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vsハリサシガメ:アリもなかなかやるもんだ

天敵ハリサシガメ相手に小アリの意外な活躍!?
前回の記事(3年ぶりのハリサシガメ)を投稿した後、件のハリサシガメ・ポイントに行ってみると……1匹だけ見つかった。前回と同一個体──ハイイロチョッキリの頭部をデコった幼虫だった。ハリサシガメ幼虫はデコレーションの素材&レイアウトから個体の識別がしやすい。前回見た時よりアリのコレクション(捕食後の戦利品?)が増えていた。
この時もとらえたアリの体液を吸っているところだった。
01針刺亀幼虫事件A
ハリサシガメ幼虫は画面右を向いている。触覚付け根に眼がのぞいているが、その後ろに見えるのがハイイロチョッキリの頭部。
02針刺亀幼虫事件B
食事が終われば死骸を後脚でデコレーションする行動が観察できるかもしれないと思って待機。
03針刺亀幼虫事件C
そこへ小さな飴色のアリが現れた。ハリサシガメの獲物であるアリに関心を示して急接近。
04針刺亀幼虫事件D
ハリサシガメは獲物を離して小アリに飛びかかるが、間一髪捕まえ損ねてしまう。
05針刺亀幼虫事件E
ハリサシガメの観察を始めてから気がついたことだが、アリというのは意外にすばしっこいし脚が速い。移動スビード(数字)だけみるとそう速いと感じないが、体が小さいので、体長に比較すれば移動速度はかなりのものと言える。
飴色の小アリをとり逃す過程で、ハリサシガメは獲物だった黒アリを離してしまったわけだが……その後再び獲物を拾って食事を続けるのか、一度離してしまった獲物は捨ててしまうのか、それとも拾って背中にデコるのか──どうするのか見守っていた。
すると意外なことが起こった──。
06針刺亀幼虫事件F
死んだとばかり思っていた獲物の黒アリがゆっくりと移動を始めたのだ!
昆虫の権威・岩田久二雄氏は『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)の中で、ハリサシガメについて〝一瞬で獲物(アリ)をしとめる狩りの手腕〟に感動したことを記している。
僕もハリサシガメの狩りはほぼ瞬殺に近いものだと感じていたので、散々体液を吸われた後、アリにまだ動く力が残っているとはにわかに信じられない思いだった。これはアリのゾンビか!? ターミネーターか!?
が……よく見ると、ターミネーター蟻を動かしていたのは、先ほどハリサシガメの攻撃をかわした小アリだった。
07針刺亀幼虫事件G
飴色の小さなアリは、その体に見合わぬパワーで、自分よりかなり大きい黒アリを引っ張っていたのだ。
08針刺亀幼虫事件H
獲物を奪われたハリサシガメは負わずに見送っていた。もう大方体液を吸い終えていたのか、接写する僕に警戒して動かずにいたのかは、わからない。
しかし、ハリサシガメが仕留めた黒アリよりずっと小さく非力に見える飴色小アリが、天敵のハリサシガメから、まんまと獲物を奪い去るといったこともあるのかと、驚きつつ感心した。

粗挽き光沢なアカアシオオアオカミキリ
ハリサシガメ・ポイント近く──雑木林ふちの葉の上にとまっていたアカアシオオアオカミキリ。
09赤脚大青天牛A
10赤脚大青天牛B
11赤脚大青天牛C

ついでに、ケヤキ(幼虫の食植物)近くのカラスウリの葉にとまっていたウンモンスズメ。

12雲紋スズメ


3年ぶりのハリサシガメ
本とは違う!?ハリサシガメ(岩田久二雄氏の観察と異なる生態)
珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳
変化する輝き!?アカアシオオアオカミキリ@葉
美麗蛾ウンモンスズメ他
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3年ぶりのハリサシガメ

