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ムシヅカサシガメとハリサシガメ

養老孟司『虫の虫』特装版DVDの謎のカメムシ
01虫の虫DVD特装版
養老孟司・著『虫の虫』DVD付き特装版(廣済堂出版・刊)という本を買った。DVDなしバージョンもあるのだが、映像が見たかったので特装版の方。発行は2015年で、本の存在自体は以前から本屋の棚で見知っていたのだが、最近この本の特装版DVDのダイジェスト版をYouTubeで見つけ、にわかに興味が湧いてきた。というのも、このダイジェスト動画に気になる昆虫が出てきたからだ。

1分35秒頃に出てくるアリの死骸を背中に盛った捕食性カメムシが、僕の興味の対象・ハリサシガメの幼虫によく似ている。僕が知っている日本のハリサシガメは地上性で、アリの死骸だけでなくアリの捨てたゴミ(?)と思われるものや土粒を身にまとっている。しかし「ハリサシガメ」で画像検索すると、外国産のサシガメで葉や茎などにとまっている良く似た虫もヒットし、外国には樹上性のハリサシガメ(の仲間?)がいるのかと気になっていた。
それと良く似た虫が「養老先生が行くラオス昆虫採集記」ダイジェスト版にはチラッと映っていたので、がぜん興味を覚えた次第。
また、この「養老先生が行くラオス昆虫採集記」では虫屋さんの生態(?)も見られるようなので、そのことにも興味を持った。僕はテレビを離脱する前、昆虫に関する番組はよく見ていたが、虫にスポットをあてた番組はあったものの、虫屋の活動自体を記録した映像は意外に少なかった気がする。僕は虫屋ではないが、昆虫同様(?)謎めいた虫屋の生態には興味があった。そんなわけで、養老氏らの虫屋っぷりも見たくて『虫の虫』DVD付き特装版を購入した次第。


ラオスのムシヅカサシガメ!?
まず付属のDVD「養老先生が行くラオス昆虫採集記」(74分)から鑑賞。お目当てだったアリをデコったハリサシガメ幼虫風の昆虫は、4:20〜6:35にかけて紹介されていた。同行者の池田晴彦氏は「見たこと無いよ、こんなの」といい、養老氏も「すげ〜ヘンなの」と見つめていた。YouTubeのダイジェスト版では名前が示されていなかったが、DVD本編では「ムシヅカサシガメ(幼虫)」というスーパーが付けられていた。養老氏はナレーションで、名前が無いのでムシヅカサシガメとつけた──というようなことを言っていた。『虫の虫』(書籍)の方でも【ラオスのサシガメ】として「ムシヅカサシガメ(幼虫)」と紹介されている(P.3)。
ちなみに、日本のハリサシガメ幼虫はこんな姿↓。

02ハリサシガメ幼虫F1
03ハリサシガメ幼虫F2
特装版DVDでは見つけたムシヅカサシガメを飼育し羽化させた成虫とその羽化殻の映像も収録されていた。幼虫はハリサシガメより敏捷で、成虫のカラーリングも違うものの、ハリサシガメとよく似た印象を受けた。成虫は黒い体に白い双紋、小楯板の棘状突起と腿節が赤というきれいなサシガメだった。
「ムシヅカサシガメ」という初めて知った名前(仮名?)を足がかりに、何か新しい情報が得られないかと検索してみたのだが……何もヒットせず……。
「ハリサシガメ」でヒットする「ムシヅカサシガメ」と思われる画像をたどって、こんなブログ記事をみつけた↓。

タイで昆虫採集>背中にお荷物を背負ったサシガメ

ラオスの隣国タイで撮影されたサシガメのようだが、養老氏のいう「ムシヅカサシガメ」と同じ種類のように見える。草木上で暮らしているからだろう──地上性のハリサシガメ幼虫のような土粒はつけておらず、そのぶん(?)デコったアリの密度が高く感じられる。
DVD「養老先生が行くラオス昆虫採集記」を見た後に『虫の虫』本編(書籍)を読んだのだが、巻末に、付録DVDと書籍にでてくる昆虫の学名一覧があった。そこでムシヅカサシガメをみると斜体で「Inara alboguttata」とあった。学名で検索すると欧文のサイトがゾロゾロとヒットしたのであった。


