻と新成虫。①では羽化殻と新成虫がとまった葉は離れているが、羽化は羽化殻のある上の葉で行われたはず。そのときは上の葉(羽化殻がある葉)は終齢幼虫の重みで下がり、下の葉(新成虫とまっている葉)は(新成虫の体重がかかっていないため)もっと上がっていて上の葉と接していたのだろう。羽化の過程で新成虫が、接していた下の葉につかまり、そのまま体重がかかってこの状態(上下の葉が離れる形)になったものと思われる。この状態で下の葉に移ってしまった新成虫が羽化殻を落とすために、わざわざ上の葉まで戻るのかどうか──興味があったのでしばらく近くにスタンバって観察していたが、警戒してかなかなか動かず。少しその場を離れ、22分後に戻ってみると→②新成虫はすでに上の葉に移動しており、羽化殻は落とされた後だった。羽化殻はこの枝の下でみつかったので、風で落ちたわけではなく(風に飛ばされたのであれば直下には落ちない)、新成虫がわざわざ上の葉に移動している事からも《羽化殻落とし》が行われたことは、まず間違いない(※詳細→【アカスジキンカメムシ新成虫《抜け殻落とし》のケース】)。
羽化や脱皮をしたあとのカメムシが労力を要して行う《抜け殻落とし》には、やはりそれなりの意味があるのだろうとあらためて感じた。
僕が想像した《抜け殻落とし》の意味の一端を裏付けるようなシーンもあった。

2018年5月に撮影↑(※詳細→【アカスジキンカメムシの羽化他】)。葉の裏で羽化していたアカスジキンカメムシの羽化殻落としを接写すべく、ずっと近くでスタンバっていたが、(警戒して?)なかなか羽化殻落としは始まらない……。そのうちアリがやってきてしまい、アカスジキンカメムシ成虫は羽化殻を残して別の枝へ移動していってしまった。羽化殻はアリによって運び去られた↓。

これで、羽化殻を放置すればアリが来ることは確認できた。アリがくるのだから、寄生蜂や寄生蠅など、他の天敵が嗅ぎ付けてくることも充分ありそうだ。こうした天敵を生活圏に誘引しないように抜け殻を落とすというのは理にかなっているように思われる。もちろんカメムシが「効果を考えて」こうした行動をとっているわけではいだろうが……進化の中で、何らかのきっかけによって抜け殻を落とす行動が生まれ、それを行う個体の生存率が高かったことから、その子孫にこの行動が受け継がれ定着していったのではないか?

ツヤアオカメムシ・チャバネアオカメムシの《羽化殻落とし》


エサキモンキツノカメムシやアカスジキンカメムシの他には、ツヤアオカメムシとチャバネアオカメムシで《羽化殻落とし》を確認している。


2015年11月に擬木で撮影したツヤアオカメムシの羽化殻落とし↑(※詳細→【モンキツノカメムシとエサキモンキツノカメムシ他】)。


2018年9月にケヤキの幹上で行われていたチャバネアオカメムシの羽化殻落とし↑(※詳細→【チャバネアオカメムシの羽化殻落とし】)。

謎めいたカメムシの《抜け殻落とし》

何の予備知識も無くカメムシの《抜け殻落とし》を目にした当初は理解しがたい光景のように思われた。つい今しがたまで自分の体の一部だったものを攻撃する!?──自分の体から離れたとたん、《自己》だったものが《非自己》と認識されてしまうのだろうか? それにしても、エサキモンキツノカメムシは母虫が卵~若齢幼虫集団を守ることで知られているし、アカスジキンカメムシも葉の裏に数匹が体をよせあって集まっていたりする──仲間と協調できる昆虫が、どうして少し前には自分の体だった抜け殻を攻撃するのか、とても不思議だった。
最初に記した通り、今では「天敵に嗅ぎつけられる危険を避けるため」に《抜け殻落とし》をするのだろうと僕は考えている。長い進化の中で、抜け殻を放置するものの中から落とすものが現れ、その一群の生存率が高かったことで《抜け殻落とし》の習性が自然選択されたのだろうという解釈なのだが……それでは、最初の《抜け殻落とし》はどのようにして起こったのだろう? カメムシが「天敵を避けるため」と意識して始めたわけではないだろうから、きっと何か別の行動システムの副産的な(あるいはエラー?)発現がきっかけになってのことではないかという気がするが、そのあたりのことはまだ想像がつかずにいる。
僕の解釈がどの程度当っているのか、まるっきり的外れなのかはわからないが……いずれにしても脳味噌を刺激し続けるカメムシの《抜け殻落とし》は、気になる《謎めいた生態》の1つである。

