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疑問:ヤマカガシが《相手の目を狙って毒液を飛ばす》説

先日ネットで【ヤマカガシ】の項目を検索していて驚いたことがある。
ヤマカガシは口の奥(デュベルノア腺)と頸部背面(頸腺)に毒腺を持っている事が知られているが、頸線毒について「相手の目を狙って毒液を飛ばす」というような記述があちこちで見られたからだ。
ウィキペディア(ヤマカガシ-Wikipedia)でも、

《頸部にも奥歯とは別種の毒を出す頸腺と呼ばれる毒腺があり、危険が迫ると相手の目を狙って毒液を飛ばす。》

という記述がある。

これは本当なのだろうか? にわかには信じられない。
僕はヤマカガシを何度も捕まえたことがあり、手に頸腺毒が付着したこともあったが、この黄色っぽい液は「分泌」という印象だった。
ちなみに頸腺毒はヤマカガシが餌としているヒキガエル由来のものだそうだ。僕はヤマカガシが毒のあるヒキガエルを食べるところを何度か見ており「毒があるのによく平気で食うな」と思っていたが、ヤマカガシはヒキガエルの毒を自らの防衛用に再利用していたわけだ。
京都大学理学研究科・理学部 研究紹介(184号)

保育社の『原色日本両生爬虫類図鑑』によると──、
《頸部の皮内に由来のよくわからない腺があって、そこを圧迫されると内容の黄色い液が鱗の間から射出するのである。》
改訂版学研の図鑑『爬虫・両生類』(昭和62年2月26日新改訂版1刷)にはヤマカガシの体の作りが解剖図つきで見開きで紹介されており──、
《くびからせなかにかけて、いくつかのけいせんというふくろ(毒せんの一種)をもっている。しかし、この毒せんの出口はなく、何のためにあるのかよくわかっていない》
小学館の学習百科図鑑36『両生・はちゅう類』には
《頸腺の毒液は、黄色く、にがい。頭部を押すと出るので、敵にかまれたときに役立つのであろう。》
と記されている。

踏んだり叩いたり、噛みつくなど、外力を加えれば頸腺毒が勢い良く飛び出すことはあるかもしれない(※東京医科歯科大学の研究グループによるとヤマカガシの頸部をたたいた場合、毒液が1m以上飛散することがあるそうだ)。しかし、「相手の目を狙って飛ばす」などという芸当は構造上あり得ないのではないだろうか?

ちなみに相手の目を狙って毒を飛ばすヘビがいることは僕も知っている。リンカルス・クロクビコブラなどが有名だが、彼らはノズルに相当する毒牙(毒を注入する牙の開口部が前方に向いている)を持っており、それで2~3メートル先の相手の目に毒を吹き付けることができるわけだ。毒が目に入ると激しく痛み、失明する事もあるという。
昔、テレビでムツゴロウさんがこのコブラに毒を吹きかけられた映像を見たことがある。メガネをしていたために大事には至らなかったのだが、「相手の目を狙って毒を飛ばす」精度に驚き、強く印象に残っている。

それをヤマカガシが頸腺毒でやるとは、(個人的には)とうてい思えない。
納得できずにさらに調べてみると、眼科からの頸腺毒被害報告があるということがわかった。

鈴木玲之(1960):「やまががし」による眼障害、臨床眼科、14:1384-1387。
によると当時国内で報告のあった13例は、いずれも、捕らえたヤマカガシの頸部をいじっていたり、打殺しようとして頸部をたたいたり、あるいは、剥皮しようとして被害にあっていたそうだ。

CiNii論文ー自ら経験したヤマカガシ頸腺毒による眼障害】では研究者がピンセットでヤマカガシの頸部をつかんで圧迫したことによって被害を受けた例が報告されている。

蛇研裏話 毒蛇咬症】では、《病院から電話があり、眼科からだということでたぶんヤマカガシでも叩いて頸腺毒が眼に入ったのだろうと思ったら、やはりそうでした。》《昨年は農家の人が鎌で切りつけて頸腺毒が目に入っています。》という記述がある。

ヤマカガシが自らの意志(?)で相手の目を狙い撃ちしたというわけではなく、人が外力を加えた事で飛び散った液が目に入った──というのが真相なのではないか?
しかし、こうした眼科からの頸腺毒被害報告が続出していることから、《危険が迫ると相手の目を狙って毒液を飛ばす》という誤解が生まれ、その情報がWikipediaを介して広まっているのではないか……というのは僕の素人推理なのだが。

ヤマカガシは本来、人間の側から手をださなければ全く無害なヘビといっていいだろう。ヘタにちょっかいを出すことでよけいな被害例を増やしている感じがしないでもない。

また、ヤマカガシといえば、デュベルノア腺の危険性(深く噛まれれば危険/死亡例もある)をことさらに強調し視聴者の不安を煽る報道をしばしば目にする(ちょっかいを出さなければ人が噛まれるような事はまず無いはずなのだが)。
へんに不安を煽れば「そんな恐ろしいヘビなら見つけ次第殺してしまえ!」と考える者も少なからず出てくるだろう。
その結果、放っておけば無害なヤマカガシを駆除しようとして叩いたり踏みつけたり切りつけたりすることで頸腺毒を浴びる危険をわざわざ増やしている──といったこともあるのではないのだろうか?
不安を煽ってキャッチを高めようとする報道のあり方に関しても疑問を感じる。
毒の危険性を強調するだけではなく、被害に合わないためにはどうすれば良いか──ちょっかいを出さなければ無害であるということをキチンと伝える事が大切なのではないかと思う。



画像は先日撮ったヤマカガシ。大きめの個体で、コブラのように頸部を平たく広げる威嚇ポーズもみせたが、残念ながらそのシーンは撮りそこねた。
この威嚇ボーズも頸腺毒を強調・印象づける警告サインなのだろう。
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