先日、雑木林ふちの石垣で久しぶりにハリサシガメの幼虫を確認。幼虫は異物をまとって偽装するというユニークな特徴を持つ捕食性カメムシだ。
01針刺亀幼虫@石垣2022A
02針刺亀幼虫A方向
03針刺亀幼虫B
ハリサシガメのエサはもっぱらアリ。幼虫は捕らえたアリの体液を吸った後、その死骸を後脚を使って背中に盛りつける。
04針刺亀幼虫Cアリ
ハリサシガメ幼虫の異物コレクションにはアリ以外の虫の残骸も混じっている。おそらくそれは自ら狩った獲物ではなく、アリの巣から廃棄されたものではないかと僕は考えている。
05針刺亀幼虫チョッキリ
今回見つけたハリサシガメ幼虫は、ハイイロチョッキリの頭部と思われるものもコレクションしていた。
そのハイイロチョッキリの全体の姿は、こんな──↓。
06灰色チョッキリ@葉
土粒や虫の残骸などでおおわれ、ほとんど本体が見えないハリサシガメ幼虫。同じサシガメの仲間でオオトビサシガメの幼虫が近くにいたので、撮ってみた。
07大鳶刺亀幼虫A
もちろんオオトビサシガメ幼虫はハリサシガメのような偽装はしない。丸見えの(?)胸の背面の模様がちょっとおもしろい。
08大鳶刺亀幼虫B
僕が初めてハリサシガメを見たのは2016年7月──今回見つけたのと同じ場所だった。これはおもしろい昆虫だと注目し、そのつど記事にしていた。野外観察を続けてわかったこと・素人考察は【珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳】にまとめてある。
ところがこのポイントでは、2019年を最後にハリサシガメを見ていない……という残念な状況が続いていた。もう見られないのだろうかと残念に思いつつ、ちょくちょく発生場所のチェックだけは続けていたのだが、3年ぶりに、ようやく再会できたというしだい。周辺を探してみたが今回はこの1匹しか見つからなかった。とりあえず途絶えたわけではなく細々とながらも発生し続けていたことがわかり、ちょっと安心した。

今年は梅雨だか夏だかけじめがつかない天候が続いているが、7月にはちゃんとエゴヒゲナガゾウムシも出てきた。この昆虫も面白く──オスの眼が顔のそとに飛び出している。
09エゴ髭長象虫♂22JUL
オスはこの〝離眼距離〟を競って(?)顔を突き合わせて〝顔相撲〟(と僕は勝手に呼んでいる)をする。それについても過去に何度か記事にしている。そんな生態もユニークだが、空目的なおもしろさもあって、後期印象派ならぬ好奇印象派の昆虫ウォッチャーとしてはお気に入りの昆虫のひとつである。

10空目好奇印象派顔画再
 ※【「後期印象派」ならぬ「好奇印象派」の《空目》】より


珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳
オオトビサシガメのバナナ臭
エゴヒゲナガゾウムシ:オスの眼はなぜ離れてる!?
エゴヒゲナガゾウムシ♂の顔相撲
「後期印象派」ならぬ「好奇印象派」の《空目》
ヤニサシガメのベタベタは分泌物なのか松ヤニなのか?
昆虫など〜メニュー〜
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ハリサシガメ観察雑感

幼虫が奇妙な擬装をするユニークな捕食性カメムシ・ハリサシガメ。生息場所での観察をまとめたものが先日投稿した【珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳】だった。❲総集編❳が思いのほか長くなってしまったためにカットした観察後記的な雑感をいちおうここで記しておくことにする。

この風変わりな昆虫は好奇心を刺激する。見ているうちにあれこれと疑問がわいてくる。擬装の意味はもとより、アリをどのように狩るのか/捕食後のアリをどのように背中に盛りつけるのか/脚が届かない高さまで異物を盛りつけた個体もいるが、どうやってデコレーションしたのか/脱皮や羽化はどのように行われるのか/そのさいデコレーション素材はどうするのか/卵はどんな形状をしているのか/いつ、どんな場所にいくつくらい産みつけるものなのか? etc.
確かめて記録しておきたいことは色々あったが、相手は生きた昆虫だ……近づくと逃げたり石垣の隙間に隠れてしまったりして、つぶさに観察・撮影することができないことも多かった。

そこで確認しやすい飼育下において観察することを検討したこともあったのだが……これは思い止まった。
飼育観察を躊躇したのは、無事に育てられるか自信が無かったからだ。僕は昆虫の飼育経験に乏しい。ハリサシガメについての飼育ノウハウは皆無である。希少な虫をいたずらに死なせてしまうリスクを恐れた。
また、飼育がうまくいったならうまくいったで、野外での観察時間が削られることになるだろうことも懸念した。

これは僕の個人的な感覚なのだが……観察のために飼育を始めたのであれば《観察する責任(義務)が生じる》という思いがある(観察対称を私有化し独占するのだから)。野外観察は任意だが、自分の意志で始めた飼育観察には義務が生じる──だから、後者(義務)が優先されねばならない──ひとたび対象を飼育下に置いたなら、その観察に時間を取られることになるだろう。特に脱皮の兆候などが現われたら、決定的瞬間を見逃さないように可能な限り見張り続けなくてはならない。かつてコノハムシを飼育していた時は、その兆候を察すると部屋の何カ所かに鏡を置いて、どこにいても、ふり向くことなく目を動かすだけで飼育容器が見えるようにして監視を続けていた。わざわざ飼育しているのに脱皮を見逃すというのは《失態》であり《義務違反》でもあるという強迫観念めいたプレッシャーもあって、睡眠時間も極力減らしていた。

気をもむことにはなるが、飼育観察で得られる情報は貴重だ。一方、気軽な(?)フィールド観察だからこそ気づくことができたという発見も決して少なくはない。飼育観察に手を出すことで、フィールド観察の時間が減るのはデメリットが大きい……そんな迷いもあった。