※追記:風変わりなハリサシガメの脱皮殻剥ぎ

ちょっと(かなり?)変わったカメムシ──ハリサシガメの《抜け殻落とし》に相当すると思われる行動について追記。ハリサシガメは捕食性カメムシでエサはもっぱらアリという変わり種。しかも幼虫は捕食後のアリの死骸を背中にデコレーションして擬装するという風変わりな習性を持っている。背中にデコるのは狩ったアリばかりでなく、おそらくアリのゴミ捨場から拾ってきたのではないかと思われる虫の残骸等も混じっていたりする。さらにハリサシガメは脱皮も奇想天外で、古い殻を破って出現する新幼虫は脱皮殻が背負っていたデコレーション素材をそのまま引き継ぎ、背負いながらでてくる↓(*)。


画像を90度回転しているが、実際は石垣の鉛直面に頭を下にして脱皮している↑(画面左が下)。この脱皮のさいに、引き継いだデコレーション素材とともに、これにくっついていた自分の脱皮殻もいっしょに背負ってしまうことが起きる。
自分の脱皮殻を背負って擬装する昆虫(セモンジンガサハムシなど)もいるのだし、ハリサシガメ幼虫は他の昆虫の残骸をわざわざデコレーションしているのだから、自分の抜け殻だってデコっても良さそうな気がするが……ハリサシガメ幼虫は自分の脱皮殻だけは嫌って、引き剥がそうとする。先に紹介したカメムシの《抜け殻落とし》が、基本的には頭を使って──頭突きで押し出すように行われていたのに対し、ハリサシガメ幼虫の、いわば《脱皮殻剥ぎ》は後脚を使って行われるようだ。



別の脱皮後と思われるハリサシガメ幼虫↓。

ダンゴムシかワラジムシの殻(白く見える物)を背負っているが、その後ろに脱皮殻も付着している(腹の背面がデコ素材にくっついている)。この30分後、すでに脱皮殻は引き剥がされていた↓。

アリの死骸やアリが廃棄したと思われる虫の残骸などは積極的にデコるのに、自分の抜け殻はデコレーションから排除しようとするのが興味深いところ。擬装がアリの嗅覚を欺くためのものだとしたら、自分の(ニオイがついた)脱皮殻を排除するのは理にかなっている。

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★カメムシの抜け殻落とし記事一覧

マツヘリカメムシ:卵・幼虫・成虫


僕が子どもの頃にはいなかったのに今ではすっかり普通種──という昆虫は少なくない。マツヘリカメムシもその1つ。Wikipedia によると、北米大陸西部原産の外来種で日本では東京で2008年に初めて確認されたとか。僕がこの虫を初めて見たのは2011年(@東京)。ベルボトム(裾広ズボン)を連想させる後脚や頭を下にすると白枠の菱形メガネをかけた顔のように見える姿が印象的なカメムシだった。

今ではちょくちょく見かけるし、昆虫ブログ等にもよく登場しているので、もはや《よく知られた、お馴染みの昆虫》になっていると思っていたのだが……幼虫や卵について確かめたくて検索してみたところ、ヒットするのは成虫の画像ばかり。幼虫や卵の画像が意外に少ない……と、いうことでマツヘリカメムシの幼虫と卵(抜け殻)の画像を上げておくことにした。

マツヘリカメムシ幼虫とユニークな卵



松葉にカメムシの若齢幼虫がかたまっていた↑。マツヘリカメムシのようだったので撮り始めると、近くの松葉に彼らの(ものと思われる)卵(抜け殻)があることに気がついた。円筒形(円柱)をきれいに連ねたユニークな卵にビックリ。

カメムシの卵には円形のフタがついているものが多いが、円柱形の卵であれば、底面(円形の部分)にフタがある──これまで僕はそう思い込んでいた。しかしマツヘリカメムシの孵化殻では、円柱形の卵の側面に円い穴が開いていた──これには、ちょっと意表を突かれた感じがした。