「養老先生が行くラオス昆虫採集記」の感想
特装版DVDに話を戻すと……新種のクチブトゾウムシやカミキリを含め、色々珍しい昆虫が紹介されており、幻のチョウと呼ばれるテングアゲハの生態映像も貴重なものらしい。僕にとっては、ラオスの自然もさることながら、養老氏はじめとする虫屋仲間たちの楽しげ&真剣な虫屋っぷりもみどころだった。
夜の灯火採集(ライトトラップ)では、シーツに集まる昆虫よりも、耳につめものをし(虫の潜入を防ぐため?)、吸虫管をくわえて真剣にまなざしでシーツを睨みつける虫屋さんたちの方が見応えがあった。地球の生き物を調査に来た宇宙人がいたら、灯火に集まる虫の標本の隣にその虫に集まっていた虫屋さんたちの標本を並べたくなるに違いない。
DVDの最後には特典映像として、ラオスで採集した昆虫がどのように標本になるのかを紹介した「養老先生流 標本の作り方」(9分弱)が収録されている。標本作りをしない僕には、この行程の映像も興味深かった。昆虫関連の番組の中で虫屋がネットを振る(虫を採る)映像は時々見ることがあったが、標本づくりの映像はほとんど見たことがなかった気がする。


『虫の虫』の感想
本の方は「虫採りエッセイ集」ということになっていて、「虫を見る」と「ラオスで虫採り」の2つの章で構成されている。
前半の「虫を見る」では昆虫について虫屋がどんな見方をしているかについて記されているのだが、これは編集者から提案されたテーマで書かされた(?)ものらしい。じゃっかん抽象的で、DVDを観たあとに読むと、いささか面白味が薄い……。おそらく編集者から出された課題に対し、養老氏が普段感じたり考えたりしている雑多なコトの中から対応する内容を引っ張り出し、その方向で書いていけば何とかなる(まとめられる)と見当をつけて書き始めてみたものの……あまり話が広がらなかった……みたいな感じだったのではないか? 個人的には共感できる部分もあったが、「あたりまえのことを書くのに、いささか手間取った感じ」がしないでもない。虫屋でない僕には感覚的によくわからないところもあった。僕の個人的な好みは別にして……前半のエッセイは著者自身がノッて書いた文章ではなかったろうことが感じられる。
ところがしかし! 後半の「ラオスで虫採り」になると、がぜん文章が活き活きとしてくる。ノッて書いているのが伝わってくる。前半の抽象的なテーマから、体験的・具体的テーマになったこともあって、読者にも分かりやすいし、執筆している側も書きたいことがどんどん湧いてくる状態だったのだろう──その意欲が感じられる。しかし「活き活き」の最大の理由は「虫採り」に付随するエッセイだったからだろう。アシナガバチに刺されてアナフィラキシーを体験したというおそろしい話もあったが、虫屋っぷりが発揮されるエピソードでは何度か笑ってしまった。そんなエピソードをまとめた「実録・虫屋武勇伝」でも書いたら、かなり面白いのではあるまいか。


虫屋・養老孟司
僕が養老孟司という人を知ったのは確かNHKのテレビ番組だった。オーストラリアの昆虫を紹介するシーンで灯火にやってきたニジイロクワガタ(こんな虫がいることもその番組で初めて知った)などについて語っていたのが養老氏で、その姿が印象的だった。このときは昆虫学者だとばかり思っていて、本業が解剖学で脳の権威だと知ったのはしばらく後だった。NHKの『驚異の小宇宙 人体II 脳と心』では解説役で登場していたが、「こっちが本職のはずなのに、以前見た時より、なんだかテンションが低いな……」と感じながら観ていたのを覚えている。最初は体調でも悪いのだろうかなどと訝ったが、毎回なのでそうではないらしい。他にも脳に関する科学番組に解説者として出演している番組を見たことがあったが、やっぱりテンションは低め。これが養老孟司氏の普段のテンションなのだろうと思うようになった。
それが、「養老先生が行くラオス昆虫採集記」ではなんと活き活きしていたことか! 僕が初めて養老氏を見た時の「(昆虫を語る)あのテンション」だった。本業の仕事をしている時より、虫と向かっている時の方がテンションが高い──仕事的には脳の権威なのだろうが、本質的には根っからの虫屋なのであろう。
《水を得た魚》ならぬ《虫を得た養老孟司》──『虫の虫』DVD付き特装版はそれを実感させる映像&エッセイ集だった。


