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クロスジフユエダシャク:冬尺蛾の不思議

クロスジフユエダシャク:フユシャク(冬尺蛾)の不思議

【フユシャク(冬尺蛾)】と呼ばれる冬にだけ出現し繁殖活動する蛾がいる。昆虫でありながら、外温性(変温)動物が活動するには不向きな冬をわざわざ選んで羽化し繁殖活動するというのだから、初めて知った時は驚いた。また、フユシャクのメスは蛾でありながら翅が退化していて飛ぶことができない。この点にも意外性を感じ、「どうしてそういうことになるのだろう?」と興味を覚えた。フユシャクは国内に35種類ほどいるらしいが、クロスジフユエダシャクもその1つ。フユシャクの中では早い時期(狭山丘陵では11月後半頃から)に出現する種類で、多くのフユシャクが夜行性であるのに対し、クロスジフユエダシャクは昼行性。日中、林床の落ち葉の上を、メスを求めて低く飛ぶオスの姿を見ることができる。
フユシャクが冬に活動する謎については当初、捕食性昆虫やクモ、ヤモリやトカゲなどの天敵が少ない時期に活動するという生存戦略なのだろうと想像して納得していた。メスが飛ぶことをやめたことに関しては、低温の中で卵を抱えた身重なメスが飛ぶのは大変だろうから、出会いのための飛翔は身軽なオスにまかせ、メスは産卵に専念するようになったのではないかと考えた。天敵がいなければ飛んで逃げる必要も無かろうから、飛翔能力がなくても必要な生存率は保てたのだろう……そんなふうに解釈していた。

しかし、クロスジフユエダシャクを観察しているうちに、当初の解釈に疑問がわいてきた。
クロスジフユエダシャクのオスはよく目につくが、その割にメスが少ない……。擬木など、たまたま目立つところにとまっているメスは目にすることがあるが、オスに対する割合は著しく低い。後述の方法でオスを追ってメスを探し当てられるようになると、クロスジフユエダシャク♀は落ち葉の下や物陰に隠れていることが多いことがわかった。飛翔するオスに対して物陰に隠れているメスが目につきにくいのは当然だ。オスが林床に積もった落ち葉の上を低く飛ぶのも、落ち葉の下に隠れているメス(の放つフェロモン)を探してのことだろう。

しかし考えてみると、メスは落ち葉の上に出ていた方がオスに見つけてもらいやすいはずだ──その方がペア成立のチャンスは増え、生存率を高められそうな気がする……にもかかわらず、実際はメスは隠れていることが多い。これはどういうことなのだろう?
オスとの出会いのハードルを上げてまでメスが身をひそめているのは、冬にも活動する天敵──鳥などがいるためではないか? 日中活動する鳥たちによる捕食圧が働くことで、クロスジフユエダシャク♀は隠れて交尾する習性を獲得したのではなかろうかと考えるようになった。
フユシャクの多くが夜行性だということも、昼間活動する鳥を避けるためだと考えれば合点がいく。もし本当に「天敵がいない季節」なのであれば、寒さが緩む日中を選んで活動する種類がもっといてもよさそうな気がする。

クロスジフユエダシャクの《婚礼ダンス(はばたき歩行)》

ということで、クロスジフユエダシャク♀は落ち葉などの陰にひそんでいることが多い。オスは隠れたメスを探し出さなくてはならないわけだが……その手がかりとなるのがメスが放つニオイ物質・フェロモンだ。落ち葉の上を低く飛びながら徘徊しているオスはメスの放つフェロモンをキャッチしようとしているのだろう。
フェロモンをキャッチしたオスはニオイの発生源を求めて飛翔範囲をしぼっていく。そして、このあたりと目星をつけると着地して激しく小刻みに羽ばたきながら歩き回る──これが(カイコガでいう)《婚礼ダンス(はばたき歩行)》だ。フェロモンを感知するのは触角だが、オスははばたくことで前方の空気をセンサーである触角に引き込み、ニオイ物質を嗅ぐ──ヒトがにおいを嗅ぐとき息を吸って鼻腔に空気を引き込むのと同じ。オスは羽ばたきながら向きを変え、ニオイがより強く感じられる方向へ進むことでメスを見つけ出すことができるというわけだ。ちなみにカイゴガではオスの翅を固定したり切除すると(はばたけなくすると)メスを見つけることができなくなるという(※平凡社『アニマ』1980年12月号【カイコガの婚礼ダンス なぜ踊るのか】文・小原嘉明/写真・松香宏隆)。

