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フユシャクの卵塊

毛のコーティング:卵塊表面の変化

前回の記事(【フユシャクの産卵&コーティング】)で紹介したフユシャク亜科のフユシャク(シロオビフユシャクかクロバネフユシャクあたり?)の卵塊。完成直後はフェルトのようだった卵塊の表面は質感が変わっていく。


産卵しながら行われる1層目のコーティングでは、貼り付けられた毛の向きはバラバラ。この時点では、かなり毛羽立っている状態。産卵を終えた後も卵塊に「毛の上塗り」をくり返すので、完成時には表面はしまってフェルトのような仕上がりになる。


やがて表面の毛は1度溶けて固まったかのように質感が変化する。


前回の記事を投稿した後、mixiの方で知人の虫屋さんから、毛を貼りつけるさいに分泌物も出しているのではないかというコメントをいただいたが、そう考えると繊維状のコーティングが固まって質感が変化するのも納得しやすい。
別個体のフユシャク♀と完成まもないと思われる卵塊↓


完成直後は繊維感があった表面は、その後一体化して硬質の膜のように変化していく。


卵塊だけを見ると、この中に蛾の卵が隠されているとは想像がつかない。卵を覆うコーティングは強固に見え、卵から孵った非力な幼虫が、この膜を突破できるのだろうか?──と心配になってしまう。
そもそも毛の下に卵がどのような形でいくつくらい産みつけられているのかもわからない──産卵時から毛でおおわれているため卵の状態は確認できていなかったわけだが……そうした疑問のいくつかが明らかになった過去の観察例を──、




1月上旬に鉛直の壁面に産みつけられたフユシャクの卵塊↑。膜化した表面には4月下旬に孵化した幼虫が作ったと思われる孔があいていた↓。


産卵1年後にはコーティングされた部分がはげ落ち、壁面に貼り付いた卵の殻(抜け殻)があらわになっていた。やはり毛で固められた部分は膜となり卵をおおっていたということだろう。卵は整然とかためて産みつけられていたことも確認できた。

丁寧なコーティングをするフユシャク♀

このタイプの卵塊をつくるフユシャクは産卵後(1層目のコーティングの後)も毛の上塗りをくり返す。小さな虫ながら、その丁寧さ・勤勉さには感心するばかり。新たな卵塊を見ていると、産卵を始めた翌日には完成していることが多いように思われる。しかし、中には3日間もコーティング(上塗り)行動を続けていたメスがいた。


産卵開始時には、まだ(卵がつまった)腹も大きく、腹端の化粧筆(フェイスブラシ)のような毛束もたっぷり残っている。産み始めの位置を基点に、この画像↑のメスの頭のあたりまで卵塊は拡張されていく↓。








産卵翌日には上塗りする腹端の毛もつきている状態だったが、それでもコーティング行動を続けていたメス。卵塊はすでに完成しているように見えるが、本能の《終了》スイッチが壊れて入らなかったのか? けっきょく丸3日はコーティング行動を続けていたことになる。
こうした念入りにコーティングをするフユシャク♀とは対照的に、コーティングが雑なフユシャクもいる。

列状の卵塊では毛のコーティングが雑!?

フユシャク亜科のフユシャク(冬尺蛾)の中には、列状の卵塊を作るものもいる。やはり腹端の毛で卵をおおうが、前述の丁寧なコーティングをするフユシャクに比べるとかなりザツな感じがする。


擬木に産卵していたフユシャク亜科のフユシャク♀↑(クロテンフユシャクやウスバフユシャクあたり?)。
翌日の卵塊↓。撮影角度を変えて、画面左が産卵開始側⇔画面右が産卵終了側。






産卵を開始した側では毛のコーティングが不充分で卵がのぞいている部分がある。この種類は産卵後の「毛の上塗り」はしないようだ。
露出した卵にひかれてか……小さなハチ(寄生蜂?)が卵塊を物色していたことも……↓。


やはり擬木に産みつけられていた別の列状卵塊↓。




3月半ばに一部の卵が壊れていた↑。殻の損傷は大きめ──孵化した幼虫が食したのか、外部の天敵によるものか?
3月の終わりにはほとんどの卵がカラになっていた↓が、殻の損壊の程度の違いが気になる……。