ハリサシガメぷちまとめ2
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ハリサシガメ記事一覧

針刺亀目次頁画A
幼虫時代は土粒をまとい、捕食したアリや虫の残骸などをデコレーションするユニークな捕食性カメムシ・ハリサシガメ。その生態観察の記事一覧。タイトルをクリックすると記事が開きます。

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ハーリーをさがせ!ハリサシガメ幼虫
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ハリサシガメ:幼虫・抜け殻・成虫
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ハリサシガメ@『アリの巣の生きもの図鑑』他
ムシヅカサシガメとハリサシガメ

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パリコレならぬハリコレ~ハリサシガメ幼虫:擬装の意味

パリコレならぬハリコレ!?ハリサシガメの宝飾コレクション



土粒で体をおおい隠し、さらに背中に色々なモノをデコレーションする珍虫ハリサシガメの幼虫。個体ごとにデコ素材やそのレイアウトが異なるので、個性あふれる作品(!?)を鑑賞するのもおもしろい。


この幼虫はダンゴムシとメタリックな輝きを放つ宝飾コレクションを身につけていた。


メタルグリーンに輝く宝飾コレクションは昆虫の体の一部のようだ。以前にも同じ宝飾コレクションをデコったハリサシガメ幼虫を見たことがあった……ということで過去の画像の中から、ハリサシガメ幼虫のコレクション──パリコレならぬハリコレをいくつか。


デコレーション素材は、捕食後のアリの死骸からゴミのようなもの、金属光沢を放つきらびやかなコレクションまで色々。先日記事にした羽化殻も銀色の装飾品をつけていた↓。


まるでアクセサリー!? 《オシャレをする昆虫》──なんていうキャッチフレーズは大げさだろうか。


こちらのデコ・コレクション↑はカメムシ系の頭部だろうか? 同個体を反対側から撮ったもの↓。


メタリックな宝飾パーツも目をひくが、「でかい頭部」のコレクションも、怪しげなオーラを放っている!? ハリサシガメ幼虫自身の頭部は土粒に隠され、触角や眼くらいしか見えないので、自然と視線はデコられた巨大頭部に誘導される。


ハチに擬態した昆虫は多いが……強面のアシナガバチ頭部をかかげていると、何か御利益(ごりやく)があるのだろうか? 「虎の威を借る狐」ならぬ「アシナガバチの威を借るハリサシガメ幼虫」みたいなこと──アシナガバチ(の頭)に怖れをなして撤退する天敵がいれば大したものだ。しかし、このハリサシガメ幼虫が、たまたま手に入れた素材を警告効果と結びつけるのは、いささか強引かもしれない。


まだ小さめのハリサシガメ幼虫がデコっているのは大型アリの頭部↑──これもなかなかインパクトがある。ハリサシガメは成虫も幼虫もアリを捕食するが、看板の(?)大型アリは、この小さなハリサシガメ幼虫がしとめたものでないだろう。サイズ的に獲物としては大きすぎるし、触角が脱落した頭部だけ──という損傷ぶりから新鮮な死骸とは思えない。
「でかい頭部」の周囲にあしらわれた小型のアリ──全身そろっているのが、このハリサシガメ幼虫の捕食後(狩って体液を吸った後)の死骸だろう。
ハリサシガメ幼虫は本人(本虫)がしとめたとは思えない大きな昆虫パーツをデコっていることがよくある。


それにしても、ハリサシガメ幼虫はどうしてわざわざこんなものをデコるのだろう?
しとめた獲物をかかげて自分の力を誇示し、見栄を張って自分ではしとめられない大物までもデコっているのだろうか? だとしても何のために?
そもそも、こうしたデコ素材をハリサシガメ幼虫はどこで調達してくるのだろう?
アリのゴミ捨場(?)から、アリが廃棄したものを拾ってくるのではなかろうか──僕はそう考えている。ハリサシガメ幼虫が背負っている昆虫パーツは分解されており中味はきれいに無くなっていたりする──これはアリが解体&利用したあとの残骸だからだろう。
ハリサシガメ幼虫のデコ・コレクションの中にはアリの繭(抜け殻)と思われる物が混じっていることもあって、「アリの廃棄物」であることを示唆しているように思われる。


それでは、なぜアリの廃棄物をデコるのか?