数年前、路上で轢死したクロスジフユエダシャク♀のまわりにはばたき歩行をするクロスジフユエダシャク♂が集まっているのを見て、クロスジフユエダシャクもカイコガ同様に《婚礼ダンス(はばたき歩行)》によって♀を探し当てているに違いないと思った。
そしてクロスジフユエダシャク♂の《婚礼ダンス(はばたき歩行)》に注目し、それを追うことで、クロスジフユエダシャク♀を見つけることができるのではないかと考えた。
実際に試してみたところ……《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を始めた♂は落ち葉などの物陰に潜り込み、そこで♀と交尾する姿を確認することができた。

恒例の!?《婚礼ダンス》で♀探し

ということで、クロスジフユエダシャクが発生する頃になると、《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を追ってペアを確認してみたくなる。今シーズンは11月中頃に初めて飛翔する♂の姿を目にしている。まだ個体数は少なめだが、《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を観察しに雑木林に出かけてみた。

飛んでいるクロスジフユエダシャク♂がまだ少ない。発生初期で成虫の数自体が少ないこともあるのだろうが、(まだ)メスが少ないことで飛んでいるオスも少ないのだろう。閑散とした林床に、たまにオスが単独~3匹程度あてもなくさまよい飛ぶていど。これまでの観察では、メスにフェロモンを放つ時間帯やタイミングがあるのか──オスがたくさん飛んでいても《婚礼ダンス》が始まらないときは何も起こらない。《婚礼ダンス》は突然始まり、同時に複数のオスが反応することもある。ペアが成立するとフェロモンはシャットダウンするのか、周囲のあぶれたオスは何事もなかったかのように飛び去って行く。
この日はオスがあまり飛ばず、葉の上で翅を休めている時間が多かった。


と、1匹の♂が落ち葉の上を飛んできた。目で追っていると、そのオスはコナラの幹の近くで落ち葉を離れ高度を上げ始めた。探査飛行を打ち切ったのかとあきらめたかけたが、コナラの幹にまとわるような飛び方をし、幹にとまると《婚礼ダンス(はばたき歩行)》を始めた。

《婚礼ダンス(はばたき歩行)》は何度も見ているので、すぐにそれとわかる。♀の存在を確信し、はばたき歩行で幹の裏側に回り込むオスを追って行くと──果たして今シーズン発のクロスジフユエダシャク♀の姿があった。

《婚礼ダンス(はばたき歩行)》はいつも突然始まり交尾に至るまでが早いので、その様子を撮ろうとしてもブレたりボケたりしがちで……今回もヒドイ画像だが……とりあえず状況の記録ということで。オスは難なくメスをみつけそのまま交尾に至った。

オスは普通の蛾にみえるが、翅が退化したメスはまるで違った印象──とても同じ種類には見えない。オスはこのあと少し位置を変える。
今回、メスは落ち葉の下ではなく比較的目立つ幹上にとまっていた。しかし、低空を飛びながら、幹の裏側にとまっていたメスのフェロモンを察知したオスはアッパレ。どんなところにいたかというと──、

