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翅多型のハリサシガメと前胸背紋



翅の大きさや前胸背の紋に変異があるハリサシガメ

この夏は猛暑のためか期待していたほどには観察できなかったハリサシガメ。9月半ばに衰弱した♂と♀がみつかり、今シーズンはこのまま終わってしまうのではないかと心配していたが、涼しくなって再び石垣に姿を現すようになった。


雨上がり──乾き始めた石垣の上にあらわれたハリサシガメの成虫。


ハリサシガメは翅の大きさに変異が多い翅多型の昆虫。この個体は翅が長い長翅型↑。湾曲してしゃくれた腹からオスであることが判る
『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』(石川忠・高井幹夫・安永智秀/全国農村教育協会)にはハリサシガメの特徴として《後葉(前胸背の下側)に4つの黄褐色の楕円紋が横一列に並ぶ》と記されているが、この個体にはその紋が無い。


前胸背側角の部分をのぞいて前胸背後葉(前胸背の下側)の紋が消失した個体も多い。
この翅多型♂↑を撮っているうちに、その下にもハリサシガメの成虫がいることに気がついた。


落葉の上に現われたハリサシガメ成虫はオス。翅は前述の長翅型個体よりも短め。前胸背の後葉には紋がある個体だった。


石垣の下側にとまっていた成虫もオスで、前胸背の紋がある個体だった↓。


ちなみにこの3匹の成虫♂の位置関係は──↓。


ハリサシガメは見られない時はまったく見つからないが、見られる時は複数が狭い範囲に集まっていることも多い。成虫になっても集合フェロモンのようなもので集まってくるのか、それともエサとするアリの巣の近くに自然と集まるようになるのか、あるいは近くに潜んでいるメスを探して集まって来たのか……。3匹のオスはいずれも翅は長め──長翅型と準長翅型(?)といったところ。
準長翅型(?)よりさらに翅が短い──中間型のハリサシガメ成虫↓。


前胸背に紋があるこの成虫↑はメスだったが、すぐに石垣のすきまに逃げ込んで姿を消した。少し離れたところで見つけた、前胸背の紋が薄い中間型の翅を持ったメス↓。




さらに翅が短い──短翅型の成虫♀↓。


翅が小さいため、腹部背面の大部分が露出している。




僕が見てきた範囲ではハリサシガメはオスに長翅型が多くメスに短翅型が多い。この短翅型♀の近くにいた長翅型♂↓。


この長翅型♂には前胸背の紋があった。


まだ活動している複数のハリサシガメを見て少し安心したが、やはり活動は終焉は近づいているのだろうか? 雨上がりの石垣付近で、またハリサシガメ成虫の死骸を拾った↓。


この死骸はメスで、腹が膨らんでいる──卵が詰まっているようにも見えるが、産卵を終える前に死んでしまったのだろうか? 翅はボロボロだったが、中間型のよう。前胸背後葉の紋がある個体だった。


ハリサシガメの翅の大きさや前胸背の紋の変異はどうして起こるのだろう? その意味するものが(あるのか無いのか)何なのか──気になることの1つだ。


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ハリサシガメぷちまとめ2

昨年7月下旬、初めて出会った珍虫ハリサシガメ。今年は5月末に幼虫を確認してから、注目してきた。謎はまだまだ多いけれど、わかってきたこと・気がついたコトなどを改めて少しまとめておくことにした。昨年の【ハリサシガメぷちまとめ】につづいくパート2ということで。

ユニークで個性豊かな?ハリサシガメ幼虫



雑木林のふちにあたる石垣で見られるハリサシガメ。この昆虫の最もユニークなところは、幼虫が異物をまとって全身を覆い隠していることだろう。土粒を体中にコーティングし、アリの死骸やゴミをデコレーションしている。背中に盛りつけられるデコ(レーション)素材は色々。捕食したアリも背負うが、アリが巣から廃棄したと思われる虫の残骸やアリの繭(抜け殻)・死骸なども利用しているようだ。