ハリサシガメ幼虫のコレクションのうち、自力で狩ったアリの死骸はのぞいて……「アリの廃棄物」と思われる昆虫の残骸などをデコるのはなぜか?
これは、獲物のアリに警戒されることなく近づくための擬装だと僕は考えている。
ハリサシガメは成虫も幼虫もアリをエサにしている。しかし強靭なアリを相手にまともに闘いを挑むのは危険が大きい。アリたちに気づかれ、集団で反撃されたらひとたまりも無いだろう。非力なハリサシガメ幼虫が狩りを成功させるには奇襲攻撃──アリたちに気づかれずに近づき不意打ちをかけるしかない。そこで、アリが廃棄したゴミをまとい、そのかげに隠れてアリに近づいたり待ち伏せしたりするのではないか……。

アリは一般的に視力はあまり良くないという。接触してニオイで相手を判断しているらしい。ハリサシガメ幼虫が土粒をまとうのは、アリの接触──触角タッチを阻むための擬装コーティングで、アリの廃棄物をまとうのは、不審物を確かめに来たアリに「用済みのゴミ」と誤認させ、警戒を解除するための擬装ではないかと僕は考えている。

昆虫死骸はデコるのに、自分の脱皮殻は外そうとする!?

このように、色々な昆虫の死骸をデコるハリサシガメ幼虫だが、ときには、自分の脱皮殻まで背負っていることがある。


セモンジンガサハムシの幼虫なども自分の脱皮殻を背負っているので、カムフラージュとして自分の抜け殻を背負うことはめずらしいことではないのだろう。だが、ハリサシガメ幼虫の場合、自分の抜け殻を積極的にデコったわけではなく、むしろこれを外そうとする。
というのも、ハリサシガメは脱皮のさいに、古い殻を脱ぎながら古い殻についていたデコ素材を背負って出てくる。──その結果、引き継いだデコ素材に脱皮殻がくっついてきてしまうということが起きるのだ(それが上の画像)。ハリサシガメ幼虫はこれを嫌って懸命に脱皮殻を剥ぎ取ろうとする。




自分の抜け殻をつけていたのでは、アリの触角タッチで獲物や攻撃対象として認識されてしまう危険がある──そう考えると、自分の抜け殻をデコ・コレクションから外そうとするのもうなずける。
抜け殻がアリたちのターゲットになるのか……と思ったこともあるが、実際にカマキリの抜け殻にアリがたかることもある↓。


アカスジキンカメムシも脱皮や羽化のさいに抜け殻落としをするが、これも1つにはアリ対策──カメムシの生活圏もしくは脱皮&羽化圏にアリを呼び込まないための予防措置行動ではないかという気がする。
今年5月の観察では、羽化後のアカスジキンカメムシが羽化殻落としをする前にアリが抜け殻を嗅ぎつけて来たということもあった。


アカスジキンカメムシ新成虫はアリを嫌って羽化殻落としをせずに撤退。残された抜け殻はアリたちによって持ち去られた。


抜け殻はアリを呼ぶ(アリの狩りの対象になる)──ということを考えると、アカスジキンカメムシが抜け殻落としをしたり、ハリサシガメ幼虫が、デコ素材から自分の抜け殻だけを外そうとするのも、もっともなことだと納得できる。

捕食したアリの死骸をデコる意味



アリが廃棄した虫の残骸をデコるのは、アリにゴミと誤認させ警戒を解くため──と僕は解釈しているわけだが、それでは、ハリサシガメ幼虫自身が捕食したアリをデコることには、どんな意味があるのだろう?
ハリサシガメ幼虫は、個体によって同じ種類と思われるアリを集中的にコレクションしているものがいる。これは同じ巣の近くで同一家族のアリを狩り続けているということなのかもしれない。