大半の卵は孵化したようだが、ところどころに孵化していない(孔が開いていない)卵が残っている。中央列の右端から8つ目の卵も未孵化だが、この卵には6日前にダニがついていた。


ダニが寄生したことで孵化できなかったのだろうか?
卵に寄生する蜂やダニがいるとすれば、丁寧なコーティングで仕上げた卵塊は被害を受けにくそうな気がする。だとすれば、労力を要す丁寧な仕事にはそれなりの見返り(生存率を高める)効果があるということになる。
フユシャクが産みつけた卵をわざわざ毛で覆うのには、霜付防止(防寒対策)や乾燥防止対策の意味合いがあるのではないかと想像していたが、卵にまとわりつくハチやダニを見て、(強固なコーティングには)寄生対策の意味もあるのかもしれないと考えるようになった。先の虫屋さんからいただいたコメントには、「冬に樹幹や小枝から採餌する小鳥のガラ類から逃れる効果」の可能性も指摘されていたが、視覚的には卵を隠す隠蔽効果があるので、そうした天敵対策の意味もあるのかもしれない。

フユシャクの産卵&コーティング

オスの翅に隠れたメス:ウスバフユシャク



擬木にとまっていたウスバフユシャク♂。フユシャク(冬尺蛾)のオスが頭を下にとまっているときは交尾していることが多い気がする。そう思ってよく見ると……オスの翅の下からメスの脚がのぞいていた。
角度を変えてのぞきこむと……。


ウスバフユシャクは12月半ばにもペアをみている(【フユシャク色々】)。フユシャクの1つで、オスには翅があるが、メスには翅がない。

産卵前のフユシャク亜科のフユシャク♀



年が明けてからはフユシャク亜科のフユシャクを見かけることが多くなった(他にエダシャク亜科・ナミシャク亜科のフユシャクがいる)。このメスは翅が消失していて、単独でいると種類を見分けるのが難しい(翅のあるオスとペアでいるとわかりやすい)。


あわいブルーの小さな翅が魅力のイチモジフユナミシャク♀ホルスタインちっくなチャバネフユエダシャク♀などに比べると、ルックス的には地味な印象が否めないフユシャク亜科のフユシャク♀だが……特典(?)をあげるとすれば、腹端の化粧筆(フェイスブラシ)のような毛束だろう。この毛束は産卵のさいに卵塊をおおうコーティング素材として使われる。


やはり木製の手摺の上にいたフユシャク亜科のフユシャク♀↓。




基本的には夜行性なのだろうが、しばしば日中も交尾や産卵している姿を目にすることがある。ということで──↓。

産卵中のフユシャク亜科のフユシャク♀



欄干(らんかん)の金属製手すりの上で産卵を始めたフユシャク亜科のフユシャク♀。まだ腹は大きく、腹端の化粧筆(フェイスブラシ)のような毛束もたっぷり残っているが、手摺にはすでに抜けた毛が貼り付けられている。この下に卵が産みつけられている。この25分後↓(画面左下の数字は撮影時刻──時:分:秒)。


卵を全て産み終えてから毛でおおうのではなく、卵を産みながら毛をカバーして産卵領域を拡張していく。


クロバネフユシャクかシロオビフユシャクあたりか……よくわからないが、この種類はかなり念入りに毛のコーティングを行う。卵を産みつけながら毛をはりつけていく一層目は特に時間がかかるようだ。


こうしてわざわざ手間をかけて卵を毛でおおっていくのは、労力に見合うだけの意味があるからだろう。卵に霜がつかないような防寒対策・乾燥を防ぐため・卵に寄生する蜂などから卵を守るため──そんな可能性を想像している。




このような卵塊を作るフユシャクを以前も観察したことがあるが(*)、卵を産み終わった後も、毛の上塗りを何度も繰り返していた。
ということで、翌日、現場に戻ってみると──↓。

産卵後のフユシャク亜科のフユシャク♀



すでに産卵&コーティング作業は終了し、そばには大仕事を終えて、やつれたメスの姿があった。




産卵前と同じ昆虫とは思えないほどのプロポーションの変わりよう……。
そして、「大仕事」の結果は──↓。


前日の「産卵しながらの一層目」作成時は、もっと毛羽立った感じのコーティングだったが、その後何度も「上塗り」をくり返して「みっちりしまった感じ」に仕上がっている。
別の場所(木製の手すりの上)でも、産卵&コーティングを終えた、同種と思われるフユシャク♀の姿をみつけた。




毛のコーティングは、やがて膜のようになり、その膜に孔をあけて幼虫が孵化するようだ(*)。
フユシャク亜科でも種類によって卵塊の形状やコーティングの精度には違いがる。雑なコーティングをする種類では毛の薄いところで卵が覗いていたりする(*)。


フユシャクの産卵とその後 ※産卵&腹端の毛によるコーティングのようす
フユシャクの産卵:列状卵塊ほか
フユシャクの天敵!?