デコ素材の中には奇抜な(?)コレクションも見受けられるが、念入りな土粒コーティング&異物デコレーションを行うのはカムフラージュのためだろう。ハリサシガメは捕食性カメムシで餌となるのはもっぱらアリ。獲物を得るにはアリの行動圏内に入らなくてはならない。万一、アリに気づかれ集団で反撃されたらかなわない。狩りのさいもアリに悟られずに近づく(待ち伏せする)ことが重要だ。アリはあまり視力が良くないという。触れてニオイで相手を確認するアリに対し、ハリサシガメ幼虫は体の表面を土粒でおおい隠し、アリが廃棄したゴミを身にまとうことでアリを欺いている(ように見える)。チェックに来るアリがいても、自分たちが捨てた用済みのゴミと判ればスルー。デコられたアリの死骸に興味を示すこともあるが、本体のハリサシガメ幼虫には気がつかない──コーティング&デコレーションはアリに対する《隠れ蓑(かくれみの)》なのかもしれない。アリの行列のそばで狩りをするハリサシガメ幼虫を観察したことがあったが、アリはすぐそばで仲間が捕食されているというのにまったくの無反応──ハリサシガメ幼虫の存在に気づきもしないようだった。
また、ハリサシガメ幼虫のボディラインを隠し撹乱するこのコーティング&デコレーションは、視覚にたよって狩りをする昆虫ハンターに対してもカムフラージュの効果があるに違いない。ハリサシガメが見られる石垣では、昆虫ハンター・ヒガシニホントカゲの姿も多く、両者のニアミスはしょっちゅう。接触するシーンを見かけることもあるが、ヒガシニホントカゲは(も)ハリサシガメ幼虫には全く関心を示さない。


同種の昆虫はどれも同じように見えるものだが、ハリサシガメ幼虫に関しては、デコ素材やそのレイアウトがそれぞれ違っているので1匹1匹に個性を感じる。デコ・コレクションを鑑賞するのも楽しい。

デコ素材は後脚で盛る

異物を背中に盛るというユニークな特徴を持つハリサシガメ幼虫だが、どのようにデコっているのだろう? 中には脚が届かないほど高く積み上げられたデコレーションを背負っている個体もいる。デコ素材が貼り付くしくみについては、まだよくわからずにいるが、盛りつけ行動は今年何度か目にする機会があった。捕食後のアリを後脚を使って、すでにデコられた素材と腹の背面の間に押し込むようすは、こんな──↓。


捕らえたアリの体液を吸い終えると、アリの死骸は股をくぐって後脚に渡され、両後脚で腹端側から背中に押し込まれる↓。


可動範囲が広い後脚(青矢印)でアリをぐいぐい押し込もうとする……。


こうして背中にたくさんの異物を盛りつけるハリサシガメ幼虫だが……脱皮のとき、背中のデコ素材はどうするのだろう?──というのが、咋シーズン解明できなかった謎の1つだった。昨年は羽化後の抜け殻を見ることができたが、抜け殻にはデコ素材が残されていたので驚いた↓。


ハリサシガメは成虫になるとコーティング&デコレーションをしない。だから抜け殻にデコ素材が残されているのはわかるが……背中を割って成虫が出てくる際にデコ素材はジャマにならないのだろうか?
そして考えたのが、「羽化」ではなく「脱皮」の場合。またコーティング&デコレーションをしなければならない幼虫の場合は、どうするのだろう? 脱皮前のデコ素材は古い表皮の──抜け殻となる部分の外側に貼り付いている。脱皮したばかりの新幼虫は当然「丸裸」のはずだ。コーティング&デコレーションの再開を始めるのはいつからなのだろう?
もしデコ素材で使われるのが「捕食した獲物だけ」だったとすると、脱皮直後はデコレーションなしで狩りをしなければならなくなる。狩りに必要な《隠れ蓑》ともいえる(?)隠蔽装備なしに「丸裸」で狩りをするというのは考えにくい。おそらく……脱皮をすると、体が固まった時点でアリのゴミ捨場に行ってデコ素材を調達するのではないか──そんな想像をしていた。ところが、実際は……。