アリの体表面は炭化水素の薄膜で覆われ、巣ごとに微妙にニオイが異なっているそうだ。このニオイによってアリは仲間(同巣)と敵(他巣)を区別するという。ハリサシガメ幼虫は同じ巣のアリをコレクションすることで、同巣の仲間のふりをしてアリに近づき、狩りを効率的に行うことができるようになる──その結果、同巣のアリのコレクションはさらに増え、同巣のアリに近づきやすくなる──デコ・コレクションのアリが揃いがちになるのには、そういった狩りのスタイルがあるからではないかという気もする。

ハリサシガメ幼虫の擬装行動:3つの意味

ハリサシガメ幼虫の擬装行動には3つの意味があるのではないか……すなわち──、
①土粒による全身コーティング……ニオイで相手を認識するアリの触角タッチをブロックする擬装。
②アリの廃棄物のデコレーション……アリに「用済みのゴミ」と誤認させ、警戒を解除させる擬装。
③自力で狩ったアリの死骸のコレクション……同巣のアリの警戒を解くため。またはアリの注意をハリサシガメ幼虫本体からデコったアリにそらす陽動擬装(不意打ちをかけてしとめやすくなる)。

今は、こんなふうに考えているしだい。


ハリサシガメとファーブル昆虫記

砂まみれのサシガメ幼虫・ファーブル昆虫記にも



とてもユニークな昆虫なのに、その割に情報が少ない気がしてならないハリサシガメ。先日ふとファーブル昆虫記あたりに似た種類がとりあげられていないだろうか?──と思った。ファーブル昆虫記は小学生の頃、子ども向けの本でチラッと読んだ記憶がある。しかし当時はあまり印象に残らなかった。セミのそばで大砲を撃ってもセミは鳴き続けていた──セミには「聞こえていない」というエピソードは覚えていて……というより「そんなことがあるのだろうか? 聞こえないのにどうして鳴くのか?」と疑問に思ったことを覚えている。あとはスカラベの挿絵を覚えている程度で、何を読んだのかもさだかではない……。
虫屋でもある奥本大三郎氏によってファーブル昆虫記の完訳シリーズが出版されたというニュースはうっすら知っていて、大作だったらしい? 全10巻(それぞれ上下巻に分かれているので計20冊)ともなれば、その中にユニークなサシガメに触れた部分があっても良いのではないか?──そう思いついた次第。
「ファーブル昆虫記 サシガメ」で検索してみたところ『完訳 ファーブル昆虫記 第8巻 上』の第6章に「セアカクロサシガメ──肉食のカメムシ」という項目があることがわかった。内容紹介で「サシガメの幼虫は、なぜ砂まみれなのか?博物学の不朽の名著、画期的な個人完訳版」という文章をみつけ、「!」と思った。土粒コーティングするサシハリガメかそれに近い種類のサシガメに言及している──そう確信してさっそく市内の図書館へでかけ、この本を借りてきた。


立派な本を開くと、冒頭のカラー頁の口絵にはセアカクロサシガメ(成虫)の写真が載っていて、これを見た瞬間、逆ハの字模様こそないものの、ハリサシガメによく似た虫だと感じた。同じ口絵ページには「体に砂埃をまとったセアカクロサシガメの幼虫」の写真も掲載されており、その隣には「クロオオアリを捕えたハリサシガメの幼虫(日本産)」の写真まであって「おおっ!?」と思った。
以前読んだ岩田久二雄・著『昆虫を見つめて五十年(II)』の中ではクロオオアリはハリサシガメ若虫の餌には不向き(受け付けなかった)というような事が記されていて(僕は成虫・終齢幼虫ともにクロオオアリを捕食することを確認しているので)「違うな」と感じていた。それが『完訳 ファーブル昆虫記 第8巻 上』ではクロオオアリもハリサシガメ幼虫の捕食対象であることを記す写真が掲載されていて──これで、ちょっとスッキリした。

本文の第6章「セアカクロサシガメ──肉食のカメムシ」で取り上げられていたのが口絵にあったサシガメで、ファーブルはこの虫を精肉店で見つけ、成虫を持ち帰って飼育観察を始める。
セアカクロサシガメは夜行性で、狩りのシーンを見ることはかなわなかったが、餌となる昆虫はあまり選り好みしなかったという。そのあたりは昼行性で餌はもっぱらアリというハリサシガメとは違うところ。しかし後に記されていた幼虫が砂をまとうというユニークな点はハリサシガメと共通している。