Wikipedia の【マツヘリカメムシ】の項目には《卵は円筒形で、中春から晩春にかけて寄主植物の葉の付け根などに数個ずつ産み付けられる》と記されているが、ここでは松葉にそって12個の卵が1列に整然と産みつけられていた。

脱皮中のマツヘリカメムシ幼虫と成虫


松の枝先で、枯れた松葉につかまって(ぶら下がって)脱皮中のマツヘリカメムシ↑。
松の球果(松かさ)の上にいたマツヘリカメムシの幼虫↓。

7月の末にエノキの葉の上でみつけたマツヘリカメムシの幼虫↓。おそらく4齢か5齢(終齢幼虫)ではないかと思われる。近くの松から落ちてきたのだろう。

ネット上ではよくみかけるマツヘリカメムシの成虫↓(小雨の撮影で水滴がついている)。

マツヘリカメムシ成虫は飛翔できる──その翅を広げた瞬間↓。意外にキレイな腹部背面の模様がのぞいた。

ところで、マツヘリカメムシは《洋ナシのようなフルーティーな匂い》がするらしい?(ネット情報)
そこで確かめるべく成虫を小型容器に入れ、シェンクしたのち嗅いでみた。

この個体↑(右中脚が欠けていた)を含めて2匹で試してみたが、今回はニオイは感じられなかった(同じ種類のカメムシでも、そのときのコンディションによって発するニオイの強さ=分泌量はまちまち)。
ちなみにフルーティーな匂いがするカメムシは僕も過去に確認している↓
真・青リンゴの香り/キバラヘリカメムシ
オオトビサシガメのバナナ臭

※【追記】松の球果(松かさ)にとまり、針のような口吻を刺して汁を吸うマツヘリカメムシ成虫の画像を追加↓。

同個体を別アングルで──↓。


【追記】松の球果上の終齢幼虫&成虫の人面もよう


松の球果(松かさ)で汁を吸うマツヘリカメムシ終齢幼虫↑と成虫↓。

キアイを入れれば、白い菱形フレームのメガネをかけた顔に見える成虫↓




ハリサシガメ脱皮後の再装備は?

擬装する珍虫ハリサシガメ



雑木林ふちの石垣に、今年もこの昆虫が姿をみせるようになった。土粒をまといアリの死骸などを背負って擬装するユニークなハリサシガメの幼虫だ(成虫は擬装しない)。


ハリサシガメは幼虫も成虫もアリを狩る捕食性カメムシ。かなりおもしろい昆虫だと思うのだが……その割にこの虫に関する情報は少ない。
しかたないので、素人観察で謎解きに挑んでいるが……「なるほど、そうだったか」と驚いたり納得することがある一方、解明できずにいる疑問も少なくない。
そんなハリサシガメについて、今更ながら、こんなサイトを見つけた。


このサイトではハリサシガメの生態に関して興味深い情報が紹介されていた。ただ、使用されていた画像は外国産の種類ばかりだったので、僕が観察している(日本産の)ハリサシガメとは異なる部分もあるかもしれない。
そこで、このサイトのハリサシガメ情報を見て感じたことを、《僕の観察・考察と合致する点》《知りたかった点》《僕の観察とは異なる点》に分けて記してみることにする。

僕の観察・考察と合致する点:擬装の意味

ハリサシガメの特徴といえば、幼虫が土粒をまといアリなどの死骸を背負うことだ。そしてこのユニークな姿を見れば、まず思い浮かべるのは、「この擬装には、いったいどんな意味があるのか?」という疑問だろう。
前記サイトではこの擬装について、《自分のニオイをごまかす》意味もあるというような解説をしていた。この点は僕の観察&考察と合致する。

ハリサシガメが土粒をまといアリの死骸などをデコレーションするのは、一見、体を隠す視覚的カムフラージュのように見える。もちろん昆虫食の捕食者に対しては、そういった効果もありそうだが、アリの行列のすぐそばでハンティングするようすを観察していると、アリに対する擬装工作としての意味合いが強いのではないかと思えてくる。アリは一般的に視覚はあまり良くはないそうで、触角で触れてニオイで相手を識別しているらしい。そこでアリの触角タッチで正体がバレないよう、ハリサシガメは土粒で体の表面を覆っているのではないか──つまり、土粒コーティングには「自分のニオイを隠してアリをごまかす擬装工作」の意味があるのだろうと僕も推理していた。
あくまでも個人の素人想像だったのだが、《自分のニオイをごまかす》という見方があることを知って、僕の解釈もまんざらではなかったかと思った。

僕が知りたかった点:どうやってデコるのか?