デコ素材は再利用~驚きの脱皮



石垣の上に残されていたハリサシガメ幼虫の(羽化ではなく)脱皮の抜け殻↑。頭部背面から背中にかけて新幼虫が抜け出した裂け目が残されている。今年はいくつかこうした抜け殻を見ることができた。「!」と思ったのは、背負われていたはずのデコ素材がきれいに剥ぎ取られていることだ。ハリサシガメ幼虫は脱皮した後、抜け殻から、デコ素材を引きはがして再利用しているらしい。
考えてみれば《デコ素材の再利用》は合理的だ。その《荷移し》はどのように行なわれるのだろう? 背中が割れて脱皮する際にデコ素材はジャマになるだろうから、脱皮前に剥がしておいて、脱皮後に拾うのだろうか?
実際に脱皮のようすを見て確かめてみたいものだと思っていたところ、そのチャンスがおとずれた。


石垣の隙間でみつけた脱皮前の幼虫↑。実際は鉛直面で頭を下にとまっていた(画面左が下側)。これが、この後……↓。


予想もしていなかった《デコ素材をまといながらの脱皮》──そのため脱皮が始まったことにに気づくのが遅れてしまった。脱皮前の幼虫/脱皮後は抜け殻の脚の位置(矢印)は変わっていない。
この約30分後↓、体の色が濃くなりつつあるハリサシガメ幼虫。


脱皮前、デコ素材と新幼虫の背中の間には古い表皮(抜け殻)があって、これによって隔てられていたはずだ。なのに抜け殻を脱ぎ捨てるとデコ素材は、ちゃんと新幼虫の背中に移っている!?──何ともフシギな光景に見えた。テーブルクロスを敷いた食卓の上に食器や花瓶を並べ、一瞬でテーブロクロスだけを引き抜き、食器や花瓶を食卓の上に残す──そんな「テーブルクロス引き抜き」芸を連想してしまった。
この後の展開と思われるシーンは、時を前後して石垣の上で目撃していた↓(別個体)。


抜け殻がデコ素材にくっついてきてしまったようだ。テーブロクロスが引き抜ききれなかった形!?


このときの抜け殻は完全離脱した時点で両触角が折れていた──それだけ離脱に手こずったケースだったのだろう。まるで《抜け殻と新幼虫の間でデコ素材の奪い合いをしている》かのようで、これも何ともフシギな光景だった。
抜け殻もついでにデコってしまえば良さそうなものだが、苦労してまで切り離すのには理由があるのだろう。ハリサシガメ幼虫がアリとの接触で(ニオイで)バレないように体表面を土粒でおおい隠しているのだとすれば、自身の(ニオイのついた)抜け殻をデコらずに排除するのは理にかなっている。

凛々しい成虫は翅多型



体を覆い隠していた幼虫時代から一転!? ハリサシガメの成虫は凛々しく見える。濃淡のある黒い背中に逆「ハ」模様が美しい。前胸背の両側に突き出した突起(側角)や小楯板から突き出した厳めしい突起にも魅力を感じる。


ルックスが精悍になっただけでなく、動きも成虫は幼虫のときより俊敏になっている。これは《隠れ蓑》を捨て、獲物や天敵から見つかりやすくなったことを考えると当然なのかもしれない。なぜ成虫になって《隠れ蓑》を捨てたのかという疑問が湧くが……繁殖という重要な役割りを担う成虫では伴侶を見つけるさいに《隠れ蓑》はかえって障害になるのかもしれない。また、昆虫の成虫は飛翔能力を持つものが多いが、翅を開閉するときコーティング&デコレーションはジャマになるのではないか──という可能性についても当初は考えた。しかしこれまで僕はハリサシガメが飛翔したり飛ぼうとするところを見たことがない。ハリサシガメは飛ぶことができないのではないか……と(今のところ)思っている。
トレードマークの逆「ハ」模様がある翅だが、個体によって翅の大きさ(長さ)にはかなり格差がある(翅多型)。少なくとも短翅型の個体には飛翔力はなさそうだ。今年これまでに見られた成虫の中から↓。




短翅型と長翅型の2極に分化するのではなく、その中間型も存在している。同じ時期に同じ場所で発生しているのに、これだけ違うというのもフシギな気がする。前胸背の側角の間にある紋にも個体差がある。

前脚&中脚のレガースは保定用!?