日本産のハリサシガメはクビアカサシガメ亜科だが、ファーブルが観察したセアカクロサシガメもクビアカサシガメと同属だという。第6書訳注ページで知ったのだが、日本で見られるクビアカサシガメも幼虫は砂まみれの姿で暮らしているとか。幼虫が土粒をまとうというユニークな生態のサシガメがハリサシガメの他にもいたことを知って、がぜん興味が湧いてきた。

ファーブルは飼育下のセアカクロサシガメ成虫が産んだ卵が孵化するようすをかなり詳しく記しているが……僕にはちょっと理解しづらく、「これ、ホントかな……」と思わないでも無かった。というのも、ファーブルが「爆発」と称した現象を観察したのは1度だけらしい。小さな卵に起こった現象を1度見ただけで正確に把握できるものかどうか……また、その現象が起こる仕組みについての解釈にも疑問がある。本文を引用すると↓。

私はこの現象を二度と観察することができなかったので、これほど微妙な出来事を理解するには不充分である。だから、たぶんこうであろう、と単に思うだけなのだが、私としては次のような説明を試みたい。(P.206)

──として、孵化で起こる「爆発」の仕組みについて推理を記している。

カメムシの仲間の卵には、なんという見事な仕掛け、驚きに満ちた構造があることであろう。辛抱強く鋭い目で観察していれば、どれほど興味深い結果が得られることか!(P.207)

ファーブルはよくできた(?)孵化の仕組みに対して称賛しているが、それは「事実」というより、あくまでも「ファーブルの解釈」という気がする。

僕が興味を持って読んだのは、孵化以降──(ハリサシガメ同様?)砂まみれになる幼虫についての部分だ。もちろんセアカクロサシガメとハリサシガメは別の種類なので、同じように考えることはではないが、共通する特徴として比較しながら読み進んだ。
卵から孵ったセアカクロサシガメの1齢幼虫が、ときに卵の蓋を体につけているのを見てファーブルは次のように述べている。

この壷の蓋は、偶然、幼虫に触れたことで体に貼りついたのである。しかも、かなりしっかりとくっついている。というのは、この円盤を体からはずすには、次の脱皮まで待たなければならないからである。このことからして幼虫は、体から、通りがかりに触れた軽いものをべたべたくっつける粘液をだしていることがわかる。(P.208~P.209)

また、最初の脱皮を終えた2齢幼虫が砂粒をまとうことについては──、

二週間ばかりの間に幼虫たちは大きく肥り、そのうえ元との姿はなくなってしまう。というのは、体じゅう肢の先まで砂がくっついているのである。
 この砂の皮は脱皮した直後からできはじめる。最初、この小さな虫は、体のここかしこにぱらぱらとくっついた土の屑で斑になっている。それが、いまでは体じゅうを覆う土の衣になっているのだ。(P.211)


ファーブルは孵化直後、脱皮直後から、幼虫の体はベタベタしていて、砂粒が「勝手についてくる」ものだと、すんなり解釈している。
しかし──孵化や脱皮のとき、幼虫の体が最初からベタベタしていたら、殻から脱出するさいに不都合なのではないか──僕はそう考えていた。孵化や脱皮は虫たちにとって大変な作業だ。孵化不全や脱皮不全あるいは羽化不全で命を落とす個体もいる。


(※【ヤニサシガメぷち飼育中】より↑)
こうした事故を防ぐために孵化時・脱皮時には体表面は滑りが良くなくてはならない……だから離型剤の働きをする脂の被膜(?)のようなものが体表面と殻の間にできるのではないか……などと僕は想像していた。
滑りが良くなくてはいけないのに、逆に体表面がベタベタしていたのでは都合が悪かろう──だからそんなことはないはずだと僕は考えていた。
体表面がベタベタしていることで知られているヤニサシガメで、脱皮後はベタベタしているのかどうかを確かめるために飼育したことがある。