冬の風物詩フユシャクと夏の風物詩セミ──ニイニイゼミの抜け殻とのコラボ・ショットということで。


とりあえず、今季も《婚礼ダンス》を見ることができた。

フユシャク以外の虫


ワイヤーフェンスにとまっていたフトハサミツノカメムシ♂↑は、枯葉のようないろになっていた。ちなみに9月に撮った個体はきれいな緑色↓。

(※↑【フトハサミツノカメムシの歯状突起&臭腺開口部】より)
ガードパイプにとまっていたウシカメムシの幼虫↓。

擬木にとまっていたビジョオニグモ↓。人面模様の虫は、つい撮ってしまう。

フユシャクの季節が始まったが……まだ活動している捕食性昆虫もいないではない。サクラの枝で食事中のヨコヅナサシガメ幼虫↓。



婚礼ダンスでペア成立

婚礼ダンスでペア成立の瞬間:クロスジフユエダシャク

落ち葉の上を低く飛ぶクロスジフユエダシャクの姿があちこちで見られるようになった。「チョウが飛んでいる」なんていう声も聞こえたきたりするが、これは冬にだけ出現する昼行性の蛾。飛んでいるのは全てオスで、メスは翅が退化して飛ぶことができない。落ち葉の下などに隠れているメスを、オスは婚礼ダンス(はばたき歩行)によって見つけだす──というのは先日【意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク】で記した通り。
このオスの婚礼ダンス(はばたき歩行)に着目すれば、高い確率でメスを見つけ出すことができる──わけなのだが……肝心の婚礼ダンスがいつ始まるかはわからない。観察するのに「婚礼ダンス待ち」をすることも少なからず。
だが今回はラッキーなことに「待ち時間ゼロ」。通りかかったクヌギの根元近くで、2~3匹の♂がタイミングよく婚礼ダンスを始めたので、そのまま観察。
落ち葉の上を低く飛んでいる時とはあきらかに違う動き──羽ばたき回数は増え狭い範囲をせわしなく歩き回っている。1匹が幹の低い位置でこの行動を、他に1~2匹がその下の落ち葉の上を羽ばたき歩き、タッチアンドゴーをくり返していた。婚礼ダンスが始まってしまえばペア成立まではあっという間だ。複数のオスが反応している場合はどれが本命か判断しかねているうちに(ロクな画像が撮れないうちに)正解者(♂)が、さっさと落ち葉の下にもぐりこんでしまうということになりがちだ。
これまで落ち葉の上で婚礼ダンスを舞う♂は何度も見ているが、木の幹で舞っているのは見たことがない──そうした不自然な(?)ことをやっているということは、正解はそこ(メスがいるのは木の幹)なのだろろうと判断し、クヌギの幹で婚礼ダンスを舞うオスに絞って撮り始めた。









最初の画像から交尾が成立したことが確認できるここ↑まで、わずか26秒。

婚礼ダンスを撮っている間は気づかなかったが、メスは樹皮のすきまに隠れていた。♀の放つフェロモン(ニオイ物質)を手がかりにその位置を正確に割り出す♂の婚礼ダンス(羽ばたき歩行)アッパレ!

交尾が成立すると根元の落ち葉で婚礼ダンスを舞っていたライバル♂は関心を失い、離れて行った(これまでの観察と同じ)。交尾が成立すると♀のフェロモン放出はシャットダウンするのだろう。
隠れている♀の姿がこれではよくわからないので、擬木に単独でとまっていたクロスジフユエダシャク♀の画像を↓。

目立つ所にいるのに♂が寄ってこないのは、交尾済みの(フェロモン放出がシャットダウンした)♀なのかもしれない。


冬尺蛾の時期にも健在なウバタマムシ


フユシャクの活動時期にミスマッチな感じもするが……このあたりでは1年中みかけることのあるウバタマムシ




意外な翅の役割り!?クロスジフユエダシャク

《飛ぶための翅》《隠蔽ツールとしての翅》そして《嗅ぐための翅》

クロスジフユエダシャクはフユシャク(冬尺蛾)の中でも早い時期に出現する昼行性の蛾。狭山丘陵では11月の下旬頃から、落ち葉の積もった林床をオスたちが低く飛ぶ姿が見られるようになる。が、今シーズンは発生が遅れているようで、11月の終わりにオスの姿は確認できたものの、その数はまだ少なく飛んでいる時間(メス探しをしている時間)も短かった。12月2日、複数のオスが飛ぶ姿は確認できたが、その数はまだ少なかった。

クロスジフユエダシャクに限らずフユシャク(冬尺蛾)の仲間は、飛ぶことができるのはオスだけ。メスは翅が退化し飛ぶことができない。なぜ昆虫なのにわざわざ低温の冬に発生し繁殖活動をするのか、なぜメスは飛ぶことをやめたのかについては、これまで色々素人想像を記してきたので(*)今回は割愛。
今シーズンも、ようやくクロスジフユエダシャクが出始めてきたので、♂の♀探し──婚礼ダンス(はばたき歩行)でメスを探しあてる様子を観察するために雑木林をのぞいてみた。