ハリサシガメを観察していて気がついた、前脚と中脚の脛節(けいせつ)内側にある《脛(すね)当て》(レガース)のようなもの。これは成虫だけでなく幼虫にもある。ハリサシガメは成虫も幼虫もアリを捕食するが、狩りの際には前脚と中脚を使って獲物を押さえる。そのさいに小さなアリでもしっかり保定できるよう、ラバーのような(?)《脛当て》部分でグリップ力を高めているのではないかという気がする。


『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』(石川忠・高井幹夫・安永智秀/全国農村教育協会)には、クビアカサシガメ亜科(ハリサシガメ属が含まれる)の項目に特徴の1つとして「海綿窩が前・中脚脛節に存在する」と記されている。用途についての記述は無いが……《海綿窩》というのが、この《脛当て》のことなのだろうか。

成虫♂♀は腹の形が違う

最後にハリサシガメ成虫を見ていて気づいたオスとメスの腹の形の違い。




前回の記事で記したばかりなので、詳細は省くが、ハリサシガメこの体勢で交尾している姿をよく見る。オスの腹の湾曲は、この体勢でメスの腹の膨らみに対応した形のように見える。

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翅多型のハリサシガメ

ハリサシガメ成虫:長翅型~短翅型



土粒にまみれアリの死骸などをまとっていた幼虫時代とはうってかわって精悍さすら感じさせるハリサシガメの成虫。背中──小楯板からつきだした鋭い突起が特徴的。前胸両側には側角とよばれる突起もあって厳めしい。


口吻は他のサシガメに比べてやや短め。毛足の長い毛虫などを狩るには長い口吻の方が便利なのかもしれないが、小さなアリの急所を正確に貫くには短めの口吻の方が(ズレたりブレたりしにくいだろうから)適しているのかもしれない。
このところ幼虫よりも成虫をみかける機会の方が多くなってきた。




成虫には逆「ハ」の字模様が入った翅があるが、この翅の長さは個体によって、かなりバラツキがある。この個体は今シーズン見た中で一番長い。


これ↑に比べると明らかに翅が短い成虫↓。




さらにミニサイズの短翅型↓。




背面からも腹の節がしっかり見える。


ペアのハリサシガメでは──僕が見た限りは、決まって翅の長さはオスの方がメスより大きかった。


このペアも翅の長さは♂>♀。


なんとも不可解なハリサシガメの翅多型

同種の個体に形態的な差を生じることを多型現象というそうで、翅の長さに多型を生じるものは翅多型(もしくは翅型多型)と呼ぶらしい。ハリサシガメは長翅型と短翅型、そしてその中間型ともいえる長さの翅を持つものがいて、なんとも不思議な気がする。今シーズン見た成虫の中から翅の長さの違うものを並べてみると↓。




















ハリサシガメの翅の長さは、かなりいい加減なのがわかる。

一般的には、同種内に生じる翅の長さの違い──「長翅型と短翅型」もしくは「有翅型と無翅型」は、飛翔能力の有無を意味することが多いらしい。
昆虫にとって飛翔能力は新天地の開拓や悪化した環境からの脱却という生存率を高める上で有益なツールだろう。一方、翅や飛翔筋などの飛翔器官を形成するにはそれなりの資源や手間がかかるはずで、もし移動の必要がなければ(生息環境が良い状態で永続すれば)、飛翔器官の形成コストを生殖器官に振り替えた方が(養分仕分け?で飛翔器官をカットした方が)生存率が高まる──というケースもあり得るだろう。昆虫の中には生息環境が良い状態で安定しているときは(繁殖能力に優れた)短翅型あるいは無翅型が出現し、餌が枯渇したり個体密度が高くなると(繁殖能力は目減りするが)飛翔能力を持った(移動・拡散ができる)長翅型あるいは有翅型が出現するものがいるという。