クロオビフユナミシャク♂♀卵他

クロオビフユナミシャクのオス・メス・卵



クロオビフユナミシャクは冬に出現するフユシャク(冬尺蛾)のひとつ。見た目は普通の蛾──なのはオスだけ。メスは翅が退化して飛ぶことができない。オスは11月下旬から目にしていたが、メスはこれが今シーズン初個体↓。


クロオビフユナミシャク♀がとまっていたのは擬木だが、小さな空洞に卵が産みつけられていた。


よく見ると、このクロオビフユナミシャク♀は、右の翅がやや大きく形もちょっとヘン!? 本来の形である左翅と比べると、違っているのがわかる。
フユシャク♀の翅は蛹の段階で1度形成されたものがアポトーシスで萎縮するらしい。今年2月に蛹の殻(抜け殻)をつけたシロフフユエダシャク成虫♀を見ているが、蛹の翅部分が成虫の翅より大きかったので(*)、なるほどと納得していた。
このクロオビフユナミシャク♀の右翅が大きめなのはアポトーシス不全!?なのだろうか?
本来のフォルムと比較できるように、昨シーズン撮影したクロオビフユナミシャク♀の画像を再掲載↓。


(※【フユシャク3種~12月中旬の昆虫】より↑)


(【クロオビフユナミシャク♀@桜ほか】より↑)

クロスジフユエダシャク単独♀



やはり擬木にとまっていたクロスジフユエダシャクのメス。前の記事でもオスとのペア・ショットを5例あげているが、単独♀ショットということで。
小さいながら4枚の翅がハッキリ確認できる。






カバエダシャク



擬木にとまっていたカバエダシャク。フユシャクが現われる頃に目にする蛾。


本来なら翅の先端近くに白紋があるのだが、この個体では白紋が薄く、無いようにも見える。
本来の白紋が写っている画像から──↓。


フユシャクと発生時期が重なっているカバエダシャク。フユシャクと同じ「シャクガ科」の蛾だが、こちらは♀にもちゃんとした翅がある(のでフユシャクとは呼ばない)。


クロオビフユナミシャク♀@桜ほか

苔むしたサクラを登るクロオビフユナミシャク♀



サクラッチ(桜ウォッチ)をしていたところ、苔むしたサクラの幹をのぼっていく小さな蛾が目にとまった。動いていなければ見逃していたかもしれない。よく見るとクロオビフユナミシャクのメス──サクラで出会うとは、ちょっと意外だった。これまでクロオビフユナミシャク♀を見るのは、もっぱら擬木や塀・柵などの人工物ばかりで、近くにはツツジの植込みやコナラ・クヌギなどがあったので、そうした木で発生するのだろうと思っていたからだ(サクラはホストとして認識していなかった)。この場所はサクラばかりで、コナラ・クヌギなどはない。しかし、道路を隔ててツツジの植込みがあったので、あるいはそこからやってきたのかもしれない。
──と思っていたら……↓。


サクラの幹に生えた苔に腹端をさしこんで産卵行動のような動きを始めた。サクラで産卵するということは、サクラもホストの1つなのだろうか? 観察するには位置が高く、実際に産卵しているかどうかは確認できなかった。
撮影しにくいこともあって、移動してもらうことに──。


指の上を歩くクロオビフユナミシャク♀↑。フユシャクのメスは、じっと止まっている時と歩いている時では姿勢が変わって印象も違う。小さな頭を起こして触角を前に向け、歩き始めるとけっこう活発に動きまわる。クロオビフユナミシャク♀はフユシャク♀としては(退化している割には)大きめの翅を持っているが、この翅をやや持上げるようにして歩く。
同じ木の低い(撮影しやすい)位置にうつしたクロオビフユナミシャク♀↓。