(※【ヤニサシガメのベタベタは分泌物なのか松ヤニなのか?】より↑)
やはり脱皮後のヤニサシガメ幼虫はベタベタしておらず、スベスベだった。こうしたことから、「脱皮幼虫がベタベタしているわけがない」との考えを強めていたので、ハリサシガメの脱皮で、抜け殻の背負っていた擬装素材を新幼虫が背中にひっつけながら出てきたのを見たときは、大いに驚いた。擬装素材の塊をどこかで引っ掛けて脱皮するのだろうか?──などと考えたこともあったが、よく解らずにいる。
脱皮しながらの擬装素材の引き継ぎは──これがファーブルの言うように、幼虫は最初からベタベタしていたのだとすれば、説明はつく。しかし、それではベタベタした体で孵化や脱皮をしたのか──という疑問が残る。ファーブルはこうした疑問を考えなかったのだろうか?
あるいは新幼虫の体表面と殻の間では滑りがよく、しかし他の物には粘着性のある──そんな分泌物が体を覆っているのだろうか?

幼虫が砂まみれになるユニークな生態についてファーブルは次のように記している。

 この襤褸(ぼろ)衣裳は意図的なもの、つまり奇襲作戦に役に立つものであって、獲物に近づくために自分の姿を覆い隠す手段なのだ──と思ったとしたら、そんな間違った考えは棄てなければならない。セアカクロサシガメは、わざわざ工夫を凝らしてそんな外套をこしらえたのではない。姿を紛らわせようとしてこんなものを担いでいるのではないのだ。それは何の工夫もなくひとりでにできてしまうのである。その仕組みはちょうど、円い楯がわりに背負った卵の蓋が、先ほど私たちにその秘密を明かしてくれたとおりである。
 幼虫は体から、一種のねっとりした液体を出す。それはおそらくは、幼虫の食物である脂肪に由来するものだろう。体から分泌しているこの鳥黐(とりもち)によって、幼虫自身が別に何かしなくても、移動するたびに触った埃が体にくっつく。サシガメが服を着るのではなくて、体がかってに汚れるのである。この幼虫は塵の球になる。つまり、歩く汚れそのものになるのだ。それは幼虫がべとべとした汗をかくからなのである。(P.211~P.212)


ファーブルはセアカクロサシガメ幼虫が砂粒まみれになるのは擬装目的があってのことではなく、幼虫が積極的に砂をまとうわけではないと記している。しかしハリサシガメ幼虫の場合は、積極的に土粒をまとう行動を僕は何度も見ている。




(※【ハリサシガメ幼虫のデコレーション&コーティング】より↑)
ハリサシガメ幼虫の土粒コーティングは獲物であるアリに気づかれることなく近づくための擬装だと僕は考えている。
大胆にもアリの列のそばで狩りをするハリサシガメ幼虫を観察したことがあるが、驚くほとアリたちは無反応だった。








アリたちに気づかれ総攻撃をしかけられたらハリサシガメ幼虫はひとたまりも無いだろう。ハリサシガメがアリを狩るには奇襲攻撃しかない。ハリサシガメのまとう土粒はアリたちをあざむく「天狗の隠れ蓑」の役割りをしているのだろう。僕はそう考えている。

ファーブルが言うようにセアカクロサシガメ幼虫が砂粒まみれになることに意味がないのだとしたら……たまたま幼虫がベタベタするサシガメが誕生し、その中から土粒にまみれることでアリに気づかれにくくなった→アリを狩るハリサシガメが誕生した──というシナリオになるのだろうか?

ファーブルはセアカクロサシガメ幼虫がベタベタするのは、《幼虫の食物である脂肪に由来するものだろう》と言っているが……この根拠も怪しい気がする。
飼育下のセアカクロサシガメの2齢幼虫(孵化した1齢幼虫は何も食べず、2日後に脱皮する)はファーブルが餌として与えた虫をことごとく拒絶したという。ファーブルは成虫が集まっていた精肉店にあったもの──として脂肪を与えてみたところ幼虫たちはこれを好み、順調に育ったという。それでファーブルはセアカクロサシガメ幼虫の餌は脂肪だと考えたようだが……しかし、脂肪などないところでは、2齢幼虫は何を餌にしているのだろう? 脂肪以外の本来の餌が存在するのではないかという気がする(注釈ではイガやカツオブシムシの幼虫の可能性が指摘されている)。であるなら、幼虫が砂まみれになるのは脂肪のせいではないはずだ。
あるいは、セアカクロサシガメ幼虫が身にまとった砂粒の擬装が役に立つような捕食対象や生態があるのではないか……そんな気もしないではない。

ところで……図書館で借りてきたこの本──『完訳ファーブル昆虫記 第8巻 上』(2010年の初版)のカバーには「本体2800円+税」と記されている。ところが、ネット上で価格を確認すると「3,600円(本体)+税」となっていたので、ちょっと驚いた。値上げがあったのだろうか?(8年で800円の値上げ!?)