クロスジフユエダシャク♀は飛ぶことができない──ということで、飛ぶことができる♂が♀を探して飛び回ることになる。羽ばたくことで飛翔するクロスジフユエダシャク♂の翅は「プロペラ」に例えることができるだろう。♀のいるところまで移動する《飛ぶための翅》だ。
林床の落ち葉の上を低く飛び続けているのは♂で、♀はたいてい落ち葉の下に隠れている。隠れた♀をどうやって探しあてるのかというと、♀が放つ性誘因物質(性フェロモン)というニオイ物質を手がかりに定位している。

林床を低く飛ぶ♂たちを観察していると、それぞれ別々行動しているようで、飛翔タイムと休憩タイムがあるていど揃っていたりする。おそらく♀の放つフェロモンが風に乗って(?)漂ってくると飛び立ち♀を探し続け、そのニオイが解消されるとやがて探すのをあきらめて降りて翅を休めるのだろう。

クロスジフユエダシャク♂が降りて静止すると、周囲の落ち葉に溶け込んでしまい、見つけ出すのは容易ではない。

《飛ぶための翅》が、この時は《隠蔽擬態(カムフラージュ)ツールとしての翅》となる。

クロスジフユエダシャク♂の翅には、もう1つ重要な役割りがある!? それを説明する前に、♂の触角に注目。

♀の触角は糸状だが、♂の触角はブラシのようになっている。触角の表面積を増やすことで、♀が放つニオイ物質(性フェロモン)を拾いやすくし検知感度を高めているのだろう。この検知感度を高める方法が、《空気に接する触角の表面積を増やす》こと以外にもう1つある。《触角に接する空気の量を増やす》ことだ。
空気の流れを作り、強制的に触角に送り込めば空気中のニオイ物質を拾いやすくなる。クロスジフユエダシャク♂は♀が近くにいると察すると、降りてせわしく羽ばたき続けながら向きを変え歩き回る。着地した状態で羽ばたき続けることで前方の空気を引き込み《触角に接する空気の量を増やす》──羽ばたく翅は空気を引き込む「プロペラ」=ファンの役割りをする。いってみれば《嗅ぐための翅》というわけだ。この《嗅ぐため》に翅を羽ばたかせて歩き回る行動が「婚礼ダンス(はばたき歩行)」ということになる。羽ばたきながら向きを変え、ニオイを強く感じる方向へ進むことで♀に到達するしくみだ。

※【フユシャクの婚礼ダンス】より再掲載↑
僕が【婚礼ダンス】という言葉を知ったのは、平凡社『アニマ』1980年12月号(【カイコガの婚礼ダンス なぜ踊るのか】文・小原嘉明/写真・松香宏隆)だった。家畜化されたカイコガは成虫になっても飛ぶことができない。なのに成虫♂は交尾する前には決まって羽ばたき【婚礼ダンス】をする──羽ばたくことをできなくした♂は♀を見つけることができなくなるという。
何年か前、路上で轢死したクロスジフユエダシャク♀の周辺で複数の♂が【カイコガの婚礼ダンス】と同じ行動をとっているのを目にし、クロスジフユエダシャク♂も【婚礼ダンス】によって♀の位置を定位しているのだろうと考えた。そして婚礼ダンス(はばたき歩行)をする♂に注目し、実際に♀をみつけだし交尾するようすが観察できるようになったしだい。
クロスジフユエダシャク♂の翅には《飛ぶための翅》・《隠蔽ツールとしての翅》そして《嗅ぐための翅》という重要な役割りがあると考えてよいだろう。

クロスジフユエダシャク♂の婚礼ダンス

ということで、今シーズンもクロスジフユエダシャク♂の《婚礼ダンス(はばたき歩行)による♀探し》を観察。
前述の通り、今シーズンはまだ飛翔しているクロスジフユエダシャク♂が少なく待ち時間も長めだったが……コナラの根元で♂2匹がせわしなく羽ばたきながら降りたり舞ったりをくり返し始めた。婚礼ダンスは突然始まる。