サクラの幹を登り始めたクロオビフユナミシャク♀↑。
少し登ったところでとまったが、翅は持ち上げたまま……↓。


しばらく動きが無かったので、近くのサクラを見て回る。ちなみにこのクロオビフユナミシャク♀がとまっていた木にはイチモジフユナミシャク♀も2匹いたが、いずれも産卵後の腹が縮んだ個体だった(少し高い位置にいたので撮らなかった)。
少しして戻ってみると、クロオビフユナミシャク♀は翅をふせて通常の(?)静止姿勢になっていた↓。




斜めに差し込む陽射しで鱗粉がテカり、じゃっかん模様がわかりにくいので、直射日光をさえぎって撮ってみた同個体↓。


産卵後の個体が目立つイチモジフユナミシャク♀@サクラ



クロオビフユナミシャク♀がいたのとは別の苔むしたサクラ。今年は正月を過ぎてから見つかるイチモジフユナミシャク♀は産卵後の個体ばかり……。








「旬」の時期は過ぎ、イチモジフユナミシャクの時期もそろそろ終わりか……と思っていたところ、産卵前のぷっくり感のあるイチモジフユナミシャク♀が見つかった↓。


腹は卵が詰まっていて大きいく、翅との比率が産卵後の個体と比べるとだいぶ変わる。これはやけに白い個体だった。


フユシャク亜科のフユシャク♀と卵塊



コンクリート製の鉄道柵にとまっていたのはフユシャク亜科のフユシャク♀↑(メスだけでは僕には種類がよくわからない)。腹端には化粧ブラシのような毛束があるが、この毛は産卵の際に産みつけた卵をおおうのに使われる。その卵塊が↓。


この種類は卵をかためて産み、毛のコーティングをしっかり行なうタイプ。
※産卵のプロセス→【フユシャクの産卵とその後
種類によっては卵を列状に産みつけ、毛のコーティングが雑なものもいる。

カギバラバチ:大量微小卵のナゼ?

キスジセアカカギバラバチの微小卵に思う







前の記事でも記したキスジセアカカギバラバチ──1年前は確認できなかった超極小の卵を今回なんとか確認し、その小ささ(0.12mmほどだそうな)にあらためて驚かされた。そしてふと、寄生蜂でありながら、(寄主に直接産卵するのではなく)大半が無駄になるのを覚悟の上(?)で、大量の微小卵を葉に産みつけていくのはなぜだろう……と疑問に思った。

この疑問をきっかけに、あれこれ考えたことを少し記してみる。ド素人が自分の狭い知識の中で合理的な解釈を模索した──という脳内シミュレーションで、実際の進化がどうだったのかとは別の話。「昆虫を見て不思議に思ったことについて、自分なりの解釈を考えてみた」というハナシである。

さて、カギバラバチの生態をおさらいすると……母蜂は葉に大量の微小卵を産みつけてまわる。卵が、その葉を食草とするイモムシ(チョウや蛾の幼虫)に(葉といっしょに)呑みこまれ、そしてなおかつ、そのイモムシ体内に(たまたま?)寄生していた別の寄生蜂や寄生蠅がいて、これに二次寄生(二重寄生)することができた場合に限って、初めて成長することができるという。《一見、非効率的な生活史を選択した》かに思われがちだが、もちろんそんなことはないだろう。
1つの卵に着目すれば成虫にまで育つことができる確率は確かに低そうだ。しかし、それをおぎなうため、大量の卵を産みつけ、確率の分母をふやすことで採算をとっているのだろう──最初はそう考えた。

しかしよく考えてみると、《成虫達成率が低いスタイルをおぎなうために大量の卵を産むようになった》という泥縄の因果関係は成立し得ない。
大量の卵を産むことができるように進化するには、それなりの時間が必要だったはずで、カギバラバチのようなスタイル(成長過程)のハチが出現したとき、まだ《大量の卵を産む》ことができていなければ、その時点で生存率は維持できなくなり存続し続けることはできなかったはず──《成虫達成率が低いスタイル》を《おぎなうための進化をとげる猶予》などなかったはずだ。
ということは、現在のような寄生スタイルを獲得した時点ではすでに《大量の微小卵を葉に産みつける》ように進化を遂げていた──と考えないとつじつまが合わない。