フィールドでハリサシガメを観察していると〝常連〟と思われる個体に出くわすことが少なくない。今後も観察できるかもしれない1匹を持ち帰れば、屋外で観察できる個体が1匹減る──フィールドにおける観察チャンスが減ることになるのではないかという不安もあった。
本来であれば生息場所で繁殖に参加できたかもしれない希少昆虫を、飼育ノウハウが無いのに持ち帰って、成果が得られぬまま〝失敗〟してしまうことになったら……と考えると、つい尻込みしてしまう……。

飼育観察には《わからないからこそ調べる価値がある》という意義もあるわけで、そこには《成功の保証》などない。試行錯誤を経て《わかってくる》こともあるわけだから、失敗のリスクを恐れて始める前からチャレンジを放棄するのも進歩が無い──そんな思いもあって、あれこれ悩んだ。

以前、手探りでヤニサシガメの幼虫を短期飼育したことがあったが(*)、これは普通種であり、1匹もち帰ったところで、問題があるとも思えない。何より脱皮後の《断マツヤニ》状況を確認したかったので飼育下に置く必要があった──そのために飼育に踏み切ったわけが……ハリサシガメの場合は生息環境での観察により大きな意味を感じていたこともあって、けっきょく飼育観察は見送ることにしたのだった。

そんなわけで、(死骸や脱皮殻・羽化殻などを持ち帰って調べることはあったが)生体の観察は全て生息現場で行ったのが【珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳】だった。これは、虫屋ではない僕の個人的な好奇心が動機の素人観察&考察(妄想?)で、学術的なフォーマットではない。

もし僕が虫屋だったら…
ハリサシガメの観察ポイントへ向かう途中、あるいは帰りに、ふと「もし、僕が虫屋だったら、どうするだろう?」などと漠然と考えたこともあった。

僕は虫屋ではないので、基本的には採集も飼育もせず、標本作りなどもしないで済ませてきたが……虫屋としてキチンと学術的意味のある観察記録を残すのであれば、当然標本作成はすることになるのだろう。希少な種類だからといって、オス・メス1匹ずつの採集で済むものでもないだろう。ハリサシガメは翅多型なので、色々な翅型があることを標本でも残す必要がありそうだ。翅の長さの発現比率や、オスとメスでの比較などを調べるためにはある程度の個体数を採集しなくてはならなくなるだろう。ハリサシガメの採集は(発生場所さえわかれば)難しくはないはずだ。比較的狭い範囲に集中しているので見つけやすい。だが、見つけやすいだけに、目につく個体を片っ端から採集していけば、そのポイントでの個体数が減り、個体群を存続するのに必要な数を割り込んでしまうことになりはしないか……ちょっと心配である。

僕はハリサシガメについて《飛ぶことができず、新天地への進出力(?)が弱いことが、生息ポイントの局所化につながっている。飛翔能力がないので狭い範囲にかたまっていることで繁殖の機会を確保している。成虫になれる個体は少なく、そのぶん(?)多くの卵を産むことで、個体群の生存率をキープしている》というようなイメージを描いている(素人予想)。
もしこれが当っているなら、多産によって個体群維持に必要な生存率を保っている1匹の親虫の担う役割りは大きい。繁殖のため密になって見つけやすい親虫を一網打尽に採集していけば、1人の採集者がそのポイントでの絶滅を招きうるのではないか……そんな可能性も考えてしまう。
ハリサシガメについての生態情報が少ないのは、虫屋が見つけても採集することでポイント絶滅が起こり、その場所での継続的な観察ができなくなってしまうからではないか……などという根拠のない想像も頭をよぎったりする。

ただ、ハリサシガメがこの先も生き続けられるかどうかについては、採集による影響よりも、環境が保全されるかどうかといった要素の方が大きく関わっているのかもしれない。
僕が見つけた雑木林のふちの石垣は古く、長年の風雨やアリの巣などによって積まれた石の間の土が大分流失して隙間だらけになっている。その環境がハリサシガメにとっては棲むのによい条件となっているのだろうが、この石垣がいつ補修されないとも限らない。あるいは雑木林ごと無くなることだって考えられないではない。希少な存在なら、生息が確認できるうちにその学術的証拠を残すべきだ……という考え方もあるだろう。一方、個体群絶滅に拍車をかける人為的行為はつつしむべきだという見方があってもおかしくない。
僕は虫屋ではなく個人の興味から観察しているだけだから採集して飼育したり標本にすることとなく、生息現場での観察にとどまっているが、虫屋だったら、どう判断するだろう……などと漠然と思ったりもしたものである。

とりあえず虫屋でない僕は学術的なデータを残さない代わりに(?)、つたない素人観察ではあるけれど、現場で知り得たハリサシガメ情報を公開しておくことにした。興味のある人の目にとまり、なにがしかの参考になることがあれば素人観察にも意味があるのではないか思っている。



珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳
コノハムシ〜卵から成虫まで〜脱皮羽化
ヤニサシガメぷち飼育中
ヤニサシガメのベタベタは分泌物なのか松ヤニなのか?
昆虫など〜メニュー〜
◎チャンネルF+〜抜粋メニュー〜トップページ

珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳

2016年7月、雑木林のふちにある石垣で初めてハリサシガメをみつけ、こんな風変わりな昆虫がいるのかと驚いた。好奇心から調べてみると、局所的に生息するまれな種類らしく、その情報は少ない……。わからないなら自分で確かめてみようと、この場所でハリサシガメの活動を観察し続け、そのつど記事にしてきた。しかし、この場所では2019年に幼虫を2度(おそらく同じ個体)確認したのを最後に、2020年は1度も見ることができていない。そこで、とりあえずこれまでの観察をまとめて総集編を作成してしておくことにした(2016年と2017年にぷちまとめ記事を投稿しているが、今回は現時点での総まとめ)。

ハリサシガメの「ハ」──を背負った成虫

雑木林のふちにある石垣に現われた《「ハ」の字模様》の昆虫──珍虫ハリサシガメの成虫は、アリを狩って体液を吸う捕食性カメムシだった。

「ハリサシガメ」の「ハリ」は背中(小楯板)から突き出したトゲ状突起に由来してのものだろうか?

前胸の両側につきだした前胸背側角も勇ましい。

ハリサシガメは翅多型で、個体によって翅の長さに変異がある。


前胸背後葉の横に並ぶ紋模様にも個体差があって無紋のものもある。
成虫のオスとメスでは腹の形に違いが見られる。


成虫の体長は15mm前後。ハリサシガメ属は世界に100種以上いるらしいが、日本には1種のみが知られているとのこと(@『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』/全国農村教育協会)。


土粒をまといアリの死骸などで擬装する幼虫

土粒を全身にまとい、ガラクタで擬装するユニークなハリサシガメ幼虫(画面右を向いており、触角の付け根近くに眼がのぞいている)。初めてこの姿を見た時は、こんなことをするカメムシがいるのかと驚いた。手間をかけて擬装するのにはきっとそれなりの意味があるはずだ。ハリサシガメは成虫も幼虫もアリを狩る。多くの昆虫や小動物が避けたがるアリをあえてエサにしているという生態と無関係ではないだろう。詳しくは後述するが、ハリサシガメ幼虫の擬装は、(まともに闘うには)危険なアリに近づくためのものだと僕は考えている。
理由はともあれ、このユニークな習性のため、ハリサシガメ幼虫は個体ごとにデコレーション素材&レイアウトが異なり、それぞれのオリジナル・ファッション(?)が個性的に見える。








ハリサシガメ幼虫は自分が狩ったアリをデコレーションするが、それ以外の装飾コレクションは、アリの巣から廃棄されたものではないかと想像している。というのも、ハリサシガメ幼虫のデコ素材の中にはアリの繭(抜け殻)と思われる物がしばしば混じっているからだ。


ハリサシガメ幼虫の擬装の意味
僕の見たところ、ハリサシガメ幼虫の擬装は大きく2つに分けられる──《体全体を覆う(土粒の)コーティング》と《背中に盛りつける(異物の)デコレーション》である。デコレーションは更に《自力で狩ったアリの死骸》と《それ以外の拾い物》の2つに分けられる。それぞれの擬装の意味については次のように考えている。
①土粒による全身コーティング……ハリサシガメは幼虫時代からアリをエサにしているが、危険な昆虫であるアリに気づかれること無く近づくための擬装。ニオイで相手を認識するアリの触角タッチをブロックするための体表面隠し(対アリ用嗅覚的隠蔽工作)という意味合いである。また、アリ以外の捕食者にはボディラインの隠蔽擬装(視覚的隠蔽)の効果もありそうだ。
②自力で狩ったアリの死骸デコレーション……同巣のアリをニオイで確認するアリの警戒を解くためのアイテムとして利用。または偵察に来たアリの注意をハリサシガメ幼虫本体からデコったアリにそらす陽動効果もある(デコ素材に気をとられた偵察アリに不意打ちをかけてしとめる)。また、アリを背負っていることで捕食者から敬遠される効果もありそうだ。
③拾い物デコレーション……おそらくアリのゴミ捨場などで調達したもので、アリに「用済みのゴミ」と誤認させて警戒を解除させる擬装。
アリは生き物の死骸などを集める一方、食べ残しや仲間の死骸、ゴミ(繭殻など)を廃棄する。廃棄したガラクタを仲間がまた拾って来るようでは困るわけだから、不要になった廃棄物には何らかのスルー・サインが記されているのではないだろうか? であるなら、ハリサシガメ幼虫がこのスルー・サインのある廃棄物をデコっていれば、廃棄物とみなされスルーされる──そんな《隠れ蓑》的な効果があるように思われる。
ハリサシガメ幼虫のコーティング行動⬇。


土粒コーティングの隠蔽効果。土の上では存在に気づきにくい⬇。

土の上では、まとった土粒が幼虫のボディーラインを隠してしまう⬆。背負っているデコレーションがゴミのかたまりにしか見えず、昆虫食のハンターに対しては視覚的隠蔽効果がありそうだ。しかし擬装の核心はアリに対する《隠れ蓑(かくれみの)効果》だろう。
アリの行列のすぐそばで狩りをするハリサシガメ幼虫にアリは全く気づかない!?