ならば、ハリサシガメの場合はどうかというと──、
短翅型は見た目にとても飛べそうにないが、ならば長翅型は飛べるのか──といえば、(無知な僕の浅い観察経験からすると)懐疑的だ。これまでハリサシガメが素早く石垣の隙間に隠れる姿は何度も目にしているが、飛翔したり飛ぼうとする(翅を開く)シーンは一度も見たことがない。
もし飛翔能力の有無で翅多型が生じたのであれば、長翅型と短翅型の二極にきっぱり分かれて良いような気がする。
生殖能力を落として移動拡散のメリットにかける長翅型と移動拡散を捨て生殖能力に注力する短翅型──どちらかに分かれるのは理解できるが、どっちつかずの中間型は中途半端なムダな存在ということになりはしないか?
翅の長さがこれだけいい加減なのは、そもそも飛翔に関するこだわりを捨てているからではないか──翅の長さに関わらず、ハリサシガメは飛翔筋が無い(その形成資源は生殖器官に回されている)のではないか……そんな気がする。一方で、飛べないのであれば、みな短翅型で安定しそうなものだ──という気もする。どうして同じ時期に同じ環境で育った個体群のなかからバラツキがある翅が形成されるのか理解に苦しむ。
ということで、やっぱりハリサシガメは、謎が多い……。


ハリサシガメのペア

ハリサシガメの成虫&ペア



雑木林のふちの石垣で観察を続けている捕食性カメムシのハリサシガメ。


前胸背面の複雑な立体模様や背中に突き出したトゲ状の突起、墨を流したような黒い翅に映える「ハ」の字模様(逆ハの字模様)が魅力。1円硬貨と比較すると、こんなサイズ↓。


7月下旬から成虫の姿を見るようになったが、石垣の隙間で今年初のペアを確認。


奥まった場所で撮りにくいが……とりあえず、撮影できる角度から撮影。






ハリサシガメの交尾は、オスがメスの側面から抱きつくようなスタイル。カメムシの交尾というと、腹端を接点にオスとメスが反対方向を向いている姿をイメージしがちが、それとはずいぶん印象が異なる。翅の長さも違うし(これまで見たペアではいずれもオスの翅が長くメスの翅は短かった)、咋シーズン初めて見た時は、側面から抱きかかえている成虫(翅が長い方)が亜成体(翅が短い方)を捕食しているかのようにも思え、「!?」だった。じっさいは翅が短い方も成虫で、ハリサシガメの翅の大きさは、個体によってまちまちだということがわかった。


(※【ハリサシガメぷちまとめ】より再掲載↑)
ちなみに、よく見かけるカメムシの交尾──ハリサシガメの石垣近くで撮影したオオホシカメムシとキバラヘリカメムシのペア姿↓。


ハリサシガメの幼虫



7月下旬から羽化シーズンに入ったようだが、まだ幼虫も見られる。この幼虫は狩ったアリの他にオカダンゴムシ(白くなっている)をデコっている。
別のハリサシガメ幼虫↓。


こうして石垣の上に出ていると比較的見つけやすいが、土の上にいると(まとった土粒コーティングのため)輪郭がわかりにくい。


石垣にはまだ大きさ(ステージ?)の違う幼虫が混在している。




ハリサシガメぷちまとめ

逆《ハ》模様がトレードマークのハリサシガメ成虫





この夏、雑木林のふちにあたる石垣で初めて目にしたハリサシガメ。成虫は体長14.5~16mmほどの捕食性カメムシで、墨を流したような黒い翅に「ハリサシガメ」の頭文字──《ハ》を逆さにしたような模様が目をひく。そこでTokyoToraカミキリ同様、背中のトレードマークをロゴに使ってみたしだい。
前胸の左右の角(前胸背側角)もお気に入りだが、背中に突き出した棘状の突起がユニークでカッコ良い。