あらかじめ♀の居場所がわかっていれば撮るのに都合が良いのだが……♀の位置は♂が見つけてくれるまでわからない。せわしなく動き回る2匹のどちらが♀を見つけるかもこの時点ではわからず、ボケだ画像になってしまったが……。

わかりづらいが青円内の♂↑が先に♀に到達。羽ばたきが止むと交尾の体勢に入っていた。

交尾が成立すると♀のフェロモン放出はシャットダウンしてしまうらしい。婚礼ダンスをしていたもう1匹の♂は近くを横切ってもスルーして飛び去ってしまった。こうした光景は以前も見ている。

フユシャクの特徴として♀は翅が退化して♂とはかけ離れた容姿をしてている。
クロスジフユエダシャク♀はたいてい落ち葉の下に隠れていて、♂は死角にいる♀をきっちり探し当てる。ペアがとまった葉を裏返して撮影↓。


今回まだ♂の密度が低い中で、2匹の♂が同じ♀に反応して婚礼ダンスを始めた。昨シーズンの観察では3匹の♂が同時に反応していた(*)。♀のフェロモン放出のタイミングで近くにいた♂が強く反応するのかもしれない。
別の場所での婚礼ダンス↓。1匹しか写っていないが、この時も2匹の♂が反応していた。

激しく羽ばたきながら落ち葉の下に潜り込んだ♂。まわりこんでのぞき込んでみると……。

すでにペアが成立していた。

カールした落ち葉の下に落ち葉があり、その陰に♀はとまっていた。このままでは見えにくいので、カールした葉と手前の葉をどけて……。

さらに♀がとまっていた葉を裏返すと♂も同じ葉に移動した↓。

やがて♂は翅を伏せて、通常の姿勢をとった↓。

同じ種類なのに、♂と♀の容姿の違いが興味深い。♂は翅が大きいので(天敵の鳥などに)見つかりにくいように枯葉に溶け込む色合いをしており、♀は目立たぬように葉かげに隠れているのかもしれない。

フユシャクの種類によっては♀の翅がほとんど消失したものもいるが、クロスジフユエダシャクの♀には小さな翅があって「退化した」感が伝わってくる。見た目的には地味な普通の蛾っぽい♂より、ついユニークな姿の♀にカメラを向けてしまいがちになってしまう……。




フユシャク婚礼ダンスで♀探し

今シーズン初のクロスジフユエダシャク♀


今シーズン初のフユシャク(冬尺蛾)は先日(11/16)見たクロスジフユエダシャク♂だったが、今シーズン初のクロスジフユエダシャク♀。フユシャクの仲間は冬にだけ出現する蛾。

これでも立派な蛾の成虫↑。フユシャクのメスは翅が退化して飛ぶことができない。そのためフェロモン(ニオイ)でオスを呼び寄せる。オスには翅があり、飛ぶことができる。
クロスジフユエダシャクは昼行性で、この時期、雑木林で落ち葉のつもった地上付近を低く飛ぶオスの姿が見られるようになる。そのオス↓。

オスはユニークなメスとは違い、見た目は普通の蛾。落ち葉の積もった林床では目立たない。

オスが林床を低く飛ぶのは、メス探しのため。オスの触角は試験管ブラシのような形をしている(メスの触角はヒモ状)。メスの放つフェロモン(ニオイ物質)を察知しやすいように表面積を増やす構造なのだろう。我々ヒトは鼻でニオイを嗅ぐが、蛾は触角でニオイを嗅ぐ。
我々ヒトはニオイを嗅ぐとき、息を吸い込んで鼻にニオイ物質を引き込むが、カイコガ(蛾)♂は羽ばたいて(空気の流れを作って)触角にフェロモン(ニオイ物質)を引き込む。家畜化されたカイコガの♂は飛ぶことができないが、♀の放つフェロモンを察知すると羽ばたきながら歩き回って♀を見つけだす──それが「はばたき歩行」「婚姻ダンス」と呼ばれる行動で、クロスジフユエダシャク♂も同じことをやっているようだ(【フユシャクの婚礼ダンス】)。
クロスジフユエダシャク♀は落ち葉の下などに隠れていることが多いようだが、フェロモンを察知した♂は♀が隠れた近くに舞い降り、婚礼ダンス(はげしく羽ばたきながら歩き回る行動)で正確に♀の居場所をつきとめ交尾をする。♂も落ち葉の下にもぐってしまうので、自然な状態で交尾しているクロスジフユエダシャクを見つけ出すのは難しいが、♂の婚礼ダンスに注目すれば(♂が婚礼ダンスを始めれば)、♂を追ってたやすく♀を見つけ出すことができる。
──ということで、今年も「♂の婚礼ダンスで♀探し」をしてみた。