もしアリに気づかれ、集団で反撃されたらハリサシガメ幼虫に勝ち目は無いだろう。アリに気づかれること無く近づき、不意打ちでしとめる。それを悟られること無く実行するのに擬装は大きな役割りをはたしていると思われる。
スルーのケースばかりではなく、アリがデコったアリを調べにくることもあるが、ハリサシガメ幼虫の存在には気がつかない。偵察アリはデコられた仲間に気をとられているところを不意打ちでしとめられてしまった⬇。





ハリサシガメが観察できる石垣ではヒガシニホントカゲもたくさん見られ、このどん欲な昆虫ハンターとハリサシガメ幼虫が接近したり、ときに接触することもあったが、ヒガシニホントカゲはまったく無反応だった。


ヒガシニホントカゲにはハリサシガメ幼虫が「獲物(昆虫)と認識されない(気づかない)」のか「食えないものと認識されている」のか……?
あるいは「アリを<食えない>」と忌避する本能があって、そのアリをまとっていることで、食えないものとして認識され、獲物から除外されているのかもしれない。

ハリサシガメの狩りとレガース
幼虫の重要な擬装アイテム(デコ素材)にもなるアリをハリサシガメは、どのように狩って、幼虫はどうやって背中に盛りつけるのか──。
ハリサシガメはターゲットが間合いに入ると素早くアリに襲いかかり、前脚と中脚の4本の脚を使って押さえ込み、鋭い口吻を突き立てる。するとアリはすぐに動けなくなってしまう。アリを押さえ込むときに使われる前脚と中脚の脛節(けいせつ:ヒトでいえば膝から足首にかけての部分)の内側にはレガース(すね当て)のようなものがついているのに気がついた。これはアリを抑えるさいに接触面積を増やしてグリップ力を高める《獲物の保定器官》──滑り止めのような効果を持っているのではないかと僕は見ている。アリをしとめる口吻の一撃を、素早く適切な部位に打ち込むには、しっかり獲物をおさえておく必要があるはずだ。
ハリサシガメ幼虫のレガース⬇。

羽化殻(終齢幼虫の抜け殻)のレガース⬇。


ハリサシガメ成虫のレガース⬇。


中脚と後脚のクローズアップは別成虫♂の死骸を撮ったもの。
同様の器官はアカシマサシガメでも確認している。
レガース付きの前脚と中脚は、アリを襲撃するときと、口吻を刺し直すときにアリをコントローするのに使われている。
捕えた獲物を石垣の隙間に運んで体液を吸うハリサシガメ成虫⬇。










捕えたアリの体液を吸うハリサシガメ幼虫⬇。




ハリサシガメの狩りとデコレーション
こうして狩ったアリの吸汁後の死骸をハリサシガメ幼虫は背中にデコレーションする。捕食には前脚と中脚(4本)が使われるが、背中に盛り着けるときに使われるのは(僕の観察では)決まって後脚である。
ちなみに昆虫学者で生態学の権威・岩田久二雄氏の著書『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)にはハリサシガメの記載がある(ハリサシガメに出会ったのは1度きりで、初めて見た幼虫に驚き、持ち帰って飼育観察したことが記されている)。これによると、「捕食のさいに使われるのは《二本の前肢》」で、「(死骸を)背中に押し上げるのに使われたのも《前肢》」という観察が記されているが、これは間違いだと思う。
ハリサシガメ幼虫が狩ったアリをデコレーションするようす⬇。




体液を吸い終えたアリは腹の下をくぐって後脚にわたされ、背中に盛りつけられる。背中にデコるときに後脚を使うようすを尻の側(右斜め後方)から撮った画像↓。





背中のデコレーションに新素材(アリの死骸)を押し込んだあとも、後脚を使って荷を整えるような動作を繰り返す。
別の個体の食事〜デコレーション行動⬇。

捕らえたアリの体液を吸い終えると、アリの死骸は股をくぐって後脚に渡され、両後脚で腹端側から背中に押し込まれる↓。

可動範囲が広い後脚(青矢印)でアリをぐいぐい押し込もうとする……。


脱皮でデコ素材だけを引き継ぎ(後述)、まだ土粒コーティングが不完全な状態でアリを捕食していた幼虫⬇。

石垣の上で食事中のハリサシガメ幼虫。前脚と中脚でアリをおさえ口吻を刺して体液を吸っている。おそらく脱皮してあまり経っていない個体なのだろう──まだ新たな土粒コーティングがほどこされていない。背中には脱皮のさいに引き継いだデコレーションを羽織っているものの、側面は隠れておらず、幼虫の腹部(若い幼虫では腹が白い)がむき出しになっている。