擬装する幼虫

擬装する幼虫









植物片(?)を身にまとったアオシャクの仲間の幼虫↑。7月上旬に撮ってトリミングしキャプションもつけていたのだが、投稿する機会がないまま……このままでは時期外れ→お蔵入りになってしまいそうなので、擬装昆虫ネタで投稿しておくことにした。一見ゴミにしか見えないアオシャク幼虫の装飾は天敵の目をあざむくためのものだろう。

ナショジオ《驚異の装飾系動物6選》に選ばれた幼虫は

装飾する生き物は色々いるが……以前、ナショナルジオグラフィック日本版サイトに『自らを飾る驚異の装飾系動物6選』という記事がアップされていた。2015年6月16日付けだが、現在も見ることができる。「レディー・ガガなど目じゃない自然界のベストドレッサーたち」という副題とともに紹介されていた「奇抜なファッションに身を包む動物」は、モクズショイ(カニ)・トビケラの幼虫・イノシシ・サシガメ・ヒゲワシ・クサカゲロウの幼虫だった。数ある装飾系動物の中からどうしてこの6種が選ばれたのか良くわからないところもあるが……「6選」の中の3種が昆虫(トビケラの幼虫・サシガメ・クサカゲロウの幼虫)だった。
「トビケラの幼虫」については画像が示され《トビケラという水生昆虫の幼虫の多くは、身の回りにある材料をつかって自分用のハードケース(ケーシング)をつくる。体から出した糸で材料を綴り合わせ、捕食者から身を守る頑丈なよろいに仕上げるのだ》という文章が添えられている。
最後の「クサカゲロウの幼虫」は画像無しだったが、よく見かける虫だし、この仲間で擬装するものがいることはよく知られている。以前僕が撮った画像から↓。


自らを飾る驚異の装飾系動物6選』の記事の中では《クサカゲロウの幼虫はアブラムシを食べるが、その際、アブラムシが分泌する綿毛のようなロウ状物質を自分の体に移すことで、アブラムシの世話をするアリから身を守ることができる。実験では、クサカゲロウの体からこの衣を剥ぎ取ってしまうと、アブラムシと協力関係にあるアリから侵略者と認識されて追い払われてしまうという》と紹介されている。
クサカゲロウ(の仲間)の話題ついでに……1年前にリトリミング&キャプションをつけてそのままになっていた画像↓もこの機会に……。


サクラの花外蜜腺にきていたので「クサカゲロウの幼虫も花外蜜腺を利用するのか」と意外に思って撮っておいた画像↑(幼虫は画面左を向いている)。過積載ぎみに背負っているのは植物片だろうか?

自らを飾る驚異の装飾系動物6選』の記事に戻って……「トビケラの幼虫」と「クサカゲロウの幼虫」はわかるが……「サシガメ」というのが、多くの人にはピンと来なかったのではなかろうか? 記事につけられていた画像は装飾していない普通の(?)サシガメ成虫。キャプションには《この写真には写っていないが、サシガメは捕食者から逃れるためにアリの死骸の山を背負うことがある》と記されていた。
これはハリサシガメ──これ↓のことだろう。








ハリサシガメの幼虫は捕食後のアリをデコる。これ↑はおそそらく4齢か5齢ではないかという気がするが、近くにいたやや小さい──3齢ではないかと思われるハリサシガメ幼虫↓。


ハリサシガメ──こんな昆虫がいることを(僕が)知ったのは2年前。一般的には知名度は低い昆虫ではなかろうか。ナショジオの記事でアリの死骸をデコったユニークにして魅力的な(?)ハリサシガメ幼虫の画像がなかったのは残念だ。しかし、ハリサシガメなら《驚異の装飾系動物6選》に選ばれるのも納得できる。