そもそも、他の虫に寄生するのなら、餌となりうる虫に直接卵を産みつければよさそうな気がしないでもない。実際、蛾の幼虫に寄生するコマユバチなどは母蜂が直接、寄主(宿主)のイモムシに卵を産みつける。これなら、卵が無駄にならず効率的だ。イモムシ体内で孵化し育ったコマユバチ幼虫が寄主の体を破って繭を連ねる──そんな光景が思い浮かぶ↓。


これはカラスヨトウ(蛾)の幼虫に寄生したコマユバチ(の仲間)の蛹だろう。こうしたスタイル──イモムシに直接卵を産みつける寄生蜂がいるのに、カギバラバチはなぜ、わざわざ(?)大半が無駄になることを覚悟で(?)、大量の卵を葉に産みつけるという、一見、非効率のようにも見えるスタイルをとっているのだろう?
進化の中で「わざわざ生存率を下げる(非効率的な)選択肢」が選ばれるわけがない。カギバラバチのスタイルも、進化の途上で合理的な(効率的な)選択がなされた結果でなければおかしい。

寄生蜂誕生の仮想シナリオ

進化の歴史の中で、地上に植物があふれるようになった時代(?)を想像してみる。豊富な植物を資源に使うことができれば繁栄できる──ということで植物食の昆虫たちも多く誕生しただろう。そして植物食の昆虫がどんどん増えていき、その中で生存競争が起こるようになる……。
そこでまず考えられる生存戦略が、他の種類より卵を多く産むことだ。生産する卵の数(の多さ)で資源の支配率を高めようとするスタイル。1匹の♀の体の大きさには限度があるだろうから、生産できる物理的な量にも限度がある。卵の数を増やすには1つの卵の容積を小さくする必要がでてくる。
そうした理由から《卵のサイズを小型化し大量生産する》──この戦略路線が採られたのは自然のことだろうと想像する。

ただ、卵が小さくなると、同じ資源(葉)で競争している大きな種とかちあったときに、食い殺されてしまうというデメリットが発生したに違いない。
小さな卵が大きな種類のイモムシに食われてしまうことが頻繁に起こるようになると、その中から、大きな種のイモムシの体内で孵化し、イモムシが体内に取り込んだ葉(小さな種の食草でもある)を食べて育つものが誕生したとしても、さほど不思議ではあるまい。
そしてイモムシ体内で、より積極的に(?)イモムシを食うことにシフトするものがでてきたのではないだろうか? 植物の葉を分解して自分の体を再構築するよりは、自分に近い構成物である昆虫を分解して再構築する方が効率的なはずだ。

生物の体は資源(餌)を分解し自分の体に再構築する化学プラントみたいなものだろう。植物を資源にするより動物(イモムシ)を資源にした方が効率的で、プラントの設備もシンプル化できそうだ──餌を植物食から動物食にシフトすることで卵のサイズをさらにシンプル化=小型化できるようになったかもしれない。
卵の小型化は、産卵数を増やすという意味でも、大きな寄主に(無事に?)取り込まれやすくなるという意味でも生存率を高める利点になる。こうした理由で、《卵のサイズを小型化し大量生産する》という戦略路線が強化・加速していったのではないだろうか?

元々は葉を食べていたもの(で卵を小型化大量生産したもの)の中から、ホストをイモムシにシフトした寄生蜂が誕生した──こう考えれば、カギバラバチのように大量の微小卵を《葉に産みつける寄生蜂》がいることも説明できる。
《成虫達成率が低いスタイルをおぎなうために大量の卵を産むようになった》のではなく、《卵のサイズを小型化し大量生産する》という生存戦略がまずあって、その先に《他の種に食われることでその幼虫に寄生する》という新たな生存スタイルの道がひらけたのではないだろうか。
「大半の卵が無駄になる(成虫に至る事ができない)」という《一見すると非効率なスタイル》も、「わざわざ生存率を下げる選択肢を選んだ」などという非合理な解釈ではなく、生存率を高める戦略の選択の結果だと考えるのが妥当だろう。

カギバラバチの《一見すると非効率なスタイル》として、イモムシへの単純寄生ではなくイモムシの体内に(たまたま?)いた寄生蜂や寄生蠅に二次寄生(二重寄生)するという複雑なプロセスがあるが、このスタイルがどうして獲得されたのかについての仮想シナリオは前記事【美しき奇蜂キスジセアカカギバラバチ】の後半にも記した(なので、ここでは割愛)。カギバラバチが二次寄生するようになったのにもやはり合理的な理由があってのことだろうと僕は考えている。