「擬装の意味」については関心の1つだったが、それでは、ハリサシガメ幼虫は土粒やアリの死骸などの擬装素材を「どうやって体に貼り付けているのか?」という疑問も当初から知りたいことの1つだった。

僕はハリサシガメの羽化殻に残されていた擬装素材を剥がしてみたことがある。そのとき素材同士がくっついていたので、「何らかの粘着物質で接着するのだろう」と考えた。その接着剤にあたる物質を体から分泌するのか、口から吐き戻すのか、排泄するのか、あるいは臭腺開口部から分泌される液が接着剤の役割りを果たすのか……色々な可能性を思い描きながらハリサシガメ幼虫のデコレーション行動を観察してみたが、結局よくわからなかった。
これについては、昆虫学の大家・岩田久二雄氏が『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)という本の中に次のように記されている。

吸血をおわるとサシガメは不器用なかっこうをしながら、前肢でその吸殻を自分の背中に押しあげた。それはしっかりと糊着されるわけではなく、ただ乗せられるだけであるが、何分忙しげに走りまわれるたちの虫ではないので、それらの無様な積荷が崩れおちるおそれもない。後になっていよいよ最後の脱皮を終えて成虫になり、その吸殻の山をくっつけた抜け殻が、すっぽりぬぎすてられた時に、初めて明らかになったのだが、いちばん下層の吸殻はカメムシの背中の棘にひっかかっていて、上層のものは下層のものの付属肢と、もつれあって巧くとまっているのであった。(『昆虫を見つめて五十年(II)』P.96)

この部分は岩田久二雄氏の間違いだと僕は思っている。僕の観察では捕食後のアリの死骸(岩田氏のいうところの《吸殻》)は、《前肢》ではなく、決まって「後脚」で背中にデコられる。羽化殻の擬装素材を剥がしたとき、土粒同士もくっついていた。付属肢などない土粒同士が《もつれあって巧くとまっている》ことは考えられず、これは岩田氏が否定している《糊着》だろう。
これについては、「きっと多くの人はド素人の僕の観察より、岩田久二雄氏の著書の記述を信じるのだろうな……」と思っていた。
しかし、先のサイトでは、擬装行動について《ペースト状のフンを使って食べかすを貼り付けていると言われている》と解説されていた。
これは大いにありそうだと感じた。幼虫がアリを背中に貼りつけるさいには、後脚で尻の方から既に背負った素材と背中の間に押し込むような動作を見せる。このときペースト状のフンをぬりつけているとすれば、筋は通る。

僕の観察とは異なる点:脱皮後の再装備は?

先のサイト情報には納得できる部分も多かったが、疑問に感じる点もいくつかあった。明確に「僕の観察とは違う」と感じたのが、ハリサシガメ幼虫は脱皮後、いつ・どのようにデコレーションの再装備をするかという点についての説明だった。先のサイトでは《脱皮のとき、そばに残骸を置いておいて、終わったらちゃんと背負いなおす》という解説がされていた。

脱皮後の擬装素材の装備は、いつ・どのように行われるのか──という疑問は僕も当初から抱いていた。擬装がアリ狩りに必要な(身を守る)アイテムであったとするなら、脱皮後丸裸で狩りに行くのは危険だ。おそらく狩りの前に土粒コーティングをするなり、アリのゴミ捨場で死骸を調達してデコるのだろうと当初は想像していた。
ところが、ハリサシガメの脱皮殻をみつけ、背中から擬装素材が剥ぎ取られていることに気がついた。脱皮の前に貯えてきた擬装素材は脱皮後、引き継がれ再利用されるのだと考えを改めた。
先サイトの解説にあった《脱皮のとき、そばに残骸を置いておいて、終わったらちゃんと背負いなおす》という説(?)も「脱皮後の幼虫が、脱皮前に背負っていた素材を背負っている/脱皮殻からは擬装素材がなくなっている」という状況を見て(実際の脱皮のシーンは確認せずに)、そう判断したのではないか……という気がしないでもない。