ハリサシガメは長翅型と短翅型が混在する翅多型で、翅の長さは個体によってかなりバラツキがある。僕が見た数ペアでは全てが長翅型♂と短翅型♀という組み合わせだった。






ゴミをまとってカムフラージュする幼虫



捕食した獲物の死骸を背負ってカムフラージュする幼虫──といえば、クサカゲロウの仲間が思い浮かぶが、カメムシの仲間でこんなことをするものがいるとは驚きだった。クサカゲロウ幼虫が「背中に乗せる」だけなのに対し、ハリサシガメ幼虫は腹や脚にまでもゴミをくっつけていて、かなり念入りだ。主にアリを捕らえて体液を吸うようだが、そうした獲物の残骸や土粒、ゴミなどを体にまとう。


石垣の上にいたハリサシガメ幼虫↑この画像ではハリサシガメ幼虫は画面右を向いている。乾燥した土の粒をまとっていて体はほとんど見えない。これが土の上ではボディラインが隠蔽され、ゴミにしか見えない↓(別個体)。


ちなみに、このハリサシガメ幼虫↑は画面左下を向いている(よく見ると触角と前脚ふ節が写っている)。

イリュージョンな抜け殻にビックリ



アリやワラジムシの死骸をまとったハリサシガメ幼虫↑(画面左を向いている)──と思いきや、これはハリサシガメが羽化した後に残された抜け殻。頭のうしろに、わずかに白い糸くずのような気管の抜け殻部分がのぞいているが、成虫が脱出した裂け目はわからず、一見これが抜け殻だとはとても気がつかない。
《抜け殻の見事さではチャンピオン》ではないかと感心する。ヘビもほぼ全身無傷のみごとな抜け殻を残すが、抜け殻であることは一目瞭然。セミの抜け殻もかなりキレイに残るが、背中に脱出するさいの裂け目は残ってしまう。脱皮(羽化)前の姿を完璧に残すという点でいえば、ハリサシガメの抜け殻は見事というしかない。
「抜け殻」とは気づかず「死骸」だとばかり思って回収した別の抜け殻↓。


抜け殻の触角や脚はもろく、すぐに折れてしまった。体の背面だけではなく腹面も土粒でおおわれ、腿節や脛節までゴミを付着させているのがわかる。


この抜け殻から付着物を取り除いていくと、抜け殻の頭部および前胸背面に成虫が脱出した(羽化した)裂け目が見えてきた↓。


付着物の中にはアリの死骸がいくつかあったが、ずいぶん大きさが違うものが混在しており、意外に感じた。この時は「ハリサシガメ終齢幼虫が、こんなに小さなアリを捕食するものだろうか?」と疑問に思え、「小さなアリは《若齢・中齢幼虫時代に狩ってデコレーションしていた素材》で、これを脱皮後も流用しているのだろうか?」とか、「ひろったアリの死骸をデコレーションしたのだろうか?」などと想像したが、後に目の前で成虫が極小アリを捕食する場面に遭遇し、小さなアリでも獲物の対象になるのだということを確認できた。
ちなみに、濡らした筆でさらに付着物を落とした抜け殻↓。


アリを捕食するハリサシガメ成虫



ハリサシガメ成虫がとまっていた石垣を極小アリが横切りかけた瞬間──それまでじっとしていたハリサシガメが素早く飛びつき、餌食にしてしまった。それぞれのステージで自分の大きさに見合ったサイズのアリ(ばかり)を狩るのだろうと思い込んでいたが、そうでもないらしい。羽化後の抜け殻に小さなアリの死骸が混じっていたのも、ちゃんとハンディングしたあとの戦利品(?)だったのだと納得した。
体に見合ったサイズのアリをハンティングする瞬間も一度目にしたことがあった↓。