体液を吸い終えたアリの死骸は、移行素材と腹部背面の隙間に押し込まれた。

新たに加えられるデコ素材は、後脚を使って腹の背面と既存デコ素材の間に押し込まれる。このくり返しで、脚が届かない高さまでコレクションが積み上げられることになる。

デコ・コレクションは脱皮のさいどうするのか?
ここで、ハリサシガメ幼虫の擬装解除した姿を紹介しておこう。
脱皮前と思われる幼虫の死骸をみつけたので異物を取り除いてみたものが⬇。

岩田久二雄・著『昆虫を見つめて五十年(II)』(朝日新聞社/1978年)には、《デコ素材の付着は「糊着」ではなく「ひっかかっているだけ」》という趣旨のことが記されているが、土粒を含め剥がした素材同士が「糊着」しており、「糊のようなもの(分泌物や排泄物?)で貼り付けられていた」ことがわかった。


腹部背面には極細の毛束が生えている。擬装素材を貼りつけるときに接着面積を広げて安定させるのに役立っているのかもしれない。
アリに対しての《隠れ蓑》ともいえる擬装を解除した素のハリサシガメ幼虫は、こんな姿をしているわけだが……この丸裸な状態でアリを狩るのは危険だろう。
ならば、脱皮をしたばかりの丸裸の幼虫は、狩りができないことになりはしないか?──そんな疑問が浮上した。
脱皮した新幼虫は狩りの前に新たな《隠れ蓑》を調達するのだろうか?
また、幼虫が脱皮や羽化(カメムシの仲間は不完全変態で、蛹を経ずに幼虫から成虫が羽化する)をするさいには、背中に貼り付けたデコ素材がジャマになりはしないだろうか?──という疑問もわいてくる……。
そのあたりの謎を説くカギの1つとなったのが、石垣の上に残されていたハリサシガメの脱皮殻だった。

なんと、背中に盛られていたはずのデコ素材が、ごっそり剥ぎ取られている。おそらく、脱皮した新幼虫が消えたデコ素材を引き継いでいったのだろう。この脱皮殻を見つけたときは、脱皮のさいにジャマになるデコ素材を外してから脱皮が行われ、脱皮を完了した後に新幼虫がこれを再利用するのではないかと考えた。
しかし、その後、脱皮のシーンを観察する機会があって、驚愕の〝技〟を目にすることとなる──。

石垣の隙間でみつけた脱皮直前の幼虫⬆。画像は90度回転させたもので、実際は鉛直面に頭を下にとまっている(画面左が下側)。これが、この後……⬇。

なんと、脱皮をしながら古い殻のデコ素材をひきつぐという信じられないような芸当を披露した。約30分後⬇。

脱皮する新しい体とデコ素材の間には古い殻があって隔てられていたはずなのに、デコ素材を引き継ばながら古い殻だけを脱いでいくというのは予想もできなかった。まるで、ズボンを脱ぐことなくズボン下だけを脱ぎ捨てるようなもの!?──これには大いに驚かされた。
この個体は無事に抜け殻を離脱したが、ときには引き継いだデコ素材にくっついて脱皮殻を背負ってしまうことも起きるようだ。

新幼虫が引き継いだデコ素材にくっついてきてしまった脱皮殻は、腹端側から巻き上げられるような形で逆立ち姿勢になりがち。
脱皮殻を嫌って分離した幼虫⬇。



脱皮殻を引き剥がすときにも(デコる時同様)後脚が使われる。


ハリサシガメ幼虫がアリとの接触で(ニオイで)バレないように体表面を土粒でおおい隠しているのだとすれば、自身の(ニオイのついた)抜け殻を擬装コレクションから外したがるのは理にかなった行動だといえる。

成虫は擬装しないので羽化殻にはデコ素材が残されている。石垣の上でみつけた羽化殻⬇。


頭部の土粒コーティングが浮き上がっているが《土粒同士がくっついたまま形をを保っている》のがわかる。擬装素材は岩田氏が記したように「ひっかかって、もつれあって巧くとまっている」のではなく、糊のようなもの(分泌物?)で糊着したものであることがわかる。
ところで……ハリサシガメは幼虫・成虫ともにアリをエサとしているわけだが、幼虫時代の秘技(擬装)を成虫になって棄てるのは、なぜだろう?
非力な幼虫時代にはアリのテリトリーで活動するには擬装は必要なアイテムだったのだろう。成虫になれば体格的にも機敏さもアリに対応できるようになること、そして何より成虫には繁殖活動という大きな役目が課せられている──すみやかに相手をみつけ交尾を成功させるための効率性などから擬装解除が成立しているのではないかと僕は想像している。