オスの婚礼ダンス(はばたき歩行)でメス探し

この日、雑木林では落ち葉の上を低く飛ぶクロスジフユエダシャク♂があちこちで見られた。♂が婚礼ダンス(はばたき歩行)を始めれば♀を見つけるのはたやすいのだが……ただ、それが始まらないことにはどうにもならない。すんなり立て続けに観察できることもあったが、待たされることもあった。この日は風が吹き♂が降りて翅を休めてしまう時間帯が多く、「♂の婚礼ダンス待ち」が続いた。
ちなみに、降りた♂が翅を休めればハズレ(♀をみつけられなかったとき)。降りてなお、せわしなく翅を羽ばたかせていれば(通常よりもあわただしい動きになる)アタリ──♀は近いと考えられる。
風がおさまるのをみはからって舞う♂達をながめながら長期戦を覚悟し始めたころ、とつぜん婚礼ダンスは始まった。
目で追っていた♂が落ち葉の上におりて激しく羽ばたき出した。それまで見ていた動きとは明らかに違うので「婚礼ダンス」とすぐに判る。しかも、ほとんど同時に3匹の♂が同じ落ち葉に降りて「婚礼ダンス」を始めた。
そこに♀が隠れていることは確実だと確信しながら「トリオの婚礼ダンス・ショット」を撮るべくカメラを向けるが……モニター画面内で落ち葉でおおわれた背景の中からクロスジフユエダシャク♂を瞬時にとらえるのは難しい。フレーミングでもたついている間に3匹の♂は、あっという間に問題の落ち葉の下に潜り込んでいってしまった。



フレーミング&フォーカシングが追いついたときには、3匹の♂はすでに落ち葉の下。わずかに翅がのぞいているといった状況だった。そこで、手前の葉をどけて、問題の落ち葉の下をのぞきこんでみると……、

落ち葉の下で、取り込み中のようす……やがて動きは収まったかに見えたが、3匹の♂と、そこに隠れているはずの♀の状況がわからない。

やがて葉の下に潜り込んだ♂のうち1匹が、葉の上にでてきた。

この♂↑はすぐに飛び去った。しかし、落ち葉の下にはまだ2匹の♂がいるはず。いったい、どうなっているのか確かめるべく、そっと葉を持上げてみると──、

なんと、1匹の♀の2匹の♂がとりついていた。

しかし結合が甘い右側の♂が離脱。


離脱した♂も飛び去り、ペアが成立。


♂が立てていた翅を倒すと、擬木などで通常よく見かける形になった。
交尾が成立するとフェロモン放出がシャットダウンするのか「売約済み」フェロモン?のようなものが立ち上がるのか判らないが、交尾前の♀には3匹の♂が集中したのに、交尾が成立した後は他の♂は近づいてこなかった。

今回の「♂の婚礼ダンスで♀探し」では、同時に3匹の♂が集中することになったが、昨年も2匹の♂が同時に同じ場所で婚礼ダンスを始めるのを目にしている(【クロスジフユエダシャクはなぜ隠れて交尾するのか】)。♀がフェロモンを放出するタイミングがあって、そのとき近くにいた♂が反応するのだろうか。
これまで「♂の婚礼ダンスで♀探し」では、「♂の求婚ダンス待ち」すにわち、♂が♀を見つけ出せるかどうか──という捉え方をしていたが、それよりは「♀のフェロモン放出待ち」というのが近いような気もしてきた。♂が乱舞する林床では、♀がフェロモンを放出すれば♂の婚礼ダンスはすぐに始まる体制ができているのかもしれない。