卵を葉ではなく直接寄主に産みつけるコマユバチ

キスジセアカカギバラバチは葉から葉へと移動してせわしなく産卵行動をくり返していたが……では、コマユバチのように、寄主に直接産卵する寄生スタイルは、どのように誕生したのだろう。

《葉に卵を産みつける寄生蜂》は寄生スタイルを獲得する以前からの(葉を食べていた時代に食草に産卵していたときの?)先天的なプログラムで、葉に産卵する行動を受け継いでいる──と考えれば納得できる。
《寄主に直接産卵する寄生蜂》のスタイルは、成虫♀が産卵場所を選定するプログラムが、《「幼虫時代に自分が食してきたもの」を選択する》というものでとあったとすれば説明できそうだ。
元々葉を食べていた時代、幼虫は食べていた食草のニオイを記憶し、成虫になるとそのニオイのある葉をみつけて産卵していた──それがあるときイモムシの体内にとりこまれ、イモムシ食にシフトすることになったことで、イモムシのニオイを記憶し、それをたよりにイモムシを探して産卵するようになった……そんな解釈ができなくもない。
「イモムシを探しだす」のは「(そこらにたくさんある)葉に産卵する」よりも労力を要すことになるだろうが、卵が無駄になる可能性を低減できるのだから全体としてみれば効率的なはずた。進化の中で効率的なスタイルが選択されるのは理にかなっている。

セイボウはどうして他蜂の巣に托卵するようになったのか

今回、キスジセアカカギバラバチを見てふと頭に浮かんだのが宝石蜂といわれるセイボウ──これもキレイにしてユニークな寄生蜂だ。セイボウの仲間(の多く)は、他の蜂が(その蜂の子どものために)狩ってきた虫が貯えられた巣に潜入して産卵する。孵化したセイボウ幼虫は他の蜂が貯蔵した資源を横取りする形で育ち、成虫になると同じように托卵しに寄主の狩り蜂の巣にやってくる。


枯れ枝に残されたカミキリの脱出孔を巣にするヤマトフタスジスズバチ↑と、ようすをうかがうムツバセイボウ
ヤマトフタスジスズバチはイモムシ(蛾の幼虫)を狩って巣にたくわえ産卵する。貯蔵したイモムシはもちろんヤマトフタスジスズバチの孵化した幼虫のために集められたものだが、ムツバセイボウはその巣にしのびこんで卵を産みつける。孵化したムツバセイボウ幼虫はヤマトフタスジスズバチが集めたイモムシを食って育つ。


(※↑【ムツバセイボウふたたび】より)
セイボウの仲間が、他の蜂の巣に侵入して卵を産むのも、幼虫時代に自分が育った環境のニオイなどを記憶し、成虫♀になったとき、同様の環境を探して産卵するというプログラムであったとすれば説明がつく。
元々はセイボウもイモムシやクモなどの寄主に直接産卵するスタイルの寄生蜂だったのではないか。セイボウが卵を産みつけたイモムシやクモを他の狩り蜂が狩って巣に運び込むというようなこともあったろう。その巣の中で孵化したセイボウ幼虫は、その狩り蜂が集めた餌を食って育ち、その環境(他種の狩り蜂が集めた餌の貯蔵庫)を幼虫が育つべき適切な場所だと認識(という言葉は正しくないかもしれないが)して、自分が幼虫時代に育った環境を探して産卵するようになった……そんなシナリオが考えられる。

──というのが、ド素人の《頭の体操》。こうした考えは、確かめたり裏付ける検証実験をしたわけでもないし、これが正しいと信じているわけでもない。
今後観察例が増えたり、知識が増えていけば、その時点で新たな仮想シナリオを思いつくかもしれない。
実際のところ、どうなのか──《真相》にはもちろん興味のあるところだが、それよりまず自分が遭遇した《ふしぎ》に対し、自分は《どう解釈するか》──ということに僕は関心がある。
正しい答えは専門家が見つけて、既にどこかにあるかもしれない。が、すでに誰かが見つけた正解を探すより、まずは自分なりに納得しうる解釈を考えてみたい──そんな思いがあって、現段階で考えている解釈を記してみたしだい。