──というのが、これまでに僕が観察したハリサシガメについての総集編。いろいろ面白いこともわかったが、わからないこともまだまだ多い。
今回使用した画像は過去に投稿した記事に添付したものから抜粋した。少ない画像で的確に伝えたい部分を表現できれば良いのだが、被写体が動いたり隠れたりするので不明瞭な画像での冗漫な画像構成となってしまった感は否めない……。
最後に雑感も交えて総括するつもりでいたが、思いのほか長くなってしまったので割愛。とりあえず、今回はこんなところで──。


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ムシヅカサシガメとハリサシガメ

養老孟司『虫の虫』特装版DVDの謎のカメムシ
01虫の虫DVD特装版
養老孟司・著『虫の虫』DVD付き特装版(廣済堂出版・刊)という本を買った。DVDなしバージョンもあるのだが、映像が見たかったので特装版の方。発行は2015年で、本の存在自体は以前から本屋の棚で見知っていたのだが、最近この本の特装版DVDのダイジェスト版をYouTubeで見つけ、にわかに興味が湧いてきた。というのも、このダイジェスト動画に気になる昆虫が出てきたからだ。

1分35秒頃に出てくるアリの死骸を背中に盛った捕食性カメムシが、僕の興味の対象・ハリサシガメの幼虫によく似ている。僕が知っている日本のハリサシガメは地上性で、アリの死骸だけでなくアリの捨てたゴミ(?)と思われるものや土粒を身にまとっている。しかし「ハリサシガメ」で画像検索すると、外国産のサシガメで葉や茎などにとまっている良く似た虫もヒットし、外国には樹上性のハリサシガメ(の仲間?)がいるのかと気になっていた。
それと良く似た虫が「養老先生が行くラオス昆虫採集記」ダイジェスト版にはチラッと映っていたので、がぜん興味を覚えた次第。
また、この「養老先生が行くラオス昆虫採集記」では虫屋さんの生態(?)も見られるようなので、そのことにも興味を持った。僕はテレビを離脱する前、昆虫に関する番組はよく見ていたが、虫にスポットをあてた番組はあったものの、虫屋の活動自体を記録した映像は意外に少なかった気がする。僕は虫屋ではないが、昆虫同様(?)謎めいた虫屋の生態には興味があった。そんなわけで、養老氏らの虫屋っぷりも見たくて『虫の虫』DVD付き特装版を購入した次第。


ラオスのムシヅカサシガメ!?
まず付属のDVD「養老先生が行くラオス昆虫採集記」(74分)から鑑賞。お目当てだったアリをデコったハリサシガメ幼虫風の昆虫は、4:20〜6:35にかけて紹介されていた。同行者の池田晴彦氏は「見たこと無いよ、こんなの」といい、養老氏も「すげ〜ヘンなの」と見つめていた。
04ラオス虫塚刺亀DVD
YouTubeのダイジェスト版では名前が示されていなかったが、DVD本編では「ムシヅカサシガメ(幼虫)」というスーパーが付けられていた。養老氏はナレーションで、名前が無いのでムシヅカサシガメとつけた──というようなことを言っていた。『虫の虫』(書籍)の方でも【ラオスのサシガメ】として「ムシヅカサシガメ(幼虫)」と紹介されている(P.3)。
ちなみに、日本のハリサシガメ幼虫はこんな姿↓。

02ハリサシガメ幼虫F1
03ハリサシガメ幼虫F2
特装版DVDでは見つけたムシヅカサシガメを飼育し羽化させた成虫とその羽化殻の映像も収録されていた。幼虫はハリサシガメより敏捷で、成虫のカラーリングも違うものの、ハリサシガメとよく似た印象を受けた。成虫は黒い体に白い双紋、小楯板の棘状突起と腿節が赤というきれいなサシガメだった。
「ムシヅカサシガメ」という初めて知った名前(仮名?)を足がかりに、何か新しい情報が得られないかと検索してみたのだが……何もヒットせず……。
「ハリサシガメ」でヒットする「ムシヅカサシガメ」と思われる画像をたどって、こんなブログ記事をみつけた↓。

タイで昆虫採集>背中にお荷物を背負ったサシガメ

ラオスの隣国タイで撮影されたサシガメのようだが、養老氏のいう「ムシヅカサシガメ」と同じ種類のように見える。草木上で暮らしているからだろう──地上性のハリサシガメ幼虫のような土粒はつけておらず、そのぶん(?)デコったアリの密度が高く感じられる。
DVD「養老先生が行くラオス昆虫採集記」を見た後に『虫の虫』本編(書籍)を読んだのだが、巻末に、付録DVDと書籍にでてくる昆虫の学名一覧があった。そこでムシヅカサシガメをみると斜体で「Inara alboguttata」とあった。学名で検索すると欧文のサイトがゾロゾロとヒットしたのであった。