この画像↑では判りにくいがハンティング直後、アリの頸あたりにハリサシガメの口吻が刺さっている。
別の食事シーン↓。


このときはアリを捕らえる瞬間は見逃したが、食事中、何度か口吻を刺し直しており、画像では腹の付け根に口吻が差し込まれている。

日本原色カメムシ図鑑でハリサシガメ

この夏はじめて知って、にわかに注目しているハリサシガメ。個人的には大いに面白いと感じているカメムシなのだが……その割りに、この昆虫に関する情報は少ない……気がする。

僕には高価な図鑑なので購入はあきらめていたのだが……陸生カメムシ類に特化した『日本原色カメムシ図鑑』全3巻あたりにはどう記されているのか調べてみたくなった。図鑑の内容を紹介したサイトを見ると、サシガメ科のカメムシは『日本原色 カメムシ図鑑』と『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』に掲載されていることになっている。
図書館で読むことができないかインターネットで蔵書検索をしてみたところ、『日本原色 カメムシ図鑑』については、市内では中央図書館に1冊あるだけ。『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』に関しては多摩六都(小平市・東村山市・清瀬市・東久留米市・西東京市)の全5市(以前は6市で構成されていたが田無市と保谷市が合併して西東京市となり現在5市)の全図書館の中で蔵書は西東京市中央図書館のただ1冊のみという寂しい状況が判った。
図書館には小遣いで買える人気作家の新刊本より、個人で買うのが難しい図鑑等の(調べもので活用できる)資料を充実させてほしい……などと思いつつ、それぞれの図書館へ出かけてみた……のだが……。

日本原色 カメムシ図鑑』に関しては、なんとハリサシガメは掲載すらされていなかった。9,030円(+税)もする陸生カメムシ専門の図鑑で、こんなおもしろいカメムシがスルーされていたとは……。
日本原色カメムシ図鑑 第3巻』の方は(ネットの書籍紹介では)サシガメ科110種が掲載されているとのこと。【特色】には《859点の鮮明な生態写真》《普通種はもちろん、稀種も生態写真で掲載されています》《可能な限り各発育ステージの写真を掲載》《成虫以外の、各齢期幼虫や卵などのステージの生態写真もできる限り掲載し、幼虫での同定もある程度可能になりました》などと記されてある。お値段も12,000円(+税)とゴーヂャスなので内容もきっと充実しているハズと期待して3駅離れた図書館へおもむいたのだが……ハリサシガメについての記述は思いのほかあっさりしており、「たったこれだけ?」とガッカリした。
記されていたのは形態の説明部分をのぞくと、【ハリサシガメ属】の項目で《幼虫はアリの残骸やゴミを背負うという特徴的な行動を示し、隠蔽のひとつと推察される。日本には1種のみが知られる》と記され、【ハリサシガメ】の項目で《珍しい種だが、荒原で地表を徘徊しているのが確認されているほか、墓地といった人為的環境からも見つかっている。アリ類を捕食する》と記されているくらい。
形態の説明部分でも翅多型については触れられておらず、特徴的な背中の棘状の突起についても(もしかするとこれが和名の「ハリ」の由来ではないかと想像していたりもするのだが)記されていない。和名の由来も、産卵時期&産卵場所・孵化の時期などの知りたかった情報も得られなかった。掲載されていた写真は短翅型の成虫♀と4齢幼虫の2枚だけだった。
「図鑑」は種類を特定できる情報があれば、それで充分なのかもしれないし、(限られたページ数の中では)種ごとの詳細情報よりも多くの種類をカバーすることの方が大事なのかもしれないが……個人的には、物足りなさを感じたというのが、正直なところ。
とりあえず、ハリサシガメの項目が載っている1ページをコピーしただけで、さびしく帰宅したのだが……『日本原色 カメムシ図鑑(第1巻)』では取り上げられず、『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』でもあっさりめの紹介にとどまっていたハリサシシガメについて、「こんなにおもしろいカメムシなのになぁ」という気持ちから、あらためて興味深いところをプチまとめしてみたしだい。