しかし、実際に脱皮を観察する機会があって──大いに驚いた。ハリサシガメ幼虫は「脱皮しながら擬装素材(残骸)を引き継いでいた」のだ。


(※【ハリサシガメぷちまとめ2】より再掲載↑。実際は鉛直面に頭を下にして脱皮している)
擬装素材は脱皮殻に付着している。新幼虫が擬装素材を背負おうとすれば脱皮殻もくっついてきてしまう。背負った擬装素材にくっついてくる脱皮殻を後脚を使って引き剥がす──という形で脱皮&擬装素材引き継ぎが行われていたのだ。
つまり──、

①脱皮前に擬装素材(残骸)を外し、そばに置いておいて
②脱皮を行う
③脱皮後、擬装素材(残骸)を背負いなおす

のではなく──、

①擬装素材(残骸)をつけたまま脱皮を開始
②脱皮しながら新幼虫が擬装素材(残骸)を背負う
③擬装素材(残骸)から脱皮殻を引き剥がす

という手順で行われていたのだ。
ときに③にてこずることがあるのだろう、脱皮殻を背負った幼虫や、背負った擬装素材(残骸)から脱皮殻を剥ぎ取ろうとする幼虫を目にすることが何度かあった。


このシーン↑も【ハリサシガメぷちまとめ2】からの再掲載↑。
今シーズンも、抜け殻を背負っていた幼虫が、抜け殻を剥がしたと思われるケースを2例見ている(剥がすシーンは見ていない)。
直近の例↓。

何日か前、脱皮殻を背負っていた幼虫がその後見た時には剥がしていたということがあったので、このときも剥がすのではないかと思って30分後に見に行くと──、


やはり脱皮殻を剥がしていた。アリの死骸やアリが廃棄したような虫の残骸などは積極的にデコるのに、自分の抜け殻はデコレーションから排除しようとするのが興味深いところ。擬装がアリの嗅覚を欺くためのものだとしたら、自分の(ニオイがついた)脱皮殻を排除するのは理にかなっている。そんなふうに僕は解釈している。
ハリサシガメについては色々と思うところが多い……。

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ハリサシガメ幼虫と脱皮殻

今シーズン初のハリサシガメ幼虫



今シーズン初のハリサシガメ幼虫を5月19日に確認した。初めてハリサシガメに出会ったのは一昨年の7月下旬。その時は成虫と終齢幼虫が混在していた。キレイなデザインの成虫と土粒をまとい虫の死骸等を背負ったユニークな幼虫が同じ種類の昆虫とは現場では気づかなかった。帰宅後調べて「ハリカメムシ」を知り、がぜんこの虫に興味がわいのだが……とてもおもしろい昆虫のわりにこのカメムシに関する情報は少ない。いつ頃から活動するものなのかもわからず、昨年は気をつけて発生場所をチェックしていたたところ、5月31日に初個体(幼虫)をいくつか確認。今年はさらに気をつけていて、5月19日に2匹を確認することができたしだい。すでに土粒とアリなどのデコレーションをしており、いつ頃から活動を開始していたのかは今年もよくわからなかった。
とりあえず、この段階では小さいながらあるていど育っている(2齢以降?)。記録程度にと思って数枚撮っておいたのだが……帰宅後、画像をチェックしてみると、このうちの1匹が背負っていたデコレーションの中に自身の若齢脱皮殻と思われるものがあることに気がついた。