「養老先生が行くラオス昆虫採集記」の感想
特装版DVDに話を戻すと……新種のクチブトゾウムシやカミキリを含め、色々珍しい昆虫が紹介されており、幻のチョウと呼ばれるテングアゲハの生態映像も貴重なものらしい。僕にとっては、ラオスの自然もさることながら、養老氏はじめとする虫屋仲間たちの楽しげ&真剣な虫屋っぷりもみどころだった。
夜の灯火採集(ライトトラップ)では、シーツに集まる昆虫よりも、耳につめものをし(虫の潜入を防ぐため?)、吸虫管をくわえて真剣にまなざしでシーツを睨みつける虫屋さんたちの方が見応えがあった。地球の生き物を調査に来た宇宙人がいたら、灯火に集まる虫の標本の隣にその虫に集まっていた虫屋さんたちの標本を並べたくなるに違いない。
DVDの最後には特典映像として、ラオスで採集した昆虫がどのように標本になるのかを紹介した「養老先生流 標本の作り方」(9分弱)が収録されている。標本作りをしない僕には、この行程の映像も興味深かった。昆虫関連の番組の中で虫屋がネットを振る(虫を採る)映像は時々見ることがあったが、標本づくりの映像はほとんど見たことがなかった気がする。


『虫の虫』の感想
本の方は「虫採りエッセイ集」ということになっていて、「虫を見る」と「ラオスで虫採り」の2つの章で構成されている。
前半の「虫を見る」では昆虫について虫屋がどんな見方をしているかについて記されているのだが、これは編集者から提案されたテーマで書かされた(?)ものらしい。じゃっかん抽象的で、DVDを観たあとに読むと、いささか面白味が薄い……。おそらく編集者から出された課題に対し、養老氏が普段感じたり考えたりしている雑多なコトの中から対応する内容を引っ張り出し、その方向で書いていけば何とかなる(まとめられる)と見当をつけて書き始めてみたものの……あまり話が広がらなかった……みたいな感じだったのではないか? 個人的には共感できる部分もあったが、「あたりまえのことを書くのに、いささか手間取った感じ」がしないでもない。虫屋でない僕には感覚的によくわからないところもあった。僕の個人的な好みは別にして……前半のエッセイは著者自身がノッて書いた文章ではなかったろうことが感じられる。
ところがしかし! 後半の「ラオスで虫採り」になると、がぜん文章が活き活きとしてくる。ノッて書いているのが伝わってくる。前半の抽象的なテーマから、体験的・具体的テーマになったこともあって、読者にも分かりやすいし、執筆している側も書きたいことがどんどん湧いてくる状態だったのだろう──その意欲が感じられる。しかし「活き活き」の最大の理由は「虫採り」に付随するエッセイだったからだろう。アシナガバチに刺されてアナフィラキシーを体験したというおそろしい話もあったが、虫屋っぷりが発揮されるエピソードでは何度か笑ってしまった。そんなエピソードをまとめた「実録・虫屋武勇伝」でも書いたら、かなり面白いのではあるまいか。


虫屋・養老孟司
僕が養老孟司という人を知ったのは確かNHKのテレビ番組だった。オーストラリアの昆虫を紹介するシーンで灯火にやってきたニジイロクワガタ(こんな虫がいることもその番組で初めて知った)などについて語っていたのが養老氏で、その姿が印象的だった。このときは昆虫学者だとばかり思っていて、本業が解剖学で脳の権威だと知ったのはしばらく後だった。NHKの『驚異の小宇宙 人体II 脳と心』では解説役で登場していたが、「こっちが本職のはずなのに、以前見た時より、なんだかテンションが低いな……」と感じながら観ていたのを覚えている。最初は体調でも悪いのだろうかなどと訝ったが、毎回なのでそうではないらしい。他にも脳に関する科学番組に解説者として出演しているのを見たことがあったが、やっぱりテンションは低め。これが養老孟司氏の普段のテンションなのだろうと思うようになった。
それが、「養老先生が行くラオス昆虫採集記」ではなんと活き活きしていたことか! 僕が初めて養老氏を見た時の「(昆虫を語る)あのテンション」だった。本業の仕事をしている時より、虫と向かっている時の方がテンションが高い──仕事的には脳の権威なのだろうが、本質的には根っからの虫屋なのであろう。
《水を得た魚》ならぬ《虫を得た養老孟司》──『虫の虫』DVD付き特装版はそれを実感させる映像&エッセイ集だった。


珍虫ハリサシガメの観察❲総集編❳
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