婚礼ダンスでフユシャク・ペア探し

11月末日、クロスジフユエダシャクが舞う雑木林をのぞいてみた。落ち葉が積もった林床ふきんをたくさんの蛾が這うように飛んでいる。飛んでいるのは全てオス。メスは翅が退化して飛ぶことができない(フユシャクの特徴の1つ)。メスはフェロモンを発し、オスはそのニオイをたよりにメスをみつけだして交尾する。
先日に引き続き、オスが【婚礼ダンス】でメスをみつけペアになるところを確認しようと、しばしフユシャク・ウォッチング。【婚礼ダンス】待ちの間にガーデンイール(チンアナゴ)っぽいケバエ幼虫集団をみつけたので撮ったりしたが……それは最後にふろくする(幼虫だけに要注意)。

婚礼ダンスでクロスジフユエダシャク・ペア探し


クロスジフユエダシャクのオスが林床を低く飛ぶのはメス(のニオイ)を探してのこと。移動しなから飛ぶオスはまだ手がかりを見つけられずに模索しているところなのだろう。同じエリアにとどまり、行きつ戻りつしているオスは、フェロモンを察知し、その発生源がどの方角にあるのか探っているのかもしれない。飛翔しながらニオイから遠ざかれば戻り、より強いニオイを感じる方角を探している可能性がある。
低く飛んでいたオスが落ち葉の上に降りて羽ばたき歩行(これが婚礼ダンス)を始めたら、メスに近づいている可能性が高い。降りてすぐ翅を休めるオスはメスをみつけらずに翅を休めているだけなのでこれはスルーだが、降りてなお羽ばたき続け歩き回るオスはニオイの発生源にいよいよ接近して最後の詰めに入った可能性が高い。そんなオスは飛翔しているときよりむしろ羽ばたきの回転数(?)は増している。これはニオイを嗅ぐためのはばたきだ。
フェロモンを感じるのは触角だが、オスは羽ばたく事によって空気の流れをつくり、ニオイ物質を含む空気を触角へ呼び込んでいる。羽ばたきながら向きを変え、より強く感じる方へと進むことでメスの居場所を割り出す──この羽ばたき歩行が【婚礼ダンス】だ。せわしなく羽ばたくのは我々がニオイを嗅ぐとき息を吸い込むのと同じ──ニオイ物質を含む空気の流れを作って感覚器(蛾なら触角/ほ乳類なら鼻腔)に送り込むだめだ。クロスジフユエダシャク♂が羽ばたきながら歩き回るのは、われわれがニオイの発生源を探すとき、あちこち向きを変えながらクンクンとマメに息を吸うのと同じ。

というわけでオスの【婚礼ダンス】を頼りにペアを見つけ出そうという算段だが、この方法は【婚礼ダンス】が始まらなければ始まらない。すんなり見つかることもあれば、待たされる事もある。
今回もしばらく待たされたが、1匹の♂が【婚礼ダンス】を舞い始めた。

【婚礼ダンス】が始まるとペアリングまでけっこう早かったりする。このオスはあっという間に落ち葉の下に潜り込んでしまったので、今回は婚礼ダンス・ショットは2枚しか撮れなかった。

オスがもぐりこんでいった葉をひっくり返すと、はたしてペアが成立していた。



この後、チャバネフユエダシャク♀が出ていないかと近くを探してみたが見つからず。そのかわりに、植木を支える木の杭にとまっていたクロスジフユエダシャク・ペアをみつけた。



つながっている様子がわかるアングルを探していると、オスが飛び去ってしまった。ということで、残されたメスの単独カット↓。


幼虫いっぱい要注意:ガーデンイールなケバエ

「婚礼ダンス待ち」の間に撮ったケバエ幼虫集団──枯葉の中にのぞいた緑の孤島のようなコケの中にもぐりかけた状態でいた。皆頭を地中につっこみ腹先を地上にのぞかせた格好。この腹端には眼のような模様(?)があって、ちょっとドジョウ顔に見える。海底から上体をのぞかせるガーデンイール(チンアナゴ)っぽかったので、空目ネタに撮ってみた。