こうなると↑、一見どっちを向いているのかもわからない!? 「く」の字型の触角がある方が頭部なのだが、ボデイラインはおおい隠され、背中のデコレーションからつきだした虫の脚がまぎらわしい……。この触角とまぎらわしい虫の脚が、ハリサシガメの脱皮殻の後脚だった──と、気づいたのは帰宅後、パソコン画面で画像をチェックしていたとき。
この画像を見て、去年も1度同じような光景を見ていたことを思い出した。
自分の脱皮殻を背負う昆虫はいる。セモンジンガサハムシなどもそうだが、多くは視覚的擬装としてのカムフラージュではないかと思う。ハリサシガメの場合は、獲物であるアリに対するもの──嗅覚的な擬装の意味あいが大きいのではないかと僕は考えている。アリに近づいても(アリが接触してきても)ニオイでバレないように土粒で体をコーティングし、アリが廃棄したゴミ(昆虫の死骸)をデコっているのだろうという解釈。だとすれば、自分のニオイのついた脱皮殻をかついでいたのでは都合が悪いのではないか……という気がする。
ハリサシガメは狩ったアリなども背中にデコるが、抜け殻に関しては積極的に背負うわけではない。僕の観察ではハリサシガメは脱皮する際に(脱皮しながら)古い殻が背負っていたデコ素材を引き継いで行く。その過程で、デコ素材とつながっている脱皮殻がいっしょにくっついてきてしまうのだ。脱皮後、それを引き剥がす行動も観察したことがあったので、自分の脱皮殻は排除する習性があるのではないかと考えていた。去年見た《自分の脱皮殻を背負ったハリサシガメ》は、たまたまその離脱が上手く行かなかったケースなのだろうか……などと想像していたのだが、よくあることなのだろうか?
脱皮殻を背負った個体をもっと観察しておけばよかったと悔やみ、近く確かめに行かなければ……と思った。

アリをデコったハリサシガメ


ということで、2日後に発生場所に行ってみると、まず石垣の上に1匹ハリサシガメ幼虫が出ていた。先日見た2匹とはおそらく別個体。

アリの死骸をデコっている。ちょっとわかりづらいがこの幼虫は画面左手前を向いている。まだ小さく、直径20ミリの1円玉と比較すると、こんな感じ↓。


自分の脱皮殻を背負ったハリサシガメ

さて、問題の自分の脱皮殻を背負ったハリサシガメ幼虫がいたポイントを探すと……若齢幼虫の抜け殻をデコっている個体を発見!

先日見た個体よりもデコレーションが増え、その配置もじゃっかん変化しているが、同じ個体ではなかろうか!? 帰宅後、画像を比較してみると、デコレーションの中に共通する素材(水色矢印)があり、脱皮殻に付着した土粒の位置等も符合することから、やはり同じ個体のようだった。

現場では、他の個体がいないか石垣を一通り見て戻ってくると(その間約10分)……先日2匹を見たのと同じ石垣の隙間に2匹がかたまっていた。1匹はデコレーションから先日見たもう1匹の方であるとわかった。先日見た2匹だろうと思ったのだが……よく見ると、もう一方に脱皮殻がついていない!?──と、思いきや、近くに落ちていた!?

画面右のハリサシガメ幼虫が先日・そして先ほども確認した脱皮殻を背負っていた個体だと思ったのだが……そのデコレーションに脱皮殻はなく、手前に落ちている!? これは今しがた、引き剥がしたということなのだろうか? 画像を確認すると、先ほど脱皮殻を背負っていた個体と同じ素材(黄色矢印)を背負っているので、やはり同一個体のようだ。2日間背負っていた脱皮殻を、この10分の間に脱ぎ捨てたということなのだろうか? なんともフシギな気がするが……やはり自分の脱皮殻は排除したいのかもしれない。
とりあえず、脱皮殻を回収。

これまで見たハリサシガメの抜け殻の中で一番小さい。カメムシにしては短めの口吻がハリサシガメっぽさをかもしている。脚やその基部は黒く硬い組織だが、腹は透明な部分が多かった(終齢に近い抜け殻では腹は黒っぽかった)。


去年回収した脱皮殻の画像と比較してみると──、

一番大きい脱皮殻(画面右端)は羽化時のものではないので、おそらく脱皮後が終齢幼虫だったのではないかと思う。終齢幼虫が5齢であるとすれば、この(画面右端の)脱皮殻は4齢のもの、画面中央が3齢で、それより小さい今回の脱皮殻は2齢幼虫のもの(3齢に脱皮したさいの抜け殻)ではないか……と想像する。
今回みつけた脱皮殻と羽化殻から付着物を取り除いた画像を並べてみると──↓、

腹の色が違う(若齢脱皮殻では透明/羽化殻では黒)。
ハリサシガメについては色々なシーンを見て、あれこれ考えることも多いが、ぷちまとめの記事を作ってある。